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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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師匠としての

女性陣三人の入浴が終わってから小百合は康太の下に向かっていた


真理と文から場所は聞いている。二階のベランダのような場所にいるという事でその場に足を運ぶと康太は目を瞑り集中しながら魔術を発動しているようだった。


最初は魔力の扱いにも苦労していた中坊が随分とましになったものだなと、小百合は火照った体を冷ますついでにその場にたたずみ康太の様子を眺めていた。


どうやら今は魔術の同時発動を行っているようだ。何度も何度も正拳突きをしてからそれを同時に放つ訓練。発動時に何かつぶやいているところを見ると確かに呪文について教わったようだった。


今はただ呟いているだけにすぎないがそのうちその効果が出てくるだろう。まだまだ先は長そうだなと思いながら小百合は小さくため息をつく。


「あれ?師匠・・・いたんだったら声くらいかけてくださいよ」


「いやなに、随分集中しているようだったんでな。邪魔をするのも憚られてな」


「なんだからしくないですね・・・どうしたんですか急に?」


普段小百合は誰かに気を使うという事はしない。特に弟子二人に対してはほとんどと言っていいほど無遠慮で過ごしている。そんな小百合が気を使っていることが康太にとっては不安で仕方がなかった。


「てか風呂もう空いてますか?さすがに汗かいちゃってそろそろ入りたいんですけど」


「あぁ、もう全員でた。あとはお前だけだ」


「よっしゃ、んじゃちょっくら入ってきます」


康太が通り過ぎる際に小百合は僅かに康太の体に目を向けていた。先程までずっと訓練をしていたのだろう、高い集中を維持していたためか康太の体は汗がにじみ出て服にわずかなシミを作っている。


「康太、お前に教えたあの魔術、もう訓練しているのか?」


「え?あ、はい・・・でもまだうまく発動できなくて」


康太に教えた魔術というのは以前話に出ていた防御魔術のことだ。無属性の防御魔術、そのからくりは単純なのだが康太はまだ教えてもらってすぐであるという事もありまだ成功率も低ければ練度も低い。実戦で扱うにはまだまだ時間がかかることは康太自身よく理解していた。


「あの魔術は扱い方さえ覚えれば強力だ。お前の力になるだろう」


「・・・はい、わかってます、可能な限り早めに覚えようかと」


康太にとっては初めての防御魔術だ、急いで覚えたいという気持ちもあるのだが現状ではいくつもの魔術を並行して訓練している。


肉体強化、防御、そして暗示。どれも康太にとっては覚えたい重要な魔術だ。これらを覚えるか否かで今後の活動が大きく変わるだろう。


肉体強化と防御に関しては何時でも練習できるが暗示に関しては対人でしか試すことができないためになかなか苦労していた。


早めに覚えて少しでも兄弟子である真理の苦労を減らしてやりたいという気持ちが強い。なにせ康太はどこかに出かける際や魔術師として活動する際は彼女に頼りきりになってしまっているのだ。


「ちなみにですけど師匠、この防壁魔術クリアしたら次は何を教えてくれるんですか?」


「そんなにいきなり強力な魔術は教えられん・・・だがそうだな・・・ある程度候補はある。どれを教えるかは気分次第だな」


「気分で物事決めるのやめてくれません?まぁ今まで教わった魔術に関しては案外役に立ってますけど」


康太が今まで教わり修得した魔術は三つ。分解、再現、蓄積だ。蓄積に関してはまだ練度が若干低いがそれでも十分実戦で扱えるだけのものになっている。


汎用性にかけるものもあれば汎用性の高いものもある。どれも使いどころが限定されてしまうとはいえ悪くない魔術ばかりだ。


「それこそ今さらだ。私が気分以外で物事を決めたことなどほとんどないぞ」


「それもひどい話ですね・・・それに巻き込まれたこっちとしては何とも言えない気分ですよ」


「そうだな・・・まぁだが・・・一つだけお前に良いことを教えてやろう」


良いこと


小百合がそんなことを言っても嫌な予感しかしない。そもそも小百合が良いことと言って良いことだった試しがないのだ。


大抵がマイナスの事柄だっただけに康太は妙に身構えてしまっていた。


「魔術師というのは法によって縛られている存在ではない。だから物事の決定権は最終的に自分に託される。その時に何を基準にするかは人それぞれ、私の場合はそれが気分だというだけの話だ」


「・・・それで?」


「お前も今のうちに決めておけ。選択を迫られたときに一体何を基準に行動を起こすか。正義感でもいいし法でもいい。私のように気分で物事を決めるのもいいだろう。そう言うお前だけの判断基準をあらかじめ用意しておくといろいろと行動しやすくなる」


それは一般人としての考えではなく、魔術師としての考えを持てという事でもあった。


魔術師の存在は公にはなっていない。その為に魔術師を縛る法そのものがこの国には存在しないのだ。


いや、もしかしたら世界中どこを探しても魔術師を縛る法律などは存在しないかもしれない。


そんな時、何をしていいのか、何をしてはいけないのか、それを決めるのは自分自身だ。小百合が気分でそれらを決めているように、康太もその考えを何か持っておくべきなのだ。康太がこれから魔術師として生きるのであれば。


「わかりました・・・考えておきます」


「そうしろ・・・あぁそれとなかなかましな風呂だったぞ」


「へぇ、そりゃ楽しみです」


それじゃといって康太は小百合と別れてそのまま入浴へと向かう。小百合はというとまだ体がほてっているのかベランダで夜風に当たりほてりを冷ましていた。


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