譲れないもの
「どうしたコータ、何か用か?」
「うん、アリスに今回のことの意見を聞いてみたくてな」
「・・・私に話を持ってくるとは、手段は選んでいられないか?」
「まぁな・・・でも結論が欲しいんじゃないんだ。あくまでお前の意見が聞きたい。知識をあてにしてるともいえるけどな」
康太は最終手段であるアリスのところに質問しにやってきていた。龍脈や世界各地の状況など、おそらく一番詳しいのはアリスだと思ったからである。
無論康太はすべての答えをアリスから聞こうとは思っていない。康太が聞きたいのはあくまで知識とアリスの意見だった。
「これが今回の事件の世界分布だ。この印のところでそれぞれ龍脈と、連中の拠点が見つかったってことなんだけど・・・アリスから見て、どう思う?」
「・・・また漠然としたことを聞きよってからに・・・ふむ・・・」
一度は見たことがある図だが、アリスもこうしてまじまじと見たわけではない。アリスは世界地図に記されている情報を頭に入れながら、実際に現場で起きたことを思い返し、情報をすべて統合していた。
「・・・連中が龍脈を使おうとしているという情報、これに間違いはないのかの?」
「支部長がいうにはな。他の場所でも龍脈が見つかってるらしい」
「・・・これだけでは材料がだいぶ足りんが・・・そうだな・・・ある程度の距離を保っているのはわかる。全体的に何かを行おうとしているのか、それともそれぞれの場所で全く違うことをやろうとしているのか・・・」
「・・・やっぱアリスでもまだそこまではわからないか?」
「当たり前だ・・・玉ねぎを見せられてこれで何の料理を作ろうとしているのか教えてくれと言われているようなものだぞ。選択肢が多すぎてやれることなど数えきれないほどあるわ」
玉ねぎを見せられてできる料理という例えに康太は苦笑してしまう。情報が少なすぎれば当然可能性は広がっていく。良くも悪くもできることが多いせいでその可能性を捨てきれないのだ。
「ちなみにアリス、龍脈についてなんだけど、この世界で大きな龍脈ってどこにあるんだ?」
「ん・・・私もすべての龍脈を見てきたわけではないが・・・そうだな・・・一度実際に感じてみるのもいいかもしれんぞ?」
「実際に?日本にも結構あるって聞いてたけど、行ってわかるものなのか?」
「さぁな。それはいってみてのお楽しみだ。少なくとも、お前は魔術師だ。一般人とは違う感性を持っているのだから何かを感じ取れても不思議ではないぞ?」
「・・・アリスは感じられるのか?」
「いや?私はそんな突飛な感性は持ち合わせていないものでな。調べなければわからん」
なんだよと康太はうなだれる。アリスがわからないものを康太がわかるとは思えなかった。
少なくとも康太が今までいろいろと活動してきた中で、龍脈という存在を感じ取れたことは一度だってない。
仮にここが龍脈ですよと教えられても、何かを感じ取れるとは思えなかった。
「コータよ、龍脈とはそういうものだ。人間が普段感じ取れるようなものではない。だから探すのにも苦労する。だが逆に考えよ、連中だって探すのには苦労するのだ。そして協会もまた同じこと。連中が協会から情報を抜き取っているのであれば・・・そう考えればいろいろと見えてくるのではないか?」
「・・・協会が記録している以外の龍脈を探すか・・・協会の記録してある龍脈を使うか・・・今回の場合は前者だったか」
少なくとも今回の事件の場所は、協会の記録していた龍脈の場所ではなかったようだ。
つまり彼らは協会が記録した以外の龍脈の場所をいくつも見つけているということになる。
今回見つかった場所以外で。だからこそ協会も、現地の魔術師に龍脈のことを聞きこみをして情報を探ろうとしているのだ。
すでに動き出している。自分だけが足踏みしているわけにはいかないなと内心歯噛みしていた。
「・・・コータ、焦るのは良いが、周りが見えなくなるようなことにはなるな?お前には頼りになるものがいるのだ、そのことを忘れてはいかんぞ?」
「・・・わかってるよ・・・っていうか現にこうしてアリスを頼ってるだろ?」
「あまり私ばかり頼られるのも面白くないのだがな・・・私の趣味の時間が少なくなってしまう」
「そういうなよ。今回のことに関してだけは・・・ちょっと力を貸してほしいかもしれないからさ」
「・・・私は戦わんぞ?」
「わかってる。これは俺の戦いで、あいつは俺の獲物だ。アリスにだって譲らない」
「・・・それは失礼した・・・そうだな、若者の手柄を老いぼれが奪うわけにもいかんか」
「老いぼれって・・・見た目は完全幼女なんだけどな」
「ふふん、ピチピチだろう?」
若干死語を織り交ぜつつ、アリスは笑っている。
アリスは戦うつもりはない。自分の身に危険が迫らない限りは。康太もアリスを戦わせるつもりは毛頭なかった。
アリスは良くも悪くも最終手段だ。本当にどうしようもなくなった時に頼るべき相手だ。
戦いにおいて彼女の力をあてにすればどうなるか、想像に難くない。
大量の魔術師に囲まれても平然としていられるその力を、ありとあらゆる力を自分のものにできるその力を康太は実際に見ているのだ。
それに、自身で口に出したように、康太は誰にもこの役目を譲るつもりはなかった。




