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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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同じタイプ

「ビー、あんたの瘴気で辺りを満たして生き物から手あたり次第に魔力を吸い取りなさい。人間がいればそれに引っかかるわ」


「お、面白いやり方だな。オッケー、索敵はごまかせてもこいつはごまかせないぞ?」


それはアリスの索敵妨害に対しても、康太の操るDの慟哭が有効だったことがヒントだった。


実際は魔術の効果というよりは康太の中にいるデビットがアリスに反応しているだけなのだが、今回のこれはほとんど同じ結果をもたらした。


敷地の中すべてに瘴気を満たすことはできなくとも、特定の建物の中を満たすくらいは朝飯前。


康太は自らの体から黒い瘴気を噴出させると怪しいと思われる建物の中から片っ端から瘴気で満たしていった。


「・・・いたな、この中にいる」


康太の中に魔力が吸い込まれてくるのを確認すると、即座に全員が臨戦態勢に入る。そしてそれは相手も同じだった。


このまま建物の中に隠れていても無駄だと判断したのだろう、建物の壁を粉砕しながら、魔術師三人が外に躍り出てきた。


だがその方向は康太たちのいる方ではなく、反対側。つまり戦う気はなく、逃げる気満々のようである。


「三人か・・・俺とベルとトゥトゥで一人ずつ受け持つか?」


「それもいいんだけどね・・・バズさん、まず三人を足止めしていただけませんか?方法はお任せします」


「ほほう、僕の出番か。いいね、やっちゃうよ?」


いきなり幸彦の出番にすることもないのではないかと康太と倉敷は首をかしげるも、幸彦が地面に大きく足を叩きつけると、逃げようとしていた魔術師の足場が勢い良く崩れていく、足元の地下に勢いよく空洞を作り出したことで足場が崩れたのだ。


魔術師たちが即座に魔術を発動し落下を防ごうとするも、幸彦はそれを許さなかった。


空洞を作った分、余った土を使って巨大な腕を作り出すと空中に浮こうとしている魔術師たちを叩きつける。


有無を言わさない攻撃に、倉敷は俺の出番はないなと考えていたが、次の瞬間に康太が槍を構えて反応した。


康太たちのいる側の壁が砕け、そこから魔術師が二人出てきたのである。


「やっぱり、いると思ったわ」


どうやら文はこの展開を読んでいたようだった。こちらに対して奇襲をする予定だったのか、それとも先に逃げ出した魔術師を囮にするつもりだったのか、どちらかはわからないが二人の魔術師は康太たちめがけて攻撃を仕掛けてくる。


片方は射撃魔術を。もう片方の魔術師はその手に剣を持ち、こちらに近接攻撃を仕掛けようとして来ていた。


康太は槍を持ち、剣を扱う魔術師を正面から受け止めた。文は射撃魔術を相殺すると、即座に康太の援護に回ろうとするが、それよりも先に康太が攻撃を始める。


背中から延びた触手と、その先端に取り付けられた剣が後方に控えていた魔術師を攻撃する。


唐突な剣撃に相手はとっさに回避するが単純な射撃魔術ではないためか、避けにくそうにしている。


「ベル、この建物に何があるのか確認してきてくれ。俺とバズさんがこの魔術師たちは受け持つ。お前ら二人で中を探索してこい」


「大丈夫なのね?」


「問題ない。師匠や姉さんに比べれば余裕だ」


それでも弱いと言わないあたり、相手がある程度の実力を持っていることは把握しているのだろう。


先に逃げた三人はともかく、この二人の魔術師はそれなりに戦えるタイプの魔術師であるようだった。


先ほどから鍔ぜり合いをしている康太が一切気を抜いていないのがその証拠だろう。


「わかったわ。調べ終わったら戻ってくる。それまでに終わらせておいて」


戦力の分散は可能な限り避けたかった。特に今回の戦闘メンバーの中では康太と幸彦はかなり戦闘能力が高いほうなのだ。


この二人は可能な限り別行動にしておきたかったのが正直なところではあるが、康太からすれば室内を探すというのはそこまで得意ではないため、なるべく屋外で戦っていたいというのが本音である。


「じゃあ僕はさっきの三人を押さえに行くよ・・・ビー、一人受け持ってあげようか?」


「必要ありません。久しぶりに近接戦ができるんですから、楽しませてくださいよ」


鎧の下から聞こえる楽しそうな声に、剣を持った魔術師は戦慄していた。


身体能力強化をかけた状態で斬りかかった。並の魔術師であれば驚いて距離を取るところなのに、目の前の槍を持つ鎧姿の魔術師はむしろ距離を詰めてきた。


よほど自信があるのか、その剣を持つ手に伝わる力は重い。


幸彦が先ほど逃げた三人のもとに向かい、文と倉敷が建物の中に入っていくのを確認すると、康太は即座に押し合っている剣を軽く受け流して勢いよく蹴りを放つと同時に拡大動作の魔術を発動し、その体を蹴り飛ばす。


近接戦を挑めるのはいつぶりだろうか。相手が基本的に距離を取ってばかりの戦いだったために、相手との距離を詰めることしか考えてこなかったが、今回その必要はない。


「ウィル、そっちの射撃系を頼む。俺はこっちを相手する」


シャドウビー、そうつぶやくと康太の体を覆っていた鎧が剥がれていく。ウィルが鎧から康太の分身となって双剣を構え、射撃系の魔術師に対峙する。


「よし、それじゃあ行こうか」


槍を軽く振るいながら康太は仮面の下で笑みを浮かべる。剣を使う魔術師。その実力がいかほどか、康太は純粋に楽しみだった。


康太から剥がれ、分身の姿となったウィルは康太から離れて射撃系魔術師を徹底的に牽制していた。


その体を自由自在に動かしながら魔術師相手に双剣を振るい続ける。人としての姿を維持しながらも、時折その体を鞭のように変質させながら攻撃することで変化を生み、相手になれさせない攻撃を繰り返していた。


ウィルの攻撃手段は主に剣撃。そしてそれ以外では打撃だけだ。はっきり言って攻撃手段の多さでは魔術師にはかなわない。


だがそれを補って余りあるほどの技量をウィルは有していた。


小百合、真理、康太、ほぼ常に一緒にいる近接系攻撃を得意とする魔術師たちの技量を学習し続けているのだ。


かつては短時間しか発揮できなかったその技量を、最近では慣れてきたのか長時間維持することもでき始めている。


康太と小百合がよく行う接近しようとするための動きを真似て、魔術師の魔術を回避、あるいは剣で迎撃しながらウィルは相手を追い詰めていく。


その姿はまさにブライトビーの影というにふさわしかった。


回避能力は折り紙付き、攻撃力は剣と打撃ということもあって決定打に欠けるものの、相手を翻弄するには十分すぎた。


相手の動きを止められれば十分、ウィルは自分に与えられた役割を正しく理解していた。


あくまで足止めと時間稼ぎ。ウィル本人の戦闘能力はさほど高くはない。完全に凍らされてしまえば動くことはできなくなるし、いくら攻撃という攻撃がほとんど意味をなさないとはいえ魔術によって干渉されればどのような効果を及ぼされるかもわかっていない。


だからこそ回避こそが重要である。そして何より相手の攻撃手段が射撃が多いということもあってウィルにとってもよい練習台となる。


康太や真理、そしてその師匠である小百合は射撃系の攻撃をほとんどしてこない。康太と一緒に行動することで射撃系攻撃に対する対応はほぼ正確に理解しているものの、康太の動き抜きで、ウィルだけが動く状態で射撃系魔術と相対したことはないのだ。


時に康太の動きを真似、時に真理の動きを、時に小百合の動きを真似て回避していく。それでも避けられない場合はその体を触手のように変化させて建物の一部を掴み、その場に向かって高速で移動する。


明らかに人間にはできない動きに、相対している魔術師もペースを握ることができずにかなり苦労していた。


魔術を放っても避けられる。対して相手の攻撃は速く、障壁を展開してもその裏側から攻撃してくる。


全体的に障壁を展開することも考えたが、魔術師から見てもウィルが時間稼ぎを目的としているのは明らかだった。


相手の都合に合わせることはないと思い反撃し、ウィルを倒してもう一人の魔術師の援護に向かいたい。可能ならば建物の中に入っていった二人を追いたい。


だが相手の動きがそれを許してくれない。ウィルが康太の体から剥がれたのを見ていた魔術師は、この目の前にいるのが人間ではないのは理解できていた。


何かしらの魔術。だがそれ以上のことはわからない。いったいどのような魔術なのかと分析しながらも、その性質をほぼ正確に理解しつつあった。


問題はどのように攻略するかである。


相手の攻撃手段が近接攻撃に限られているというのは魔術師にとってはかなりのアドバンテージだった。


相手の攻撃が届かないような状況を作り出せばそれだけでウィルは取れる手段がなくなるのだから。


ウィルの攻撃を一つずつ分析し、ウィルが攻撃を届けることができる場所を把握し、どのようにすればウィルを無力化することができるのかを、魔術師は一つずつ分析していった。


分厚い壁などで覆うことができれば、ウィルを無力化することは可能だと判断した魔術師はそれを実行に移そうとする。


ウィルは視覚か、あるいは別の何かで状況を確認しているようだった。そこで表向きはわからないように地下に空洞をいくつか作り出し、落とし穴を作り出していた。


索敵の魔術が使えれば簡単に見破れるトラップだ。魔術師相手に通じるようなものではない。


だが相手は人間ではなく魔術そのもの。ある程度の法則性を持って動いているだけに過ぎないと魔術師は判断していた。


正確には何十人もの人間の意志が込められた、一種のAIのようなものなのだが、それを看破しろというのは無理というものだろう。


だが何十人もの人間の意志があろうと、見破れないものは見破れない。ウィルは索敵の魔術が使えるわけではないのだ。


動き回るうちに、ウィルは魔術師の目論見通り、薄く、もろくなっていた地面を踏みぬいてしまう。


バランスを崩し、落下しかける途中、即座に体を変化させて地上に戻ろうとするもそれを魔術師は周りの土を一気に変化させることで強引に抑え込もうとしていた。


勝った。


魔術師が勝利を確信した瞬間、唐突に落とし穴の底の地面が急激に隆起してウィルを空中に打ち出した。


「ダメだよビー、足元には注意しなきゃ・・・っと、今はビーじゃないのかな?」


声がした方向からやってきたのは先ほど逃げた三人の対応に行った幸彦だった。


まだ向こう側に行ってから数分しか経っていないにも関わらずこちらにやってきた。それがどういうことなのか魔術師は即座にこの男は強いと認識していた。


空中に投げ出されたウィルは建物を伝って幸彦のすぐ横に着地する。


「なるほど、なかなかいい動きをするね。ビーの教え方がいいのかな?どうだい?ビーにいつもやってるみたいに鎧になってみてくれないかな?」


幸彦が体を動かそうとした瞬間、ウィルは幸彦の体にまとわりつき、その体の動きを阻害しないような鎧の姿になる。


「・・・うん、いいね。それじゃあ、共同戦線と行こうか・・・!」


拳を鳴らして笑う幸彦。その姿は重騎士というにふさわしかった。










幸彦とウィルが合流した段階で、康太は自分が対峙している魔術師の実力をほぼ正確に把握していた。


剣の実力はそこそこ。普通の魔術師ならば困惑するところだろうが、康太が捌けないほどではなかった。


小百合のそれに比べると数段劣る。


習得している魔術に関しても近接戦を主体とし、近接戦を有利に進められるようなものが多いようだった。


身体能力強化を始め、エンチャントの魔術や土属性の魔術によって相手の足場を崩したりといったテクニックも使ってくる。


そして相手が離れた時には念動力で強引に引き寄せたりと、とにかく接近戦を求めているような素振りがあった。


接近戦の実力もそこまで高いとは思えなかったが、康太はその思惑に乗ることにした。


剣による斬撃が襲い掛かる中、康太は槍によってその剣撃を防ぎ続けていた。時には受け止め時には受け流し、完全に足を止めて魔術師としての戦いとは思えないような攻防を繰り返していた。


こんな戦いは久しぶりだった。いや、もしかしたら初めてかもしれない。魔術師になってからまともに相手が武器を使って攻略してくるなんてほとんどなかったのだ。


時折武器を使ってくるものはいても、主力攻撃は魔術であって武器を主体にしてきたものではなかった。


康太は少しだけ、本当に少しだけこの戦いが楽しかった。今まで培った技術をすべて使うことができるこの瞬間が、少しでも長く続けばいいのにと思ってしまうほどに。


そして相手がわずかに距離を取った瞬間、康太も接近する。槍の射程距離に相手を入れ続けるその動きに、相手も康太が近接戦を求めているということに気付いたのだろう。


魔術師はその外套を脱ぎ去り、剣と仮面だけを構えて康太と対峙していた。


その姿に、康太は一瞬目を丸くしてから自身も外套を脱ぎ去る。


身に着けていた装備の類もすべて外され、身に着けているのは槍と仮面だけになった。


相手も同じことを考えているのだと、康太は理解していた。


魔術は使わず、武器だけで決着をつけよう。二人はその考えが一致していた。


魔術師にとって、武器を使うことは少ない。だが武器を有していれば相手にとって圧力をかけることができる。


だが武器の本領を発揮しようと近づいた瞬間、たいてい戦いは終わってしまう。そのため自ら磨いた技術を発揮する場は少ない。


このように、同じようなタイプの魔術師に出会わない限りは。


体と武器だけになった二人は、競うように自らの技術をぶつけあっていた。


魔術師にあるまじき戦いだ。魔術師の戦いとは到底思えない。魔術を使わない魔術戦などありえないのだ。


技量的には康太の方が上だ。だが相手も捨てたものではない。康太が反撃するとそれをかろうじて受け止めたり受け流したり回避したりと、近接戦の基礎的な動きはできている。


対して康太は相手の攻撃に対して的確な防御ができている。余裕を持って対応できているため反撃も要所要所で可能になっている。


だが攻め切れない。相手の技量もそこそこあるため、安全面を考えている状態では攻め切ることができない。


相手にとっては康太の方が技量が上なのはわかりきっているだろう。だからこそ危険を冒してでも斬りこんでくる。


その気迫は康太をわずかに後退させるだけのものがある。だが康太は常日頃から、自らを殺しに来るほどの殺気と威圧を受けているのだ。わずかに下がることはあっても怯むことはありえない。


相手の鬼気迫る剣撃に対し、康太はあくまで冷静に槍を操り対応する。


剣と槍の攻撃に両者が慣れ始めた頃、康太はそろそろリズムを変えるかと槍を振り回した状態で剣をはじくと相手の腹めがけて回し蹴りを放つ。


腹部に蹴りを受けた魔術師は後方に弾かれるが、蹴られると同時に後方に跳んで衝撃を緩和したようだった。


康太は槍の構えを変える。槍だけではなく体全体を武器とした戦い方に完全にシフトさせた。


槍だけではない、康太は徒手空拳もある程度習得している。そして槍術と徒手空拳の合成こそ康太が得意とする近接戦闘である。


槍以外にも攻撃手段があったことに相手は驚いているようだった。そしてそれこそが康太の本当の近接戦の姿なのだと悟り、小さくため息をついてから再び剣を構える。


構えは変えなかった。おそらく相手は剣術以外は身に着けてこなかったのだろう。無理もない、普通の魔術師ならば複数の技術を身に着けることなどあり得ない。


もっとも剣術を習ったことで体捌きはできている。ある程度真似ることはできるのだろうが、康太を相手にするには付け焼刃では失礼だと判断したのだろう。


なかなか好感が持てる相手だなと、康太は構えたままゆっくりと近づいていく。


康太の槍と相手の剣が打ち付けられ、剣の動きに合わせて槍が動く。康太の槍の動きに相手の剣も反応するが、同時に放たれる康太の拳や蹴りに対しては完全には反応しきれていなかった。


体を強引に動かしてその攻撃をよけてはいるものの、体勢が崩れ、次の動作が遅くなり、そこを康太に攻撃され始める。


何度も拳が体にめり込み、何度も蹴られ、時折槍の攻撃も命中し始めていた。


もはや勝敗は見えた。だがそれでも目の前にいる魔術師は立ち続け、剣を構え続ける。


康太は一切油断をしなかった。そしてその油断のなさこそが、相手の魔術師にとってはうれしかった。


再び槍と剣が交わり、その次の瞬間、康太の拳が相手の魔術師の顔面を捉える。体がのけぞった瞬間、康太の渾身の回し蹴りが顔に放たれ、魔術師はそのまま意識を手放した。


自らが脱ぎ去った装備と外套を再び身に着けた康太は、近くで戦っていたウィルの様子を見に来ていた。


当初康太は、ウィルが自分の姿をして戦っているものと思っていたが、その目に映ったのは大柄な鎧を纏った人物が魔術師を追い詰めている瞬間だった。


いったいどういうことだろうかと康太は疑問を持ったが、幸彦がウィルを纏っているのだと気付くのに時間はそれほどかからなかった。


何せ動きが幸彦のそれそのものだったからである。


康太のように素早く動くウィルの姿はよく見ているが、あのようにどっしりと構えた状態でのウィルはなかなかに新鮮だった。


あの鎧姿でいられると非常に強い圧力を生み出す。現にあの魔術師も距離を取り続けようとしているがそれができていない。


そこまで速く動いているというわけでもない。一気に距離を詰めるということをしているわけでもない。

なのに相手は幸彦から離れられないでいる。


いったいどのような魔術で戦っているのか、康太には想像もできなかった。


「バズさん、手伝いますか?」


とりあえず自分は片付いたのだから手伝いをしたほうがいいのではないかと思って声をかけたが、幸彦は康太の方に意識を向けて笑って見せた。


「いいや、必要ないよ。ビーは建物の中を調べに行ってくれるかい?ベルたちがどうしてるのか少し気になってね」


「大丈夫ですか?まだ周りに敵がいないとも限りませんよ?」


「見張りくらいはするさ・・・まぁ、どちらにせよ誰かが止めないといけないだろうからね・・・早いうちに調べられる場所を潰しておきたいっていうのがあるかな」


幸彦は意識を康太から別の方向へとむける。いったいどこを見ているのかはわからない。おそらく幸彦自身もどこに何がいるのかを把握はしていないのだろう。


だが何かがあると考えているようだった。正確に言うのなら、より強い何者かがいると感じ取っているようだった。


「了解しました。ウィルはそのまま預けておきます。ウィル、しっかりバズさんを援護するんだぞ」


康太の言葉にウィルは体の一部を変化させて右腕を作り出すと親指を突き立てる了解のサインを作り出す。


幸彦の防御能力はもともと高い。それに加えてウィルがいればその防御能力は鉄壁に近くなるだろう。


この場を一人で任せるのは少々不安があるが、幸彦の言うように調べられる場所を虱潰しにするならば、一つ一つを確実につぶしていかなければならない。


調査班の人間に任せるのも手かもしれないが、康太たちだけでもある程度何があるのかを把握しておく必要がある。


「それじゃああと頼みます。何かあったらすぐ呼んでくださいね」


「了解。いってらっしゃい」


まるでバイトに行くのを見送るかのような気安さで幸彦は声をかけていた。戦闘中とは思えないほどの気軽さである。


だが目の前で対峙している魔術師は緊張を全く解けていない。


それどころかいつこの鎧が襲い掛かってきてもおかしくないとさえ思ってしまっていた。


「さてさて・・・待たせてすまなかったね。それじゃあ続きをやろうか」


その言葉は魔術師にとっては絶望感あふれるものだった。


鎧の下、そして仮面の下で歪んだ笑みを浮かべている幸彦の顔は見えない。だがその威圧感が増していることで、戦闘態勢に入っているということは容易に想像できていた。


幸彦が一歩前に出るたびに、魔術師は後退しようとする。だがその分体が引き寄せられてしまっていた。


魔術を使って攻撃し何とか幸彦を押し戻そうとするも、幸彦はエンチャントの魔術を駆使して攻撃魔術のすべてを叩き落としてしまう。


土属性の魔術を使おうとしても、幸彦は即座にそれを察知して同様に土属性の魔術を発動して相殺してしまう。


逃げなければならない、だがなぜか体に力がかかり逃げられない。


その原因は幸彦が発動している磁力の魔術だった。


相手と自分が近づくように発動された磁力の魔術は、相手に常に力をかけ続けている。


空を飛ぼうとしても、走って逃げようとしても同じこと。幸彦にとっては相手を叩き潰す方法が少し変わるだけの話である。


「うちの子たちは優秀だろう?君たちとは大違いだ。数人、とてつもないのがいるのかもしれないけれど、それじゃあだめだ。やっぱり全体的に育てないとね」


幸彦は感じ取っていた。敵の中には相当強い魔術師もいることを。康太の話でしか聞いていないが、小百合クラスの魔術師がいることも把握している。


だが大規模攻略をするならば、一人の魔術師だけが強くては状況を変えることはできない。


全体的に確かな実力を有し連携しなければ魔術協会を敵に回すことはできない。


協会で活動している幸彦はそのあたりをよく理解していた。


「彼らが調べ物を終えるまでに、君を倒さなきゃいけないから、ちょっと急ぐよ。申し訳ないけどね」


拳を鳴らす幸彦、魔術師はどうすればこの男を倒す事ができるのか、必死に考えている。だがその答えは一向に見つからなかった。


この数秒後、魔術師は意識を喪失することになる。


他でもない幸彦の拳を受けて。


誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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