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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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魔術的な掃除

康太たちが食材を買い込んで到着したその別荘は、いかにも別荘に見える建物だった。


木製のコテージのような外見をしており、周囲にある木々も相まってそれが別荘であるという風に認識するのは比較的容易だった。


木造の二階建て。上にはベランダのようなものが見えており夜になればこの周囲の景色を一望できるだろう。


康太たちがたどり着いたそこは静岡県の都市郊外にある丘陵地帯。周囲には木々が茂っているものの深い森というわけでもなく近くには公道も存在するため車さえ所有していれば比較的移動はしやすい場所だと言える。


こんな場所に別荘を構えているあたりエアリスは本当に何者だろうかという疑問が浮かぶが、それよりもまず中身を確認しなければならないだろう。


せっかくこうしてやってきたというのに中がボロボロだったなどということになったら笑えない。日の出ているうちにあらかたの掃除や片付けをしておかなければ満足に眠ることもできない可能性がある。


康太たちは小百合の車から降りると買ってきた食材や持ってきた荷物などをおろし別荘の中へと歩を進めた。


中に広がっていたのは予想通りの空間だった。


照明器具はしっかりと生きているうえに電気も通っているらしくスイッチ一つで周囲を照らし出していた。


机にソファそしてカーペット、おおよそ予想していた別荘のそれと相違ない内装に康太は内心安堵していた。


多少埃が積もっているもののこの程度であれば軽く掃除すれば十分に使えるようになるだろう。


「とりあえず荷物を運び込むぞ。真理、お前は二階の各部屋のチェックをしてこい、私達は荷物と一階をチェックする」


「了解です、行ってきますね」


真理は口にハンカチを当てながら別荘の中に入ると階段を探しながら奥へと歩いて行った。別荘の構造も把握していないためにまずはそのあたりから始めるべきだろうと思いながら康太はとりあえずリビングの一角に自分たちがもってきた荷物を運び込んでいた。


長い間人が使ってこなかったという事もあって埃がかなり積もっている。康太が歩いただけでその場所に足跡ができているあたりかなりの時間放置されていたのだということがわかる。


リビングは埃を軽く払うだけでいいだろうが他の場所がどうかははっきり言って未知数だ。特に水回り、キッチンや風呂場などはどうなっているか全く分からない。


「よし、とりあえず軽く掃除を始めるか・・・まずは水の確認だな、私はキッチンをやるからお前達は風呂場やリビングを頼む」


「了解です、んじゃ俺は風呂場やるわ、リビングは頼んだ」


「はいはい・・・ってこれだと吹き飛ばした方が早い気がするんだけどね・・・」


吹き飛ばすというのがどういう意味を持っているのかと思ったのだが、実際言葉そのままの意味だ。


なにせこの場にいる全員が魔術師なのだ。風を起こして埃を吹き飛ばすこともできるし水を発生させて軽く洗い流すことだってできるだろう。


そう考えると魔術は便利だなと思うほかない。こういう時に属性魔術が使えないのは心底辛かった。


「それなら軽く風を起こして積もっている埃を吹き飛ばせ、全員がマスクをつけたのを確認したらやっていいぞ」


「わかりました、とりあえず窓全開にしますね」


文が窓をすべて開けていくのを見て康太はすぐさま持ってきていたマスクを身に着けた。これから何が起こるのかを察したのである。


「姉さん!マスク付けたほうがいいですよ!」


「わかりました!もうつけてますから大丈夫ですよ!」


声を大にして真理へ警告するが、どうやら彼女も同じことをしようとしていたのだろう。二階の窓をすべて開けながらすでにマスクをつけているようだった。


文も真理も風属性の魔術を扱える。しかも両者ともに水属性の魔術も扱えるのだ。この二人がいれば掃除などすぐに終わってしまうだろう。


こんなことに魔術を使うのもどうなのだろうと思えてしまうかもしれないが、こういうものは使って何ぼなのだ。


この場に魔術師以外いないのであれば魔術を使う事をためらう必要性は皆無。むしろ積極的に使って然るべきなのである。


使わずに無駄に時間を浪費するよりもずっとましというものだ。特に今回の目的は掃除ではない。可能な限りこの掃除の時間は短縮したいものである。


「師匠、荷物ほこりまみれにならないように布かぶせておきます。それが終わったら合図お願いします」


「わかった・・・さて・・・窓も開けた、マスクもつけた、後は埃を吹き飛ばすだけだな」


「こっちも準備オッケーです、いつでも行けます」


二階のチェックを行っていた真理も吹き抜けから声を届かせている。恐らく向こうもすでに魔術発動の準備を終えているのだろう。


何時風が巻き起こってもいいように小百合と康太は早々に別荘の中から逃げ出していた。


埃が舞い上がるとわかっている場所にいる必要などない。早々に逃げ出して十メートル以上距離を取ると小百合は始めろと合図をした。


数秒遅れて別荘の中から猛烈な風が吹き荒れる。そして中に降り積もっていた埃が一斉に外へと運ばれていく。竜巻とまではいわないまでも吹き荒れる強い風とそれに運ばれる埃。


風を疑似的に見えるようにしているような光景に康太は目を奪われていた。だがその光景を注視していたのも数秒だけ、すぐに目にゴミが入ってしまいその光景を見続けることはできなくなってしまっていた。


「だいぶ吹き飛ばせたわね。さすが真理さん、うまい風のコントロールですね」


「いえいえ、文さんの風もなかなか強力でしたよ。まさかこの建物内のほとんどの埃を吹き飛ばせるとは・・・」


風を巻き起こし別荘内部の埃を排除した二人は互いの魔術の性質をよく理解していた。


文の起こした風は威力が高く、隅々に至るまで巻き起こり埃を空中へと飛散させてから窓の方向へと運んだ。


それに対して真理の起こした風は威力こそ劣るもののその精密さは彼女に勝る。徹底的に隅々まで風を行き渡らせ無駄なく効率よく埃を窓の方向へと運んだのだ。


互いにタイプは違えど風を扱える魔術師として思うところがあったのだろう。どうやらいろいろと聞きたいことができてしまっているようだった。


「もう終わったか?・・・ほう・・・なかなかましになったな」


「おー・・・あんだけの埃がほとんどない・・・」


風が吹き止むのを待ってから康太と小百合は別荘の内部へと再び足を踏み入れていた。先程までは歩くだけで足跡がついていたような状態だったのに、今残っているのは風では飛ばせなかったゴミの類のみだ。あとはこれらを掃除機で吸い取ってその後に床や細部を水拭きをしてしまえば掃除は完了だろう。


「じゃあ俺と師匠は水場やるから文と姉さんは引き続きそっちの方お願いします。終わったらすぐ手伝いますんで」


「わかりました、そっちも頑張ってくださいね」


「なるべく早めに手伝いに来てよ?」


それぞれ分担して掃除をすると早く終わる。それが普通の人ではなく魔術師ならなおさらのことである。


康太が地道に風呂場などを洗っている中、文はリビングのごみなどを掃除機で吸い取った後さらに魔術を発動していた。


今度は水の魔術だ。以前康太に使ったような霧状の水を作り出し、フローリングの床を僅かに湿らせていく。その後乾拭きをしてしまえばもう掃除は完了だ。


そして同じような行動を真理も取っていた。こういうところで使える魔術の属性が多いというのは心底得である。


康太が風呂などの掃除を終わらせて戻ってくるころにはもうほとんどの掃除が終わっていた。


フローリングの八割方を拭き終え、康太が手伝うことはほとんどないような状況だ。


仕方なく二階の真理の方を手伝おうとすると、彼女はベランダに各部屋の布団を干そうとしていた。


どうやら二階部分は各個人部屋になっているようだ。二人部屋が二つ、一人部屋が三つという配置だった。


それぞれの部屋に布団が存在し、真理はそれらをすぐに使用できるようにしているようだった。


「姉さん、手伝います」


「あ、ありがとうございます。さすがに干すのだけは魔術じゃどうしようもありませんからね」


魔術は非常に便利なものだ、先程そうしていたように本来やらなければいけない手順をいくらでも短縮できる。


だが魔術にだって限界がある。もちろん使い方によっては布団を触れることなく乾すことだってできるのかもしれないが、そんな魔術を使うよりは自分の体を使ってさっさと乾してしまったほうが早いのである。


魔術とは便利なものだ。だが便利であるがそれはあくまで限定的な状況に限られる。


例えば空を飛ぶ魔術だって近くに階段があればそちらをかけあがったほうが早いこともある、水を出す魔術だって蛇口をひねればすぐに出てくる。


技術が発展した現代において魔術というのはあくまであれば良いな程度のものでしかない。康太はそのことを正確に理解していた。


「にしても結構いい別荘ですね、エアリスさんに感謝です」


「本当ですね、これなら五日間十分楽しめそうです」


康太たちが思っている以上にこの別荘は良いつくりをしていた。建てられてからそこまで時間が経っているとも思えず、人があまり来ていないようにも見えるがそれでもどこも痛んでいない。


電気も水道も通っているためにここで生活しようと思えばいくらでもできるレベルの生活環境は整っている。こうして来られて本当に運がよかったというほかないだろう。


「そう言えば俺姉さんが風魔術使ってるのって初めて見たかもしれません、普通にレベル高いですよね」


「あー・・・確かに私は基本的に風は補助的な意味でしか使いませんからね。そう言う意味では見たことがないのも仕方がないですよ」


風の魔術というのは突き詰めれば高い威力を持つ危険な魔術ではあるが真理は風魔術をそこまで多用したことはなかった。


もちろん最低限どころかそれなり以上の実力を持っているのだが、彼女は風よりも水や火、土の属性を好んで使う。


風の属性というのはあくまで補助、火の威力を助長するために使ったり今回のように掃除をするために使ったりと実戦的な使い方はしていない。


彼女自身そこまで争い事が好きなタイプではないためにそこは仕方がないところもあるのかもしれない。


少なくとも普段の訓練の際も可能な限り威力の低い魔術を選定して使ってくれているのを康太は理解していた。


この人が兄弟子でよかったとこういう時は心の底から思ってしまう。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] 静岡県...森の中で交通の便もある... 十里木高原別荘地?
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