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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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悪影響

「あいつらは何をしている?」


「近接格闘術の訓練だそうだ・・・サユリ、お前があのような訓練をするから火がついてしまったのだろうよ」


「・・・多少は考えるようになったのなら何よりだ。あいつらのあれはひどすぎる」


「コータよりもか?」


「康太よりひどい。あいつは自分でいろいろ試して吸収してきた口だ。だがあの二人は教えられてここまで来た。その違いだろう」


訓練の後で一息つきながら倉庫の中で商品のチェックを行っている小百合とその近くで漫画を読んでいるアリスは何気なくそんな話をしていた。


アリスがわざわざ浮きながら、漫画を読みながら近づいてきたからこそ小百合は話しかけた。いったいどんな意味があるのか一瞬考えたが、その思考に意味がないということに気付き、ため息をつく。


「で、お前は何の用だ。私は今仕事中だ。忙しいんだから用がないなら後にしろ」


「奇遇だな、私もひどく忙しい。最近は面白そうな漫画がどんどん出てくれてな、時間がいくらあっても足りんよ」


「・・・」


「・・・冗談だ。コータのことで話がある」


さすがに殺気を込めて睨まれてはアリスとしてもふざけ続けるわけにもいかないのか、読んでいた漫画に付箋を挟み込んで目を細めながら康太の方に視線を向ける。


「あいつがどうかしたのか?特に何もないように思えるが?」


「何もないのが不思議でな・・・あいつの状態を、お前はどこまで把握している?」


「どこまでも何も、そもそも私はあいつの状態なんぞ把握していない。小学生でもあるまいし、自己管理くらいできるだろう」


「あいつの場合は自己管理という域を超えているといっておるのだ。ただの魔術師ではないのだぞ。師匠として、何か思わんのか」


「・・・さっさともっと強くなってほしいと思っている」


「・・・そうだった、お前はそういうやつだったの・・・」


小百合のいつも通りの小百合っぷりにアリスはあきれてしまうが、それでも最近の康太との訓練の質が変わっていることに気付いていた。


「多少、追い詰めることが多くなったのは、私の気のせいではないだろう?」


アリスの言葉に、小百合は一瞬作業の手を止める。


追い詰めるというのは康太をぎりぎりまで追い詰めてから攻撃するという意味でもあり、精神面でも追い詰めているということでもある。


肉体面を追い詰めるのは今までと同じことだ。だが最近小百合は康太の精神面に関しても追い詰め始めている。


今まではただ淡々と康太を気絶させていたのに対し、最近は良く会話をするようになっていた。


そのほとんどが罵倒なのだが、康太は全く意に介さずに攻撃を続ける。


その変化に、アリスは気づいていた。


「口では何とか言いながらも、やはり弟子である以上は気に掛けるか・・・天邪鬼のようなやつだのお前は」


「・・・あいつの中の変化がどんなものだったのか、私は知らん。だがあいつが兄さんの仇をとるといった時、それをやらせてやりたいと思ったのも事実だ」


「・・・師匠の言葉とは思えんな」


「知っている。だが今の康太ではおそらく途中で押し潰される。今は平然としているが、時折急に不安定になることがある。あいつはまだ子供だ。多少なりとも奮起させるきっかけがないとまた転ぶ」


「それはサユリ自身の経験談か何かかの?」


「好きにとれ。少なくとも私はそういったことはなかった。だが文と違って、あいつはまだ魔術師として不安定すぎる」


「・・・そればかりは・・・仕方がないの」


子供のころからずっと魔術師として行動してきた文と、つい最近魔術師になった康太を同列に扱うというのがそもそも間違いだ。


そういう意味では小百合の対応は正しいのかもわからない。


春奈は半ば文を放任し、好きなようにやらせている。文自身自分の中での折り合いのつけ方を理解しているからこそ、康太にも会わずに没頭して作業をしている。


だが康太は、自分の中での折り合いのつけ方を理解していない。だからこそ他者がそれをうまくコントロールしなければならない。


多少精神と肉体に負荷をかけてでも、康太が安定するように計らっている。


「師匠らしく弟子のことに気を遣っているのは良いが・・・お前自身も多少不安定になっているという自覚はあるか?」


「・・・何のことだ?」


「今までのお前なら自分で店の仕事なんぞせんかっただろう?マリやコータに任せていたことを自分でやり始める・・・自分らしくない行動をとっているという自覚はあるかの?」


「・・・真理が忙しいからやらざるを得んだけだ。これでも昔はこれが私の仕事だったんだぞ」


真理がまだこういったことができないときは小百合がこれらの仕事をやっていたのだ。何もおかしいことではない。


だが幸彦の死が、小百合にも影響を与えているのは間違いなかった。


「年長者として愚痴くらいは聞いてやる。酒でも用意すればなおのことな」


「・・・私はからみ酒だぞ」


「構わん。酒を飲んだときくらい小娘らしく好きに喚け」


アリスの微笑みに小百合は眉間にしわを寄せてため息をついていた。だが決して悪い気はしていないようだった。


その夜、康太の携帯にアリスからのSOSが届くことになるのだが、それはまた別の話である。


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