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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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経験が活きる

康太と幸彦たちが合流してから一分程度で文も康太たちと合流していた。


「調査部隊の撤退は無事に終了したわ。私たちはこのまま遊撃に当たるわよ」


「お疲れ、他のチームはどう動いてるかわかるか?」


包囲網が完成している以上、どのように包囲していくかが重要になる。他にも離脱していない調査班はいるだろうが、優先されるのは調査班よりも相手が築いている拠点の攻略になるだろう。


「師匠がいるチームは線上の端から円の印がついているところに向かう予定らしいわ。地図の印がある部分の端から端まで確認したいみたい。そのついでに調査班の人たちを援護するって言ってたわ」


「オッケー、エアリスさんは放置しても問題ないだろ。調査班はどれくらい離脱できてるんだ?」


「今四割程度だって言ってたわ。まだ奥の方にいるんでしょうね」


「結構範囲広いからな、かなり分散してたみたいだし・・・あと半分以上か・・・他のチームも着々と逃がしてるっぽいな」


康太たちだけが行動しているならともかく、他の戦闘班の魔術師たちも着々と斬りこんでいるらしい。


そしてほかのチームも康太たちと同様に襲われている調査班の人間を逃がしていっているのだろう。


優秀な人間が多いとこちらが楽だなと康太は薄く笑みを浮かべていた。


「で、どうするんだ?円の印に突撃か、このまま調査班を拾いながら動き回るのか」


「悩みどころだね・・・包囲が完成してて信頼できるのならある程度戦力がそろってから突撃してもいいと思うけど・・・」


「相手に師匠クラスがいれば包囲網は食い破られかねない。そうなれば俺たちがそれを押さえておくしか・・・俺ら以外に師匠クラスに対抗できそうなのはエアリスさんとアマネさんくらいですよね?」


「あと連携すれば数人で対抗できそうなのは見かけたけど・・・さすがに全員は把握できてないなぁ・・・」


今回の作戦もかなりの人数の魔術師が参加しているために、幸彦も全員の顔と名前、もとい仮面と術師名を覚えることはできなかったようだ。


こればかりは仕方がない。


「私が相手の立場だったら見つかったのなら即時退却するわね。証拠品とかは可能な限り壊すか持ち出して」


「そうなるよな。一度切り込んで相手の様子を見たいな。そもそもこの円の印の部分が拠点かどうかも定かじゃないけど・・・」


地図上では丸が描かれているその場所は何もないことになっている。こんな場所に拠点を作るということは何かしらの意味があるのだろうが、これだけの山間部に何か設営するだけの意味を見出すのは難しかった。


「とりあえず行動しましょうか。一度動きながら丸の書いてある地図の場所まで行ってみて、もし強い敵がいたら応戦しながら味方が来るのを待ちましょう。それなりの量の敵がいると想定して油断しないように行動することを心掛けること。ビー、状態は?」


「幸い装備はまだ全部あるからな。魔力も補充させてもらえればありがたい。体力も有り余ってるからいくらでも暴れられるぞ?トゥトゥは?」


「魔力は多少回復したからまだまだいける。バズさんは?」


「ようやく体が温まってきたところさ。ベルは大丈夫かい?」


「魔力、装備共に問題ありません。じゃあビーは私から魔力を吸い取って少しでも魔力を回復させておきなさい。移動は私がやるわ」


「すまないねぇ、いつも苦労を掛けるよ」


「それは言わない約束でしょ・・・って何やらせるのよ。さっさと行くわよ」


康太の軽口を流しながら、文は全員の体を磁力で操作すると一気に空中へと飛翔する。康太はその間に文に黒い瘴気を纏わせ、魔力を徐々に吸い取っていった。


魔力の残量はまだまだあるとはいえ、常に最高魔力を用意しておいて損はない。特に康太の場合魔力を回復するのにも時間がかかってしまうのだから。


「地図だと・・・あっちね・・・なんか変な建物みたいなのが見えるんだけど?」


「なんだあれ?ビル・・・とかじゃないな・・・なんだろ」


地図上では何もないことになっているのだが、康太たちの目にはあまり目にしない建造物がいくつか木に隠れるようにして立っているように見えた。


一体なんだろうかと首をかしげていると、幸彦がその建物を見て唸り始める。


「んー・・・ぱっと見、観覧車とかジェットコースター的なものに見えなくもないなぁ・・・でも小さいしだいぶ古びてる・・・潰れた遊園地とかかな?」


「地図上には表示されてませんでしたけど・・・っていうかこんな山の中に?」


「近くに道路は通じてるからね・・・バブル時代の忘れものってところじゃないかな?地図表示でも載らないくらいだから規模はそこまで大きくないんじゃないかな?」


「隠れ家にするにはもってこいって感じですか・・・電気はさすがにもう死んでるでしょうけど、建物自体はたくさんありそうですね」


「あんまりいい予感はしないなぁ・・・潰れた遊園地って何かでそうじゃない?」


「幽霊的な?魔術師が幽霊を怖がってどうするんですか」


「いやまぁそうなんだけどさ。鬼が出るか蛇が出るか・・・」


「魔術師は出そうですけどね」


移動しながら康太たちはそんなことを話し、地図上にある印のところまでやってくる。


そこは幸彦が見た通り、潰れた遊園地のようだった。


規模はかなり小さいが、ジェットコースターや観覧車、メリーゴーランドやコーヒーカップなどの設備はそれなりに存在していた。


「うわぁ・・・雰囲気あるね・・・」


薄汚れた看板、さびたフェンスや遊具の類。建物の窓ガラスなどはほとんどがひびが入ったり割れたりしている。


地面はもともと規則性のある石畳で構成されていたのだろうが、割れたりコケが生えていたりと原形をとどめている部分はかなり少なかった。


いかにも廃墟といった様相を出しているこの遊園地に、全員が視線をかつて稼働していたであろう遊具へとむけていた。


「ゲームでこういうのありそうだよな。ホラゲーとかで。遊園地のキャラクターの亡霊とか出てくるんだよ」


「建物の中に着ぐるみとかあるんじゃないの?探す?」


「あぁいうのは中身がなければただの服だからな。昔あれが怖くてさ・・・大泣きした記憶があるわ」


「中の人なんていない。あぁいうのはキャストというんだよ。夢を壊さないように必死なのさ」


それぞれがこの廃墟となってしまった遊園地に思い思いの感想を抱きながらそれでも警戒は怠らない。


この辺りがちょうど印のあった場所に違いないのだ。すでに文はそれらしい形跡を見つけている。


「見て、随分と木が根を張ってる・・・すごい勢いね・・・」


文の指さす先にはこの遊園地の敷地の一部、タイル部分にまで根が食い込み大きく成長した木があった。


この遊園地を囲んでいる木々が異様に大きく成長しているのに全員気付けた。それが異常の一部だとも即座に把握していた。


「ただ栄養価に優れてて、一気に成長したとか・・・そういうことはないよな」


「周りの建物の風化具合から察するに、たぶん十年から二十年程度は放置されてるでしょうけど、その十年二十年で木々があれだけ育つっていうのはちょっと違和感があるわね・・・しかも雑草とかがたくさん生えるならともかく、木だけが妙に元気に育ってるっていうのが気がかりだわ」


「どんぐりの木が一夜にして一気に成長する映画を思い出すな」


「懐かしいね、妙な踊りをやると木々の成長が早くなるんじゃないかと思ってた時期があったよ」


「だったらほほえましいんですけどね・・・明らかに人為的に成長させられてますよ・・・バズさん、そういう魔術に心当たりはありますか?」


文は土属性や生命に関する魔術はあまり得意としていないために、それらを得意としている幸彦に意見を求めた。


幸彦はこの周りの木々の様子を見て口元に手を当てて悩み始める。


「確かに不自然に大きく育っているね・・・他の草花や、少し遠くにある木々に比べると明らかに違和感がある成長具合だ。強化に近い魔術を使ったのは間違いない・・・多少無理をしている感があるね。土の状態をよくしながらやっていったのだろうけど、木に少し負担ができてる」


「何者かがこの遊園地を隠そうとした・・・これは確定でしょうね。ここを拠点としている可能性が高いわ」


「索敵に反応は?」


「今のところはないわね・・・とはいっても、ここ小さいといっても遊園地だから全部を索敵範囲には入れられないわよ?」


文の索敵の範囲を超えるレベルでの広さがある時点でかなりの広範囲なのだが、これだけの空間がありながら、ほとんどの人間がこの空間に気づかなかったというのもおかしな話である。


その違和感に真っ先に気付いたのは、索敵を展開していた文だった。索敵を発動していたのが原因ではない。


彼女はかつて教わったことがあるのだ。


現代における最高の魔術師から、その技術の一端を。


「ビー、トゥトゥ、どっちでもいいわ、この辺りの建物を攻撃して壊して。方法は何でもいいから」


「お、なんだなんだバイオレンスか?どっちがやる?」


「壊すのはお前の得意技だろ?譲るわ」


「師匠には負けるけどな。それじゃあ・・・ほいっと」


康太は近くにあった建物の一角にウィルの形を変え巨大な拳を作り出すと、噴出の魔術を使って思い切り殴る。


殴った瞬間、建物に亀裂が入り、その壁を大きく破壊していく。その瞬間文はこの遊園地内の状況をほぼ正確に把握していた。


「間違いないわね・・・索敵の阻害がかけられてる・・・!結構大規模よ」


「索敵阻害って・・・アリスが使えるやつか?今は確か廃れたとか言ってたような・・・」


「たぶん魔術として使ってないわ。方陣術として使ってる。建物そのものに使ってるみたいね・・・さっきから建物の中がどうにもうまく見えないのよ・・・目をそらされてる感じがする・・・意識しにくいというか・・・」


暗示や意識操作に近い魔術だ。アリスが使うそれとはまた別種ではあるが、文はかつてアリスからほんの少しだけその原理を教わったことがある。


多少種類が違ってもそれが索敵専門の阻害魔術であることくらいは理解できる。その理屈や術式まではわからないが、対抗策もある程度思いついていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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