可能性は
「戦闘要員に関してはライリーベルがいないのが苦しいところだね・・・彼女がいれば攻略は君たちに任せるんだけど」
「あいつは今忙しいから手が離せません。あきらめてください。それがだめなら師匠の投入を考えたほうが早いです。他にも支部長の手駒とかいるでしょう?」
「手駒って・・・言い方悪いなぁ。まぁ確かにクラリス以外にも手伝ってくれるような人たちはいるけど・・・君達ほど戦闘に長けてるってわけじゃないんだよ」
康太のような戦闘特化の魔術師は活躍できる場も限られる。支部に所属し、なおかつ支部長の直轄として動くような魔術師ともなると一点突破の魔術師よりもある程度何でもこなせる万能型の方が好まれるだろう。
何せ支部長の頼みは大抵面倒くさくて何が起きてもいいように備えなければならないのだから。
戦いしかできないような康太が呼ばれる場が、こういった戦闘面の面倒ごとだけに偏るのも、支部長が意図的にそのような場を選んでいるに過ぎない。
適材適所という言葉があるように、康太におあつらえ向きの仕事を選んでいるだけの話なのだ。
「協会の中でも戦闘職の人間はいますよね?その中で室内戦、近距離戦、あるいは射程が短くて効果範囲が狭い魔術を得意としている魔術師でも構いません。そういう人員を選抜してもらえればあとは俺とトゥトゥで合わせます」
「合わせるって・・・簡単に言うけど大丈夫なのかい?いきなり戦闘の連携を合わせるとか難しいんじゃ・・・」
「俺は大丈夫です。それにこいつのフォローをするよりは楽だと思いますよ?こいつを援護しようと思ったらかなり大変ですけど、それ以外の人間なら大抵は合わせられます。術の相性が最悪ならちょっと悩みますけど」
「俺はどんな奴がいても基本やることは変わりません。あとは味方の攻撃に当たらないようにすればいいだけの話です。あとは現場で微調整します」
支部長からすれば簡単に言っているように見えるだろう。戦闘における連携というのは一朝一夕でなるものではない。
康太と文、倉敷の三人は長く実戦を共に過ごし、訓練も一緒にこなすことが多々あった。だからこそ互いの攻撃手段も、攻撃の趣味も、癖もわかっている。
味方の攻撃に当たらないように、邪魔をしないように自分の術を扱い、相手の行動を阻害し攻撃する。
隙間を縫うような術の発動は簡単に行えるものではないのだ。だが康太たちはそれを行っている。
いや、正確には勝手気ままに康太が動いて、それに対して文や倉敷が合わせているというべきだろう。
康太の動きに比べれば、他の魔術師の動きなんて文や倉敷には止まっているのと同じようなものだ。
謙遜も驕りもない。今までそれをやってきたからこそ、倉敷にはそれができる自信があった。
事実幸彦とも即席で合わせることができたのだ。康太の動きに比べれば幸彦の動きでさえも遅く感じてしまう。
「本当に大丈夫なのかい?君たちレベルじゃなくても」
「俺らが合わせれば多少ましにはなるでしょう。なにも相手を殲滅しろって言ってるんじゃありません。相手の足止めでも牽制でもしてくれればそれで満足です」
「こいつ以上の無茶苦茶な動きをしない限りはフォローしますよ。あとはこいつが動きやすいようにすれば何とかなります」
「・・・わかった・・・君たちがそういうのならこちらからこれ以上何か言うのは野暮だね・・・それならこちらで多少ましな人物を斡旋しよう。一応言っておくけど、そこまでの戦闘能力は期待しないでほしいな」
「わかってますよ。そのあたりは安心してください」
「あと、これもわかっていると思うけど、その人を戦闘関係に連れまわすのはやめてほしいな。一応・・・何というか、君達みたいな人種はあまり増えないほうがいいんだよ」
「俺らと一緒にいるとこいつみたいに戦闘に特化した術師になるってことですか?」
「その可能性があるとしか言えないね。まぁ戦闘ができるようになるのはいいんだけど、君の一派が強くなりすぎるとちょっと問題なんだ。周りの声的にね」
康太の周りの人間が強いのは多くの人間が知っていることだろう。だがそれは血族と、常に行動を共にしている数人のレベルだ。
だがこれで、新しく一緒に行動する人間が増えたらどうなるか。康太は少し考えてしまった。
「それはつまり、権力とか派閥的な問題ですか?」
「いや、そういうのは別にどうでもいいんだよ。問題はそっちじゃない。考えてもみなよ、君たちと一緒に行動するだけで戦闘面でかなり成長できるってほかの人間が知ったらどう思う?」
「・・・俺らと一緒に行動しようっていう魔術師が増える?」
「そこまで極端な話になるかどうかはわからないけど、似たような現象は起きるだろうね。今まで君と常に一緒にいたライリーベルやトゥトゥエルが強いのはまだわかる。けどここで新たに一緒に行動した誰かが急に強くなったら、その関係性を想像するんじゃないかな?」
康太たちと一緒に行動すると強くなる。それは確かにそうかもしれない。何せ康太たちが魔術師として活動するということはつまり誰かと戦うということでもあるのだ。
そんな活動に毎回連れていかれては多少なりとも戦闘能力が向上するのも納得できる話である。
別に何もおかしくはない。康太が行っている普段の行動からしてそうなってしまう環境が出来上がってしまっているだけなのだ。




