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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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恐ろしいタッグ

幸彦は唐突にふってきた大量の水と、同時にやってきた倉敷を見て安堵の息を吐いていた。


一人での戦いと誰かと一緒に戦うのとでは単純に戦力の違いも出てくるが精神面でも大きく変化が生まれる。


それは相手にとっても味方にとっても同じこと。もっともその効果自体は真逆かもしれないが。


「バズさん!援護します!」


「いいね、涼しげでいいよ。せっかく夏なんだからそうでなくちゃ」


今幸彦たちがいるのは山のど真ん中なのだが、倉敷が波に乗って行動している姿は海を彷彿とさせる。


山の中の鬱蒼とした空気を吹き飛ばすかのような倉敷の攻撃と補助に、幸彦はやる気をみなぎらせていた。


若い子供たちにばかり頼ってはいられないと、姿勢を低くしてから足を大きく上げ、地面にたたきつける。


勢い良く叩きつけた足に呼応するように地面に亀裂が走っていき、周囲にいた敵の魔術師の足元の地面を陥没、あるいは隆起させていく。


著しくバランスを崩したところに倉敷の作り出す水が勢いよく流れ込んでさらにバランスを崩させた。


土と水、この二つの属性を前にして相手がとった行動は実にわかりやすかった。地上にいれば二つの属性の餌食になると判断し、即座に空中に逃げ出したのである。


対応としては間違っていない。土はもとより、水も基本的には落下した状態で操ったほうが楽なのだ。


空中に出ればその分相手に負担を強いることになるのは目に見えている。


空中に飛び出たその判断は決して間違ってはいない。もっとも、周りにこの二人以外に敵がいないのならの話ではあるが。


空中に飛び上がり、木のさらに上にまで逃げた魔術師を待っていたのは上空に作り出されていた雷雲だった。


「夏といえば海、山・・・あとは嵐っていうのが相場だね。全部楽しめていいじゃないか。うらやましいよ」


幸彦の言葉に呼応するかのように倉敷が強烈な水の勢いを作り出し、上空に逃げた魔術師をさらに上空へと押し上げた。


そしてそれを待っていたかのように、上空にたどり着いた魔術師を雷雲が迎え入れ、雷撃をお見舞いする。


雷の直撃を受けた魔術師はそのまま落下していく。空中で、しかも水にぬれた状態では満足に防御することもできなかったようだ。


「いやぁ、やっぱり誰かに頼れるっていうのはいいね。僕一人で戦わなくてもいいんだから」


「そんなこと言って・・・もう何人倒したんですか?そこらへんに魔術師が転がってますよ?」


「あはは、そんなのいちいち数えていられないさ。きっとビーはもっと派手にやっているんだろう?」


「あいつのはいつも通りですよ・・・人間らしからぬ動きをしてます」


「うんうん、いいことだ。強くなっていく子供たちを見るのは実に楽しいね。まだまだ負けていられないって気になってくるよ」


康太が活躍しているのを見ると幸彦もやる気が出てくるのか、腕を軽く回しながら楽しそうに進んでいく。


この人に対しては援護なんて必要ないんじゃないかと思ってしまうが、こういう人ほど援護を必要とするのだ。


康太のように突っ込むタイプではあれど、幸彦の場合は康太ほど回避に専念するタイプではない。


明かに避けられる攻撃をよけないということはないが、康太に比べると機動力に劣る幸彦は攻撃をよけるよりも受け止めたり弾いたりする方が多い。


向けられてくる射撃系攻撃を緩い動きでよけながらどうしても避けきれない攻撃に関してはエンチャントを込めた拳で叩き落しているのが目立つ。


魔術を殴っているという風に言えばいいだろうか。普通なら殴ることができないような現象系の魔術も簡単そうに弾いている。


一体どういう魔術を使っているのか、倉敷には想像もできなかった。


「調査隊が撤退するまでにここいらの連中は片付きそうですね」


「歯ごたえがないなぁ。とはいえこれもまだ斥候だろうね。斥候同士の小競り合いなら向こうが上・・・本職が出てからは・・・さてどうなるかな?」


幸彦はこの辺りに出没している魔術師は敵側の斥候程度にしか考えていないようだった。そしてそれは康太と文も同意である。


倉敷も何となくではあるが理解していた。今まで戦ってきた魔術師の中で、いわゆる主力と思われる敵に比べると、戦闘能力という面ではいくらか劣る。


その代わりに相手の先を読んで動いているところなどまさに斥候らしいというべきだろうか。


「トゥトゥ、すまないけどもう少し手伝ってくれるかな?ようやく体が温まってきたところなんだ」


「了解です。動きやすいようにフォローしますよ。とはいえ俺も魔力を回復させたいので要所要所になりますよ?」


「構わないよ。適度にフォローしてくれたほうが調子が上がるってものさ。まだまだいそうだし、これからが本番さ」


そういいながら楽しそうに笑う幸彦を前に、倉敷はあきれていた。この人もまともかと思ったらそうじゃないんだなと、康太の血筋の濃さに少し驚いていた。


康太が素早く動き、敵を翻弄するのに対して幸彦はとにかく一直線、前進しながら相手の攻撃をすべて無力化していく重戦車のような戦い方を好んでいた。


まっすぐに、ただひたすらにまっすぐに。連続で放たれる攻撃を意に介さず、ただ愚直に近づいてくる幸彦の姿は、相手にとって非常に恐ろしく見えたことだろう。


その仮面の下に浮かべられた笑みを見なかったことが、相手にとって幸運だったのかもしれない。


おそらくは身内以外は誰も見ないであろう笑顔。見ることのできない笑顔。その笑みは人間が浮かべるそれにしてはひどく歪んでいた。


康太がするそれとは別。だがこれもまさに蹂躙の二文字がふさわしかった。


魔術を無力化している。だがその無力化の方法は決して超人的な能力などではなかった。


相手が放つ攻撃に対して有効な、あるいは正反対の性質を持った属性を自らにエンチャントし、拳を使って叩き落す。


射撃、特に弾丸系の魔術であればこれだけで事足りる。範囲攻撃の場合はその体に強化と防御型のエンチャントを張り巡らせ、強引に突破する。


魔術における防御能力に長けた突破の仕方だ。耐久力面で見れば幸彦のそれは康太をはるかに凌駕する。


もともとの耐久力の差もあるが、康太とは全く違う戦い方をするのだなと倉敷は炎と雷の魔術が飛んできたときのみ水を放って防御していた。


単純な炎の弾丸ならば幸彦に傷一つ負わせられないだろう。だが大量の炎を延々と展開されれば窒息する恐れもある。


雷の属性の攻撃は方法によってはいくらでも防御できるが、動きを阻害される可能性があるためダメージにならなくとも相手に有利な効果を及ぼす。幸彦の戦い方を見ている限り動きを阻害されるのは良くないと考えた倉敷の判断だった。


さすがに康太たちと一緒に行動しているだけあってサポートが上手いなと、幸彦は倉敷の評価を高めていた。


視界を防がないように、だがそれでいて相手の攻撃を受け逃すことのないように徹底した防御。さらに相手の足元に高い水位の水流を展開することで動きにくくしている。


要所要所で相手への攻撃も忘れていない。相手が幸彦だけではないと意識させるだけで、その集中力は散漫になり、幸彦が動きやすくなる。


幸彦からすれば絶妙なタイミングと角度から放たれる見事な援護だ。良く行動を共にする魔術師でもここまで的確な補助はできない。


だが倉敷からすればほとんど動かず、ただ一直線に相手に向かって行く幸彦は援護しやすかった。


康太のように四方八方に飛び回るような魔術師に比べれば幸彦の動きは止まっているも同然だった。

相手からすればこの布陣は厄介極まりなかった。


先ほど上空に逃げた魔術師がどうなったかわかっているため、上に逃げることはできない。木々の枝に乗ってもいいだろうが、人の体一つを支え切れるだけの枝は限られている。動きを読まれかねない。多少動きにくくとも、地上で戦う以外に選択肢がないのだ。


水を操っている術者、倉敷が本気を出していないのは目に見えている。明らかに温存しながら戦っているにもかかわらずこの精度。そしてそのすべてが近づいてきている大柄の魔術師、幸彦のためになっているということは理解していた。


それだけの力を有しているのは理解できる。先ほどからどの属性の攻撃を放っても簡単に無力化されてしまうのだ。


術式の発動、切り替え、タイミング、そして的確な防御。どれをとっても戦い慣れた魔術師のそれである。


この魔術師を倒さなければ自分はやられる。周りの仲間に助けを求めようとしたものの、すでに周りにいたはずの仲間のほとんどが殲滅されていた。


索敵で把握してみれば、もう一人、魔術師らしき人物がこちらに高速で飛んできているのがわかる。


その姿は魔術師とはいいがたい。全身鎧を纏い、槍を携えたその姿は魔術師とは言えなかった。


増援が来る前にこの魔術師だけでも片づけなければと、今持てる最大威力の魔術を放とうと集中を高める。


そして幸彦も相手のその様子を感じ取り、これ以上長引かせるのは危険と判断したのか、軽く準備運動をするようなそぶりをしてから姿勢を低くする。


先ほどまではただ歩くだけだった幸彦の姿勢が変わったことで、倉敷も援護の方法を変える。


相手の魔術師の周囲に濃い霧を作り出し、一瞬ではあるが幸彦の姿を見えなくした。もちろん相手も視界を阻害されることは嫌がるため、風の魔術を使って霧を吹き飛ばしたが、その一瞬で十分だった。


霧を吹き飛ばした瞬間、眼前に幸彦の拳が魔術師に迫っていた。


衝撃が加わった瞬間に世界が勢い良く回った。


何が起きたのかわからないほどの早業、そして回転する世界の中、その体めがけて強い衝撃が加わる。


勢いよく木に叩きつけられ、何度も地面を転がり、脳震盪を起こした魔術師はそのまま意識を喪失する。


「ありゃ、間に合いませんでしたか」


「少し遅かったね。もうちょっとで格好いいところを見せられたんだけど」


そんな声が彼の耳に届いたかどうかは定かではない。


だが少なくとも、近接系魔術師二人を同時に相手しなくてよくなったということが彼にとって唯一の幸いだったのかもわからない。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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