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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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意識がなくとも

「あ、真理さん、お疲れ様です。神加ちゃんは学校の宿題?」


文が小百合の店にやってきたとき、真理と神加はちゃぶ台の上にノートや教科書を広げて勉強をやっていた。


八月ももう終わろうとしている。当然夏休みももう少しで終わろうとしているのだ。学校の宿題のラストスパートをかける者も多いだろう。


例にもれず、神加も学校の宿題を片づけようとしているらしい。


「うん、今算数やってるの」


「そう、偉いわね。真理さんは勉強を見てあげてるんですか?」


「えぇ、ですが神加さんは優秀ですよ。一度教えるとすらすらといてしまうんです」


てきぱきと計算問題を解いている神加。時折止まることはあっても数秒悩んでからすぐに答えを出していた。


物覚えがいい。魔術関係の話でもそうなのだが、神加は物覚えが早い。ものを覚えてそれを活用でき、なおかつ応用できるようになるまでも早い。


頭の良い子なのだなと文は微笑みながらこの場にいない康太の姿を探す。


「真理さん、康太はどこに?」


「康太君なら下で訓練していますよ。いろいろと頑張っているようですね。今までとは違った戦い方をするようになりました」


「へぇ・・・例の精霊の件が原因ですか?」


「それもあります。ですが幸彦さんの死が大きくかかわっているのだと思いますよ。良くも悪くも、康太君は幸彦さんに指導をお願いしていましたからね」


そういいながら、真理は神加の勉強を見ながら自分自身も何やら勉強、というか研究をしているようだった。


卒業研究用の資料だろうか、それらの文字を訂正したりこうしたほうが良いのではないかと思われるところを赤ペンで書き加えていく。


「文さん、康太君をお願いします。今の彼は少し危なっかしくて」


「見ていられませんか?」


「いいえ。まだまだいいほうですが、多少無茶をする可能性がありますから。万が一の時は文さんが止めてあげてください」


「・・・わかりました。何とかしてみます」


文はそういいながら地下への階段を降りていく。訓練場まではまだ距離があるのにもかかわらず、小さくではあるが誰かの戦闘音が聞こえてくる。


主に打撃での戦闘訓練を行っているのか、そこまで金属音の類は聞こえてこなかった。


文が地下に降りて、普段康太たちが訓練をしている場所までやってくるとその場で訓練を眺めていたアリスが文の存在に気付く。


「来たか。少々面白いことになっているぞ?」


「面白いって、何が・・・?」


文が目を向けると、そこには怒りに支配され、完全に我を失っている康太の姿があった。


あの時文の目の前にいた、絶望に満ちた顔とは違う。殺意と憎しみに満ち、目の前にいる敵を倒す事しか考えていないような、そんな顔だった。


だが特筆するべき点はそこだけではなかった。


康太が電撃を放っている。その体に纏うような形で、白い電撃を放ちつづけている。文は初めて見る。あれが康太の中にいる精霊の力。


だが明らかに正常ではない康太の様子に、文は眉間にしわを寄せた状態でアリスをにらんだ。


「ちょっとアリス、あんた何したわけ?」


「少し切っ掛けをやっただけだ。あとはサユリがうまくやっている・・・本当に手間のかかる奴だ。だがそれだけの価値はあると思うぞ?」


面倒くさそうでありながら、楽しそうにアリスは笑う。その視線の先、いったい何が起きるのか、文はそれを見た。


康太が直進し、小百合めがけて攻撃を仕掛ける。その攻撃はいつもの康太のそれではなく、かなり大雑把なものだった。


怒りに身を任せて力任せな攻撃をしているとしか思えない。それゆえに小百合はそれらを易々と回避して見せていた。


そして小百合の身が翻った瞬間、文はその仮面を見た。


「なんで小百合さんがあれをつけてるのよ・・・あれも訓練の一環?」


「あぁ。康太はあれを標的と定めた。だからこそあぁすることで怒りを定着させようとしたのだよ・・・なんとも健気ではないか」


それはどっちがと聞こうとしたが、それよりも早く康太が小百合の攻撃によって吹き飛ばされてくる。

その際、ほんのわずかな時間だが、康太と文の目が合った。


ほんの一瞬のその時間に康太に何があったのかは不明だが、康太は文の前に立つ、小百合からかばうように、敵から守るように。


「ほう・・・?怒りで意識を失っていても、文だけは認識するか・・・お前たちの愛も深まったものだの」


「茶化さないで・・・今康太は真剣よ」


怒りでまともに考えることなんてできない状態であるにもかかわらず、それでも康太は文を守ろうとする。


文はその背中が幸彦のそれと重なって見えた。


「康太・・・あんたは・・・」


電撃を一層強くさせながら、康太は大きく息を吐く。力をみなぎらせながらも、康太の構えが少しずつ変わっていく。


姿勢は低く、いつでも動けるようにスタンスは広く、左拳をやや前に、いつでも相手に攻撃ができるように拳は軽く握りこむ。


その構えは、いつも康太がやっている近接格闘の構えだった。



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