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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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突入開始直前

日が沈み、あたりが暗闇に支配されていく中、康太たちは空中を移動していた。


康太たちはウィルの形を変化させてパラグライダーのようにし、土御門の双子の風の魔術で飛んでいる。

サニーたちはエトラの重力操作の魔術によって空中を飛行していた。


「うわ、本当に街灯も何もない・・・完全に田舎・・・車ももうほとんど通ってないね」


「みたいだな。まぁ行動しやすくて助かるけど」


「索敵は大丈夫?追われてない?」


「問題ないよ。半径三百メートルに敵影なし。目の前で飛んでるあの四人にも伝えるか?」


エトラの視線の先にはパラグライダーのようなものを使って空を飛んでいる康太たちの姿が見えている。


といっても周囲が暗いことに加え康太たちがもともと黒い服装をしていることもあってほとんど見えない。あと百メートルも距離を離されれば見失ってしまいかねない。それほどの暗さだった。


とはいえ索敵を続けているために見失うことはまずない。肉眼ではとらえきれなくなるというだけの話だ。


「大丈夫だと思う。師匠の話が本当なら、ブライトビーは敵を認識するのに索敵を使わない可能性があるって言ってた」


「索敵を使わない・・・じゃあどうするんだよ。別の魔術か?」


「わからないけど、彼の師匠、デブリス・クラリスは明らかに索敵範囲外の・・・キロ単位で離れた場所からの狙撃を回避したことがあるらしいの。彼がその技術を教わっているのであれば・・・」


「なんだそりゃ・・・本当に人間か?噂はちょくちょく聞くけどとんでもないなデブリス・クラリス」


「今は味方なんだからグダグダ言わないの。でも索敵を使わないってのはありえないと思うわよ?処理を極限まで低くして広範囲に広げてるだけじゃないの?」


「いや無理だな。仮に索敵の性能をぎりぎりまで下げても半径一キロ見えるか見えないかってところだ。数キロレベルだと間違いなく処理がパンクする。脳みそぶっ壊れるの覚悟で使ってるっていうなら、数秒はもつと思うけど」


この中で一番索敵が得意なエトラの言葉に、二人は納得せざるを得なかった。広範囲に索敵を広げればその分脳に入ってくる情報が増えることになる。


その情報の処理に対して脳の処理が追い付かなくなってしまうと、当然脳に過負荷がかかる。


場合によっては大きく損傷する可能性もある危険な行為だ。適性のある人間がやったとしても、数キロレベルの索敵など自殺行為以外のなにものでもない。


「どういう指導や、どういう技術を使っているのかはわからないけど、師匠はそう言ってたってだけだから、本当かどうかもわからない。けど、協会内で一番デブリス・クラリスとの戦闘回数が多いのは師匠だから」


ツクヨの師匠であるアマネは何度となく小百合と戦闘してきている。そのたびに生き残っているわけだが、そのせいもあって協会内で小百合との戦闘回数は抜きんでてしまっているのだ。


本人が望んだのか周りが望んだのかは微妙なところではあるが。


「案外的外れともいえないってことね・・・でもツクヨの師匠がデブリス・クラリスとの戦闘回数が一番っていうのも変じゃない?すごく戦闘してるってイメージがあるから他の人だって・・・」


「・・・一度戦った人は大抵二度と戦いたがらないし、たいていは再起不能になるから」


「うわぁ・・・っていうかそれ、ブライトビーも似た噂流れてたよな?戦ったら即座に戦闘不能とか再起不能とか、二度と魔術師として活動できなくなるとか」


康太の噂も小百合のそれと同じくろくなものではない。当然のようにその情報を聞いたことのある三人は目を細めて前方を飛んでいる康太たちの方に目を向けていた。


「ま、まぁ、さっきも言ったけど、今回は味方なんだから。さすがに戦いに乗じて味方を攻撃するようなことはしないでしょ。話してる限りすごく丁寧だったじゃない」


「そうだな。でもまだ高校生だろ?末恐ろしいよな・・・っていうかなんで高校生でもう普通に依頼受けてんだよ。やっぱ子供のころから教育されてたんだろうな」


ツクヨも師匠のアマネから康太のことはそこまで聞いていない。今回一緒に行動するにあたって、どのような魔術師であるかを聞いたことがある。


それに対してのアマネの返答は。


『攻撃力ではデブリス・クラリスに劣るが、機動力は圧倒的に勝っている』


と評していた。


もとより康太は小百合には使えない魔術をいくつも覚えている。そういったこともあって機動力面では小百合よりも上だ。


何度も戦っているだけあって、アマネもそのあたりはわかっているのだろう。


とはいえ、小百合の攻撃力よりも劣っているといわれても、高い攻撃力を持っていることくらいは三人とも理解していた。


作り出した障壁をただのナイフで破壊できるはずはないのだ。


「敵対しないほうがいいのは間違いないと思う。彼はもういくつかの項目では師匠のデブリス・クラリスを超えているみたいだから」


「マジか。今の内に媚を売っておくか」


「普通に協力すればいいんじゃない?一緒に精霊術師がいて、しかもあんな風に普通に接してるんだから、たぶん普通の魔術師とは感覚とか考え方が違うんでしょ。良くも悪くも」


精霊術師を相棒のように扱っている康太の様子に、サニーたちは少しだけ驚いていた。もとより今回の依頼だって精霊術師たちを助けるというものだ。その行動はあくまでついでなのかもしれないが、普通の魔術師とは違う感性を持っているのは間違いない。


康太の評判がまた一つ悪くなったのは言うまでもない。


















「あれか・・・どうです?状況は」


「ちょっと待ってくれ、今間取りをかくから」


目的の場所に到着した康太たちは少し離れた場所から建物を観察していた。エトラの索敵範囲ぎりぎりのところに待機している康太たち、この距離なら気づかれてはいないと思いたいが、実際どうかはわからない。


エトラの索敵範囲は文と同等レベルだった。五百メートル以上の距離を空けても問題なく索敵できていることから、索敵に対する適性はかなり高いようである。


持ってきたノートに手早く間取りを描いていくエトラを横目に、康太は土御門の双子に目を向ける。


「ハレ、メイ、お前たちは自分たちが戦闘を行うかどうか、あと俺たちがどんな戦闘を行うか、それとことが終わった後のあの建物の様子を予知してくれ」


「了解しました」


「少し待っててください」


土御門の二人が予知を開始している中、康太はゆっくりと視線の先にある建物に意識を向けていた。


「トゥトゥ、見取り図と予知が完了したら突っ込むから準備しておけよ」


「いつでも行けるぜ。お前はいつも通り好き勝手やってろ。フォローはしてやる」


「任せた。サニーさんもいいですね?」


「置いていかれないように気をつけるわ」


すでに戦闘の準備はできている。あとは見取り図を見て建物の内部の状況を頭に入れるだけである。


「ツクヨさん、ここの守備はお願いします。場合によっては俺たちを置いて離脱も想定していてください」


「了解。あなたたちを置いていっても大丈夫なの?」


「はい、万が一の場合は俺たちも別ルートで離脱します。その時サニーさんだけは俺が責任をもって離脱させますので」


どのような状況になろうとも、最後まで戦うのは自分たちであるというその意思表示に、ツクヨは恐ろしさを感じていた。


これが年下の出す威圧感なのだろうかと。


「できたぜ、急いで頭に入れてくれ。今のところの人数は十四人。地下の部屋の中に転がされてるのがたぶん精霊術師だ。これが四人だ」


エトラが用意してくれた建物の間取りは急に作ったにしては非常に見やすくなっていた。


建物の構造としては二階建て、地下が一階層ある大きな建物だ。別荘にしても地下がある建物は珍しい。

二階部分の各部屋に分かれる形で四人、一階部分、大広間に四人、そして別々の部屋に一人か二人の人間が詰めている。


そして地下に一人、見張り役として立っているようだった。


地下の一室には転がされている形で四人の精霊術師がいるらしい。

ここから多少の移動はあるだろうが、人数的にはこれが最大値であるらしい。


「敵の数が増えてますね。精霊術師の数は増えていないと・・・まぁまだましか・・・倒すのが増えただけだ」


助けるよりも倒すほうが楽という考えの康太だが、これが室内戦というのもそういった考えに拍車をかけている理由でもある。


単純な平地での戦いであれば数が多いほうが圧倒的に有利だが、室内で一か所に固まれる人数に限りがあるような場合、必ず数が多いほうが勝つとは一概には言い切れないのだ。


「そういえばエトラさん、周囲に俺ら以外の魔術師はいますか?」


「いやいないな。協会の索敵要員がいるかと思って調べてるんだけど・・・今のところ見当たらないんだよ」


「別方向にいるのかもしれませんね。まぁどっちにしろ頭数には入れていませんでしたからいいですけど。二人とも、予知はどうだ?」


「えっと・・・俺らはたぶん多少戦闘をするっぽいです。先輩たちが出て行って少ししてからこっちに攻撃を仕掛けてくる魔術師が二人来ます」


「その対処は残った四人に任せる。場合によっては撤退しろ。メイ、俺らの方はどうだ?」


「先輩たちはすごく戦ってます。でもそこまで苦戦はしていないように見えます。あと戦闘後のあの建物ですけど・・・ほぼ半壊してます」


「具体的にはどういう形で壊れてる?」


「えっと・・・壁とか屋根が一部吹き飛んでますね・・・火は出てません」


「・・・了解、イメージできた。あとは各々行動してくれ。予知は欠かすな?ついでに逃げるタイミングも間違えるなよ?」


「了解しました」


康太がゆっくり立ち上がると、倉敷とサニーもそれに続く。その場から離れようとしている三人と、その場に残る四人でチームを分ける形になる。


康太は携帯の通話状態を晴と明をグループでつなぎ、常に状況を伝達できるようにするとゆっくりと深呼吸する。


「それじゃあ俺が先行して突っ込む。一階にいる連中を牽制するから、トゥトゥは二階部分から水で一気に洗い流せ」


「了解。サニーさんはどっちについていく?俺の方か?」


「そうだな。俺と一緒にいると巻き込まれるからお前の方に連れて行ってくれ。二階が片付いたら一階に合流で。サニーさん、トゥトゥのフォローお願いします」


「了解。こっちも頑張るわ」


どのような戦闘になるのかまだイメージできていないサニーとトゥトゥのコンビ。どのように転ぶかはわからないが戦闘能力的には十分のはず。康太はゆっくりと体を伸ばしてから突撃態勢をとる。


「じゃあ行くぞ。向こうの態勢が整う前に一気に畳みかける。道は俺が作るからあとは好きにしてくれ」


康太の言葉に従って全員が行動を開始する。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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