洞窟探検
「マジで狭いな!本当に匍匐前進してやっとじゃないか・・・!よくもまぁこんなところ見つけたもんだよ」
康太の言うように、岩肌は匍匐前進をしている状態でも時折康太の背中や頭をかすめる。体の小さな神加とアリスは何も問題なく通過できているが、体の大きな康太と倉敷は時折体をぶつけながら進んでいた。
「それは本当に同意するよ。ここから先に進んでいけば、しばらくすると空気がある場所があるんだ。中間ポイントだな。ちょっと開けた場所だからそこでいったん休憩しようぜ」
「まだ先があるのか・・・それにしても空気があるということは、どこかとつながっているのか?」
「あぁ、小さな穴が地上に通じてるみたいなんだ。人が通れるような穴じゃないけどな。崖とかに小さな穴があるっぽい。鳥の巣とかそういうのじゃないか?」
倉敷もそのあたりは詳しくないのだろうが、完全に海底になっている状態で空気がある場所というのはありがたかった。
康太たちは匍匐前進を続けながらその場所を目指すと、数十分ほど進んでようやくその場所にたどり着いていた。
半径五メートルほどの空間、そこには水に浸っている場所と陸地になっているところが完全に分かれている。
高低差の関係でこの辺りは海の水が入りきらない場所のようだった。休憩するにはちょうど良い場所である。
「あぁ、空気がうまい・・・とはいかないな・・・風が通ってるって言っても多少濁ってる」
「一度換気したいところだな。その穴とやらは・・・あれか」
アリスが索敵によって地上と通じている穴をいくつか把握すると、そこめがけて風を送り込む。
風が送られるのと同時に外から風を取り込んでこの空間の中を一気に換気していく。ようやく流れ込んできた新鮮な空気に康太たちはようやく人心地着くことができていた。
「本当によくもまぁこんな場所見つけたもんだ。むしろどうやって見つけたのか聞いてみたいわ。インディージョーンズでもこんな場所通らないぞ」
「俺も初めて連れてこられた時は同じような感想を持ったよ。ところでどうだ?ここはにおいはするか?」
「ん・・・いや、まだあの匂いはないな。まだ来てないんじゃないか?」
「となると目的地に着いたら待つことになるのか・・・神加はどうだ?精霊の声は聞こえるか?」
「うん、聞こえるよ。あっちの方から聞こえる」
神加が指さす方向はここから少し上に行ったところのようだった。だがその方向を見て倉敷は苦笑する。
「あぁ、直線だとその方向なんだな。次はあの穴に入るから」
倉敷が指さしたのは神加が指さしたのとは全く違う方向だった。おそらくまた細い道をグネグネと移動するような形になるのだろう。
あとどれくらいで到着できるのだろうかと、康太はため息をついてしまっていた。
「いっそのこと地面の形を変えてもいいか?そのほうが絶対に早いぞ?地割れを起こせば一直線だ」
「やめろ。思い切り環境破壊になるだろ。精霊はデリケートなんだから」
「私だってデリケートだ。こんなじめじめしてくらい場所に閉じ込められていたら気がくるってしまうぞ」
「お前らみたいなのはデリケートって言わないんだよ。もうちょっと弱弱しくなってからそういうことは言ってくれ」
「あれ?今俺さりげなくアリスと同列扱いされた?」
「同列だろどう見ても。むしろお前と同列になれるのなんてこいつと鐘子くらいだろうよ」
「失礼な奴だな。俺はアリスほど無茶はしないぞ。壊そうと思えば壊せるけどやらないだけなんだからな!」
「壊す壊さないの問題じゃないって気づいてくれねえかな?お前の精神構造の話をしているんだよ俺は」
倉敷のあきれ果てた言葉に、康太は反論したかったが、倉敷はそれよりも早く立ち上がり先に進むための穴を観察していた。
「こっから先は匍匐前進じゃなくてもいけるから少しスピード上げるぞ。待ち伏せにしてもきちんと待たないとな」
「一本道だったら問題ないんじゃないのか?別にここで待っててもいいような・・・」
「いや、たぶんだけど別の道があると思う。師匠のことだから一番面倒くさい道を俺に教えてる可能性も・・・」
「・・・お前の師匠も大概面倒くさいタイプの人間だな」
「お前のところには負けるよ。まだいないと思うけど・・・って言うか今日来なかったら絶対ぶんなぐってやる」
「俺らがお前を殴るほうが先かもしれないけどな。ここまで連れてきておいて今日来なかったらさすがにな」
「まったくだ。引きこもりを連れ出すのだからそれ相応の理由と覚悟が必要なのだぞ。お前はそのあたりを理解しているのか」
「自分でひきこもりっていってりゃせわねえよ・・・まぁ後は祈るのみか・・・とりあえず行こうぜ」
再び倉敷を先頭に先に進む一行。道は多少広くなり、まともに通ることができる場所も増えてきてはいたが、やはり通りにくいことに変わりはなかった。
これだけ苦労して本当に誰も来なかったら倉敷に飯でもおごらせようと康太とアリスは心に決めていた。




