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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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その魔術は経験を重ね

ほんの一瞬の隙だった。幸彦が協会の魔術師をかばうという心理を読み取って生み出した一瞬の隙。


康太ならば回避できていたかもしれない。だが幸彦のような体格の者では康太のような軽快な動きはできない。


腹部に走る激痛と、そこからにじみ出る血液。ほんのわずかにでも体を逸らしたことで腹部の中央に着弾することだけは避けられたが、それでも光の筋は幸彦の脇腹部分を大きくえぐり取っていた。


地面に転がりながら幸彦は即座に態勢を立て直し、一度相手の魔術師から大きく距離を取った。


わき腹から流れる血は止まらない。あまりの痛みに幸彦は体がわずかに痙攣していることに気付いていた。


力が入りにくくなっている。


このまま戦うのは愚策だとわかっていても、幸彦は戦うことを止めることができない。


魔術師は先ほどの行動が幸彦にとって有効であると判断し、再び光の筋の攻撃目標を幸彦から協会の魔術師たちへとむける。


早く来い、でないと仲間を撃ちぬくぞ。


そういうことを言っているのだと、幸彦は理解していた。


「あぁ・・・本当に・・・ダイエットしておくべきだったなぁ・・・」


流れ出る血を見ながら、幸彦は大きく息を吸い、自らの傷に炎を当てる。


傷口が焼けていき、その血が急速に止まっていく。


あまりの激痛に幸彦は意識を失いかけるが、強靭な精神力が気絶することを良しとしなかった。


「さぁ・・・君の相手は僕だよ・・・いい加減その物騒なものは僕に向けてくれなきゃ・・・目の前に相手がいるのによそ見は失礼だと思わないかい?」


幸彦は口からわずかに血を流しながらゆっくりと歩き始める。先ほどの攻撃が臓器のどこかを傷つけたのか、吐血してしまっている。


体の動きがいつもの数倍鈍く感じる。腹部と頭部に鈍痛が走り、これ以上動くのはまずいと危険信号を出し続けている。


危険信号に従えば、このまま倒れておくのが一番安全だろう。このまま気絶したふりでもして回復に努めていれば、問題なく回復できる傷だ。


だが幸彦はそれを良しとできない人間だった。目の前に知り合いがいて、その知り合いが攻撃されようとしているこの現状を無視できるような人間ではなかった。


難儀な性格だと理解している。それでもやめることはできなかった。子供の時から、幸彦のお節介とお人よしは変わらなかった。


「・・・さぁ、こっちを見てもらおうか?こっちを向いてもらおうか!君の相手は僕だ!」


幸彦が走り出すと同時に再び光の筋が幸彦めがけて襲い掛かる。


回避しようと動くたびに腹部の傷が痛む。ほんのわずかとはいえ生まれてしまう隙に打ち込まれる攻撃。だが幸彦も伊達に長年戦い続けてきたわけではない。


痛みに対しての対処は問題なくできている。


体が痛みにつられるのがわかっているのなら、それを見越して魔術を発動すればいいだけの話だった。


先ほどよりは無駄の多い動きにはなるが、噴出の魔術や念動力の魔術を多用して接近よりも回避を優先した動きに専念する。


回避を優先するせいで前進は遅くなるが、それでも確実に相手に近づくことはできていた。


だが幸彦が相手をするのは視線の先にいる魔術師だけではない。周囲を取り囲んでいる魔術師は依然存在するのだ。


ウィルが牽制し続けてくれているため、多少ましではあるが、それでも幸彦めがけて攻撃は飛んでくる。

防いでいてもそのたびに体に激痛が走り、幸彦の動きを阻害した。


「こんなに大勢に迫られるのはうれしいんだけどね・・・さすがに体がもたないなぁ・・・」


本当に歳をとったものだと苦笑しながら、それでも幸彦は前へと進む。襲い掛かる攻撃を徹底して回避し、もう少しで幸彦の攻撃の射程距離に入るというところで、光の筋の射出方向を再び協会の魔術師たちがいる方向へとむけた。


ただの勘か、あるいは幸彦の今までの戦いを見ていたのか、幸彦の射程距離を把握されてしまっている。

幸彦は舌打ちをしながら攻撃されそうになっている魔術師を遠隔動作の魔術を使って強引に射線からどけさせた。


そして幸彦の体の動きが一瞬とはいえ止まった瞬間に、再びその射出方向を幸彦の方へとむける。


芸のないことだと幸彦は来るとわかっていた行動に即座に合わせて噴出の魔術を使い加速する。


回避行動をとると同時に相手も幸彦めがけて狙いを定めていく。次の瞬間、幸彦の体に強い衝撃が加わった。


再び幸彦を狙った周囲の魔術師の攻撃が直撃したのだ。


仲間をフォローするタイミングはさすがと言わざるを得ない。幸彦が歯噛みしている中、幸彦めがけて光の筋が放たれた。


幸彦が痛みに耐えるべく歯を食いしばると、その体に何かが絡みついた。


いったい何が、そう考えるよりも先に幸彦の体は思い切り振り回された。


結果的に光の筋を回避することができ、幸彦はその絡みついた何かを見ると、それは少し遠いところで戦闘し続けているウィルだった。


戦いながら幸彦のフォローをする。さすがは康太と一緒にいるだけはあるなと幸彦は感心しながらようやく入ることができた自らの攻撃範囲内で魔術を発動し魔術師を攻撃する。


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