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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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目的の姿へ

「・・・つまり、電撃モードを自由自在に操れるようになるのが今後の課題ってことですか?」


「そうだ。怒り狂った状態で技術を扱えることが分かった以上、普通に怒りながら当たり前に戦える方法を覚えたほうがいい。今までの修業と同じだ、その状態を当たり前にこなせるようになってもらう」


「・・・って言っても・・・怒り続けるのって結構難しいんですけど」


康太の言うように怒りを常に持続するというのは難しい。人間は特定の感情を維持し続けることはできないのだ。


怒りも悲しみも決して持続はしない。時折思い出すことはあってもそれを常に表に出し続けることは非常にエネルギーを使う。


強い感情はそれだけ体力を消耗する。感情とともに体の代謝がわずかではあるが変化するのが原因だと言われているが、精神的にもつかれるという部分もあるだろう。


「何も戦っている間ずっと怒り続けろとは言わん。お前のその力の性質上、攻撃と防御の時にだけ発動すればいいだけだ。怒りのオンオフをはっきりさせるだけでいい、それだけで戦い方が大きく変わるはずだ」


最終的には常に電撃を発動した状態で戦えることが理想ではあるが、今は要所要所で使っていく方が早く実戦に活かせるだろうと小百合は考えていた。


無論いきなりやれというのは無理だ。もとより康太は魔力の操作や魔術の発動だって最初はできなかったのだ。


今では多種多様な魔術を扱えるようになっている。そういう意味では少しずつ強くなっていくのが康太の本質だ。


今回のこれも、少しずつ慣れていけば問題はないというだけの話である。


「まずはそうだな・・・合図に合わせて電撃を任意に出せるようにして見せろ。それができたら・・・自分の攻撃の時の映像でもみて、その攻撃の瞬間に電撃を出す訓練、次に実際に体を動かしながら電撃を出す訓練、その後に電撃をだしながら魔術を行使する訓練、最後に電撃と魔術を行使しながら戦闘を行う訓練だ」


「・・・先は長そうですね」


「長いだろうが終わりは設定されている。お前なら時間はかかってもできるようになるだろう」


小百合がこういうことを言うのは珍しい。なんだかんだ言って自分のことを評価してくれているのだなと、康太は少しだけうれしかった。


「さっさと立て。時間はないぞ」


「わかってます。といっても、合図ってどんな?」


「なんでもいい。拍手でも誰かの動作でも、そのあたりはお前らが勝手に決めろ」


「・・・師匠はやってくれないんですね」


「いちいち私の指導がなければ強くなれないようならお前はそこまでだ。だがお前はそうではないだろう?私の知らないところで勝手にいろいろやっているんだ」


小百合は師匠としては完璧ではない。教えられる魔術そのものが限られているということもあり、小百合自身の性格面での問題もあり、小百合は指導するには圧倒的に欠けているものが多すぎる。


だからこそ康太や真理は奏や幸彦、春奈などに普通の魔術を教わってきた。それが当たり前だったし、それが小百合を師匠にした自分たちの宿命なのだと理解していた。


誰かに教わるだけではなく、自分から学びに行く。それがどれだけ貴重なことなのか、小百合はよくわかっていた。


「どれくらいかかるかな・・・とりあえずはやるしかないけど」


「あぁそれと、怒っている状態で電化製品には触るなよ。たぶん壊れる」


「・・・わかってますよ。そこまで馬鹿じゃありません」


「当然ゲームを使った試験もできんからそのつもりでな。試験の方法はいろいろと考えておく」


小百合の試験。魔術を実戦で扱えるようになるために行う試験。


もともとは体を動かしている状態でも問題なく魔術を使うために行っているもので、小百合を相手に対人型ゲームをプレイしながら魔術を発動し続けるというものだ。


他のことに集中していても問題なく魔術を発動できるようにする。これは簡単なようで難しい。


普段は基本的にゲームに集中する形でそれを行うのだが、康太の体から電撃が放たれるとなるとこの方法は使えない。


他に方法があるとすれば、実際の訓練と同じように戦いながら発動し続けることくらいなのだ。

小百合がそれをしてこなかったのは理由がある。


単純に、未熟な状態でこれをすれば怪我をする可能性が高いからだ。


ゲームであれば未熟な状態でやれば負けるか魔術が暴発するだけ。だが実際の訓練、特に小百合との訓練でそれを行えば、最悪怪我では済まない。


魔術の訓練で怪我を負わせ、無駄な時間を過ごさせるだけの余裕はない。体に電撃を纏うという性質上、体の近くに精密機械を置くわけにもいかない。


どうしたものかなと小百合は悩んでいた。


そんな悩みを知ってか知らずか、康太は電撃の訓練を始めていた。


文の拍手の合図に合わせて、康太は電撃を出したり止めたりしようとしている。


ゆっくりであればそれもできるが、それでも数テンポ遅れてしまっている。


明らかにまだ慣れていないのは目に見えていた。


だがすでに電撃を意識的に出すことはできている。次の段階に進むのはおそらく時間の問題だろうと、小百合は電撃を出している康太を見て目を細める。









康太が電撃の訓練を初めて数日、康太たちは支部長の呼び出しによって支部にやってきていた。


幸彦が死んでから初めて協会に足を運んだ康太たちの姿を見て、周りの魔術師は少しだけ康太を見る目が変わっているように思えた。


特に協会の専属魔術師から見る目が変わっているように思える。今まで魔術師としてのブライトビーという姿としか見てこなかった彼らにとって、八篠康太という人物の姿を見たのはあれが初めてだったからなのだろう。


強くても、実績があっても、まだ子供。


周りの意見はそういったもので大まか統一されているようだった。


「やぁ、忙しいのに来てくれてありがとう。君には伝えておいたほうがいいことだと思ってね」


「構いませんよ。ちょっとした息抜きにもなります」


康太が普段どのようなことをしているのか支部長は知らないが、幸彦が死んだことによって忙しいのだろうと予想していた。


実際は幸彦が死んだことによって、できることが増えてしまったから忙しいのだが、そのあたりはどちらでも同じようなものだった。


「で、何かあったんですか?というかひょっとしてまた面倒ごとですか?」


「いやいや、いつも君には面倒ごとの処理を頼んでるけど、今回は・・・まぁその・・・前の一件の後処理の関係だよ。結局あのあと報告できなかっただろう?」


幸彦が死んだあと、確かにいろいろと忙しく、そして康太自身は意気消沈していたためにまともに報告を受けていない。


支部長は気を利かせて康太を呼び寄せてそれを聞かせてくれるようだった。


ただこの場に文はいない。今日呼び出されたのは康太だけだったのだ。文は別にやることがあるといって春奈の拠点に行っている。


「俺だけでよかったんですか?ベルは?」


「彼女にはもう伝えてあるんだよ。あの時ダウンしていたのは君だけだったからね」


「・・・お恥ずかしい限りです。じゃあ他の魔術師たちもすでにこの話は聞いてるんですね?」


「そういうことになるね。もうすでに本部にも情報は上げてあるよ。いろいろと面白いこともわかったからね」


そういいながら支部長は今回康太たちが攻略した場所の地図を広げて見せる。


「まずは得られた情報から・・・彼らの拠点からいくつかの情報を拾い上げた結果、どうやらあの場所の龍脈を利用して大規模魔術を発動する作戦だったらしいね」


「龍脈?あの場所にあったんですか?」


「うん、調べた結果、そこまで大きくはないけど龍脈が確認されたよ。ちょうど印がつけられた場所だね。発動に必要と思われる媒体もいくつか確認できた」


龍脈は、康太たちが普段使っている協会の門、つまりは転移の魔術を発動するために利用している大地の力だ。


一個人で扱える魔力とはかけ離れた、文字通り桁の違う力である。


それらを引き出すことで長距離における転移もできるようにしているのだが、それを利用しようとしているとしたらかなり面倒な案件だなと康太は目を細めていた。


「大規模な魔術を発動しようとしたのが、連中の最終目的だった・・・ってことですか?」


「いいや、どうやら実験段階の魔術らしいね。今回のそれはあくまで成果の確認の一つといったところか・・・彼らの目的が世界征服っていうのも・・・あながち無視できないものになってきた感じだ」


「日本だけじゃなくて、他の支部の管轄でも同じような場所はあったんですよね?ほかの場所の攻略は」


「一部の箇所を除き、すでに攻略は完了してるよ。今もまだ攻略中の場所はあるけど時間の問題だろうね」


すでにほとんどの場所が攻略済み。魔術協会がすでに動き出しているのだ。時間がかかったとしても攻略することは難しくはないということだろう。


あの時攻略した魔術師たちの様子を見る限り、満足な後方支援も受けられていないようだった。


あの場所に資材を持ち込んで生活しているような痕跡があり、残っている魔術師も限られている。


後方支援が充実しており、なおかつ随時戦力を投入できる魔術協会が圧倒的に有利なのは明白である。

長期戦になればなるほどこちらが有利。相手もそれをわかっているだろう。


だからこそ康太は不安だった。


「これが陽動・・・ということは考えられませんか?」


「・・・君もそう考えるかい?こういう攻略されやすい状況を残す、あるいはそれで解決したと思わせる・・・僕も何度かやられた手だ・・・まだ嫌な予感は止まらないしね」


「ならまだ続いているとみるべきですね。今回のはあくまで捨て石、本命といえるような魔術がどこかにあると思うべきでしょう」


「さすがにクラリスの弟子だけあって面倒ごとへの嗅覚は大したものだね・・・実は、マウ・フォウから気になる情報が上がってきているんだ」


以前攻略したマフィアの関係で金の動きが不透明な部分が見つかり、それを徹底的に捜索しているマウ・フォウ。


捜査系の依頼に関しては右に出る者はいないとすら思える彼から、いくつか報告が上がってきているらしい。


「資金の流れを追っていたんでしたっけ?それで、どんな?」


「うん、とある宗教団体とでもいえばいいかな、そういう組織に金が流れていたそうなんだ。それもちょっとしたレベルじゃない。かなりの額が」


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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