男子ごはん
「よし・・・それじゃあ作るか・・・」
掃除も終わり各部屋にそれぞれの荷物を運び込んだ後康太はキッチンで食材と向かい合っていた。
部屋割は各部屋一人ずつ。二人部屋に小百合、各一人部屋にそれぞれ一人ずつ割り振る形で部屋に入った後で今日の夕食を作るための準備に入ったのである。
今日の夕食担当は康太になり、購入してきた食材を眺めながら何を作ろうかと頭をひねっていた。
実際作れる料理などたかが知れているがそれでも第三者に食べさせるのだ。最低限まともなものを作らなければ彼女たちに申し訳ない。
とりあえず米と味噌汁はあったほうがいいだろう。適当に野菜を切ってからドレッシングを作ってサラダを用意する予定だった。
問題はおかずだ。つまりメインディッシュだ。康太が作れるメイン料理など基本的にいためたりする系統のものばかりだが女性にそれが受けるかどうかは微妙なところである。
作るものが決定してしまえば適当にレシピを調べて作ってしまうのだが、問題はどんな料理にするかである。
康太がそんな風に食材を前にして悩んでいるとキッチンの陰からちらちらと誰かの影が見え隠れしている。
それが文と真理であるということに気付くのに時間はかからなかった。何故ならコソコソと何やら小声で話しているのが聞こえたからである。
「・・・二人とも何で隠れてんの?」
「あ・・・いや、なんか悩んでるみたいだから邪魔しちゃ悪いかなと」
「料理になれていないのであればお手伝いしようかと思いまして・・・」
どうやら康太の料理の腕前が心配なのか、物陰から現れた二人はばつが悪そうに苦笑しながら視線を逸らしている。
確かに康太の料理の実力はあくまでそこそこ。もしかしたら平均以下かもしれないが人の食べられないようなものを作ったことはない。
そう言う意味では安心してほしいと言いたいところだが、人に出せるだけの料理を作れるかという意味では少し首をかしげてしまう。
その為アドバイスをくれる誰かがいてくれるのは比較的有難かった。
「とりあえず米と味噌汁とサラダは決まってるんだけど、主なおかずは何がいい?なんかリクエストあると助かるんだけど」
「・・・おかずねぇ・・・どんなのが作れるの?」
「生姜焼きとか照り焼きとか?あとは肉巻きとかかな」
「主にお肉料理が得意なんですね。それならそのどれかでいいのではないですか?」
肉料理が得意というか肉が好きだから肉料理を覚えたという方が正確かもしれない。一人の時に食べたいものを考えて比較的簡単だった料理をそれぞれ覚えただけに過ぎない。
特にそれぞれ味付けも比較的似ているものばかりだ。連日食べると飽きるかもしれないが一日二日持たせる程度の料理としては上等と言えるだろう。
「今ある食材ならどれもできそうよね・・・明日の担当は真理さんですよね?真理さんは何を作るつもりなんですか?」
「私はカレーかビーフシチューを作ろうと思っています。こういう時は煮込む系の料理をしっかりと仕込みができますしね」
明日が煮込む系の料理ならば今日は焼くあるいは炒める系の料理で問題ないだろう。特に康太の料理は肉を多用したもののようだ。
明日予定している料理との関連性も少ないのならどれでも問題ないのではないかと思える。比較的良心的なメニューが並んでいると言えるだろう。
「それじゃ私生姜焼きがいいわ。どれでもいいならそれでお願い」
「生姜焼きな、了解。んじゃ作るか」
とりあえず康太は必要な食材をいくつか選定してからいらない食材たちを冷蔵庫の中へと放り込んでいく。
使うのは玉ねぎとピーマンそして豚肉、そして生姜だ。オーソドックスな生姜焼きの材料と言えばこれだと言えるものである。
そしてそれ以外の料理に使う豆腐、キュウリにレタス、そしてトマトなどを取り出し適切な形に切っていく。
包丁の扱いはそれほど上手というわけではないが、手を切るようなこともなく丁寧に食材を切ることができていた。
そしてその様子を横から文と真理がまじまじと眺めている。不安そうに見つめていると言ったほうが正確かもしれない。あまり見られると手元が狂いそうだと思いながら康太は小さくため息をつく。
「あの・・・暇だったら米でも洗ってくれないか?姉さんは肉にこれを付けてください」
「はいはい、米は三合もあればよさそうね」
「これは・・・小麦粉ですか?お肉に付けるんですか?」
「えぇ、そうすると焼けた後肉が柔らかいんです。手間がかかりますけどその分美味しいですよ」
たぶんと後付しながら康太は肉を一口大に切って真理のいる場所へと移す。実際に何度か小麦粉を肉に付けた状態で焼いてみたが、つけない状態に比べて柔らかさは若干だが変化があったように思える。
食べ比べをしたわけではないし科学的な根拠などを知っているわけでもない。ただ康太が小麦粉をつけた状態で焼いた方が美味しく感じたからそうしているまでの事だ。
こうして美人二人と一緒に料理を作ることになるとはなと思いながらも康太は時折自分に向けられる不安なまなざしを受け止めながら苦笑してしまう。
自分はそんなに料理下手に見えるのだろうかと思えてならない。それなりに料理はできるからそこまで心配しなくてもよいのだが、心配してくれるだけありがたいというものである。