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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十七話「残され、継ぎ、また少しだけ」

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変わる、変わる

「やはりか・・・コータ、お前が見たもの、そしてお前が感じたもの、お前自身が思ったもの、それらが一種のトリガーになってしまったのだ」


「・・・すいませんアリス先生、わからないのでもう少し分かりやすくお願いします」


「・・・お前の中の精霊が、お前に近づいたことで力を発現できるようになったという話をしたのを覚えているか?」


康太と精霊の親和性、シンクロ率が高まったことによって、精霊は康太の感情の変化によってその力を自発的に発現するようになった。


それは精霊が康太を模倣した、ないし康太自身になろうとした結果だといえる。


「ついさっきの話だな、それがどうかしたのか?」


「それと同じことが、お前とデビットの間で起こっているということだ」


アリスの説明に、康太は何となく理解した。


「つまりあれか、俺とデビットのシンクロ率が高くなったってことか」


「そうだ・・・フミの証言から察するに、一瞬暴走が起きる程度にはシンクロ率が上がったのだろうよ・・・問題なのは、シンクロ率が上がったことではない。いや、そちらも問題なのだが、本当の問題はそっちではない」


「じゃあ・・・何が問題なんだ?本部に睨まれる的な話か?」


「そうでもない、先ほどの精霊の話と違って問題なのは、デビットがお前に近づいたのではなく、お前がデビットに近づいたという点なんだ」


康太がデビットに近づいた。その言葉に、康太は思い当たる点があった。


思い出しにくいその記憶の中で、自分の声とデビットの声が重なった気がしたあの瞬間、確かにその瞬間があった。


「デビットがお前に近づこうとしたのならまだよかった・・・だが親しいものの死、そしてそれによって降りかかる強い感情、状況、それらはデビットの経験をトレースしているようなものだ・・・」


「トレース・・・って言ったって・・・」


「あぁ、お前にはそんな自覚はないだろう。別にデビットがいたところでいなかったところで、この結果は変わらなかったかもしれんしな・・・だがお前はどういうわけか、デビットに本質的に近づいた・・・それが原因で、お前がデビットの力を引き出せるようになったんだろうよ」


精霊が康太に近づいたことによって、その力を康太の状態によって発揮できるようになったのとは、意味が全く逆だった。


今まで一部のみが扱えていた封印指定百七十二号の力、その力の本質であるデビットに近づいたことによって、康太はその力をより多く引き出せるようになった。


力を発揮することには変わりはないが、その意味合いが真逆である。そしてその本当の意味合いも。


「じゃあ、もっとデビットに近づくような経験をすれば、もっとDの慟哭の力を使えるようになるってことか?」


「・・・私はお勧めはせん・・・お前が今まで見てきたものだって、場合によっては廃人になってもおかしくないようなものだったのだ。それ以上の経験をした時、コータの精神がもつかどうかもわからん」


アリスは、それにと小さくつぶやいて視線を逸らす。


「自ら望んで同じ道を歩もうとするのなら、やめておけ・・・あいつの行動をたどるなど、破滅への道を行くのと同義だ。お前にそんな道をたどってほしくはない」


アリスの言いたいことは理解できる。あの光景を見て、なおかつこの力を宿している康太はおそらくこの世界で最もデビットの本性を理解しているだろう。


デビットは自ら破滅を導いた。世界に絶望し、神を恨み、生きている人間を憎んだ。


慈しむべきものを殺戮するという未来を選び取ったデビットのその本性、それを追体験するなどと、おそらく正気ではいられないだろう。


あの時康太が見たものとは違う、もっと別の本質があるのだと、康太は理解している。


康太が見て感じたのはあくまでDの慟哭の原点ともいうべきものだ。まだあの光景から先がある。だからこそ、この魔術は今康太の中にある。


「わかってるよ、世界を呪うとか、そういうことをするつもりはないって。俺の敵は俺が決める」


「・・・であればいいのだがな・・・頼むから、それ以上その力を求めるな。お前は今でも十分強く、お前を支えてくれる者も多くいるのだから」


それはアリスなりの励ましの言葉だった。


強くあろうとする康太は努力を惜しまない。だがそれでもどうしても届かない場所というものはあるのだ。


それは良くも悪くも、康太が本当に望んだ場面で康太を窮地に追いやっていくのである。


「ありがと、アリスがそういうことを言ってくれるのは新鮮だな」


「私はいつだってお前たちを気遣っておるのだぞ?まったく・・・頼むから私をこれ以上不安にさせないでくれ」


「わかったよ・・・デビットのことに関してはちょっと考えておく。少なくともこれ以上奇妙なことがないように祈るよ」


あの時の感覚を康太は思い出しつつあった。自分とデビットが重なり、同じ心と体を共有しているかのような感覚。


強い怒りと恨み、膨大な憎しみと悲しみを同時に抱えたあの感覚を、康太は思い出して目を細めていた。


あれがデビットの感じていた感覚。最初はわからなかった、理解できなかった感覚。康太は今だからこそ、それを理解できていた。


世界を呪うのも、少しわかる気がするなと、自分の無力感を思い出しながらため息をついた。


















幸彦の葬儀に、康太たちも参加を許されていた。


葬儀は本来身内でなければ参加できないことが多いが、康太たちは幸彦の身内ということもあって参列を許され、通夜に引き続きお経に耳を傾けている。


葬儀は何も問題なく、つつがなく進んでいた。そして葬儀は進み、康太たちは火葬場へと移動していた。

それがどういう意味を持つのか、その場のほとんどが理解していた。


「そうか、日本人は遺体を焼くのだったな・・・久しく見ていない光景だ」


「あぁ、アリスさんはイギリス人でしたね・・・遺体を焼いてしまうのにはやはり抵抗がありますか?」


キリスト教徒にとって、遺体は死後埋葬し保管しておくものだ。復活の時に体がなければ復活できないという理屈なのだが、真理にはその考えはあまり良くわからなかった。


宗教というものに興味がないため、キリスト教が遺体をそのまま埋葬するのも『そういうもの』程度にしかとらえていない。


良くも悪くも多様な価値観を混ぜ合わせた日本人らしい考え方である。


「抵抗はないがな・・・いや、私が口にするべきことではない・・・きっと多くのものが気づくだろうな」


「何にですか?」


「頭の中で理解していた、していたはずのものが現実となってつきつけられる。そういうことがこれから起きるのだ」


アリスの言葉に耳を傾けていた康太はそんなものかなと思っていた。


アリスの言いたいことは何となく理解できていた。


つまりは幸彦が死んだという現実を、強制的に再認識させられるということだろう。


最後の別れとして、白装束に身を包んでいる幸彦の顔を見て、康太は渋い顔をする。


最後に一緒に燃やすものは、幸彦が最後まで身を包んでいた魔術師としての装備と、多くの花と写真だった。


係員に押され、幸彦の体は火葬のための炉の中に入れられていく。もう幸彦の姿を見ることはないのだと、康太は理解していた。


「どう?一晩明けて少しは落ち着いた?」


幸彦が火葬されている間、康太たちは休憩室にて待たされていた。茶や菓子などがふるまわれるその部屋で、康太は文の声にわずかに反応して目を細める。


「一応な・・・まだいろいろと煮えくり返ってるところだけど」


「そういう風に割り切るところはあんたらしいといえばらしいわね。らしくないといえばらしくないけど」


簡単に割り切ることなどできない。それが康太の性格だ。だが割り切らなければいけないと頭で理解している節もある。


頭で理解できていても心で納得できていない。そういうところが康太にはしばしばある。


今こうしている中でも、康太は自分の中で自分の感情を完璧にコントロールできていないのである。


「文はさ、こういう葬式って慣れてるのか?」


「あんまり慣れてないわ。これが三回目・・・康太は?」


「二回目・・・しかも初めての時はすごい子供だったから・・・ぶっちゃけほとんど覚えてないんだ」


「こういう妙な感じも、久しぶりだわ・・・なんていうか、どうしようもないんだけど、何かしたほうがいいんじゃないかって、そんな感じ」


「・・・俺もそんな感じだよ・・・体を動かしたいんだけど・・・今はさすがにな・・・体の中でぐちゃぐちゃになってる感じがする」


「・・・そうね・・・確かにそんな感じかも」


康太と文は、あの場にいた。幸彦が死んだあの場に。この二人の胸中は、この中でもかなり穏やかではなかった。


自分たちのせいではない。ほとんどの人たちがそういった。そして、二人は徐々にではあるがそれを飲み込みつつある。


だがそれは絶対に飲み込み切れないものであると、康太も文も理解できていた。それは仕方のないことなのだ。


もうどんな手を使っても、幸彦は生き返るわけではないのだから。


「八篠、鐘子、お前ら大丈夫か?」


不意に声をかけてきたのは倉敷だった。康太たちと同じように制服を着ている彼は学校で見かけるそのままの格好である。


その目の下にはくっきりと隈ができている。おそらく眠れなかったのだろう。


何かしら心にしこりが残っているのは康太と文だけではないようだった。


「お前こそ大丈夫かよ、くっきりと隈なんて作って。ひどい面だぞ?」


「あざだらけのお前に言われたくねえよ。ちょっといろいろ考えちゃってな・・・」


「意外ね・・・あんたもそういうこと考えるんだ」


「当たり前だろ・・・短い期間とはいえ、一緒に戦った人だったんだ・・・」


倉敷の中では、幸彦は頼りになる魔術師として認識されていた。康太の身内ということもあって恐ろしい戦闘能力を持っているのはもちろんとして、人柄を見ても尊敬できる人物だっただけに、幸彦が死んだことは倉敷にも大きな影響を与えているようだった。


「聞いておきたくてさ・・・八篠、お前言ってたろ?敵を取るって」


「・・・あぁ、言った」


「・・・俺も手伝う」


その言葉に康太と文は目を見開いた。今まで康太に言われて手伝ってきた倉敷が、まさか自分からそんなことを言い出すとは思ってもみなかったのである。


幸彦がいなくなったのだからチームは解散といっても不思議はなかっただけに、この提案は康太も文も完全に予想外だった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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