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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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夢か現か

「待たせたな!これがあればほかの支部の面々にも一度で伝えることができるぞ」


そういってアリスがもってきたのは家庭用のビデオカメラだった。おそらくどこかで買ってきたのだろう、箱ごと持ってうきうきとその箱を開けている。


適当に包装を散らかしているのを見て、康太と倉敷はそれを手際よく片付けていった。


「アリス、こういうのはもうちょっと大事に・・・あ、それ保証書、捨てるなよ?」


「別に良い。壊れたら次のを買えばいいだけの話だ。さっさと映すぞ。お前たちも見ておくがよい」


アリスからすれば簡単な上映会を行うつもりなのだろうが、実際はこの魔術師の記憶の中を覗いた結果見えたものを視覚化するという作業だ。


はっきり言ってこれはかなり重要である。康太と倉敷、そして支部長もアリスが指さす方向を見つめた。


「よし、よーい・・・アクション!」


何かの作品に影響されたのか、それらしい音まで演出してビデオカメラで録画を始めると同時に、アリスは魔術で映像を作り出していく。


壁に映し出されたのは、以前見た神加の記憶に少し似ていた。


ノイズが激しく、なおかつ急に場面が飛ぶ。先ほどまで室内を歩いていたというのに唐突に屋外へ、そして誰かの前へ、町中へ、どんどんと場面が変わる。


「・・・なんか、夢を見てるみたいだな」


映し出され続ける、変わり続けるその映像に倉敷はついつぶやいた。確かにその通りかもしれない。


唐突に、そして脈絡なく場面が変わる。途中までの光景も行動も関係なく、おそらく本人の意思さえも関係なく、次々と変わる場面や光景はまさに夢の中といった様相だった。


「言いえて妙だな。だが実際こいつにとっては似たようなものなのだろう。自我が保てていない。現実と夢の境目をさまよっているような感覚だろうな」


「・・・催眠や洗脳状態に入るとそんな感じになるのか?」


「私はそういった状態になったことがないからわからんが・・・おそらくそうなのだろうな。何度か似たような状態の人間の記憶を見たことがある。お前の弟弟子とは違う意味で、記憶がちぐはぐな状態だな」


神加は強すぎる悪意や敵意、残酷すぎる現実から自らの心を守るために、自分自身で記憶をちぎり取った。


無論神加にその自覚はないだろう。あくまで本能による防衛行動だ。それはある意味生命としては当然の部類に入る。


だがこの魔術師の状態は、それを人為的に作り出したようなものだ。意識を曖昧にさせ、自分の行動であるように思わせながら、その実自我は取り払われている。


いやな状態だなと思いながら、康太は倉敷の方に視線を向ける。


「トゥトゥ、実際に戦ってみてこいつの状態はどう感じた?強かったか?弱かったか?」


「・・・お前に比べれば弱かったよ。けどこんな状態で戦ってたのか・・・」


「現実か夢かも曖昧な状態で戦って、お前に多少なりとも傷を負わせたって意味じゃ、ある程度実力のあった魔術師なのかもな・・・その実力が発揮できなかったことに関しては運がないとしか言いようがないけど」


この魔術師が本来の実力を発揮できていたのであればもしかしたら倉敷にも勝てていたのかもしれない。


だがこのような夢現な状態でまともに戦えたとは康太には思えなかった。本来の実力の半分も出せていないのではないかと考えていた康太に、アリスは小さく首を横に振る。


「そうとも限らんぞ?こういった状態では魔術師は本来以上の実力を発揮することが多い。少なくとも、こいつにかけられている洗脳はなかなかしっかりしたものだった。戦闘能力を阻害するようなことはないだろう」


「そんなことあるのか?だってふわふわしてる状態なんだろ?夢か現実かもわからない状態でまともに戦えるわけが・・・」


「ふむ・・・どう説明すればよいかの・・・今まで見た夢の中で明晰夢というやつを見たことがあるか?夢の世界を自分の想いのままに操れる、そういう夢だ」


康太と倉敷は顔を見合わせるが、首を横に振る。そういった類の夢は見たことがなかったのだ。


たいていどんな夢かも忘れているし、何より夢そのものに意味を見出したことがない。気づいたら見ているのが夢なのだから。


「魔術師に強い洗脳をかけて行動させるとな、自分の夢の中だと思い込む者もいる。夢の中であれば思い通りになる、思い通りに魔術が出せる、そして体の調子もよい、そんな風に夢の中で自分の能力を助長していくのだ」


「自己暗示みたいなものだね。確かにそういった実験結果は報告されているけれど・・・そういうのもなかなか極端な例だよ?」


支部長が過去の実験例があるということを教えてくれるが、康太たちは半信半疑だった。


確かに自己暗示と言われればまだ理解もできるかもしれないが、納得はできなかった。


自分自身に暗示をかけることで、限界を限界ではなくす。自分はもっとできる、自分はもっと先へ行ける、自分はもっと、もっと。


そういったプラスの感覚や考えを自分自身に押し付け、自分自身をだます。それが自己暗示の原理だ。


不可能だと自分自身が思わない、できないことだと思わない、そういった考えや感情は時として人間の体に多大な影響を与える。


思い込みの力といえばそこまでだが、ただ体を動かすだけの人間と違って魔術師は感覚によって魔術を操る。


そんな魔術師が、自らの思う限り最善の状態で、最高の感覚を常に作ることができるとすれば、確かにそれは通常状態よりも高い戦闘能力を有するということにもつながる。


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