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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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別の意味で

「では、戦闘面に関してはこれで解決したとして、広範囲における索敵が行える人間については」


「それに関しては問題ないよ。たいていの人間なら索敵関係は扱えるからね」


「・・・ですが、一応懸念事項として、相手が索敵妨害を使ってきた場合は?」


索敵妨害。アリスがよく用いる、魔術師の索敵に対して有効な阻害魔術だ。現代に至るまでにかなり廃れてしまったということで、使用する魔術師は少ない。


だが実際に使用しているところを康太はすでに経験している。


方陣術という形ではあったが、建物そのものに索敵妨害をかけ、文の索敵を実際に妨害していた。


文はアリスから索敵妨害に対するアドバイスを受けていたために即座に見抜くことができたが、実際はそのようにうまくいくものではない。


文以外の人間が索敵妨害をそう易々と看破できるとも思っていない康太は、そのあたりを支部長に言及するつもりだった。


「索敵妨害というと・・・ライリーベルの報告にあった術式だね。すでにこちらでも解析は終えてあるけど・・・」


あの廃墟となった遊園地で見つかった術式。康太が次々と建物を壊した中でも、無事にその姿をとどめていたものもいくつもある。


そこに残されていた術式を解析し、支部の中でもその情報をすでに有し、なおかつ共有しているようだった。


「相手が組織として動いている以上、件の連中と同列である可能性を視野に入れるべきです。なら相手もその魔術を使ってきても不思議はない」


「・・・確かにそれはそうかもしれないけど・・・でも索敵妨害をどうにかできるとは思えないよ?まだあれの対抗魔術の開発には時間がかかるし・・・」


技術というのはどうしても鼬ごっこになるものだ。


何かを阻害する技術があれば、その阻害する技術を阻害する技術が生まれる。そうやって阻害しあい、技術は先へ先へと進んでいくのである。


魔術も同じで、索敵を妨害する魔術が見つかれば、その魔術を妨害する、あるいは別手段で索敵するといった行動が生まれるのだ。


疑似的な索敵や、まったく別手段の索敵。ある程度性能が落ちてしまうかもしれないし隠密性も下がるかもしれないが、それでも相手の情報を知ることができるというのは非常に貴重である。


「アリシア・メリノスの力は借りられないかな?彼女なら索敵妨害なんて意に介さないだろう?」


「アリスはこういう案件にはかかわらないでしょうね。というか支部長、何気にアリスの力をあてにしてますよね」


アリスは今神加と一緒に協会の一室で待機している。今回アリスを連れまわしすぎたために少し休ませているといったほうがいいだろう。


神加の子守という名目でのんびりしているアリスを意識しながら康太は話を先に進める。


「少なくとも今回俺はアリスを連れて行く気はありません。アリスは完全に部外者ですし、毎回毎回アリスに頼ってたんじゃ俺も魔術師としていつまでも独り立ちできない」


「気持ちはわかるけどね。でも状況が状況だし」


「攻略の人を集めればいいだけの話です。索敵妨害だって万能じゃない。ある程度抜け穴はあります。そういった技術指導をアリスに頼めばよいのでは?」


何かを求める人間にただそれを与えるだけでは何も先には進まない。求めるものを手に入れる方法を教えてこそ成長するというものだ。


アリスは誰かに何かを教えるということは基本しないが、たくさん弟子をとっていたという背景からしてものを教えることは嫌いではないと康太は考えていた。


そのため技術指導を頼めば断ることはしないだろう。仮に嫌がられても無碍にはしないことはイメージできた。


「どうかなぁ・・・彼女はあんまりそういうことはやってくれないような感じするんだけども」


「そうでもないですよ。あいつなんだかんだ言って頼られるのは嫌いじゃないですし。あてにされるのは嫌いみたいですけど」


「そういう意味じゃ僕はダメだね。君から頼んでくれると嬉しいんだけど」


「俺がそんなこと言った日には『お前はもっとやるべきことがあるだろうに』とか言われそうです。支部長が自分で頼んでください」


一応アリスは日本支部に所属している魔術師ということになっている。そのため支部長はアリスに対して命令できるだけの権力を有しているのだ。


もっともアリスが権力に屈するようなタイプではなく、何より権力の類を嫌っていることくらいは想像できる。


どのように頼むか、どのように依頼するか、それこそが一番のネックであるのは間違いなかった。


「索敵系の魔術師に関しては、複数の術式を有している魔術師が好ましいでしょう。ある一つのものでダメだったとしても、別の術式なら索敵できるということがあるかもしれませんし」


「んー・・・わかった。それで行こうか。でもその索敵要員・・・まぁ二人くらい声をかけるけど、その防御は誰が担当を?」


「土御門の双子と、あとは適当に防御ができる魔術師がいれば困らないでしょう。予知で攻撃の方向さえわかれば防御できますし」


「予知を使うとはいえ・・・あんまり承諾したくないなぁ・・・」


「なら今のままずっと引きこもらせていますか?それこそ四法都連盟から・・・もっと言えば土御門からにらまれますよ?」


実戦経験を与えたくて出向させているというのに実戦に出させなかったとなればそれはそれで問題だ。

例え後方でも実戦に参加したという事実さえ作れば、あとは何とでもなるのである。


「わかった、わかったよ。土御門の双子の同行に関しては君に任せる・・・ただこちらとしても用意する人員は選ばせてもらうよ?」


「構いませんよ。双子をしっかり守れるだけの人員をお願いします」


「・・・なんか君、クラリスとは別の意味で面倒なタイプになりつつあるよね・・・すごくやりにくいよ」


「お褒めに与り光栄です」


小百合がとにかく自分の思うが儘に物事を進めるためにある程度の武力と脅しを使うのに対し、康太は周囲の状況や環境を把握したうえで状況を動かそうとする。


今回を例に挙げるのであれば、協会と四法都連盟、もっと言えば土御門家との関係を利用して晴や明を現場に連れて行きやすい空気を作り出した。


ずっと引きこもって訓練ばかりでは出向した意味がないというものだという言葉を言われれば、さすがの支部長もその通りと言わざるを得ない。


だがかといって何の備えもなく土御門の双子を実戦に連れていくことは憚られる。そのため支部長はある程度実績と実力を持った魔術師を選定せざるを得なくなってしまった。


当然、優秀な魔術師がサポートに来てくれるとなれば康太たちは行動しやすくなる。


これが小百合だったら『とにかくお前は使える魔術師を用意すればいいんだ』と強引に話を進めるだろう。


康太の方がまだ脅しという手段を使っていない分、穏便かもしれないが逃げ道をなくすという意味では康太の方がより悪質なのかもわからない。


褒めてないんだけどなぁという支部長のつぶやきを聞きながら、康太は小さくため息をつく。


「でも実際、あの双子はそろそろ実戦に出してもいいころだとは思いますよ?物理的な回避能力もついてきましたし、単純な近接戦では俺も当てるのに苦労するくらいです」


「でも当てられないわけじゃないんだろう?」


「そりゃ、俺は予知魔術との戦闘経験が多少はありますから。理屈もある程度わかってますし、多少は対策できますよ。でも初見で今のあいつらと戦えって言われたらなかなかきついと思いますよ?」


康太のように戦いに特化した魔術師であれば、相手がどのような攻撃が避けることができ、逆にどのような攻撃が避けにくいのかを考察して相手を少しずつ追い詰めていく。


自分の装備や扱える魔術を使って相手の行動の選択肢を狭めていくことによって相手を攻略していくことになる。


一般的な魔術師の場合もそれは同様だろう。だが一般的な魔術師と康太との違いは近接戦を多用するか否かというところにある。


射撃戦において予知の魔術は絶大な効果を発揮する。


近接戦のように一秒未満のわずかな時間の間に手が届くような距離から繰り出される攻撃と違って、射撃系攻撃はある程度時間的な猶予や、その距離の開きがある。


速度も軌道も法則も予知によってわかってしまえば、それこそ康太がやっているように魔術を使わずに回避することだって容易なのだ。


小百合との訓練によって近接戦においてもある程度の対応能力を得た土御門の双子は、おそらく一般的な魔術師との通常戦闘において活躍できるだけの実力をすでに有している。


それでも実戦に出さないということであればそれは支部長が責任を取るのを恐れているだけととられても仕方がない。


もとよりあの二人に対する指導は康太と小百合に一任されているのだ。放り投げておいてあとから口を出すというのは筋が通らない。


「それは何となくわかってるよ・・・クラリス相手に五分耐えられるってことは十分基礎ができてきた証拠だろうしね」


「まぁ、不安なのは理解してますよ。何かあった時責任を取らされるのはたぶん支部長ですから」


「そうなんだよね・・・それをわかっているなら安全策をとってくれてもいいんじゃないかな?」


「俺らに預けておいて安全策も何もないでしょう。安全って言葉は俺らとは程遠いものなんですから」


「・・・うん、知ってた。わかってた・・・!失敗したよ・・・多少大変でも彼らは僕らで面倒を見るべきだった」


「あきらめてください。まぁでもしっかりと鍛えてありますから。一応師匠にも伺いを立ててそれでオッケーが出たらってことにしましょう」


一応土御門の双子を直々に指導しているのは小百合だ。小百合の意見を聞くことも大事なのは康太も理解している。


実戦に出て役に立てるレベルかどうかを判断するのは直接手を合わせている小百合だ。そこに支部長の一抹の希望があるかに思えたが、支部長は絶望した視線を康太に向けている。


「クラリスに聞いたら『行ってこい』っていうに決まってるじゃないか。あんなにいい加減な人間なんだよ?魔術師なりたての君を実戦に出させてるような人種なんだよ?絶対にダメだとは言わないよ」


「・・・まぁそうですね、言うでしょうね」


小百合に対するある種の信頼とでもいえばいいのか、傍若無人な行動が身に染みている康太と支部長からすればこの話をした際の小百合の反応は目に浮かぶようである。


目に涙を浮かべながら支部長は自分が責任を取らされる光景を頭に浮かべていた。


どうにか支部長が別の誰かに交代しないように優秀な人材を用意してほしいところである。


少なくとも康太は支部長にやめてほしいとは思わなかった。


「俺らも可能な限りフォローしますから。前線に出たら何もできないですけど」


「だよね、わかってる。僕の方でいい人材を用意するよ・・・頑張らなきゃ」


支部長は目を細めながらそう意気込む。支部長の腕の見せ所だなと思いながら、どこか他人事な康太に倉敷は呆れかえってしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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