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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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二手に分かれて

「くそが!きりがないな・・・!」


「まったくだ・・・さすがの俺もここまでの相手をするのは初めてだな・・・ちょっと援軍が欲しいんだけど・・・向こうも派手にやってるみたいだったからな・・・おんなじ感じなんだろ・・・」


康太と倉敷は周りを魔術師たちに囲まれた状態で奮戦していた。


共に高い機動力を持つ二人だが、周りに魔術師だらけということもあって攻撃の密度も高く、被弾率もどうしても上がってきてしまっている。


康太と倉敷の連携で相手の数を徐々に減らすことができているものの、問題なのは二人の魔力だった。


個々の実力は康太たちに劣るとはいえ、これだけの数の魔術師を相手にしなければいけないというのはかなりの負担を強いる。


別の場所で戦っている文たちに協力を仰ぎたかったが、遠くで巨大な竜巻がいくつも発生していたのを見ていたために、向こうも同じ状況なのだと康太は文たちの援軍を半ばあきらめていた。


「あと魔力どれくらい残ってる?」


「三割ってところだな・・・お前は?」


「こっちは四割くらいかな・・・装備もだいぶ使ったし・・・さすがに厳しい」


「あと何人いるよ?十五人くらいか?」


「どうだろうな?まだ隠れてるかもしれないぞ?」


「この狭い遊園地の中にどれだけ隠れてたんだか・・・ここが相手のアジトの一つだったってことか?」


「拠点か、これから拠点にするつもりだったか・・・どっちにしろこのタイミングでつぶせたのは良かったって思うべきだ・・・ろ!」


康太の拡大動作の魔術によって魔術師の一人が吹き飛ばされ、建物の壁を破壊しながら意識を喪失していく。


一人、また一人と確実に相手の戦力を減らしていく康太たちだったが、それでも康太たちの魔力がなくなるほうが早いだろうと、二人ともわかっていた。


もともと二人とも長期戦に向いているタイプではない。この状況が続けば不利になるのは自分たちであると百も承知だった。


だができることがほかにないのだ。逃げることも当然考えた。だが逃げればこの場にいる魔術師たちは文たちのいる方へと向かう。そうなれば文たちが危険だと考え、康太と倉敷はこの場で周りにいる魔術師全員を足止めすることにしたのだ。


「ライリーベルたちがいればまだましだったんだろうけどな・・・さっきの光、あれってなんかの合図なのか?」


「使ってるところは初めて見たな・・・光属性の魔術だ。あそこに強敵がいますよっていう合図だよ」


「強敵ね・・・それじゃなおさらこいつらを向こうに行かせるわけにはいかなくなったわけだ」


「当たり前だ。ここで全員仕留める」


いくらこの人数差とはいえ、足止めで甘んじるつもりは康太は毛頭なかった。


この場にいる全員を仕留め、堂々と文の元に戻るつもりであった。


だがすでに装備をかなり消費している。そして長時間の戦闘に康太の体と装備が悲鳴を上げ始めていた。


普段から酷使している竹帚改に加え、双剣笹船もかなりの負荷を与えられている。


ところどころ刃こぼれし、いつ壊れてもおかしくないだけの損傷をしていた。


そしてそれは倉敷も同様だった。体の負担に加え、彼が乗っているボードもかなり傷んでしまっている。


攻撃を受け続け、小さな傷が目立ち、いつ壊れても不思議ではない。


装備が壊れれば康太たちができることは激減する。とはいえこの状況を急に変えられるようなことが早々起きるはずもないと倉敷は半ばあきらめていた。


だが次の瞬間、康太たちが戦っているその空間に、炎を噴出させながら何かが飛んでくる。


それがいったい何なのか、周りの魔術師を含め康太たちも一瞬わからなかった。


だが康太はその姿を目にした瞬間、それがいったい何なのかを理解して即座に跳躍し、それを掴んだ。


「ベル!ちょうどいい時に来てくれたな!ちょっと今手が足りなくて」


「ビー!まずいわ!バズさんが!」


なぜか文しかこの場に来ていないということ、そして文の鬼気迫る声音からただ事ではないことを察した康太は即座に先ほどまで文がいたはずの方向に視線を向ける。


何が起きたのか、それはわからない。だが文が噴出の魔術によってこちらに飛んできたということがどういうことなのか、康太は何となく理解できてしまった。


幸彦は文を逃がしたのだ。文と幸彦ならば乗り越えられる状況だったのかもしれないが、幸彦は文の安全を考え、文を先に逃がした。


それだけ危険な状況に陥ってしまったのだと理解した康太は即座に行動に移す。


「ウィル!バズさんを手伝ってくれ!こっちが片付いたらすぐに追いかける!」


康太はウィルの鎧を解除して飛行機のような形状に変えると、噴出の魔術を発動してウィルを勢いよく飛行させる。


ウィルは康太の命令のままに飛んでいく。羽を動かして進行方向を微調整し幸彦のもとへと向かって行く。


「ごめん、ビー・・・私あんまりバズさんの力になれなかったのかもしれない」


「あんだけ派手にやっておいて何言ってんだ・・・さっさとこいつら片づけて援護に行くぞ!」


「・・・わかった!」


落ち込んでいる暇などない。康太と文は周りにいる魔術師たちをにらみながら戦闘態勢に入っていた。














文を逃がした後、幸彦は襲い掛かる魔術師たちをすべて倒していっていた。


時折襲い掛かる光の筋を回避しながら、自らを敵として攻撃してくる魔術師を一人、また一人と戦闘不能にさせていく。


あのまま逃げられればどれだけよかっただろうかと幸彦は苦笑する。


協会の人間など見捨てられたら、どれだけ楽だろうか。協会に思い入れがあるというわけでもない、協会そのものに恩があるというわけでもない。


だが幸彦はそのまま放置しておくということもできないタイプの人間だった。よく言えば人が良く、悪く言えばお節介。


難儀な性分だと小さく独り言ちながら襲い掛かる攻撃を叩き落とす。


もう協会の魔術師たちはだいぶ近づいている。この辺りを活動範囲にするのも時間の問題だろう。


彼らにあの敵のことを伝え、この場は撤退、あるいは包囲して一斉に攻撃するように伝えなければならない。


そのためにはこの場にいる魔術師たちを徹底して減らす必要がある。混戦になればあの魔術はさらに高い効果を発揮するはずだ。


当てるだけで相手を戦闘不能にできるだけの効果を有しているのだ。しかも相手は自分の味方ごと撃つことにためらいがない。


一方的に攻撃される可能性がある現状からすれば混戦状態にすれば危険なのは目に見えていた。


だからこそ可能な限り数を減らしたいのだが、相手だって混戦状態の方が優位に立てるということを理解しているのだろう。幸彦が周りにいる魔術師への攻撃に集中しようとするたびに、まるで邪魔するかのように攻撃してくる。


厄介なタイプだと幸彦は歯噛みしていた。


相手の魔術をまだほとんど見ていないために判断しかねるが、幸彦の知る限りこれだけの速度で射出できるということはかなり技量の高い魔術師であると判断していた。


文に説明したように、あの魔術は無属性の魔術によって極小の刃を無数に作り出し、その刃を高速で動かすことによって立体的なチェーンソーのようなものを作り出す。そしてそれを射出するのだが、刃を動かすことに加え、その刃を相対的に威力を持たせるように射出するため、どうしても速度を出しにくい。


これだけの速度で撃ちだせるということはつまりそれだけ緻密な念動力の魔術に慣れているか、無属性の魔術に対する適性が高いことを意味している。


魔術師を一人殴り倒すと同時に、幸彦の顔面から数センチ先を光の筋が通過していく。


他の攻撃はすべて防ぐこともできるし対処も可能だが、あの光の魔術だけは防げないし対処できない。

もっと苦手な魔術も勉強しておくべきだったなと幸彦は内心自分の技量の狭さに後悔していた。


倒せるかどうかはわからない。相手の射程と連射速度もまだはっきりしていない状況で無理はしたくなかった。


相手が使ってくる魔術が防御できるのであれば多少無茶をしても問題ないのだが、相手の使ってくる魔術は一撃必殺の可能性を秘めた魔術だ。


下手な行動をして戦闘不能になったのでは笑えない。


確実に敵を減らし、確実に倒せる策を練るべきだった。


襲い掛かる魔術を叩き落とし、周囲にいる魔術師に急接近して叩きのめす。幸彦の戦い方は実にシンプルだ。それゆえに読みやすいが、対処することができなければただ一方的にやられるだけ。


多くの魔術師が手札を増やすことによって多様性を身に着け、多くの状況に対処できるようにする中、幸彦はとにかく自分にできることを磨き続けた。


その結果、こと戦闘においては幸彦を止めることができる者はいなくなっていた。


万能な手札を持つ魔術師は一つ一つの手札が弱くなる。だが一つだけを突き詰めた魔術師は一つの手札しかない故に、その手札に特化した魔術師になる。


康太のような戦闘特化型がまさにその例だ。そして幸彦も、康太ほどではないが戦闘に特化したタイプの魔術師である。


だが幸彦だって人間だ。動き続ければ疲れるし、魔術を行使し続ければ消耗する。相手の数が多いということもあって一人を倒すのにも労力がかかる。


このままだと協会の魔術師たちがやってくるまでに間に合わないかもしれないなと幸彦が歯噛みしている中、幸彦の背後に回り込んだ魔術師が攻撃を放とうとする。


反応できなかったわけではない。だが攻撃の瞬間を狙われ、ほんのわずかな隙となり、幸彦は防御するしかないかと防御の準備を進めていた。


だが次の瞬間、空から赤黒い物体が落ちてきたかと思うと二本の剣を振るいその魔術師を切り伏せた。

着地の衝撃と同時に軟体状に姿を変えたその物体は、やがて鎧へと姿を変えた。


ブライトビーの影、シャドウビー。ウィルの戦闘形態の一つが現れた瞬間、幸彦は仮面の下で困ったように笑う。


「なんだい、ビーは君を送り出してくれたのか」


幸彦の言葉にウィルは親指を立てて肯定する。


双剣笹船を構えたウィルは周囲のいる魔術師たちを確認しながら姿勢を低くする。軟体であるウィルには構えなど関係ないのかもしれないが、この場にもう一人戦える存在がやってきたという事実は相手にとっても、幸彦にとっても大きな変化だった。


「それじゃあちょっと手伝ってもらおうかな・・・一人だと少し辛くてね・・・本当に歳はとりたくないね」


幸彦は苦笑しながら魔術師めがけて襲い掛かる。ウィルもまた自らが掴んでいる剣を振るい、周りの魔術師を攻撃し始めた。


















幸彦とウィルが合流したころ、康太たちは戦闘を繰り返していた。


もともと魔力と装備を消耗していた康太は文の合流によってより攻撃的になったものの、ウィルを幸彦のもとに送ったことで多少戦闘能力自体は落ちてしまっている。


「よかったの?ウィルをバズさんのところに送って」


「何があったのか知らないけど、あの人一人でいるのはやばいだろ。お前を強引な形でも逃がしたんだ、ウィルを行かせるのが最善だろ」


幸彦がどのような考えのもと、文だけを逃がすような判断をしたのかは康太には分らなかったが、文だけでも逃がそうとしたということはそれだけ危険な状況にあるということだ。


その場に倉敷だけが向かったりすれば、逆に幸彦の足を引っ張りかねない。


康太が行けばその分この場が不利になるだろう。そうなればウィルを行かせるのはおそらく最善に近い選択だった。


ウィルは魔術そのものだ。攻撃を受けても死ぬということはない。耐久力に限界があるのかどうかはさておいて、少なくとも危険な攻撃を一度か二度は受けきれる。


分身として戦えば頭数が増え、鎧として身にまとえば単純な戦闘能力は増す。ウィルはその場にいるだけでも高い効果を発揮するのだ。


逆に言えば康太はそれだけの存在を今失っているということでもある。


魔力も装備も消耗している康太と倉敷を気遣って、文はとにかく全力で魔術を発動し続けている。


継続戦闘能力の高い文がこの場にいることで、康太と倉敷はわずかずつではあるが自らの魔力を回復させることができていた。


「で、バズさんはどういう状況なんだ?やばいから逃げてきたっていうか逃がされたんだろ?」


「強い魔術を使う奴がいたわ。長距離でも使える射撃系魔術。防御が難しくて、その上速い。私だと避けるのに集中しないと避けられないわね。当たらなかったのは運がよかったのと、バズさんがかばってくれたからよ」


「バズさんでも防げなかったのか?」


幸彦の防御能力の高さは康太も知っている。康太の攻撃で破れないことはないが、かなり苦労するほどの防御能力を幸彦は有していた。


本気の戦闘を行いながらあの防御を突破する自信は康太にはなかった。


「貫通力に秀でた魔術なのよ。私も一緒に障壁を展開したけどダメだった。光の筋で、理論的にはチェーンソーみたいなものだってバズさんは言ってたわ」


周囲にいる魔術師を竜巻で吹き飛ばしながらの文の説明に康太は上手くイメージすることができなかったが、少なくともその攻撃が幸彦の防御を突破するだけの攻撃力を有していることだけは間違いないのだろう。


現にこうして文が逃げてきているのだ。単純な威力で幸彦の防御を突破できる魔術があるということに驚いたが、今はそこを疑っても仕方がない。


康太は近くにいた魔術師から放たれる攻撃を回避しながら急接近し、その腕をつかんで体ごと回転してその腕をへし折ると、その回転の勢いのまま相手の意識を刈り取る。即座に次の魔術師に狙いを定め、再び文に問いかける。


「・・・で、なんでバズさんはお前だけを逃がした?一緒に逃げられなかったのか?」


「途中までは一緒に逃げてたのよ・・・でもその途中で野暮用ができたって・・・見捨てるわけにはいかないって」


強い魔術師の出現、そして途中まで逃げていたのに引き返し、なおかつ見捨てるわけにはいかないという言葉。


康太はその断片的な情報から今幸彦がどのような状況に陥っているのかを大まかに理解していた。


あの状況、文が打ち上げたあの光と、派手に発動した魔術からあの場所で戦闘が起きているということがほとんどの魔術師に発見されたことだろう。


そこから激しい戦闘が継続されているからという理由で、協会の魔術師たちがその場に向かおうとしている。


強力な魔術師がそこにいるのであれば、おそらく同じように高い戦闘能力を持つ魔術師でない限りやられる可能性は非常に高い。


幸彦が文と逃げていれば、協会の魔術師の多くが犠牲になっただろう。


幸彦は文が気づけなかったその変化に気付いた。気づいてしまった。


文もその変化に気付けていても不思議はなかった。だが高い威力の魔術を発動し続けたことによる集中力の低下と、何より自分だけが逃がされたという事実が彼女の中でかなり大きな動揺を生んでいるのだろう。


普段の文ならば気づけても不思議はないことが、未だに文の中では解決していないようだった。


「とにかくこいつら全員片づけるぞ。バズさんへの合流はその後で考える。あの人がそう簡単にやられるかよ」


「・・・そう思いたいけど・・・あの魔術は当たったらそれだけで人間の体なんて簡単に貫通するわよ?その上速いし」


「なるほど、あの人との相性はそこまでいいわけじゃないってことか・・・回避よりも防御するタイプだからな・・・トゥトゥ!休憩はここまでだ!一気に叩き潰すぞ!」


「もうちょっと休ませろよ・・・人使いの荒い奴だな!」


そういいながらも倉敷は水を周囲に一気に展開して周りの魔術師めがけて攻撃を始める。


もはやあたりは洪水のような状況となっていた。降り続ける豪雨のおかげで倉敷の消費魔力は少なく、魔力はかなり回復している。


少しでも早く幸彦と合流し、手助けをしたほうがいいと康太の中の何かが告げていた。このままでは大変なことになるという、そんな予感が。


誤字報告を10件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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