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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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幸彦は捨てられない

幸彦は文のこの様子を見て、これが文の本気の姿なのだと理解する。


もともと文は高い素質を持っていた。その気になれば魔術を技術ではなく威力のみを重視して発動することもできる。


先ほどの発動がまさにそれだ。上空高く打ち上げたあの光の玉に関しては別だが、複数作り出した竜巻に、上空に展開させた雷雲とそこから発せられる雷。


どれも高い出力を持っていなければなしえない。


だが同時に、あれは六割がた文のコントロールから外れていた。


竜巻は文と幸彦に当たらないのが精いっぱいで、周りの建物も人も関係なしに巻き込み、被害を受けていない魔術師もいたほどだ。


そして雷雲から放たれた雷に至っては完全な無差別攻撃。かろうじて文と幸彦に当たらないように調整はされていたが、はっきり言えばそれだけだ。


あれに当たった魔術師は本当に運が悪いというほかない。だが密度が高く、なおかつ上空高くに体を放り投げられていたら当たるのも無理もない。


これは幸彦の推察だったが、文は自分の全力をまだ完全にコントロールできていないのではないかと考えていた。


文はもともと環境と才能に恵まれた。両親も魔術師で、高い素質を持ち、なおかつ春奈という技術派の魔術師の典型的な存在を師とすることができた。


幼いころから強い出力を使えただろう文だったが、両親の影響か、それとも師匠の春奈の影響か、文は高い技術を持って魔術を操ることを目標としていた。


単なる電撃でもより複雑に、単なる風でもより自由に、単なる水でもより優雅に、単なる光でもより鮮やかに。


文は才能に負けないほどに努力してきた。それは技術面の努力であって、才能を前面に押し出した戦いとは程遠いものだった。


だが今この瞬間、文は自らの努力の結晶である技術ではなく、自らが生まれ持った才能を前面に押し出した。


これだけの出力を連発できるのだという事実を相手に教え、少しでも引いてくれれば御の字だと思い、少々強引ながら高出力の魔術を同時に発動したのである。


全力で魔術を扱ったことは文もあまりないためにコントロールはほとんどできていないといっていい。だがそれでもその威力はそれを補って余りある。


文は自らの持てるすべてを発揮するべく、全神経を集中させていた。


五分。


幸彦が確認したいことがあるといって提示した時間はたったの三百秒だ。そのくらいの時間は稼いで見せると、文は魔力をみなぎらせ続ける。


竜巻を切り裂くかのように先ほどの光の筋が文たちめがけて襲い掛かる。文も幸彦もその攻撃が来る方向はわかっていたため、即座に回避する。


「あの攻撃は自分の手元からしか放てない。相手の位置を常に把握して、タイミングを見計らって避けるのがいいね」


「わかりました!早いところ確かめたいことっていうのを済ませてください!」


光の筋だけではなく、文たちに襲い掛かる様々な攻撃に対して文はすべて対応して見せた。


炎は竜巻で巻き上げ、氷の刃は水の流れを作って押し流し、土の砲弾は障壁を作り出して受け止めた。


四方八方から襲い掛かり続ける攻撃に対して、文は常に全力で魔術を行使し続けた。今までにないほどの出力をコントロールできていない状態で連発したことで、周りへの被害は尋常ではないほどになっている。


災害といっても過言ではないほどの猛威に、周りの魔術師がわずかに気圧される中、その光の筋だけは文たちのもとに届いていた。


「うんうん・・・なるほど・・・そろそろちょっと別の方法を試そうか」


攻撃を回避しながら、幸彦は拳をゆっくりと握りこむ。そして再び光の筋が放たれようとした瞬間、文たちを取り囲む魔術師の一人を遠隔動作の魔術によって掴むと、その光の筋の射線上に投げ飛ばした。


唐突に人間が投げ飛ばされてきたことで相手は多少動揺したようだったが、光の筋の魔術は止まらなかった。


いや、止める気がなかったといったほうが正しいだろう。


光の筋は仲間であるはずの魔術師の腹を貫通し、血をまき散らしながら直進して文たちを攻撃しようとする。


もちろん、文たちはそれを回避するが、その様子を確認していた文は驚愕の表情を、幸彦は怪訝な表情を作る。


「あいついま・・・味方ごと・・・」


「んんん・・・予想はしてたけど、やっぱりそうなるか・・・周りの連中はたぶん相手にとってはただの駒・・・捕まえても利益は少なそうだね・・・さっきの半分の仮面のほうがまだ利益がありそうだ」


幸彦は相手がどのような態度を示すかによって周りの魔術師が相手の組織の中でどの程度の位置に立っているのかを確認しようとしていたのだろう。


先ほどまで戦っていた魔術師がやられたタイミングで現れたことから、あの魔術師が協会の手に渡るのは避けたいらしい。


そういう意味ではあの魔術師は回収する価値があることになるが、あいにくとそれを簡単にやらせてくれるとも思えなかった。


「さて・・・それじゃあ逃げる準備をしようか・・・あんなのとまともに戦うだけ損だね・・・非常に不本意ではあるけど」


挑んできた敵に背を向けるというのは幸彦的にはあまりしたくない行動らしいが、これほど囲まれてしまっていては仕方がない。


強引に倒せなくはないかもしれないがその分リスクが付きまとう。はっきり言ってそこまでリスクを背負うだけの価値はこの状況では見いだせなかった。


「道は私が開きます。バズさんは上手くほかの連中を牽制してください」


「了解。まさか女性にエスコートされることになるとはね」


幸彦は苦笑しながら周囲にいる魔術師たちめがけて土の塊を射出していく。文の風に干渉されながらも、その土の塊はほとんどぶれることなく魔術師たちのもとへと襲い掛かかった。


単純な質量による攻撃、幸彦が得意とする攻撃の一つであり、この状況で放てる最も確実な攻撃でもあった。


「行きます!」


文の掛け声とともに、周囲の竜巻が一斉に動きを変えた。周りにいる魔術師を牽制しながら、襲い掛かる魔術を吹き飛ばしながら、文たちが逃げられるだけの道を作り出していく。


風の通り道というにはあまりにも荒々しい。道の外側では常に猛威を振るい続けるその様相に、幸彦はつい苦笑してしまっていた。


「いやはや、本当に見事なものだね。さぁ、こっちには来ないでもらおうかな!」


風の通り道を走る文と幸彦、集中しているせいか文の走る速度はいつもよりもだいぶ遅い。幸彦はそれを見て後ろからやってくる魔術師たちを牽制するべく魔術を発動する。


周りの魔術師はこの風の道によって攻撃が通らないため、文が作ったこの道を通るしか幸彦たちを追う手段がないのだ。


もっとも、それは文たちからすれば数で優る相手の利点を潰すことにもなる。


集団は多角的に襲ってくるからこそ恐ろしい。だが一方向に固まってしまえばただの的でしかないのだ。

幸彦はあえて相手を攻撃することはせずに、追ってくる魔術師たちの道を土の壁でふさいだ。


土の壁を破壊しなければこちらへは通ってこられない。無論ただの土の壁だ。魔術師からすれば破壊できないわけではない。


だがそれを無数に作り出すことで時間は稼げる。

幸彦にはもう一つ確認したいことがあった。


「ベル!来るよ!」


背後から飛んでくる光の筋。幾重にも展開した土の壁を次々と貫通してこちらにやってくるそれを、幸彦は正確に読み取って回避した。文も集中しながらなんとか横に飛んで回避する。


発動地点から距離はすでに百メートル近く離れているというのに、ほとんど威力の減衰が発生していない。


それを見て幸彦は眉をひそめた。


「・・・おかしいね・・・これだけ威力を保持できるのに、わざわざ僕たちの前に出てきた・・・姿を現さなくても攻撃し続けることだってできただろうに・・・魔術の特性か・・・それともあの場にいた魔術師を逃がすためか・・・?」


「バズさん!考察は後にしてください!ビーとの合流を最優先にしましょう!」


「・・・そうだね、この場で逃げるのは癪だけど・・・次はこうは・・・!?」


暴風吹き荒れる一直線のその道を駆け抜けようとしている中、幸彦はそれを感じ取っていた。


文はまだ気づいていない。周囲の魔術を維持するのに集中してしまっている。


協会の魔術師たちが集まり始めているのだ。この場所を制圧するために。文が出したあの光を目印に集まりつつある。


あと少しでおそらく戦闘が始まるだろう。このままいけば、間違いなくあの魔術によってやられる。


「バズさん?どうしたんですか!?」


文は悪くはない。文が発したあの光はあくまでこの場所に魔術師たちが集まっていて、敵がいるということを示すものだ。


この場所にやってくるのは調査型ではなく戦闘型の魔術師だ。制圧をするという意味では彼らがこの場所にやってくるのは間違いではない。


だが相手が悪すぎた。相手の魔術は防御ができる類の魔術ではない。無論防御ができないわけではない。


あの光の筋はあくまで刃を高速で動かし続けているだけの魔術だ。いわば念動力の魔術に近いものがある。


相手が刃を動かす力以上の力で押さえつけるか、空間、あるいは物体などの固定に特化した魔術を使えば問題なく止められる。


問題なのは幸彦と文がそういった魔術を覚えていなかったことだ。さらに言えば高速の射撃系攻撃を回避できるだけの回避能力がなかったことも、こうして逃げている原因の一つだろう。


「・・・あぁ・・・もっとダイエットしておくべきだったよ・・・そうすればもうちょっと軽やかに動けてたかもしれないのにさ」


「バズさん・・・?」


幸彦は足を止めて自分たちがやってきていた方向を見ていた。その仮面の下は笑みを作り続けている。


文は嫌な予感が止まらなかった。こうしている今も、後方からは魔術師たちが追撃するべく土の壁を突破しながらこちらに接近してきている。


「ベル、ちょっと野暮用ができちゃった。このままビーと合流しててくれるかな?」


「何言ってるんですか、合流なら一緒に」


「それはできない・・・さすがにさ、見捨てるわけにはいかないんだよ。結構知り合いとかもいるからさ。難儀なものだね」


困ったように、それでいてあきらめたように幸彦は笑う。文がそれなら自分も残ると言おうとした瞬間幸彦がその体を掴んだ。


「ごめんよ、ビーに怒られたくないんだ。君だけは無事に帰す」


次の瞬間、文の体は思い切り投げられ、その体から炎が噴出し強引に加速していく。


「バズさん!」


文の言葉が届いたのか、それとも届かなかったのか、幸彦は元来た道を引き返していった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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