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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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援護の違い

幸彦の攻撃はシンプルだ。文のように高い処理能力を有しているわけではないため、自らが行える高い攻撃力の魔術を単純に放つだけのものが多い。


ただしその攻撃は単純であるがゆえに、対応できるものにとっては特に問題にはならないが、対応できないものにとっては脅威となる。


単純であるということは対処法が限られるということで、その対処法を行えなければどうしようもなくなるというのがシンプルな攻撃の強みだ。


幸彦の作り出す攻撃は衝撃波、空気や物体の影響を強く受けるため射程距離は短くなるがその分防御がしにくいものだ。


衝撃は物体も伝播する。もちろん障壁などを作り出せばその分威力は減衰するが、間違いなく相手へと届く。


まずは相手に攻撃以外の対処をさせるというのが幸彦の目的だった。


先ほどから魔術師が多用している光の筋の魔術は必要な魔力も、使用するのにかかる処理も膨大だ。他の魔術を併用して行うにしろ、大した魔術は使えない。


防御させることで相手の攻撃を封じる。それこそが幸彦の目的だ。


一度防御させてしまえばあとは徹底して攻撃ができる。防御に対する攻撃であれば幸彦も一家言持ちだ、そのまま押し潰せる。


そう考えていた幸彦だったが、目の前にいる魔術師は全く防御を行わなかった。


襲い来る衝撃に対して完全に無防備、だがその代わりに幸彦めがけて光の筋を放ってきたのである。


幸彦はぎりぎりで光の筋を回避するも、光の筋は幸彦の皮膚をわずかにえぐる。距離が近くなっているせいもあって回避が難しい。


だが幸彦の攻撃も相手に直撃していた。


衝撃の魔術によってその体は吹き飛ばされる。相手が防御よりも攻撃を優先しているというのであればそれはそれで好都合、このまま畳みかけようとした瞬間、周りを囲んでいた魔術師たちからの攻撃が一斉に襲い掛かる。


おそらく攻撃が通ったことから、幸彦を倒さなければいけないという認識が強まったのだろう。


味方の動きを操作するためにわざと攻撃を受けたのだとしたら、この魔術師は相当集団戦に慣れている。


防御していればまだ余裕があるかもしれないという考えを生み、他の方へと手を回すかもしれないが、攻撃を受けて吹き飛んだという事実を周りに見せつければピンチなのかもしれないという認識を周りに与えられる。


先ほどからこの魔術師たちは声による連絡を一切取っていない。少なくとも幸彦の耳には敵魔術師の話し声は聞こえなかった。


無線などによって小声で話しているのか、それとも魔術による交信か、それはわからなかったが少なくともこちらに聞こえるようなものではないのは間違いない。


ウィルの牽制にも限界がある。いくら魔術師の攻撃を引き付けようとしてもウィルの戦闘範囲にも、押さえておける人員にも限りがある。


多くの魔術師の攻撃が幸彦に向かうのはある意味仕方のないことだった。


だが幸彦はそれらを防御しながら前進して相手に接近しようと試みる。先ほどの衝撃波によって距離ができた分をほぼ一瞬で詰めると、再び攻撃を放とうとする。


次の瞬間、再び幸彦めがけて光の筋が襲い掛かる。攻撃を受けてなお、攻撃されそうになってなお、攻撃する姿勢をやめるつもりはないようだった。


ノーガードの殴り合いを希望しているというべきなのか、それとも守りに入れば負けるということを理解しているのか。態勢も整えていない状態で攻撃を放ってきた。


どちらにせよ厄介な人種だなと幸彦は噴出の魔術で回避しようと試みるが、やはり攻撃をよけきれずに、わずかに肩の肉をえぐる。


相手の攻撃に反応しきれていない。攻撃の速度が速すぎる上に、距離が近すぎるせいで攻撃が放たれてからでは反応しきれないのだ。


昔の幸彦ならば、相手の攻撃の瞬間の気配を読み取って攻撃が放たれる前に回避行動をとっていたのだろう。だが最近攻撃を防ぐことが多く、よけるということをしていなかった幸彦にとってそういった能力は欠如しつつあった。


本当に歳をとってしまったなと幸彦は体から血を流しながら苦笑する。だが近づけば近づくほど、相手が攻撃をすればするほど隙はできる。その隙に攻撃をして相手を戦闘不能にすればいいだけの話である。


一回で倒しきれないなら二回三回と攻撃を加えればいいだけ。幸彦の思考はシンプルな方向にまとまっていた。


周りにいる魔術師の攻撃は防ぎきれる。多少動きを阻害されるがそれでも幸彦の攻撃を止めるには至らない。


ならば攻撃をする。攻撃されても攻撃する。奇しくも相手と幸彦の思考が一致した瞬間だった。


幸彦の放った攻撃が魔術師に向けて放たれた瞬間、相手も同時に光の筋を放つ。そしてそれとほぼ同時に、その間に土の壁と水の壁が顕現する。


幸彦と相手の思惑が一致しても、周りの魔術師はそうではない。味方を守ろうと防御を展開する。


そしてその防御は、普通であれば味方の攻撃も阻害してしまうものかもしれないが、光の筋の魔術にとっては些細な問題にもならない。


幸彦の衝撃波の魔術は水と土の魔術によって減衰され、威力をかなり削ぎ落された。対して相手が放つ光の筋は全く威力を落とすことなく幸彦へと向かってくる。


すると幸彦の体に再度ウィルが巻き付き、その体を強引に動かし、光の筋の攻撃から回避させた。


土と水の壁を飛び越えるような形で空中に投げ出された幸彦は、ウィルに感謝しながら噴出の魔術を使い一気に接近する。


先ほどのように周りの魔術師に壁を作られては攻撃が通らない。近くに行ってゼロ距離で攻撃する以外にない。近づけば周りの魔術師も攻撃も防御もしにくくなるだろうという幸彦の考えは的確だったといえるだろう。


相手の攻撃のインターバルぎりぎりに間に合う、そういうタイミングで幸彦は急接近し、魔術師めがけて拡大動作の魔術を放つ。強い衝撃が地面を砕き、周囲に轟音を響かせた。


だがそれと同時に、幸彦の体を光の筋が貫いていた。


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