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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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あと少しだけ

幸彦の放った攻撃が相手に直撃した瞬間、幸彦は再度攻撃を繰り出す準備をしていた


だが相手は攻撃を受けながら、攻撃が直撃するその瞬間に幸彦の体めがけて光の筋を放っていた。


相手が防御を捨てているのは理解していた。だがそれは防御をすれば自身が放つ攻撃が脅威になるからだと幸彦は考えていた。だがそれは違った


誘い込まれた。


そう考えた頃にはもう遅い。相手は幸彦を誘い込むためにこの状況を作り出したのだ。


魔術のインターバル。次の魔術を発動するために必要な前準備を意図的に遅らせ、周りの魔術師の動きを操作して幸彦に接近を促し、回避できないほどの距離まで近づいてきたところを撃ちぬく。


周りの状況、幸彦の行動原理、魔術師たちの動き、突如現れた謎の魔術であるウィルの目的、そして自らの体さえも勘定に入れて状況をコントロールし、幸彦がほんのわずかに生じさせた致命的な隙を狙い撃った。


「・・・あぁ・・・しまったなぁ・・・」


自分が撃ちぬかれたのがいったいどこなのか、幸彦は即座に自分の負傷状況を確認しようとしていた。


脇腹のえぐられた部分はすでに止血してあるが、相手の攻撃をよける時にわずかにかすってしまっていた部分に関してはまだ止血が終わっていない。


そして、先ほど貫かれた部分、こここそが重要だった。


地面に着地しようとするも、体が動いてくれなかった。


全く受け身を取ることもできずに着地した幸彦は、その衝撃に痛みを覚えながらも未だ意識を保っていた。


数えられないほどに重ねてきた実戦と訓練が、幸彦の意識を失わないようにさせていたのである。


もっとも、意識を失わないほうがよかったのかと聞かれると、それはわからなかった。


腹部、しかもその中心を撃ちぬかれた。


あまりの痛みに、いや、もはや痛みととらえてよいのかもわからないほどである。


強すぎる痛みに、脳が緊急事態であると察知したのか脳内麻薬を作り出し、痛みを緩和しだしている。痛みがマヒしてきている。


これは危険な状態だなと思いながら、幸彦は体を起こそうとする。何とか動いてこの魔術師の動きを止めなければならないと思いながらも、体が動かない。


体に降りかかる雨が冷たい。だが体から流れ出る血が、周囲に満ちていく。わずかに幸彦の体温を残した血が、大量の雨によって流されて行ってしまう。


自分が流れていく。


幸彦は朦朧とする意識の中でそんなことを考えていた。自分の中の、血液以外の何かが、血液と一緒に流れでて行っている。血に混じるように、雨に溶けるように。


そしてもうろうとする意識の中で、幸彦は自分に背を向けて立ち去ろうとしている魔術師の姿を見た。


別の場所に行くのだろう。幸彦がすでに戦闘不能であると考え、この場から去ろうとしているのだろう。


「・・・あぁ・・・なるほどね・・・」


幸彦は口から血を流しながら、腕を動かす。


まだ腕は動いた。だが足は動かない。脊髄をやられたのだろうかとぼんやり考えながら幸彦は体を起こそうとする。


そして幸彦が動こうとしていること、大量に血を流していることを察知したのか、ウィルが幸彦のもとに駆け付け、その体にまとわりつく。


体からあふれる血を止めるべく、幸彦の体内にも入り込み、ちぎれた臓器や穴の開いた血管などを即座にふさいでいく。


かつて康太の体の中に入った時のように、幸彦の体に激痛が走る。走ったはずなのだが、幸彦は表情一つ変えなかった。


もはや痛みを感じることもなくなっている。すでに、幸彦は痛みを感じていなかった。


自らの体を包み込むウィルの体の独特な肌触りを感じ、そして先ほどまで自分に当たっていた雨が、いつの間にかなくなっていることに気付いて幸彦は笑みを浮かべる。


「・・・すまないね・・・ウィル・・・みっともない姿を・・・見せた・・・」


幸彦は何とか立ち上がろうとするもやはり足が動かない。ウィルはそれを察知して幸彦の全身を包み込み、鎧へと姿を変えその動きを補助しようとした。


「すまないついでに・・・もう少しだけ・・・付き合ってくれないかな・・・?大丈夫・・・あと・・・ちょっとで済むから」


どちらにせよ、あと少ししか動くことなどできはしない。いや、動くどころの話ではないと幸彦は理解していた。


血にまみれた鎧がゆっくりと立ち上がるその姿に、周りにいた魔術師たちは驚愕の表情をそれぞれ仮面の下で作っていた。


周囲はすでに血の海になっている。雨によって血が流れ、その血が鎧を汚し、もともと赤黒かったその色をさらに変質させている。


「どこへ行く?君の相手は僕だろう?」


幸彦のその言葉を理解したのかしていないのか、背を向けて移動しようとしていた魔術師はゆっくりと振り向いた。


仮面に隠れているため、その表情はわからない。だがおそらく驚いたような、それでいてあきれたような表情をしていることだろう。


「ウィル・・・あの攻撃が来たら僕を守らなくていい。君の体を守ることを最優先にするんだ。ただ、僕の体に穴が開いたら・・・その時はその穴をすぐにふさいでほしい。できるかな?」


幸彦の言葉に、鎧となっているウィルは幸彦の体を動かし、親指を立てることで返事をして見せた。


それだけわかれば十分と言わんばかりに、幸彦は姿勢を低くする。ウィルとの連動は遅れてはいない。体を動かすだけならばウィルは慣れている。おそらく幸彦の思うが儘に動いてくれるだろう。


ありがたいことだと心底思いながら、幸彦は自分の体の奥からあふれた最後の血を吐き捨てる。


すでに体内の臓器に至るまで、ウィルの止血が施されている。もうこれ以上血は溢れない。だが、動ける時間もあとわずかであると幸彦は自覚していた。


「向こうへは行かせないよ・・・?もう少しだけここにいてもらう」


ここにいさせたところで何が変わるというわけでもない。だからこそ、やるべきことはやらなければならない。


少しだけ寒いな。そんなことを思いながら幸彦は噴出の魔術を最大出力で発動し、相手との距離を一気に詰めていく。


周囲の魔術師もそれに呼応して幸彦に対して攻撃を仕掛けるが、その速度、そしてウィルの防御力を前に幸彦が止まることはなかった。


相手も即座に迎撃態勢を整え、再び幸彦めがけて光の筋の魔術を放つ。


幸彦はそれを見て、回避しなかった。


急所、頭部と心臓、肺に当たることだけは避け、わずかに体を逸らせただけで、その体自体に直撃することを全くいとわずに直進した。

結果、光の筋は幸彦の体を貫通する。ウィルは直撃部分の鎧を硬質化せず、あえて軟体化することによって光の筋をやり過ごし、幸彦の体に穴が開いた瞬間にその穴をふさいで血が流れ出るのを防いだ。


相手としても予想外だっただろう。全く防御も回避もせずに魔術師が突っ込んでくるのだから。


相手との距離はもう少しある。後退しながら攻撃すれば相手は倒せる。そう考えていた瞬間、魔術師の足が何かに掴まれたかのように動かなくなる。


遠隔動作の魔術、幸彦の手によって掴まれた魔術師は、足を捕まえられた状態でその場に転がされてしまった。


だがダメージは一切ない。再度攻撃を仕掛けようとした瞬間、幸彦は攻撃態勢に入っていた。


強い衝撃波が魔術師に襲い掛かり、その体を地面に叩きつけるが、魔術師もこの程度では意識を喪失しなかった。


第二射目。光の筋は幸彦の足を貫いたが、幸彦は止まらない。


幸彦はウィルを右拳に集め、噴出の魔術と合わせて魔術師めがけて叩きつける。魔術師はとっさに体を捻るが、その足の片方は攻撃範囲から逃げ切れず、ウィルに叩き潰され鈍い音とともにその右足の骨を粉砕した。


至近距離、この距離ならば逃げられないと魔術師は再び光の筋を放つ。光の筋は幸彦の右肩を貫いた。だが幸彦は止まらない。


ウィルの持っていた双剣笹船を、魔術師の腹部に突き立てようとする。だが相手もとっさに障壁の魔術を展開し、双剣笹船を防いだ。


突き立てられた勢いで、すでにかなり傷ついていた双剣笹船の片方が真っ二つに折れてしまう。剣を見事に防いで見せた魔術師に対して、幸彦は笑みを浮かべた。


もう片方の手は、手刀が作られ、その手刀にはエンチャントの魔術が施されていた。


障壁に叩きつけられた手刀は、易々とその障壁を突き破り、その体に手刀を突き立てた。


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