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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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刀と槍

「あーくっそ!フラストレーション溜まる!なんであそこで槍突き出すかな!」


「それを言うなら晴もでしょ!周り見ないでぶんぶん刀振り回して!私当たりそうになったわよ!」


「しょうがないだろ!あの人相手に加減した攻撃が当たるかよ!全力で振らなきゃ避けるどころか反撃もらうっての!」


「なら私がいることも考えてくれない!?せっかく後ろから槍で攻撃しようと思っても邪魔でしょうがないんだけど!」


「いやー、見事に食い違ってるな」


一緒になって戦っていた土御門の双子だが、初めて行った近接戦、特に武器を使った状態における連携は上手くいくはずもなく、互いが互いの動きを理解できてしまうために非常にもどかしい結果に終わった。


最後まで気絶させられなかったのはこの悔しさを互いにぶつけ、忘れさせないためだろうか、それともただ単に小百合がらしくない気遣いをしたからだろうか。


どちらにせよ双子は自分たちの技術が連携においては今のところ役に立たないものだということを自覚して非常にもどかしく感じていた。


「まぁ最初なんだからうまくいくはずないじゃんか。とりあえず落ち着け」


「・・・先輩から見ててどうですか?なんかアドバイスとかあったらほしいんですけど」


「絶対晴が邪魔ですよね?私悪くないですよね?」


「そんなこと言ったらお前の攻撃だって結構危なかったぞ!耳削ぎ落とされるかと思ったっての!」


「はいはいそこまで。すっごく思い通りにいかなかったのはよくわかったからいったん落ち着け」


今までは小百合に対してただ勝てない自分の不甲斐なさをもどかしく感じるだけだったのに対し、今回は味方がいる状態で味方との連携がうまくいかなくてもどかしく感じている。


単純に相手が自分に合わせてくれないことが、自分が相手に合わせられないことが、ある種相乗効果となって二人に強い苛立ちを与えていた。


「アドバイスって言っても、正直俺も近接格闘で誰かに合わせたことなんてほとんどないんだよ。俺はいつも好き勝手やって、文や倉敷がそれに合わせるって感じだからな・・・もしアドバイスをもらうなら文にもらったほうがいいと思うぞ?」


「そんな・・・でも先輩なら俺らともうまく合わせられるんじゃないですか?」


「いやいや、やったことがないことを即座にできるわけないだろ・・・」


「でもこの前神加ちゃんと一緒にシャボン玉割りやってましたよね?あんな感じでできるんじゃないですか?」


明が言っているのは真理と行っている神加の訓練の話だ。神加と一緒に遊び半分でシャボン玉割りをやっていた時に、神加と協力していったいいくつシャボン玉を割れるかという訓練をやっていた。


その時のそれが連携といえば連携なのだろう。少なくとも二人の目には康太と神加がうまく連携しているように見えていた。


「あの時は俺が神加に合わせてただけ。互いの実力を増長したりするのとはまた別だ。あれは連携っていうんじゃなくて補助っていうんだよ」


「じゃあ先輩が俺らを補助してくれたらどうなりますか?」


「どうなるかって・・・まぁ、多少能力が上がるんじゃないのか?確かお前らって互いにはほぼ互角だよな?」


「はい、大体同じです」


「今のところほぼ互角です」


「ん・・・で、一人ずつだと師匠相手にどれくらい持つんだ?」


康太の問いに双子は悩み始める。


実際どれくらい耐久出来るのか、気絶させられることが多いせいで時折記憶が定かではなくなるため、確実なことは言えなさそうだったが、二人とも互いにそれを見ていたためにある程度は判断できる。


「五分から十分くらいなら耐えられます」


「調子とかその時やろうとしたことによって変わりますけど」


「うんうん、じゃあちょっと二人にはウィルと戦ってもらうか。ウィル!ちょっと来てくれ!」


神加のクッションになっていたウィルは、康太に呼ばれて神加ごと移動してくる。唐突に移動し始めたウィルに神加は目を白黒させているが、康太のもとにやってきたということがわかると、ウィルから降りて康太のもとに駆け寄ってきた。


「今から二人がかりでウィル相手に戦ってみてくれ。その時にもった時間と、俺と交代した時の時間でどれくらい変化があるのか見極めよう」


ウィルの訓練にもなるしなと康太はウィルに自分の装備を渡しながら、自分自身も準備運動を始める。


土御門の双子相手にどれくらい合わせられるかは康太がどれだけ集中できるかにかかっている。


ウィル相手にどれほど戦闘能力を維持することができるかは、はっきり言って康太も未知数だ。


ウィルとの組手は康太自身よくやっている。手加減をする必要がないため、そしてウィル自身が康太の動きをトレースするためにも必要なことだ。


「えっと・・・ウィルってどれくらい強いんですか?」


「んー・・・単純な体術なら俺よりは弱いけど、こいつの場合は軟体だからな。それに合わせた独自の戦い方をする。はっきり言って魔術なしだと俺は勝てないと思う」


そもそも物理攻撃の効かないウィルに魔術なしで勝とうというのがまず無理な話だ。


そんな話はさておいても、康太が勝てないと思っているという事実に双子は気を引き締めていた。


ウィルの戦闘スタイルは基本的に康太の槍と双剣を使った近接格闘術だ。時折小百合や真理の真似事もするが、一番精度がいいのが康太の動きをトレースすることである。


そして同時にウィルの軟体という特性を利用した特殊な攻撃を織り交ぜる。総合的な戦闘においては鞭のようにしならせた触手から剣撃を繰り出す独特な戦法をとっていくことが多い。


近、中距離戦闘を好むその戦い方は特殊で、真似しようとしてできるようなものではない。


土御門の二人は魔術師ブライトビーの姿をしたウィルと対峙していた。康太の分身となるシャドウビー。


全身が赤黒いこと以外に魔術師の装備を付けた康太との外見的な違いを探すのは難しかった。


あれが康太ではないと頭ではわかっていても、土御門の二人は緊張を隠せない。


康太の姿をしたウィルは今のところ槍を構えている。だがその気になれば槍と双剣を同時に装備することも可能だ。何せ腕を新しく二本増やすだけでよいのだから。


軟体状のウィルに対して骨格や体格などは無意味だ。体積だけは変えられないために工夫が必要だが、それ以外であれば大抵どのような形にでも変わることができる。


康太と行動してそれなりに時間と経験を積んだウィルは、それなり以上の戦闘能力を有している。


戦闘状態の魔術師相手にそれが通じるかどうかは運の要素も強く絡む。土御門の二人が魔術師として戦えばウィルは勝てないだろう。


だが魔術の使用を禁じ、近接格闘のみに限れば間違いなくウィルに軍配が上がる。


先に仕掛けたのはウィルだった。いつまでもにらみ合いなどしていられないという康太らしい思考を元に、ウィルは槍を構えて晴めがけて襲い掛かった。


いきなり襲い掛かってきたウィルに、晴はわずかに動揺しながらも即座に気持ちを切り替えた。


多少思い通りにならないくらいで驚いていては小百合の相手などしていられない。襲い掛かる槍をうまくいなしながらわずかに後退し、同じく槍を持っている明にその場を譲る。


先ほど前に出すぎたために明の邪魔になったことを覚えているからか、今回は意図的に前に出ることを控えようとしているかのようだった。


晴に前を譲られたことを察したのか、明は槍を構えてウィルに向かって斬りかかる。


明の槍は小百合と康太によって鍛えられた、二人の槍術の合わせ技のようなものだ。女性ということもあって小百合の使い方に近い。そのため康太と小百合の動きをトレースしているウィルの槍術と僅かに似るところがあった。


突き、薙ぎ、払い、そして受け流し、体ごと回転させながら槍だけではなく体でも攻撃を仕掛けていく。


だが当然、それだけダイナミックに動き続ければ攻撃範囲の狭い晴はウィルに接近することも難しい。


僅かに立ち位置を変え、ウィルの背後から襲い掛かろうとする晴を感じ取ったのか、ウィルは背中から新しく二本の腕を生やし、背中にあった双剣笹船を構える。


「それありかよ!」


斬りかかる晴だったが、ウィルの操る双剣笹船に受け止められてしまう。つばぜり合いをしている瞬間、ウィルの体がわずかに揺れた瞬間に、顔があった部分から明が突き出した槍がウィルの体を貫通して、反対側にいた晴に襲い掛かる。


「うぉ!あ、あぶねぇ!殺す気か!」


「動きを止めてるのが悪いんでしょ!っていうか力で勝てるわけないんだから!動きなさいよ!」


「わかってるっての!頼むから串刺しにすんなよ!」


晴は鍔迫り合いをやめ、一瞬距離を取ってから再びウィルに斬りかかる。先ほどのように一撃に威力を込めるのではなく、手数で翻弄するつもりのようだが相手は双剣、たいして晴は刀一本、手数ではウィルの方が有利なのは目に見えていた。


「いやぁ、ますますウィルが頼もしくなってきたなぁ・・・槍と剣をほぼ同時に扱うか」


「すごいね。ウィルがいたらあれができるよ、テレビで見た、お寺の」


「あぁ千手観音的なあれか。確かにできそうだな。全部の手に武器を持った状態で戦ってみたいな」


康太と神加が微妙にほのぼのしているような雰囲気とは異なり、晴と明は目の前にウィルに翻弄されっぱなしだった。


堅実に武器だけを使ってきたかと思えば、持ち前の軟体を活かした戦い方をして双子の動きを逆に利用して攻撃してくる。


足をかけたり攻撃を受け流したり、槍と双剣をいきなり入れ替えたりとやりたい放題である。


二人もそんなウィルの動きに慣れることができないのか、かなり苦戦させられてしまっていた。


「そろそろかな・・・」


「なにが?」


「ウィルがあいつらの動きを見切るの」


康太の言葉通り、ウィルは二人が攻撃するその瞬間を完全に見切り、康太の回避独特の動きをしながら剣と槍をそれぞれの喉元に添える。


相手の動きを見ての完璧なカウンターだ。あれが実戦だったら二人は間違いなくやられていただろう。


「十五分か、結構持ったな」


小百合よりは長く続いたとはいえ、ウィルの動きを攻略しきれなかった二人、完全に力の差を見せつけられた結果にやはり悔しい気持ちでいっぱいのようだった。


「やっぱお前怖い!気ぃ抜いたら槍が飛んでくるってどういうことだよ!」


「晴の方が小回り利くんだからうまくかわしてよ!足止めすぎ!」


「はいはい交代。最初は俺と晴で組むから、明は休憩してろ。俺も合わせるの初めてだから文句言うなよ?」


一端明を下がらせ、康太は槍を持った状態で晴と並ぶ。


「俺が合わせるからお前はいつも通りに動け。ただたまにミスるかもしれないからそのあたりはご愛嬌な」


「了解です」


康太が槍を構え晴が刀を構えると、ウィルも槍を構え、背後では双剣笹船を揺らしている。


背後に回られても対応できるぞというアピールだろう。なかなか表現が豊かになったなと思いながら、康太は真っ先にウィルめがけて斬りかかる。


普段からして康太の攻撃を受け慣れているウィルは容易に康太の一撃を受け止め、はじき返す。単純な力勝負でどちらに軍配が上がるかと言われると微妙なところであるが、康太は弾かれた状態から体を回転させながらウィルめがけて攻撃を仕掛け続ける。


だがその体の位置を徐々にずらし、晴が攻撃できるだけの隙間を作り出していた。


晴もそれを察したのか、作り出された隙間に体を潜り込ませて刀で斬りかかる。


ウィルもそう簡単に攻撃を受けるわけにはいかないと双剣笹船を繰り出すが、位置的に左右から挟むような形で襲い掛かる二人に対し、槍と双剣を同時に扱えるだけのスペースがないのか、やや戦いにくそうにしていた。


これで正面と背後に回り込んでくれれば楽なのだが、康太は常に位置取りを晴に合わせ、なかなか位置を変えさせてくれない。


康太が繰り出す攻撃は手数が多いものの、晴の攻撃を阻害しない絶好のタイミングで、なおかつ晴の攻撃が途切れる瞬間に襲い掛かる。


意図的に康太が攻撃のタイミングをずらしているのだがウィルにとってはなかなか反撃のタイミングがつかめなかった。


とはいえ、康太と晴であればどちらを先に攻略するか、というかどちらが攻略しやすいかで言えば圧倒的に晴の方が攻略しやすい。


刀で斬りかかるといっても、まだ実戦でそれを満足に使ったことがないからかそこまで技術があるわけでもない。


小百合との訓練のおかげで防御面に関してはそれなり以上のものを持っているが、あくまで防御面のみ。攻撃面に関してははっきり言ってだいぶ残念なのである。


とはいえもともと剣道、あるいは剣術をやっていたおかげか太刀筋は良い。問題は体捌きや連撃の仕方なのだが、そのあたりの隙をウィルは見逃さない。


相手が一本、こちらが二本ならば片方の剣で攻撃ができる。ウィルは即座に片方の剣で晴めがけて斬りかかる。


だが晴もそう簡単には当たってやらない。双剣の攻撃をうまくいなしながら反撃しつつあった。


小百合の攻撃に比べればウィルの攻撃はまだまだ遅い。小百合と比べられてはウィルも立つ瀬がないが、それでも晴が対応できる程度の速度であるならばまだまだ精進できるということでもある。


とはいえ先ほどウィルは晴の動きを見切っていた。康太がいるせいで多少処理を割かれているとはいえ、晴の動きに合わせて攻撃することはさほど難しくはない。


ウィルは晴の動きを誘導しながら、一瞬の隙をついて剣を喉元に突き立てようとするが、その瞬間、康太の槍が勢い良く突き出されウィルの剣が大きく弾かれる。


「晴、ウィルに動き読まれてるぞ。注意しろ」


「りょ、了解です!」


康太が見事に晴のフォローをしたのを見て明は感心していた。


「すっごい、なんで今のフォローできるの?」


「お兄ちゃんすごいね」


「すごいなぁ。あぁいう風に槍を使ってみたいけど・・・」


遠くから見ている限り、康太の槍捌きは明のそれとそこまで差があるようには見えない。だが康太の動き一つ一つが、少しずつ明のそれよりも素早く、無駄がなく、力強いのだ。


大きな違いなどはない。だがすべての技術が康太の方が上回っている。それは今まで重ねた努力の違いだ。


槍を使い戦い続けてきた経験の違いであり、槍を武器として扱ってきた技術の違いであり、どのように槍を使うのかという意識の違いだ。


どのように使いどのように動かすか、康太は徐々に槍を自分の体の一部のように自由自在に操ることができつつある。


そして、そんな康太に対してウィルの技術が追い付かなくなるのは必然だった。


同じ槍を使い、似た技術を使っても康太とウィルではやはりレベルが違う。康太の槍にウィルの槍が弾かれると同時に、康太は踏み込み、ウィルの体めがけて槍を突き立てる。


人間ならばこれで終わり。ウィルもそれを理解しているからか動きを止めてうなだれてしまっていた。


「ふぅ・・・やっぱ俺だけに集中してなければ隙が多いな」


「うえぇ・・・やっぱ先輩すごいですね・・・俺完璧足手まといですよ」


「いやいや、お前がウィルの処理を多少肩代わりしてくれてたおかげで隙ができた。やっぱ合わせるとかは難しいな」


実際康太がやったのは分担して時折晴のフォローをしただけ。これでは連携とは程遠い。本当の連携というものはもっとシビアなのだが、康太は誰かと合わせたことがないためにこれ以上の行動をとることはできなかった。


「次は明だな。槍同士だから間合いは注意しないとな」


「はい。気をつけます」


槍と槍、互いにもつ武器が同じである以上、どうしても互いの動きを阻害してしまうだろう。康太は特に気をつけながら明と協力してウィルに立ち向かっていった。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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