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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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多勢はどちらだ

文と幸彦の前に現れた魔術師は、特徴らしい特徴がほとんどなかった。


身長が高いわけでも低いわけでもなく、かといって太っているわけでも痩せているわけでもない。


唯一の特徴といえば、その仮面だった。


ほとんどが白い、何も装飾のなされていない仮面だった。具体的には四分の三が白い仮面で、残りの四分の一に、大きな口の絵が描かれていた。


「す、すいませんバズさん・・・お手数を」


「・・・いや、仕方がないよ・・・あれを対処しろって方が無理さ・・・むしろ反応できたことに驚きだよ。そのあたりは姉さんの教育のたまものかな?」


幸彦は文の方を向かずに、まっすぐに魔術師の方に目を向けている。目を離せばどうなるかわからない。まるでそういっているかのような警戒度合いである。


「・・・あいつ・・・強いですか?」


「・・・強いね・・・全盛期の姉さんを思い出す・・・あの魔術を使ってくるあたり、相当レベルが高い魔術師だよ」


「あれ・・・?」


先ほど放たれた魔術を、幸彦は知っているようだった。


ただの光の筋のように見えたあの魔術の正体を幸彦は知っているのだろう。


「あれはね、一種のチェーンソーみたいなものなのさ。あれだけの速度で使える魔術師は・・・ちょっと記憶にないけど」


そんなことを話していると、先ほどのものと同じ光の筋が再び幸彦たちめがけて放たれる。


即座に幸彦がエンチャントを施した障壁を展開する。文も協力しようと複数枚の障壁を展開するが、相手の攻撃はほとんど障壁にぶつかった様子もなく直進してくる。


「あぁもう・・・やっぱりこの魔術は苦手だなぁ・・・防御が意味をなさない」


「どういう魔術なんですか?」


「原理自体はさっき言った通りチェーンソーみたいなものさ。小さな小さな刃を作り出して、それを高速で動かしてる。それが恐ろしい速度でさ・・・その光に触れるだけで、人間の体程度なら削り落とされる」


「・・・怖いですね・・・そんな魔術が・・・!」


話している間にも再び先ほどの光の筋の魔術が襲い掛かる。防御は意味がない。ならば対応をと思ったが、正確な術式がわからなければ妨害することもできない。


幸彦のエンチャントを施した土の壁や障壁さえも容易に突き破ったのだ。水などの抵抗のある物体を作り出してもほとんど意味がないだろう。


文が即座に反撃しようとするも、周囲は未だ猛烈な雨が降り続いている。この状況で電撃は使えない。


ならばと周囲の砂鉄を操って襲い掛からせるが、魔術師も周囲に電撃を放ち、砂鉄にかかっている磁力を完璧に無力化してしまっていた。


よりにもよって雷属性を扱えるのかと、文は歯噛みしていた。


「バズさん、あの術式に、何か弱点や欠点は、ないんですか?」


「あるよ、たくさんある。扱いが難しいこと。一歩間違えたら体が傷だらけになる。なかなか速度を出せないからたいていは肉弾戦と一緒に使うこと。それと使うのに少し溜めが必要なこと。連射はあんまりできないね。それと消費魔力が多いこと。必要な処理もそれだけ多いね」


「・・・なる・・・ほど!ただ強いだけの術じゃないって・・・ことですね!」


こうやって話している間にも、文と幸彦めがけて攻撃が放たれ続けている。数秒に一発の間隔で放たれる攻撃を文と幸彦はかろうじて回避していた。この光の筋の魔術の恐ろしいところは、触れた時点でほぼ貫通が確定するという点である。


防御がほぼ不可能。反撃しながら回避するしかできないために、相手の方が有利に立っているように見えてしまう。


「でもあれ、なんで光ってるんですか?ただ高速で刃を動かしているだけなのに」


「それがあの魔術の不思議なところさ。刃を作り出してそれを動かしているだけなのに、なぜか一定以上の速度で刃を動かすと光りだすんだ。おかげで見えやすくなるんだけど、撃つ側からすればそれも欠点。別に熱があるわけじゃないのにね」


魔術において、物理現象を超越した現象が起きることはままあることだ。


康太や幸彦が使う噴出の魔術も同じである。別に体から何かを噴出しているわけでもないのに、なぜか推進力が生まれる。


今文たちを攻撃しているこの魔術も同じ。なぜか原理にそぐわない現象が発生しているのだ。


その理由はともかく見えやすくなっているということに関してはありがたく思うべきだろう。


いくつかの欠点があるとはいえ、その欠点のうちの一つ、攻撃速度が遅いというのには文としては同意しかねる。


相手が攻撃したと思った瞬間にはすでにこちらに急接近してきているのだ。光っているからこそその軌道がわかりやすくよけやすいが、普通の人間なら避けることはできないだろう。


回避が苦手でも、近接戦を得意とする幸彦と、康太と共にある程度訓練を積んだ文だからこそ回避できるのだ。


「あの魔術への対処法は?」


「いくつかある。あの魔術は刃を高速で動かして、その刃を撃ちだしている。その刃の動きを止められれば、ただはものを飛ばしているのと変わらなくなるってわけさ」


「・・・相手がそれだけの出力を出してるのを止めろと」


「あるいはその刃が動く方向を解析して、ちょっと細工をすれば、貫通力を激減させることはできるかもね。もっともそれでも厄介なことに変わりはないかな」


なかなか無茶苦茶なことを言ってくれると文はため息をつくが、この魔術を攻略しないといつまでも後手に回ることになってしまう。


文は襲い掛かるその魔術を観察し続けていた。


文が解析を続けていると、かなり遠くの方から轟音が鳴り響く。


それは先ほどまで康太たちがいる方角だった。


それを察知したのか、幸彦は小さく舌打ちをした。


「まずいね・・・どうやら向こうも同じように動き出したらしい・・・いやな予感ばっかり的中して、本当にいやになるね」


「あいつが行動を開始したのに呼応して動き出したのか、それとも単純に私たちが苦戦しているから動き出したのか・・・あるいはビーたちがちょっかい出したから動き出したのか・・・」


「どれも可能性があるだけに迷うところだね・・・とはいえ、たぶんこのままだとまずいかな、いい予感はしないよ」


「えぇ、私も嫌な予感がします・・・どうしますか?ここは引きますか?」


この場で一度撤退するというのも一つの手段だ。目の前にいるあの四分の一の仮面をつけた魔術師はかなり強い。というか魔術の相性が悪すぎる。


あれを相手にしているのが回避を得意としている康太であればおそらく意に介さず、早々に片を付けるのだろうが、幸彦も文も康太ほど回避が得意というわけではない。


相手の目的は不明だが、ここを守るにせよ、ここから逃げるにせよ、この場から離れようとする文たちを追うだけの理由が思い当たらなかった。


目撃者は消す。そのような過激な考えをしていたところでこの周りには大量の魔術師たちが控えているのだ。二人程度逃がしたところで何も変わらない。


もっともそれは文たち側の理屈だ。周りに大量の魔術師がいることを相手が把握しているかもわからないために、素直に逃がしてくれるかどうかも定かではない。


「戦う相手がいるっていうのに逃げるっていうのはちょっと嫌だなぁ・・・とはいえ、相性が悪いのも事実か・・・このまま耐えて援軍が来るのを待つっていうのも手だよ?あの魔術はさっきも言ったけど連射ができない。周りに味方が増えれば、攻撃する隙も生まれる」


「それもいいですけど・・・たぶん、この辺りにいる他の連中がそれを許してくれないんじゃないですかね?」


文の言葉を証明するかのように、まだ調べていなかった建物から一人、また一人と魔術師が出てくる。


いつに間にかこの場に集まっている魔術師は確認できるだけでも十人を軽く超えていた。


これほどの人数が隠れていたのにもかかわらず認識できなかった辺り、この周辺に仕掛けられていた索敵阻害の魔術はなかなか高精度のものだったのだろう。


そして現れた人間が協会の所属ではない、この辺りを拠点にしていた魔術師たちであることはすぐに理解できた。


何せ自分たちめがけて強い殺気が向けられているのだ。これだけ周囲から向けられれば、そういった感情に疎い文だって感じ取ることはできる。


「囲まれましたね・・・やっぱり逃げたほうがいいのでは?」


「んー・・・逃げる前にいくつか確認したいな。五分だけ付き合ってくれないかい?」


五分。何を思って幸彦が五分といったのかはわからないが、五分程度であれば文は周りの魔術師を押さえることはできるのではないかと考えた。


もっとも相手の実力も不明な状態でそのような危険な橋は渡りたくはなかったが、おそらく幸彦のことだ、何かしら意味があるのだろうと考え文はあきらめたように小さくため息をつく。


「了解しました・・・周りの人たちはどうしますか?どちらが請け負います?」


「とくには考えていないなぁ。ベルはとにかく生き延びることを最優先にしてくれればいいよ。いつあの一撃が飛んでくるかわからないからね。それだけ気をつけてくれればあとは僕が勝手に悩んでるさ」


「勝手に悩まれても困るんですけどね・・・わかりました。最低限出来ることはやらせてもらいます・・・!」


いつ相手からの攻撃が来てもいいように構えながらも、文は魔力を高めて上空めがけて光の弾丸を放つ。

その光の弾丸は上空へと上がっていき、次の瞬間弾けてあたりに降り続けている雨に干渉し、光を乱反射させると疑似的に虹を作り出していた。


弧を描かない独特な形の虹の出現、それが何かの合図を示していることをほとんどの魔術師が理解した。


そしてその意味を完璧に理解できたのは、その虹を遠くから見ていた文の師匠である春奈だけだった。


何の合図だったのかわからなかった周りの魔術師たちだが、この間にいる文たちを倒してしまえば問題ないと判断したのだろう、一斉に攻撃を仕掛けていく。


だが次の瞬間、文と幸彦を中心にして巨大な竜巻がいくつも顕現し、周りの建物ごと魔術師たちをはるか上空へと吹き飛ばしていく。


そして竜巻が上空にある雲を攪拌していき、雨雲から雷雲へと変化させていく。


次の瞬間、周囲の地面に無差別に雷が連続して落ちていく。


「ちょっと人数が多いくらいで調子に乗るんじゃないわよ・・・!?私らを倒したかったらデブリス・クラリスでも連れてきなさい!」


竜巻、電撃、そして周囲を取り巻く雨を適度に排除するだけの水の操作。文は自らの体内にある魔力を総動員してこの状況を作り出していた。


索敵すらする暇もなく魔術を発動し続けている。周りに大雨が降っているせいで雷の照準ができない。


風を起こし続けているために飛んで逃げることも難しい。何よりこの人数差をひっくり返すには多少脅しも必要だった。


無差別とはいえ、天変地異レベルの魔術を即座に発動した文の力を相手も理解したはずだ。何人かは不運にも竜巻で巻き上げられたまま雷に撃たれたが、半分以上の魔術師が無事に地面に降り立ち即座に対応し始めている。


文は内心舌打ちをしながら周りにいる魔術師に対処しようとしていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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