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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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C-

「・・・ふむ・・・なるほどな。おおよそ特定できたぞ」


様々な検査という名の拷問に近い所業の末、小百合は数枚のデータシートを康太に渡してきた。


いや渡してきたというのは適切ではない。どちらかというと投げつけたという方が正しいだろう。全く動けない康太に向けて放り投げたと言い換えてもいいかもしれない。


「なにが・・・どう特定できたんですか・・・?」


「お前の魔術師としての素質だ。総合的に見ればお前の魔術師としての適性はC-といったところか」


C-、それが一体どれくらいの評価なのかはわからないが恐らくあまり高くはないだろう。


それも総合的に見ての判断だ、実際どういう基準かもわかったものではない。


「とりあえず安心しろ、お前は魔術師としての素質はある。まぁ平均よりやや下程度の素質だが」


「それって安心していいんですか?」


康太はとりあえず投げられた紙を見ようともぞもぞと体全体を動かして何とか紙を見ることができる体勢に移行していく。


そこにはいくつかの項目があったがその中で目を引いたのは先程小百合が説明していた三つの素質の部分に関してだった。


十段階で評価されているそれぞれの評価は以下のようになっている。


供給口2、貯蔵庫8、放出口7


十段階において十が最も高いのであれば供給口がかなりひどいことになっているのがわかる。貯蔵庫や放出口はそれなりに高い値が出ているのにこれではかなりアンバランスなものになってしまうだろう。


「あの・・・これって実際どういう評価なんですか?いいんだか悪いんだか・・・」


「簡単に説明すればお前は魔力をチャージするのに時間がかかりすぎるという事だ。一度に強い魔術を使うこともできるし多くの魔力もためておけるがその分補給に時間がかかる。継戦闘能力が低いと言い換えてもいい。短期戦向きだな」


たとえ大きな貯蔵庫を持っていても、それを一度に出すことができる放出口があっても、肝心な補給がおぼつかないのであれば魔術を使うのも苦労する。つまりはそう言う事なのだ。


平均以下という評価には若干がっかりもしたが、とりあえず魔術師になれるだけの素質は持ち合わせているという事実に康太はほんの少しだけ安堵していた。


「ちなみにですけど・・・C-って・・・やっぱ低いですか?」


「さっきも言ったが平均よりやや下程度。まぁ優秀な魔術師になれるかどうかはお前の才能次第だ。これはあくまで適性の問題だからな、魔術を上手く扱えるかどうかはお前自身にかかっている」


結局のところ筋力があってもその筋力を上手く使えなければ意味がないのと同じことだという。


上手く運動するためには基礎的な運動能力の他にセンスも必要になるのだ。まだ康太は基礎的な能力を確認したばかり。まだ魔術師としての才能に恵まれているかどうかも分からないのだ。


「まぁあれだ、お前は私が思っている以上に運のいい男らしい。供給口と排出口の評価が逆だったらお前は釜の中で死んでいたかもな」


「・・・それってどういうことですか?」


簡単な話だと小百合は小さな風船のようなものを取り出した。そして風船に空気を少しずつ入れていく。


「さっきも言ったが、ゲヘルの釜はそれぞれの素質をフル稼働させる状態だ。もしお前の素質が一部逆転していたら、放出よりも供給が上回って・・・」


小百合はさらに空気を入れ続け、風船を強引に破裂させる。


「こうなっていただろうさ。爆発とまではいわんが、体の組織のいくつかが破損していたかもな」


風船と同じ理屈というのは何とも考えやすくて助かるが、どうやら自分の貯蔵庫を超える魔力を溜めこむのはかなりリスクが高いらしい。


考えてみれば当然だ、魔術などという超常現象を起こせる力の源を体に溜め込んでいるのだ。過剰摂取が体にいいはずがない。


「もっと安全な方法とかなかったんですか?危なくないような方法」


「私もこの方法で素質を調べた。それ以外は知らん。まぁとりあえずお前は私の弟子に見合った存在だという事だ。今は喜べ」


素直に喜べないなと思いながら康太は全身の力を抜く。


魔術師になるかどうかはさておき、これで自分はちゃんと生きていけるという事だ。少なくともこの女性に殺されることは無くなったという事でもある。


「よし、そうと決まれば早速魔術の訓練を始めるか」


「え!?あ・・・あの俺今ほとんど動けないんですけど・・・」


小百合の提案に康太はさすがに顔をひきつらせてしまった。スパルタにもほどがある、自分はまだ痺れと体の痛みが抜けないというのにこんな状態で何をさせようというのか。


「安心しろ、今日は魔術は使わせない。というかまず魔術そのものについて教えなければならないからな。まずは学生らしくお勉強からだ」


つまりは魔術そのものを使うのではなく、魔術というものが何であるかを教えるという事らしい。


今まで魔術というもの自体を疑っている康太からすれば有難いことだった。


「とりあえずここで話すのもあれだな・・・上に戻るか。とっとと行くぞ」


「あの師匠・・・とりあえず足をもって引きずるのやめてもらっていいっすか?」


「運んでやるだけありがたいと思え」


動けない康太の足を引きずって地上まで戻る中、康太は何度も階段に頭をぶつけ続けることになるのだが、それはまた別の話である。


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