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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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特別な少女

「神加ちゃん、それってこの仮面の上部分みたいな感じか?」


「・・・それっぽいって言ってる・・・けど、合ってるかどうか自信ないみたい」


倉敷が自分の仮面を神加に見せる。倉敷の着けている仮面は師匠の仮面の一部であることは言っていた。


確かにデザインは同じものなのかもしれないが、実物を見たわけでもなく、なおかつ一カ月近くも前の話なのだ。精霊たちの記憶が定かではないのか、人間の感性によって作り出されたデザインなど理解できないのか、回答はあまり芳しいものとは言えない。


「けど一歩前進だな。少なくともお前の師匠は一カ月前にここに来たってことだろ?」


「らしいな・・・さすがにこれだけじゃ情報にもならないけど」


「いや、それだけわかれば結構ありがたいぞ?ここって本当に知る人ぞ知るって感じだろ?獣道すらほとんどなかったもんな」


「そりゃな。一般的な山道からはかなり離れてるし、ここの水ってすぐそこでまた地下に入るんだよ。川をたどってこられる場所でもないから、俺ら以外でここに来た人間っていないんじゃないか?」


精霊術師が精霊に会うための秘密の場所とでもいえばいいだろうか。わざと道から外れない限りは見つからない。池にある湧き水なども、川となって下流に流れているが、すぐに地下水脈に合流する形になることでこの場所をたどる術はほとんどない。


一般人なら間違いなく来ない、そんな場所なのだ。


人の手が入っていない。人が来ない。それだけで康太にとっては重要な情報だった。


「一カ月前でしかも屋外だからそこまで精度は望めないけど・・・人が全然来ないっていうなら匂いが異物として残ってる可能性は高いな」


「匂いって・・・一カ月も前だぞ?無理だろ?」


「やってみればわかる。ちょっと強めに嗅覚強化をかけるから、しばらくまともに呼吸できなくなるけどな」


通常の身体能力強化に加えて嗅覚強化を重ねがけすることによって、康太は今できる最大の嗅覚をもって周囲のにおいをかぎ始める。


「お前の師匠がいつもいる場所ってないか?そこがわかればもう少し条件が良くなるんだけど」


「師匠はいつもそこにいる。今神加ちゃんが立ってるところだ」


「オーケーいい情報だ。神加、ちょっとごめんな、そこに行きたい」


「うん、お兄ちゃん、ワンチャンの真似?」


「おう、俺はいま警察犬だ。においで犯人を追い詰めてやる」


「人の師匠を犯人呼ばわりしないでくれるか?たぶんあの人犯罪とかはやってないと思うから」


たぶんかよと康太は苦笑しながら神加が立っていた場所の近くのにおいをかぎ始める。


屋外で雨も風も吹き曝し、しかも一カ月も前のものとなるとにおいが残っている可能性は限りなく低い。


仮に残っていたとしても、康太の使っている嗅覚強化では認識できない可能性がある。


強化系の魔術はあくまで人間の限界に近づける魔術だ。人間の嗅覚ではどうあがいたところで犬の嗅覚にはかなわない。


もし人間の限界を超えようとするならそれなりの覚悟を決めなければならないだろう。


康太の使える肉体超過の魔術のように、過ぎた力はその身を滅ぼす。康太は身をもってそれを理解していた。


もしこれでにおいをかぎ取れなければと思いながら、神加がいた場所で必死ににおいをかぐ康太を見て、神加は同じように身をかがめてにおいをかぎ始める。


「ミカ、コータの真似をしたところでわからんぞ?」


「え?でもお兄ちゃんはわかるんだよね?」


「コータはそういう魔術を身につけているというだけの話だ。お前はまだそういった魔術を覚えていないだろう?」


「そうなの?じゃあ覚えたい!」


「・・・簡単に言うな・・・コータが覚えている嗅覚強化は属性魔術だ。お前はまだ属性魔術を教わっていないのではないのか?」


「最近お姉ちゃんにちょっとずつ教わってるよ。みんなの力を頼ったらダメって言われてるけど、お願いすればすぐにできるもん、ほら!」


そういって神加は両手を広げると周囲にさわやかな風が吹き抜けていく。


それが神加の作り出した風の魔術であることをアリスは即座に感じ取った。術式も滅茶苦茶で、魔術といっていいのかすらわからないようなものだが、確かに神加は今風を操った。


おそらく神加の中にある魔術の知識を使って、神加の中にいる風の精霊たちが術式をくみ上げたのだろう。


命の危機に瀕しなくとも、神加は精霊を操りつつある。それもこの世界の中に存在するどの精霊術師よりも高度に。


目の前で起きていた光景を見て倉敷に至っては目と口を大きく開いた状態で固まってしまっていた。


何と末恐ろしい子供だろうかと、アリスは内心冷や汗が止まらなかった。封印指定であるアリスは、自分が少々特殊な人間であるという自覚はあった。


子供のころから天才と呼ばれ、その才能に溺れることなく努力し、今のアリスがある。


そういう意味ではアリスも特別と言えなくもない。だがそれは人間という枠の中での話だ。アリスと同じ才能と努力をもってすれば、他の人間もアリスと同じ境地に立てるのだ。


だが神加は違う。どんな努力をしても、アリス以上の技術を身に着けても、神加のようにはなれない。


神加は人間としての枠から外れた、特別な人間なのだ。少々矛盾した言い回しになるかもわからないが。


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