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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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我を忘れる

小百合の店の地下、そこで康太は大きく弾き飛ばされ、空中で体勢を整えてから着地していた。


襲い掛かる小百合の拳をぎりぎりのところで回避し、カウンター狙いで拳を振りかぶるが次の瞬間には小百合の蹴りが康太の顔面を捉えようとしていた。


どういう反射神経をしているのだろうかと康太は内心舌打ちしながら、強引に体の向きを変えて蹴りを躱す。だが強引に回避したせいでできた隙を小百合が見逃すはずはなかった。


蹴りの勢いをそのままに体を半回転させて康太の首に自身の足を絡ませると、そのまま首投げの要領で康太を地面に押さえつけようとする。


「こんのぉ!」


だがその瞬間、康太の体がわずかに発光し電撃を放つ。


康太が電撃を放ったのを確認した瞬間に小百合は康太の体から離れ、準備運動をするかのように軽く手足の状態を確認していた。


「だいぶ使えるようにはなってきているが・・・いかんせん反応が遅いな・・・もっと素早く発動できんのか。あるいは常時発動するようにするか」


「無茶・・・言わないでください・・・!この状態を維持するなんて・・・まともに動けなくなりますよ・・・!」


未だに電撃を放ち続けている康太は、その状態で動けなくなってしまっている。電撃で体が動かなくなっているのではなく、電撃を維持するために集中し続けているせいで満足に動けなくなっているのだ。


訓練を重ねたことで、電撃を任意に発動できるようにはなった。だがまだまだ練度が足りない。もともと強い怒りの感情を抱くという感情のコントロールをしなければいけない時点で康太からすればかなりの難題だった。


だからこそあの時の光景を思い出すことで怒りを湧き上がらせているのだが、我を忘れそうになるほどの怒りを抱きながら自由自在に体を動かせるかと言われればそうでもない。


我を忘れれば当然技術を扱うことができなくなる。


かといって中途半端な怒りでは電撃は出てきてくれない。康太からすればかなり難儀なものだった。


今まで魔術は感覚で操ってきたが、この電撃、精霊が生み出してくれる電撃に関しては感情で操らなければならない。


これまでの魔術とは全く勝手の違う手段に康太はかなり四苦八苦していた。


「苦労しているようだの・・・その状態ではまだ訓練は無理ではないのか?」


康太と小百合の訓練の様子を見ていたアリスが口を挟む。何を隠そう精霊の電撃を発動できる状態までもっていったのはアリスなのだ。


康太の感情を操ってその特徴を康太に覚えこませたのがアリスだ。本来であれば感情をスイッチにしているという点を変更したかったところではあるが、さすがのアリスもそこは変更できなかった。


精霊が成長し、康太により近い存在になれば意のままに操れるようになるといっていたが、実際それを待つしかなくなったということでもある。


「訓練は常にやるべきだ。何より、こいつは体で覚えるタイプだ。さっきも反射的に・・・まぁ圧倒的に遅いが・・・それでも発動はできるようになってきた。このまま続ける」


「相変わらず無茶な訓練だの・・・コータはそれでよいのか?」


「・・・いい!このままだ・・・!途中電撃が消えるか・・・俺の動きが雑になるかの二択だ。そっちの方がわかりやすくていい!」


康太は電撃を纏いながら姿勢を低くする。自らの奥底から湧き上がる怒りを調整しながら体を動かそうとしているのが傍から見てもわかる。


だがどちらもぎこちなくなっている。電撃の強弱の調整ができていないうえに、いつも康太がとっているような徒手空拳用の構えでもなくなっている。


アリスから言わせれば根本的なところを見直さなければいけないレベルだ。だが康太も小百合もこのままでいいという。


損得や常識や技術ではない。この二人は感情で動くタイプの魔術師である。アリスは康太と小百合の二人をそう判断していた。


「電撃が出ていても組み技は使ってくださいよ?それくらい師匠ならできるでしょう?」


「誰にものを言っている。その程度の電撃で私が怯むとでも思ったか?」


「さっきは飛びのいたので、電気は嫌いかと」


「お前の調子を確かめたまでの話だ・・・次は潰してやるから安心しろ」


「・・・そりゃどうも!」


先に動いたのは康太だった。小百合めがけて一直線に走りだしその体めがけて拳を振るう。


だがその拳は康太が振るっているにしてはあまりに力任せなものだった。


感情に振り回されているのがアリスから見てもわかるほどだった。小百合もそれがわかっているのだろう、あきれながら康太の拳を回避して適度にカウンターを浴びせていく。


だが小百合の攻撃に康太は全く怯む様子がない。次々と乱暴ながら力強い攻撃を放っていく。


「ん・・・こういう攻撃も、まぁ嫌いではないが・・・」


小百合は康太の攻撃に含まれる隙を狙い打ち、その体に次々と攻撃を当てていく。普段の康太の攻撃ならばこうはいかない。そして普段の康太であれば何とか避けられるような攻撃も多く含まれていた。


「私はそんな攻撃を教えた覚えはないぞ」


康太の腹部に拳がめり込み、康太の顔が下がった瞬間、小百合の全体重を乗せた回し蹴りが康太に直撃する。


康太の体は弾き飛ばされ、壁に激突する。


頭を揺らされたのか、康太はふらふらとしながら立ち上がるが、すでにその体から電撃は消えてしまっていた。


「完全にどっちつかずになってしまっているの。電撃か、体か・・・こればかりは訓練でどうにかなるものでもないように思うが?」


近接戦闘に関しては門外漢のアリスにさえも指摘されてしまうほどに康太の動きはひどかった。


いや、直前に洗練された康太の動きを見ているからこそはっきりとその違いが判るのだろう。


「魔術を使いながら動くことはできるようになったんだ。理屈はそれと同じだ。それが感情になったか感覚になったかの違いなだけだろう」


「・・・そうは言うがな・・・あれを見ているとなかなか難しいと思うぞ?」


康太はグロッキーになりながらも戦う姿勢を見せている。そしてその体から再び電撃が放たれる。


意識があるのかないのか、康太は小百合を見ながら肩を揺らしながら息をしている。


「・・・かえって今の方がいいかもしれんな・・・」


「え・・・?あの状態でやるつもりか?」


「物は試しだ。お前は見ていろ」


小百合がゆっくりと康太に近づいていく。殺気を放ちながら康太の攻撃の射程距離ぎりぎりまで距離を詰めると、康太もわずかに反応した。


小百合は康太の反応を見て、意識が半分なくなっていることを確信していた。おそらく夢か現かの判断ができなくなっているのだろう。


こんな状態でも電撃を放っているということは、つまり体の危険に対して精霊が反応して電撃を放っているということだろうかと小百合は考えたが、その考察には意味がないなと薄く笑みを浮かべて構える。


「さあ康太、お前の敵は目の前にいるぞ・・・また兄さんを助けられないのか?」


そういいながら小百合が射程距離に入った瞬間、康太は反応した。


小百合の顔面目掛けて鋭い蹴りが放たれる。小百合はぎりぎりのところでそれを回避したが、次の攻撃がすでに襲い掛かっていた。


蹴りの勢いをそのままに体を半回転させてそのまま裏拳、さらに拳のコンビネーションを重ねてから、要所要所に蹴り技を多用してくる。


「おぉ・・・見事なものだの」


「やはり意識がないほうがうまく動けているな・・・訓練を体が覚えているということだろう・・・とはいえ」


康太の攻撃の要所要所に小百合はカウンターを入れていく。


意識がないからか、それとも見えていないからか、康太はその攻撃をよけようともしない。体に攻撃が当たりながらも攻撃を繰り返している。これでは満足には戦えないなと判断して小百合は康太の腕を掴むと一本背負いの要領で康太の体を地面に叩きつける。


小百合は自分の拳にできたわずかな火傷に息を吹きかけながら、完全に動かなくなった康太を見て目を細める。


「さすがにこれではいかんな・・・康太はどんな状況でも回避することを念頭に入れて教え込んできたつもりだが・・・意識がなくなりかけると攻撃しかできなくなる」


「それでは普通の魔術師にも負けかねんの・・・サユリ仕込みの回避能力がなければこやつはただ暴れるだけの魔術師だ」


「・・・怒りで我を忘れる・・・意識をなくしかけることで回避を忘れる・・・電撃の発動条件は同時にこいつの回避能力を使えなくするか・・・なおさら使いにくくなったな」


近くにある蛇口からバケツ一杯分の水を汲みとると、それを何の躊躇もなく康太の顔面にぶちまける。


唐突に水をかけられた康太は、意識が朦朧としながらもゆっくりと目を覚ましていた。


「・・・あれ・・・?俺は・・・どうなったんですか?」


「最後に一本背負いで終わったぞ?覚えておらんか?」


「・・・途中から意識が抜けてました・・・くっそ・・・全然動けない・・・」


「新しいことに挑戦しているんだ、できなくて当然・・・だが収穫もあった」


収穫。小百合の言葉に康太は視線だけを動かして小百合の方を見る。


まだ体が動かないのだ。無理に体を動かしていたからか、その反動が康太の体に疲労という形になって襲い掛かっている。


「収穫・・・ってなんですか?何か操るようになれるコツでも・・・?」


「いや、操ることに関しては私はわからん。康太、お前にはこれから常に我を忘れて攻撃してもらう」


「・・・んなこと言ったって・・・そんなことしたらただ暴れるだけに・・・」


康太も自覚しているのだ。自分の怒りに振り回され、技術が全くついていかないということを。


だが小百合には確信があった。先ほど朦朧とした意識の中でも康太が見せたあの技術を、きっと使えるようになると。


「いや、お前の体はすでに技術が染みついている。あとは怒りに満ちた状態でそれを引き出せるかどうかだ」


「でも・・・そんな無茶なこと・・・」


「相手を殺すつもりでやれば、必然的に体は自分の知る最適な殺す手段を見出すだろう。お前もこれからの訓練は、常に相手を殺すつもりでやれ」


「でもそれじゃ師匠が・・・」


「お前如きの攻撃で殺されるとでも思ったか?それでもお前の怒りが足りないというのなら・・・これを使おう」


それは康太が怒りを思い出すために使っていた四分の一だけ装飾が施された仮面だった。文の記憶をもとにアリスが作ったものだ。


康太はこれを見て、自らの中に怒りを植え付けた。こいつが幸彦の仇であると刻み込んだ。


小百合はそれを装着し、康太の前に立つ。それがどういうことなのか、康太も理解していた。


「さぁかかってこい。少しは意地を見せてみろ」


誤字報告を5件分受けたので2回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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