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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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師弟は殺意を込めて

「回避がネックだな・・・攻撃をよけようとしないのはどういうわけか・・・よけるよりも攻撃を優先している証拠か・・・どちらにせよあまり良い傾向とは言えないな」


「同時に防御をするようにすればどうでしょうか?エンチャントの魔術をかければある程度防御能力も増しますよ?」


「多少の威力の攻撃ならばそれでもいい。だが貫通力の高い攻撃を受ければ一撃でも致命傷になり得る。そうさせないために回避を覚えさせたんだ」


小百合は防御が苦手だ。もとより破壊の魔術しか覚えられないということもあって回避するしかなかった。


弟子である康太もそうなる可能性が高いということもあって徹底的に回避を覚えこませてきた。


攻撃の技術以上に体に染みついているはずの回避が、まさか暴走しているときに発揮されないとは思ってもみなかったのである。


「でも、攻撃は体が覚えてるのに回避は覚えてないなんてありえますかね?普通に考えて回避の方が覚えてると思うんですけど」


「だがこいつは私の攻撃を全く避けようともしなかったぞ?その結果はすでに見た」


「確かに、明らかによける気がないという様子だったの・・・あれでは到底実戦では使えまいて・・・」


小百合の攻撃をよけず、攻撃を受けながらも攻撃しようとしてくる康太を小百合は何度も見てきた。


だが文からすれば信じられないことだった。小百合の攻撃を何度も防ぎ、回避することに集中して訓練していた康太が、暴走してその方法を忘れたなどと考えられなかったのである。


どうしたものかと三人が悩んでいると、ようやく息を落ち着かせた康太がゆっくりと立ち上がる。


「師匠・・・お願いがあります」


「なんだ、新しい魔術でも教えろというのか?」


「違います、刀を使ってもらえますか?」


その言葉に、小百合がわずかに目を見開く。そしてその意味を理解して目を細め康太をにらみつける。

その視線にはわずかに殺気すら込められていた。


「どういう意味か分かっているのか?言っておくが、私は振った刀を途中で止められるほど器用ではないぞ。お前ほどの人間の相手をしている間は特にな」


小百合の刀の技術は高い。技術がかけ離れた相手であれば、避けることができないという状態を理解してその刀を止めることもできるだろう。


だが康太の技術は、小百合に追いつきつつある。特に回避に関しては小百合に近いほどの能力があるのだ。


そんな康太相手に、殺気を込めた、殺すつもりの攻撃をして途中で止められる自信は小百合にはなかった。


「えっと・・・康太、何するつもり?」


「単純に、殴って蹴られてじゃ危機意識が低いから避けないってだけだろ。相手が殺すつもりの攻撃でどう反応するか、それを確認する」


康太は立ち上がって準備運動を始めていた。その表情には一種の覚悟が見え隠れしている。


小百合が殺すつもりの攻撃をして、致命傷を与えるほどの攻撃をして、暴走状態の自分がどのように動くのか、康太はそれを確認しようとしているのだ。


文の言うように、康太の体が回避を忘れたとは考えにくい。なのに回避をしないということはつまり、繰り出されてきた小百合の拳や蹴りを『回避するに値しない攻撃』とみなしている可能性が高い。


小百合の攻撃は一発一発は弱い。身体能力強化を使うことができない小百合の一撃は、長年鍛え続けられた小百合自身の肉体の力と技術でしかないのだ。


一発一発では康太を致命傷に陥らせることはほぼ不可能。何発も繰り出して初めて康太を戦闘不能にできる攻撃なのだ。


だからこそ避けなかった可能性が高い。だが小百合の刀は違う。


ひとたび振るえば、康太の槍でさえ両断するほどの威力を秘めた一撃だ。直撃すれば康太の頭部と胴が別れを告げることになる。


その危険性を康太が理解していないはずはないのだ。


「やめなさい康太、訓練でしょ?まだ暴走状態だって自分のものにできてないのに何言ってんのよ」


「暴走してようが何してようが俺は俺だ。師匠の殺すつもりの一撃をよけられない程度の俺だったら、いないほうがましだ」


康太はそういって立てかけてあった竹箒改を遠隔動作の魔術で自身の方に投げ、その手に取って構える。

そんな康太を前に小百合は動かなかった。どうするべきなのか迷っている。小百合にしては珍しい表情に、文もアリスもどうすればいいのかわからなかった。


そんな中、康太が笑う。


「どうしましたか師匠・・・怖気づきましたか?」


一片の迷いもなく言い放つ康太に、小百合も笑う。


「よく言った。それでこそ私の弟子だ。もしこれでお前が終わるようなら、私の指導不足ということにしておこう」


小百合も立てかけてあった刀を遠隔動作の魔術で自分に投げつけ、自分の腕で受け取るとゆっくりと刀を抜く。


そして、四分の一だけ装飾がされた仮面をつける。それがスイッチとなって、康太の体からわずかに電撃が放たれ始める。


「アリス、頼む」


「・・・もう言っても聞かんのだろうな・・・あきれた師弟だ・・・」


アリスはそういいながら康太の頭に触れ、康太の感情を暴走させていく。電撃が強くなっていき、康太の理性が失われていく。


だがそれでも、康太は槍を手放さなかった。


「行くぞ・・・馬鹿弟子め」


康太の準備が整った瞬間、小百合は刀を構えて康太めがけて襲い掛かった。


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