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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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龍脈のどこか

宗教団体。そういわれていいイメージを浮かべることはできない。


いかにも怪しげな儀式や戒律などを布いて信者から金を巻き上げるイメージだ。もっとも怪しげな儀式と言われれば康太たち魔術師もほぼ同じようなものなのだが、そのあたりは置いておくことにする。


「宗教団体ですか・・・どんな宗教団体です?過激派的な?」


「いや、内容自体はそこまで危ないものではなさそうなんだけどね・・・金の動きを追うのがすごく面倒くさかったってマウ・フォウは言ってたよ。かなり厳重に隠している感じだったね」


支部長がそういいながら机の上に置いた資料には、マウ・フォウが調べ上げた金の流れが網羅されていた。


企業やNPO医療関係施設、果ては公営の施設にまで金を流し、最終到着地点をその宗教団体にしているようだった。


かなり巧妙に金の動きを隠している。だが同時にこれだけの施設や設備、機関に内通者がいるということでもある。


「・・・隠しておくだけのものがあるってことですか」


「その可能性は高いね。彼らの拠点の一つなのか、それとも本拠地なのか・・・あるいは信者を通じて何かをさせているのか・・・どちらにせよあまり放置はしたくない」


放置したくないという言葉はつまり、その宗教団体を潰すことも視野に入れているということだろう。


その宗教団体がただの仮宿だったとしても、すでに資金の流れを作ることができる程度には土台を固めているのだ。


「この金が一時的にでも入っていた部署は、調査を始めてるんですか?」


「話が早いね。もう他の支部で調査に入っているよ。すでに二つの施設で敵関係者と思われる魔術師を確保してある」


「さすがに動きが早いですね・・・それで、この宗教団体へ攻撃を仕掛けるのは?」


「本部のゴーサイン待ちさ。すでに協会の人間が潜伏して調査を進めている。宗教団体がどの程度敵の腹の中にあるのかを探ってくれているよ」


「・・・全滅させるかどうかの判断をするってわけですね」


「そういうことだね。あの時のマフィアみたいに情報そのものが扱われていた場合は全滅もやむなしだけど、今回の場合、扱われているのが何なのか、信者たちはどの程度知っているのかを調べる必要がある。そうじゃないと全滅はさせられないよ」


魔術師は魔術の存在を隠匿することを最優先とする。逆に言えば魔術の隠匿の必要性がなければ他者を害することはあまりない。


前回のように魔術の情報そのものが扱われていて、誰がその情報を得たのかもわからないような場合であれば組織そのものを殲滅するほかなかったが、今回のようにどのような経緯で、どのような事柄が扱われているのかがわからない状態では簡単に皆殺しというわけにもいかない。


もちろん皆殺しが一番で簡単なのだろうが、事後処理が面倒になるというデメリットがある。


小百合ならば即断即決だろうが、組織として行動している以上ある程度下調べをすることは必要だろう。


「ちなみにその宗教団体の規模はどれくらいなんですか?世界規模ですか?それとも一つの国にだけある感じですか?」


「一応今調べた限りでは三カ国に広がっているね。フランス、ドイツ。ポーランドの三つだ。陸続きの三カ国だね」


「本部のすぐ近くじゃないですか・・・よくもまぁそんなところに・・・」


「灯台下暗しってところじゃないかな?それに魔術師にとって国の距離とか境目とかはあんまり関係ないから・・・具体的に何かしていないなら本部もわざわざ手は出さないさ」


「まぁ、今回手を出す理由ができたのかもしれませんけど」


「確かにね。そのあたりはどうなるかわからないってところさ・・・龍脈の件と合わせて、今本部はてんてこ舞いらしいよ?調べることは多いしその範囲は広いし・・・他の支部からも応援が何人か行っているらしい」


「相手の拠点や目的が大規模魔術を使うのに適しているのであれば、ある程度龍脈のある場所を押さえれば優位に立てるのは間違いありませんからね・・・龍脈のマップみたいなものはないんですか?」


「そんなものがあれば苦労はしていないさ。龍脈って言ったって目に見えるわけじゃないからね。実際調査するのも結構大変だし、利用しようとするならなお大変さ。かなり精密で面倒くさい方陣術をいやってほど組み込まなきゃいけないからね」


普段康太たちが使っている門も、見えない部分に大量の方陣術が刻まれているのだという。


表に見えているのはほんの一部。一種のコントロール用の部分でしかないそうだ。


本質的なものはもっと大きくもっと複雑なのだという。


「じゃあ腕のいい人じゃないと、方陣術の大きさもかなりのものになりますね」


「そうだね・・・ジャンジャック・コルトほどの実力者であればかなり小型化できるだろうけど、彼ほどの方陣術の使い手はなかなかいないし・・・相手が作るとすれば、それはたぶん屋外で、なおかつ秘境だろうからね・・・この前君が言っていたみたいに、見つかりにくく攻めにくい場所を選定するだろうさ」


魔術師にとって街というのは比較的行きやすい。何せ協会の門さえあればほぼノータイムでその場所に行くことができるのだ。


移動時間などもほとんどないため、戦力を投入することも難しくはない。


だからこそ、攻略されにくい場所を選ぶと思うのだが、良くも悪くも地球は広すぎる。特に未開の地など山ほどあるのだ。


「協会の門が近くになくて、なおかつ龍脈のある場所を連中は選定して拠点を作る可能性があるってことですよね?」


「うん、でもそれだけじゃない可能性だってある。彼らがジャンジャック・コルトの禁術を用いているとなれば、その場所には方陣術だけを置いて拠点は別に置く可能性もある。もちろん方陣術を潰せればそれだけでかなりの収穫にはなるかもしれないけど・・・」


「もとを叩かないと意味がない・・・と」


「そういうこと・・・あぁもう面倒くさいね。虫退治じゃないんだから、もうちょっと簡単になればいいのにさ」


方陣術をいくら潰したところで、方陣術を作り出せるものを放置していたらいつまで経っても解決には向かわない。


ジャンジャック・コルトこと朝比奈が作り出した魔力伝達用術式がある以上、力をそのまま遠くへ運ぶことだってできてしまう。


時間はかかるかもしれないが、方陣術と拠点を離しておくことだってできるのだ。


相手が禁術を持ち出している時点で面倒なことは支部長も理解していた。だがここまで面倒ごとになってくると支部長の手にも余る。


もっとも、自分の手に余るような面倒ごとなどは支部長にとっては慣れたものなのだが。


「とりあえず、各地にいる龍脈に詳しい人物に協会から働きかけるつもりではあるよ。本部もそのように動いている。こういうのはやっぱり現地の人に聞くのが一番だからね」


「やっぱりそういうのが詳しい人がいるんですか?」


「詳しいっていうか、地方・・・協会をメインとしないで研究をメインとして活動している魔術師の中には龍脈を行使している人もいるんだよ。そういう人の意見を聞けばどういう場所に龍脈があるのかを把握していることもある」


僻地での魔術の研究に従事している魔術師たちは、自身の魔力だけではどうしても効率が悪いので龍脈を使って研究することがあるのだという。


実際に本格的に龍脈を使うとなると得られる力が膨大すぎるため、本当に少量、通常魔術に使えるレベルにまで弱くしたものを使うらしいのだがそのあたりは康太には分らないことだった。


「龍脈って、そんな個人で簡単に使っていいものなんですか?かなり強い力を使えるんですよね?」


「基本的に、龍脈の本当の力を使えるレベルの方陣術は禁術扱いされてるからね。一般に公開されているのは龍脈のほんの一部を使える程度の術式さ。それでも使える力はかなり強いよ。普通の魔術師なら十人分くらいはあるかな」


「・・・あの、それを使って精霊を召喚するとかはできないんですか?それならすごく楽になるんですけど」


康太は今何人もの魔術師に依頼を出して精霊の召喚を行っている。火属性の精霊がいればこれほど助かることはないのだが、なかなかうまくいっていないのが現状だ。


それを龍脈などを使って行えるのであれば、精霊の召喚に必要な魔力をかなり節約できると思ったのだ。

だが支部長は首を横に振る。


「そういうのを僕たちが試したことがないと思うのかい?転移系の術式はすごく扱いが難しい・・・ってことくらいは君も知ってるか・・・必要なのは単純な力だけじゃないんだよ。波長や量もかなり精密に調整しなきゃいけない。しかも精霊の種類や強さによっても微妙に違う・・・それを一つ一つ調整するなんてのは・・・何百年あればできるかどうか」


あの門を作るのもかなり苦労したけどねと付け足しながら支部長は大きくため息をつく。


方陣術というのは発動するために魔力の属性や波長や量などを適正なものに調整しなければいけない。


康太も方陣術を少し扱えるようになってきてようやくその意味を理解してきているが、魔力の波長を調整するというのはかなり難しいのだ。


魔力の属性などは、慣れればかなり楽に作ることができる。魔力そのものを、同じものでありながら似て非なるものに変えればいいのだ。


水を紅茶やコーヒーに変えるようなものだ。


ただ波長を変えるというのはそう簡単なものではない。先の例に倣えば、紅茶の葉の種類を変えたり、温度を変えたり、中に砂糖やらミルクやらレモンやらを入れて微調整して最適な味を作れと言われているようなものだ。


一朝一夕でできるようなものではないし、慣れた者でもかなり難易度が高い。


個人の持つ魔力の波長を変えるだけでもかなり苦労するというのに、転移というかなり繊細な魔術の術式に対して、龍脈という大きすぎる力を術式に合うように調整するというのはかなり無理難題であるらしい。


あの協会の門を作れたのは本当に奇跡というしかないのだろう。


「普通の方陣術ならそういうこともないんですか?」


「普通の意味がちょっと分からないけど、そこまで繊細な術じゃなければ多少ずれててもある程度は何とかなるだろうね。強引に発動することはできると思うよ?継続して発動できるかどうかはさておいて。ほら、使用できるヘルツ数が違う電化製品でも、少しの間は動かせるじゃない?そんな感じ」


その言葉に康太は納得したような納得していないような微妙な顔をしてしまっていた。


関東と関西で使用しているヘルツ数が違うというのは知っている。だがその電化製品が使える使えないというのはイメージできなかった。実際にやったことはないが、無理やり動かすことはできるのだなと頭に入れておくことにした。


「連中がどんな方法をとるのか知らないけど、龍脈に関してはこっちでいろいろ調べてみるよ。各地にあるだろうから調べるには時間がかかるだろうけどね」


「お願いします。何かあれば教えてください。例の魔術師のことも含めて」


「・・・わかっているよ。あれのことも調べておく。わかったら一番に君に教えよう」


四分の一だけ装飾が施された仮面の魔術師。康太が探す幸彦の敵。今はまだその姿は捉えられていないが、いつか必ずと康太は意気込んでいた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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