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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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その喉元に突きつけるまで

文と幸彦が戦闘を有利に進めている中、康太と倉敷は苦戦を強いられていた。


強力な障壁に加え炎、風、氷と現象系と物理系の両方を補える属性を扱うことのできる高位の魔術師。康太の戦闘経験の中でもこれほどの実力を持った敵は記憶になかった。


相手が巨大な炎を展開すれば康太と倉敷は自身の持つ機動力を生かしてそれを回避し、回避しきれない攻撃に関しては倉敷が水を操り防いでいく。


風は主に二人の機動力を削ぐのに用いられ、機動力が落ちたところで氷の刃が大量に襲い掛かってくる。


康太は持ち前の回避能力で氷の刃程度であれば回避は可能だが、倉敷は康太程の回避能力はないためにどうしても水流を作り出して受け流したり、水の盾を展開して防御する以外に防ぐ方法がなかった。


康太と倉敷が反撃しても相手の強力な障壁に防がれる。康太は集中して相手の障壁を観察し、その急所がないかを確認しようとするが、さすがにこれほどの魔術師ではなかなか隙を見せてくれなかった。


「どうすんだよ!防戦一方だぞ!」


「わかってるよ!今考えてるところだ!」


「本当に考えてるのか!?さっきから無駄な攻撃ばっかしてないか!?」


「ちゃんと考えてるって・・・の!」


康太の繰り出す拡大動作の斬撃を、相手は障壁の魔術を使って防ごうとする。この攻撃に対しては障壁一枚では守り切れないと学習したのか、数枚の障壁を展開して完全に防いでいた。


「お前の攻撃をここまで防ぎきるとか初めて見たな・・・あいつ結構強い?」


「強いよ、あの時は装備がほとんどなくて攻撃しきれなかった」


かつての苦い記憶を思い出しながら、それでも康太は笑う。


相手も康太のことを覚えているのだろう、かつての攻撃と同じように広範囲の攻撃を続けている。


康太でも避けられないほどの広範囲の攻撃を繰り返せば、確実にダメージを与えることができると考えているのだろう。


実際その考えは正しい。回避能力が高い代わりに防御能力の低い康太では広範囲にまき散らされる攻撃に対して、弱い防御をするしかない。そうなれば相手の攻撃力が勝っていれば当然ダメージを受ける。


だがあの時とは違うことが三つある。


一つは、あの時とは違い康太は今装備をすべて身に着けていること。一つは、あの時とは違いウィルが一緒にいること。一つは、あの時とは違い倉敷が一緒に戦っているということである。


相手の意識は主に康太に向けられているが、時折倉敷にも移る。空中の波に乗る倉敷の独特の動きに加え、襲い掛かる水の攻撃は相手にとっても脅威となり得るのだろう。


倉敷の水の攻撃に対して、相手は凍らせたり炎で蒸発させたり、風で吹き飛ばしたりと多彩な方法で攻撃を無効化している。


水に対する対応は慣れているとでも言いたげな戦い方に、康太は笑みを浮かべながら空中を駆けまわり、倉敷と高さを合わせる。


「トゥトゥ、この雨、もう少し強くできるか?」


未だに振り続ける雨をウィルの鎧越しに感じ取りながら、上空にある雨雲に一瞬視線を向ける。


魔術によって生み出された雨だが、他の魔術師も同じように発動しているのか、それとも運よく雨雲を引き寄せることに成功したのか、一度降り出した雨は止まる気配がなかった。


「もっと?できなくはないけど・・・その分時間かかるぞ?」


「構わない。その分の時間は俺が稼ぐ」


「了解。土砂降りにしてやるよ」


倉敷はさらに上空へと昇っていき、康太は体を覆っているウィルの形を変質させ、背中についている剣を鞭のようにしならせていく。


全身にエンチャントの魔術を発動し、攻撃力と防御力を一緒に上げていく。完全な戦闘態勢に入った康太に、相手は多少警戒したのか、周囲に大きな炎の塊を展開し飛翔させていく。


倉敷が準備を整える間に少しでも有利な状況を作り出す。可能ならば倒してしまいたかったが、無理をして負傷するのも面白くない。


それに何より、目の前にいるあの魔術師は、康太が一人で無理をしたところで勝てる相手とも思えなかったのだ。


噴出の魔術によって急加速しながら、康太は身構えている魔術師めがけて突進する。


康太が突進してくることはわかっていたのか、正面に対して魔術師は飛翔させていた炎を空中でぶつけ、爆散させる。


強力な衝撃と爆炎が襲い掛かる中、康太は鎧を完全密封し、同時に暴風の魔術を発動する。


衝撃を回避することはできなくとも、同時に発生している爆炎に関してはただの炎だ。風の魔術を使えば誘導くらいはできる。


噴出の加速によってもっとも爆炎と衝撃の被害の少ない場所へと移動し、康太は再度魔術師めがけて襲い掛かる。


巨大な炎の塊が康太めがけて襲い掛かる中、康太の背にある双剣笹船が意思を持ったかのように動き出しその炎の塊に突っ込んでいく。


蓄熱の魔術のかけられた双剣笹船は、炎の熱を一気に吸収していく。全てを吸収することはできずとも、かなり威力を減衰させることには成功していた。


爆発そのものの威力も減衰し、衝撃も爆炎も康太にとって何の問題もないレベルにまで衰えている。


炎ではこの男は止められない。相手はそう判断したのか、強力な風に氷の刃を載せて康太に向けて襲い掛からせる。かつて撤退するときに発動された魔術と同種のものであると康太は即座に反応していた。


乱気流に乗せて無差別に襲い掛かる氷の刃。通常の射撃魔術のそれと異なり、規則性のない射撃攻撃。


自らに向けて襲い掛かる無尽蔵ともいえる氷の刃、無秩序に襲い掛かる風と氷の猛威に、康太は即座に回避が不可能であると判断して回避をあきらめた。


人間が通れるだけの隙間もない。範囲攻撃のそれとは違った意味で康太を捕捉するための魔術だった。


いくら康太でも降り注ぐ雨をすべて避けることはできない。たとえその攻撃が点だろうと、避けられるほどの隙間がなければ面の攻撃とそう変わらない。


だから康太はよけるのをあきらめて、防御することにした。


槍と双剣、康太は槍を、ウィルは双剣笹船を操り襲い掛かる氷の刃を完璧に防いでいく。そして防ぎながら前進していく。


どうあがいても自分の体に当たるものだけを弾き、最小限の動きで前へと進む。相手の攻撃の量が膨大であるために、それでもかなりの数の氷の刃を防がなければならなかったが、それでも康太は一度も被弾していない。


康太が最も得意とするのは回避、そうほとんどの魔術師が思うだろう。実際康太が回避を得意としているのは事実だ。


だがそれと同じか、それ以上に得意としているのが防御の技術である。


防御用の魔術を覚えていないのと、今まで回避だけで事足りていたために発揮する機会はほとんどなかった。


だが小百合や幸彦、奏との訓練で、何度も何度もその攻撃を防いできた康太が、防御の技術を身に着けていないはずがないのである。


これでも止められない。魔術師が一瞬後退したその瞬間を康太は見逃さなかった。


即座に姿勢を低くし暴風の魔術を発動すると、自らに襲い掛かろうとしている氷の刃の軌道を逸らせる。


相手の方が風の魔術そのものに込めた魔力の量が上だ。康太の素質では氷の刃の軌道を完全に変えることはできなくとも、威力を減衰させ、なおかつ康太の体に当たらないようにすることくらいはできる。


低い姿勢のまま噴出の魔術を発動し、康太は一気に相手へと近づく。さすがの魔術師も自分の周りには氷の刃を展開していなかったのだろう、一定距離まで近づくと完全に攻撃のない安全地帯になっていた。


強力な攻撃を放つ魔術師にありがちなことで、その攻撃の効果を及ぼす範囲は自分より少し離れた場所にしていくのだ。


そうすることで安全に攻撃できる。だがそれは逆に言えば、懐に入られてしまえば強力な攻撃はないと言っているようなものだった。


とっさに相手が氷の刃を康太めがけて放つが、単調な射撃魔術となった攻撃であれば康太は防ぐまでもなく、簡単に回避できてしまう。


さらに距離を詰めてきた康太に対して、相手は冷静だった。


自らのすぐそばに障壁を展開すると、康太めがけて炎の塊をいくつも展開させていった。


爆発による衝撃や爆風は障壁で防御し、康太との距離を強引に作ろうとしているのだろう。


だが康太も相手の思惑をそのまま通すつもりは毛頭なかった。


ウィルの形を変えて巨大な筒状に変えると、相手の炎の塊を覆いこみ、そこにさらに炸裂障壁の魔術を展開させた。


開口部は相手の方向に向いている。それがどういうことなのか、相手は理解が遅れたようだった。


ウィルの筒の中で炎の塊が爆発する瞬間、その衝撃と爆炎は逃げ場を求めて魔術師の方だけに放出された。


炸裂障壁の魔術によってその爆炎の放出が導かれるように相手の障壁へと襲い掛かった。


相手の障壁は爆炎をまともに受け止め、亀裂を生じさせていく。自分の攻撃で壊れるようなことはなさそうだったが、康太はその亀裂を見逃さない。


即座に槍を構え、作り出された弱点を槍で攻撃し障壁を破壊すると、さらに相手に近づこうと踏み込んだ。


これ以上近づかせるのは危険と判断したのだろう、魔術師は両手を前に構えた。その体勢を康太は知っていた。


広範囲に放つ炎の魔術。


かつてよけきることができなかった、その魔術の動作に康太は即座に反応した。


瞬間、両手から放たれる炎が康太を飲み込んだ。


風の魔術を併用することによってさらに威力を増した炎は、周囲の温度を著しく上昇させていく。


辺りにあった水たまりを蒸発させていき、落ちてくる雨さえも、この一帯から一時的に蒸発させられていた。

倒す事はできなくとも、この炎で康太を押し返すことはできただろうと確信していた魔術師。だがその考えは即座に裏切られることとなる。


炎が止まった瞬間、その場には鉄の板が取り付けられた赤黒い塊が立っていた。


地面に突き刺さるように固定されたそれが盾であると気付くのに少し時間がかかってしまった。


次の瞬間、その盾は地面から引き抜かれ、そのまま一気に加速して接近してきていた。


シールドチャージ。噴出の魔術によって強引に加速したウィルの盾と一緒に、康太は相手に強引に近づいていた。


装備の蓋を集め作り出された鉄の板。蓄熱の魔術によって襲い掛かる炎の熱量を鉄板に吸収させながら、ウィルの盾を使って炎と風をうまく受け流し、康太はその場に体をとどめていた。


炎の中でも蒸し焼きにならなかったのは蓄熱の魔術による恩恵が大きい。周りの熱を常に吸収し続けるその魔術は康太の体の周りを一定温度に近づけるかのように冷まし続けていたのだ。


もっとも空気だけはどうしようもないために息をずっと止めていなければいけなかったが。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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