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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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不意打ち上等

何軒目かの建物に近づいたとき、康太と幸彦は同時に歩みを止めていた。


文と倉敷は二人が急に足を止めたことに疑問符を浮かべ、倉敷はどうしたのかを問い詰めようとするが、それよりも早く文がその行動の意味を理解した。


次の瞬間、幸彦が後方に跳躍しながら魔術を発動し目の前の地面を急激に隆起させ壁を作り、文がその場から勢いよく離れながら隆起した土の向こう側に障壁の魔術を展開する。


康太は未だに理解できていなかった倉敷の首根っこを掴み後方へと跳躍した。


次の瞬間、文の障壁と幸彦の土の壁を砕きながら巨大な氷の刃が康太たちが立っていた場所に突き刺さる。


その攻撃に三人は対応して見せたが、倉敷は康太に放り投げられてからようやく状況を理解したのか、臨戦態勢に入った。


「さすがにバカみたいに先制攻撃許すはずがないか・・・」


「周りであれだけ建物ぶっ壊してればそりゃばれるわよ。自分たちの建物ごと壊したってことは・・・あそこも大したものはないのかしら?」


「わからないよ?倒せるっていう確固たる自信があったからこそ攻撃してきたのかもしれない。思い込みは危険だ」


「っていうかなんでわかったんだ?索敵できないんじゃなかったのか?」


倉敷の言うように建物すべてに索敵妨害の術式が込められている状態では索敵は思うように効果を発揮しない。


だが康太と幸彦に対して、索敵というものはあれば便利なものではあるが特定の条件がそろえばそこまで必要なものではなかった。


「途中までは上手く隠せてたんだけどね、攻撃の瞬間に殺気が漏れてね。さすがに気付くさ」


「ここまで近づかないと気づけなかったっていうのは、相手を褒めるべきでしょうか・・・それとも俺がまだまだ未熟だったってことですか?」


「ここは相手を褒めるべきだね。倒すためじゃなく・・・しっかりと殺す気で攻撃してきた・・・昨今珍しい攻撃的な魔術師じゃないか」


魔術師にとって戦闘とはある意味最終手段だ。相手との折り合いがつかない時、どうしても求めるものがあるときに最後の手段として用いられる。


それは基本的に競い合いであって殺し合いではない。相手を殺すようなことを想定して戦いを構築するものは少ない。


幸彦は今まで殺しに来るような相手と戦ったことは数えられるほどしかなかった。殺すつもりでこちらを攻撃してくるような魔術師は、自分の身内とそのほか何人かいる多少頭のいかれた魔術師くらいしかいないと思っていたのである。


事実、それほどまでに突出して問題のある精神構造をしていなければ容易に人殺しなどできるはずもない。


康太たちが相手の攻撃を回避し、戦闘態勢に入ったのを知ってか、相手も気配を隠すことなく威圧感を増していた。


そしてその存在感を康太は知っていた。いや、正確には康太と文、そして倉敷は知っていた。特に、ほんのわずかではあるが戦った康太は覚えていた。


「・・・雪辱戦か・・・上等・・・!」


それは康太がかつて撤退を選択させられた、呪いのビデオの一件で姿を現した魔術師だった。


建物からゆっくりと出てきたその魔術師の存在を貫かれた土の壁越しにそれぞれ感じ取りながら、文と倉敷はやや後退し、康太と幸彦はやや前進する。


「あれがビーが撤退したっていう魔術師かい?なるほどなかなかいい気迫をしてるじゃないか」


「使ってきた魔術は炎、風、氷です。それ以外にもいくつかあるでしょうが、前回はそこで俺が離脱しました」


「なるほど。炎で風、風で炎を強化して攻撃。氷は防御にする・・・いや、これを見る限り氷も結構攻撃的な使い方が好みなのかな?」


「えぇ、前回はもう少し逃げるのが遅かったら細切れにされるところでしたよ・・・だけど今回は前回みたいにはいかないです」


そういって康太はウィルとともに意気込む。前回ウィルは文とともに行動させたために康太とは一緒にいなかった。


今回はウィルもいる。さらに文も倉敷もいるし、何より幸彦もいる。装備も万全なのだ。そう簡単にやられはしないと康太は槍を構える。


「相手の魔術の性能としてはどうなのかな?これを見る限り攻撃力は高そうだけど」


「攻撃力は高いです。それと同じくらいに防御力もあります。前回俺の攻撃はことごとく防がれました。たまに当たっても平然としてましたね」


「なるほど。よしよし、それじゃあやろうか。合図は僕に任せてもらおう!」


そういって幸彦は思い切り地面を踏みつける。次の瞬間、目の前にあった土の壁が変質し、巨大な腕となって建物の中から出てきた魔術師めがけて、両脇から殴りかかる。


土の壁が取り払われたことで、その人物の仮面が全員の目に入る。それは上下で全く異なるデザインの施された、かつて見たことのあるものだった。


上側は角ばった岩のような形を。下側は水のような滑らかな印象を受けるその形に、康太たちは確信を持つ。


そして康太は満面の笑みを仮面の下で浮かべていた。


「会いたかったぞ、ハーフ&ハーフ!」


槍を振るうと同時に放たれた拡大動作の魔術によって、放たれた斬撃。幸彦の両側から襲い掛かる拳と康太の正面から襲い掛かる斬撃。


同時に対応するのは難しいと判断した瞬間、相手の魔術師の背後から手が伸びる。


魔術師の目の前に展開された三枚の障壁は幸彦の土の拳を完全に防いで見せた。だが康太の拡大動作の魔術は防ぎきることができなかった。


とっさに回避した魔術師たちは、建物から完全に出てその姿をさらす。


上下の形が違う仮面をつけた男が一人。そして左右の形が違う仮面をつけた男が一人。


二人は康太の斬撃によってできた跡を挟むように立っていた。


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