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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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ある日山の中へ

「師匠がいる場所は基本的に自然豊かな場所なんだよ。山の奥とか、秘境とか、滝とか、海とか、湖とか、とにかく人がいないところをうろつく感じなんだ」


「うろつくのはいいけどさ、その人何してる人なんだ?働いてないわけじゃないだろ?」


「働いてるっていうのは聞いたことあるけどな・・・けど何してる人なのかは知らないんだ。教えてくれなかったしな」


倉敷のその言葉に康太と支部長は顔を見合わせる。


人気のない自然の豊かな場所。確かに情報としてはある程度確かなものなのかもしれないが、それでもその範囲が広すぎる。


日本でも探せる場所がどれほどあるだろうか。それほどの該当箇所があるのだ。


簡単に探し出せるとは思えない。康太は眉をひそめていた。


「人気がないって一言で言ったってさ、もうちょっとまともな情報はないのか?それだと探す場所が多すぎるだろ」


「そうでもねえって。水が豊かな場所って結構人がいる場所だ。でも水があって人がいないってなるとなかなかない。俺が知ってる場所も全部教えるから、あとは光が注ぐ場所なんだけど・・・」


「高い場所、特に雲が届かないほどの高度となれば限られてくるね・・・人工的では無ければ山の数も限られる・・・ところで、その人はそこでいったい何をしているんだい?」


「昔教えてくれたのは、精霊たちと話をしているんだそうです。俺はその場所についていっても、特に何もなかったんですけど・・・」


精霊たちと話をしている。それが体内にいる精霊なのか、それとも全く別の何かなのか、康太たちには分からなかった。


精霊術師の倉敷がわからないのだから康太たちがわからないのも納得できるのだが、少なくともその人物にしかわからない何かがあるのだろう。


「お前の師匠って、こういう・・・普通の場所にいる精霊と話ができるのか?」


「本人はできるって言ってた。ただ人が多かったり、余計なものが多いと聞こえないって言ってたな」


倉敷の言葉に康太は少し思うところがあった。その原因は康太の弟弟子の神加である。


神加は精霊を大量にその身に宿している。そしてその状態をおそらく生まれてからずっと続けているためか、康太たちには聞こえていない何かが聞こえ、康太たちには見えない何かが見えている。


かつて康太が精霊を探すときに、神加は文にも感じ取れていない精霊の存在を感じ取って見つけ出した。

おそらく同種の何かを持った存在だろうと考え、康太は小さくうなずいた。


「よし、お前の師匠を探しに行くのにうちの末弟を連れていくか」


「・・・末弟って・・・あの子を?いやいやいや、あんな小さな子連れていけるかよ」


「ハイキングみたいなもんだろ。それに、たぶんあいつのためにもなる。ウィルが一緒にいれば移動もらくちんだしな」


神加が今後どのような魔術師になるのかはさておいて、彼女の体質を考えるといろいろと手を打っておいて損はない。


もし精霊と話をできるような場所があるのだとすれば、神加をその場に連れていけば今後の助けになるかもしれないのだ。


神加にはいろんなものを見せてやりたい、それが本人のためになるものでもならないものでも、いろんな景色を見て、いろんなものを触らせて、いろんな経験をさせて楽しい思いをさせてやりたかった。


「・・・まぁ・・・お前が言い出したら聞かないっていうのはわかったけどさ・・・人探しに関しては俺はあんまり自信はないぞ?ほかに誰か連れていくのか?」


「正直なところベルも連れて行きたいけど、あいつ最近忙しいみたいでな・・・ちょっと今誘うのはまずいかと思う。一応声はかけるけど」


「・・・お前ら喧嘩でもしたのか?最近一緒にいないけど」


「いや、あいつはあいつでやることがあるんだろ。そこまで気にすることでもないって。ちょっと寂しいけど」


「電話くらいはしてるんだろ?」


「おうよ、ラブコールは欠かさないぞ?」


「はいはいご馳走様・・・まぁ、確かに忙しそうにはしてたな・・・なんかずっとこもって実験みたいなことしてたぞ?」


春奈の修業場にこもって文が何をしているのか、康太も気にならないわけではないのだが、文がやるといっていることに口を出すつもりはなかった。


文が何をしていても、彼女が康太のことを想っていることには変わりはないのだ。そしてそれゆえの行動であることを康太もよく理解している。


だから多くは言わない。文がやることをやっているのであれば、康太もやるべきことをやるだけである。


「支部長、とりあえず俺とトゥトゥはこいつの言う地点を虱潰しにしていこうと思います。支部長も手の空いてる人を自然豊かで水のある場所に差し向けてくれますか?可能なら精霊術師に対して理解のある人を」


「わかったよ。僕の方でも手を回しておく。とはいっても、ちょっと先が長い話になりそうだけどね・・・あとはほかの精霊術師たちが被害にあってないかも調べるよ。この様子だとほかにもいそうだから・・・」


「そうですね、俺も知り合いの精霊術師に声をかけておきます。何かわかったら知らせに来ますね」


「そうしてくれると助かるかな。まったく・・・他の支部でも似たようなことが起きているか確認しておかないとだね」


また面倒なことが増えたなと支部長は頭を抱えるが、積極的に動いてくれる人員が身近にいることに感謝するべきだなと、相談している康太と倉敷を見て小さくため息をつく。


子供が頑張っているのに大人が頑張らないわけにはいかないなと、支部長は手元にあるメモで各支部への伝達を作り始めていた。


















「というわけでハイキングに行くぞ!」


「「おー!」」


「・・・ハイキングとやらはいいのだが・・・なぜ私も連れてこられているのだ?まだアニメの視聴が終わっていないのだが?」


康太と神加、そしてアリスと倉敷は、倉敷の師匠がいる可能性のある山にやってきていた。


しっかりと登山用の服に着替え、道具をそろえやってきたのだが、アリスだけはウィルに包まれ半ば強制的に連れてこられてた。


何せまともな説得も何もせずに康太が引きずってきたのだ。


「だってお前こういうのに誘わなかったら拗ねるだろ?だから連れてきたんだよ」


「誘われないのが嫌なだけであっていきたいというわけではない。誘われて断るまでがワンセットだ」


「わかってるよ。あらかじめ誘ったら断られるのがわかってるから特に何も言わずにつれてきたんだろうが」


康太は小百合の店の地下でダラダラしているアリスを捕まえてちょっと付き合ってくれということでアリスを連れてきた。


康太たちの格好から何をするのかを大まかながら把握していたアリスは拒否したかったが、康太はウィルと協力してアリスを強引に連れてきたのである。


「何が悲しくてハイキングなど・・・というか場所的には登山ではないのか?」


「似たようなもんだ。いや似て非なるものだけどまぁいいじゃん。たまには地道に歩くのもいいもんだぞ?」


「普段空中を飛びまわっている男の言葉とは思えんな。で、何が目的だ?」


本当に何も言わずにつれてきたためにアリスは今回の事情を何も知らなかった。そんなアリスに倉敷は同情の視線を向ける。


「おい八篠、せめて説明くらいはしてから連れてこいよな。さすがに不憫だわ」


アリスがたとえ封印指定という魔術師の中でも特異な存在とはいえ、アリスだって人間なのだ。


理不尽な行動に対して怒らないわけではない。明らかに地下でダラダラと時間を浪費し続けているとしても、それはアリスの自主的な行動なのだ。それを邪魔するのであればしっかりとした筋を通すべきなのだ。


「いやいや、アリスはこんな顔をしながら実は結構うれしいとか思ってるんだって。素直になれないシャイガールなんだよ」


「・・・すでにガールというような歳ではないがな・・・まったく、勝手なことばかり言いよってからに」


ウィルが用意してくれていた登山用の装備を身に着けながら、アリスは目の前に広がる山道に目を向ける。


「で、山を登るのは良いが、本当に登るのか?」


「そうだぞ。夏ってこともあって熱中症には注意な。蚊もたくさんいるだろうから、これが虫よけ、水分補給は万全に、疲れたらウィルに補助してもらえ」


ウィルはアリスと神加の背中に分裂した状態でリュックの形となっている。疲れた場合はウィルが二人の歩行を補助するようになっているのだ。


「ふん、ウィルの補助などなくとも山くらい登れるぞ」


「いやわからないぞ?お前魔術使わなかったら神加と同じかそれ以下の体力しかないだろ?最近ずっとダラダラしてるし」


「・・・魔術を使うなと・・・?なぜ?今日の目的と何か関係があるのか?」


「いや特にはないけど、せっかく上るんだからそのままで楽しんだほうがいいだろ?」


「・・・?」


登山を楽しむという感覚はアリスにはなかった。


山があったらそれを飛び越え、飛び越えることも難しければ迂回する。


山というのは邪魔なものでしかなく、山の頂上に目的地がない限りはわざわざ登ることはなかったのだ。


頂上にある目的地に行くことが目的ではなく、頂上へと登ることそのものが目的となる。そういうこと自体がアリスにとってはいったい何の意味があるのかわからなかったのである。


「山に登ってどうするというのだ?修業の一環か何かか?」


「そういう面も無きにしも非ずだけどな。まぁいいじゃん。たまにはこういう意味のないようなことをするのも」


今回の目的を考えれば夜間にでも宙を飛んで一気に山頂を目指したほうが効率的なのは間違いない。

だがそれではあまり意味がないと思ったのだ。


山に登るということは、ただ歩くだけではない。発見がいろいろとあると思ったのだ。


「特に神加、お前は今日もしかしたらいろんなものを見たり聞いたりするかもしれない。たくさん見たことのないものがあるかもしれない。少しでも気になるものがあったら教えてほしい」


「うん、わかった」


「よし、それじゃあ行くか。俺と倉敷で水とかの必要な道具は持ってるから、ほしかったらいうんだぞ?」


「・・・地味に重いんだけど・・・八篠、お前のバックと交換してくれ」


「俺の方が重いぞ?それでも良ければ」


「・・・やっぱこっちでいいや」


倉敷の荷物と康太の荷物では倍近く重さが違う。康太はここに訓練も兼ねてきているため、大量のスポーツドリンクや道具を持った状態だ。


山道もそこまで整備されているわけではないため気をつけなければ転んだりもするだろう。


案内役として倉敷が先頭、中間に神加とアリスが、最後尾に康太がついて、四人は並んで歩き始めた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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