捨てられない故の
幸彦はウィルとともに周りにいる魔術師をとにかく倒そうと奮闘し続けていた。肉体的な疲労もそうだが、連続して戦闘を行っているせいもあって消耗はかなり蓄積されている。
ウィルのおかげで多少ましになったとはいえ、それでも幸彦の負担は大きい。
何せウィルの戦闘能力は魔術師相手でも問題なく戦えるレベルではあるとはいえ、そこまで強いというわけではないのだ。
物理攻撃のみしかできず、ある一定の攻撃力しか持たないため対応されてしまえばそこまででしかない。
ウィルの本当の性能を引き出すには、直接身にまとって魔術と併用しながら連携するしかないのだ。
とはいえ現状では少しでも幸彦の負担を減らすために分身となって敵の注意をひきつけることが優先される。
無論幸彦もそのことを理解していた。それに幸彦はウィルとの連携に慣れていない。体に身に着けての戦闘をまだ数える程度しかこなしていないため康太のような変幻自在で多彩な攻撃を瞬時に行うことはできないのだ。
このままでは間に合わない、幸彦がそう考えていた瞬間にその声が聞こえる。
「ルィバズ!無事か!?」
幸彦たちがいた場所とは別方向、山の方から聞こえてきたその声に周囲の魔術師も反応した。
援軍が来たのかという反応だった。即座に周囲に展開していた魔術師は幸彦たちを相手にする部隊と、増援を倒そうとする部隊の二つに分かれる。
「間に合わなかったか・・・!ただでさえ人手が足りないのに・・・!」
康太たちがこの場にやってきてくれたらどれだけ楽だろうかと思いながらも、この場に康太たちを呼ぶことは幸彦としては避けたかった。
一度康太と合流してからこちらの対処をしてもよかったのかもしれない。だが康太たちも同じように大量の魔術師に囲まれた状況である可能性が高い。合流するのは幸彦たちだけではなく周りを囲んでいる魔術師も同様なのだ。
そんな中でどれだけ短時間で魔術師を殲滅できるか、こればかりは結果論だ。何が間違っているともいいがたいため今更考えても仕方のないことである。
光の筋はまだ幸彦に狙いを定めている。だがいつ協会の魔術師に向けられるかもわからない。
「この場は僕が引き受ける!撤退しろ!」
「バカ言うな!少しは受け持つ!今の内に体力回復してろ!」
幸彦の言葉の真意を理解できない協会の魔術師たちは、周囲に展開する敵に対して攻撃を開始していた。
幸彦が気を遣っているのに対して、向こうも幸彦を助けようとしているのだ。いくら幸彦が戦闘能力に長けた魔術師とはいえ、この数を捌くのは無理だと判断したのだろう。
実際その判断は間違っていない。徐々にではあるとはいえ幸彦は消耗している。光の筋を使うあの四分の一の仮面をつけた魔術師がいなければ、幸彦だってこの援軍を喜んで受け入れたのだ。
この状況をよりよくするには、あの攻撃を自分に向けさせ続けるほかないと判断し、幸彦は四分の一の仮面をつけた魔術師めがけて一直線に接近する。
この魔術師さえ倒せれば、状況はひっくりかえせる。あとは周りの魔術師を倒すだけなのだから。
問題なのは、この魔術師がそう簡単にやられてくれるような技量の持ち主ではないということである。
接近してくる幸彦に対して光の筋が襲い掛かる。幸彦は自らの感覚器官、そして肉体を強化したうえで噴出の魔術を行使し高速で回避運動を取る。
康太ほどではないとはいえ、幸彦だって回避の心得はある。ただその回避能力を超える速度で相手の攻撃が襲い掛かってくる可能性があるという点である。
その攻撃だけに集中できるのであれば回避も容易かもしれない。だが周りから襲い掛かる他の攻撃を防ぎながらだと、どうしても回避しきれない。
周りを囲む敵魔術師も、幸彦を倒せば状況を好転させられるということに気付いたのだろう、幸彦に対して攻撃を集中させつつある。
ウィルが縦横無尽に動き回り、相手を少しずつではあるが牽制しているとはいえ限界がある。
近づけば近づくほど、回避は難しくなってくるだろう。とはいえ遠距離で撃ち合いをして勝てるような相手とも思えなかった。
ここは近づくほかない。多少無理をしてでも。
襲い掛かる攻撃を自慢の耐久力をもってして突破し、光の筋だけは的確に回避して一気に接近する。
幸彦の射程距離にもう少しで届くというその刹那、幸彦の体が大きく横に弾かれる。
敵の攻撃が直撃したのだと即座に判断し態勢を整えようとするが、先ほどまで自分に向けられていた光の筋が別方向に向けられていることに気付く。
魔術師の掌に作られた光の球体。あれを放つことで光の筋になるのだが、魔術師はその光の球体を幸彦ではなく協会の魔術師の方へとむけていた。
幸彦がここまで接近したのを確認しておきながら、その標的を協会の魔術師へと変更していた。
狙いをつけられ、まだ協会の魔術師は気づけていない。
幸彦は即座に遠隔動作の魔術を発動し狙われていた魔術師の体を強引に弾き飛ばす。
瞬間、魔術師はその光の球体の射出方向を再び幸彦に向ける。
やられた。
幸彦が内心舌打ちした瞬間、幸彦の腹部を光の筋が貫いた。




