魔術師モード
支部長からの呼び出しを受けたのはそれから数日後の話だった。もう夏休みも終わりに差し掛かり、二学期へのカウントダウンが始まっている時、支部長命令によって康太たち全員が集められていた。
その意味を全員が理解していた。敵が見つかったのだと。そして戦う時が来たのだと。
康太と倉敷は完全に戦闘準備を整え、いつでも出撃できるような態勢を整えて協会にやってきていた。
支部長室に入った時点で、康太はすでにウィルを鎧状態に変化させ、各種装備をすでに取り付けてある。
かなりの重量になっているためにその動きはやや緩慢だが、それでも問題ない程度にウィルが歩行補助をしてくれている。
「やる気満々だな」
「あぁ、完膚なきまでにぶっ潰してやるつもりだよ」
康太の鎧姿を見たことがあるものも、そしてないものも、康太のその姿を目にして驚いている。
魔術師の姿とは到底思えないその姿は、明らかに戦いに行くつもり満々の姿だった。
また誰かがブライトビーを敵に回したのかと、周りの魔術師は思っていた。それがどのような意味を持っているのか、協会に足を運び、情報に耳を傾けている者であれば理解できただろう。
康太たちが支部長室に入ると、中にいた支部長は康太の姿を見て「うわぁ・・・」と小さくうめいた。
そのうめきが喜びでも驚きでもなく呆れに近いのは仕方のない話だろう。
「呼んでおいてなんだけどさ、やる気満々過ぎないかい?いやそういう目的で呼んだ僕が言うのも何なんだけどさ」
「いいじゃないですか支部長。協会の中でも戦闘しかできないような俺ができることっていったらこのくらいなんですから」
「・・・一応言っておくけど、頼むからやりすぎないでよ?」
「それは相手次第です。今回の場所はどこです?町中だとこの格好してたらコスプレだと思われちゃうんでちょっと姿変えますけど」
「そのあたりの説明は残りの三人が来てからにしよう。にしても本当にすごいね・・・明らかに魔術師の格好じゃないよね?」
康太の体にはいたるところに武器や防具といった装備が取り付けられている。
槍はパーツごとに分解して腰部分に取り付けられている。そして幸彦が戦闘で破壊してしまった双剣笹船だが、すでにスペアと交換し康太の背中に取り付けられている。そして一つ、康太に新しい装備が取り付けられていた。
それは康太の背中部分に取り付けられた一本の杭。巨大な杭は康太が普段槍から射出する大蜂針のそれより一回り大きいものだった。
突きだけを目的とした武器、これは主にウィルのために用意した武器である。単純に攻撃力に限りがあるウィルには一点突破の武器を渡しておきたかったというのが理由の一つだが、周りから見れば康太の姿がさらに異様になったようにしか見えなかった。
「これが俺の魔術師モードです。デストロイモードになるとそこかしこが光り始めます。そのうち盾とか浮かせるようになりますよ」
「いつから機動戦士になったんだお前は」
「トゥトゥはどっちかっていうとエウレカって感じじゃん?それはそれでかっこいいけどさ」
「空中サーフィンしてるだけだろ。間違ってないのかもしれないけどさ・・・ってか支部長、今回の相手、どの程度の規模とかはわかりましたか?」
「そのあたりも一緒に話そうと思うけど・・・まぁ人数くらいはいいか。相手の人数は確認できているだけで十人は超えているよ。もしかしたらもう少し増えるかもね」
「十人か・・・俺らだけだとちょっときついな」
「そうだな、お前が六人相手にしても俺が四人受け持たなきゃいけないし・・・お前が八人受け持ってくれれば何とか」
「さすがに同時に八人同時は無理。相手のレベルにもよるけどな。少なくとも八人も同時に相手にしてたら装備がもたん」
逆に言えば装備さえ潤沢にあれば八人同時に相手にするくらいならできるということでもあるが、ウィルがいる状態であれば八人程度相手にするのは難しいことではない。
康太の言うように相手のレベルにもよるのだが。
多少自滅覚悟で攻撃すれば相手を一気に切り崩せるだろう。そのあたりは運の要素が強くなってくるためになんとも言えない。
「君の場合いろんな意味で無茶苦茶やりそうだから危ないんだよね。頼むから災害みたいなことはしないでくれよ?」
「大丈夫ですよ、師匠じゃないんですから、そこまで無茶はしません。っていうか相手の場所が見つかったってことは精霊術師がさらわれたってことですよね?その人大丈夫なんですか?」
「今のところはね。監視を続けているけれど目立った動きはない。一カ所にまとめられてるって感じかな。複数の場所から同時に運ばれてるから、やっぱり考えていた通り組織的な感じみたいだね」
「予想が当たって嬉しいやらなんやらって感じです。これだけ準備をしてきた甲斐があるってもんですよ」
康太の物々しい姿を見ればどれだけ気合を入れて準備をしてきたのか想像するのは難しくない。
努力が結ばれてよかったというべきか、相手の戦力が多くて悪かったと思うべきか。どちらかは正直判断しかねるところである。




