有言実行
幸彦が行ったのは、康太も使うことのできる再現の魔術だった。今まで積み重ねた自らの攻撃すべて、今の一瞬で再現したのである。
再現するにあたって決めるのは再現する攻撃と、その方向や位置など。一度起こした動作しか再現することはできず、再現するのも一動作につき一回に限られる。
さらに言えば元の動作と射程距離が変わらないため、使い勝手としてはあまり良い魔術とは言えない。
だが、康太や小百合、幸彦のような肉弾戦を好む魔術師からすればこれほど使いやすい魔術はほかにそうはない。
特に熟練の技術を持つ幸彦にとって、障壁の弱点に再現の魔術を当てることなど造作もなかった。
魔術師からすれば、幸彦が近づいてくるだけで障壁が砕けたように見えただろう。何もしていないのに障壁が自然と砕けたように見えただろう。
僅かに生じたその動揺を、動揺によって生まれた鎧の歪を、幸彦は見逃さなかった。
幸彦の刃が魔術師の体に深々と突き刺さる。光の鎧を突破して、その体に深々とめり込んでいる。
「なるほど、備えはばっちりってことか」
光の鎧を突破した幸彦の刃だが、魔術師の体に傷をつけることはできていなかった。
光の鎧の下に、防刃なのか、それとも何かの特殊素材か、刃を防御するための防具を身に着けていたようである。
幸彦の攻撃はあくまでその手を刃に変えているだけ。幸彦の技量によって障壁や鎧を貫通できるだけの力を持たせているのであって、単純な防御力を重ねられれば止めることは不可能ではない。
「だけど残念、こっちも備えは万全さ」
次の瞬間、幸彦の肘から炎が噴出し防いでいたその防具にさらに衝撃を加える。刃を防ぐことはできても衝撃を防ぐことはできない。その体に強引に叩きつけられた一撃に、鈍い音が周囲に響き渡った。
体の骨のどこかが折れたのか、苦悶の声を上げる魔術師に対して、幸彦は攻撃の手をやめるつもりはないようだった。
一撃入れたら次の一撃を入れることを考える。次の攻撃はより深く、より強い一撃を目指す。
相手は完全に集中力を乱されてしまっていた。必死に展開する障壁ももはや幸彦の攻撃を止めることもできていない。
肝心の光の鎧も幸彦の攻撃によって亀裂が生じ始めてしまっている。体に走る痛みのせいで満足に思考もできていないのだろう。周囲の土を思いきり動かしてなんとかその場から逃れようとしているが、幸彦も同じく土の魔術を発動することで相手の思い通りにいかないようにしていた。
有言実行。幸彦は相手の守りを見事に貫いて見せた。すでに相手の防御も穴だらけ、このような状況で幸彦に対峙し続けるのは自殺行為である。
何とか状況を変えようともがくが、相手が変えられるような状況ではない。味方が助けに来てくれることを期待したが、それもかなわなかった。
周囲に存在し続けていた風のシェルター。幸彦たちがいる空間に水を一切侵入させなかった暴風の壁。
外へと通じる乱気流を生み出している文は、その一部を利用して自らの電撃を増幅させ続けていた。
幸彦が攻撃を続けている中、文も攻撃態勢に入った。
完全に水を遮断しながら、すでにその遮断にも慣れ、攻撃するだけの余裕が生まれたからである。
魔術師の移動を阻害している砂鉄による磁力、それをさらに操り文は周囲にあった砂鉄を蜘蛛の巣のように形を変え、道を作り出していた。
「言ったよね?僕ごとでかまわないよ?」
その声が文に届いたかどうかはわからない。幸彦は自分ごとでもいいから相手を倒すべきだと考えていた。
早々に決着をつけなければ面倒なことになるという幸彦の勘。相手を早く倒せるならそのほうがいい。
そして文は、その言葉を理解していたからこそ、笑みを作って周囲で増幅された電撃を落とす。
落雷というにはあまりにも不自然で、あまりにも的確な位置に落ちたその電撃は相手の魔術師に直撃していた。
だがその魔術師を今まさに攻撃していた幸彦にはその電撃が効果を及ぼしていなかった。
その原因は、幸彦の体にまとわりついていた砂鉄によるものだった。
雷属性のエンチャントに近い性能を持った魔術だが、その本質は違う。周囲に発生した電撃を吸収する性質を、砂鉄に持たせたのである。
磁力によって操られた砂鉄は、幸彦の体にまとわりつくことで、幸彦に襲い掛かる電撃から幸彦の体を守っていた。
「私も言いましたよね?私がフレンドリーファイアするのはビーだけだって」
文の言葉に、幸彦はしてやられたなと笑ってしまう。
まるで意趣返しのような文の言葉に、幸彦は拳を構えることで応えた。
「・・・いやはや、末恐ろしいね。いや、この場は頼もしいと言わせてもらおうか!」
電撃によって動きが止まり、魔術を発動することすらできなくなった魔術師めがけて、幸彦の拳が襲い掛かる。
深々とめり込んだその拳は、魔術師の意識を簡単に刈り取った。
その体の骨を数本折りながら、相手の魔術師の意識を刈り取った幸彦は、さらに数発相手の体に拳を叩き込むと地面に叩きつけた。




