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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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噂の真偽

包囲網を抜けようとする中、包囲網を何とか継続しようと生き残っている魔術師たちが南側に向けて集結しつつある。


当然逃げようとしている調査部隊も攻撃を受ける可能性が高かった。だがその攻撃が届くよりも早く、それは襲いかかった。


彼らが見たそれは、言ってみれば今までの魔術師の戦闘の常識を大きく覆す、異端そのものだった。


互いに魔術を放ち合い、その対応、そしてその隙をついて攻撃する。それこそが魔術師の戦いだ。


圧倒的な実力差を持って相手を倒すのもよし、技量と知略によって相手を攻略するのもよし、互いの得意な条件に誘い込むもよし。


人数差も個人の才能差もひっくるめて、魔術によって行うのが魔術師同士の戦いだ。


それを目にした魔術師たちは、戦っている彼らが魔術師であるとは思えなかった。


遠くから見てるのに、索敵をしているにもかかわらず、その姿を一瞬見失うほどの速度。周囲に木々があるのも原因の一つだろう、だがそれを差し引いても速い。いや、この木々が密集した場所だというのに平地と同じように動けているその機動力に驚くべきだろうか。


相手の攻撃を避け、木々を足場に時には空中を駆け、接近して殴り、斬り、相手を倒していく。


赤黒い鎧が姿を変え、時には鞭のように、時には巨大な剣になり、また時には巨大な拳に形を変えて襲い掛かる。


それを操る赤黒い鎧を纏った魔術師と思われる人物は魔術師というには明らかに異様な姿をしていた。


槍を持ったその魔術師、背中に二本の剣を携え、時にその剣が鞭のようにしなる触手のようなものと一緒に相手へと襲い掛かる。この魔術師のことを知っているものが調査部隊の中にいた。


「・・・あれは・・・ブライトビー・・・!」


「あれが・・・?あれがブライトビーなのか・・・!?」


かつてその姿を見たことがあるもの、初めてその姿を見たもの、どちらも同様に驚愕していた。


ブライトビー、デブリス・クラリスの二番弟子。破壊の継承者と呼ばれつつある、デブリス・クラリスの正統後継者と噂される戦闘特化の魔術師。


一番弟子のジョア・T・アモンと違い、戦闘能力に特化しており、その戦闘能力は支部長が認め、本部の人間にも恐れられているという噂が支部の中には流れている。


いくつもの本当か嘘かもわからない噂、中には明らかに誇張されたものもあるのだと彼らは思っていた。


だがあの姿を見て、その認識は大きく変わった。


人間の動きではない。


魔術を使って姿勢制御を行っているのはわかる。魔術を行って加速、減速を行っているのもわかる。魔術を使って攻撃しているのもわかるし、魔術師として戦っているということも十分に理解できる。


だがあんな動きを人間ができると思えなかった。


上下左右も関係なく、周囲の木々も邪魔ではなく相手の攻撃を防ぐための壁、あるいは自分の足場として即座に判断して利用している。


瞬間的な判断能力、そしてその判断を即座に実行に移すことができる魔術の扱い方。そしてその無茶苦茶な機動についていけるその肉体。


どれをとっても速すぎる。動体視力を極限まで強化したところで、思考までを加速できるわけではない。判断能力を加速できるわけではない。


それができている魔術師『ブライトビー』敵対したもののほとんどが、魔術師として満足に活動できないようになっているというあの噂も、納得だった。納得せざるを得なかった。これだけの力を見せつけられては。


攻撃に容赦がない。相手の懐に飛び込んだ瞬間、槍と剣の連続攻撃、そしてとどめと言わんばかりに巨大な拳によって相手を殴り飛ばし木々に叩きつけて気絶させる。


鞭のようにしならせた赤黒い物体が相手の魔術師を縛り上げて地面に、木々に叩きつけられていく。


『蹂躙』


その言葉が最も似合うだろうその姿に、魔術師たちは戦慄していた。そして同時に安心もしていた。この魔術師は今は自分たちの味方なのだと。


「ビー、北西にはバズさんがいるからそっちはいいわ!あんたは北東に向かって!トゥトゥは北からくる連中を!」


「了解!その人らの誘導は任せた!」


目の前にいる少女の指示に、ブライトビーは何の異論も挟まずに従っている。そしてふと思った、この目の前にいる魔術師は何者であろうかと。


「えっと・・・君たちは・・・いや、君は一体・・・?」


「え?あぁ、名乗るのが遅れました。私はライリーベルと申します。今回の作戦に参加してます」


数が多すぎて全員を判別できなかったことを悔やむべきか、それとも判別できなくてよかったというべきか、ブライトビーの相方と呼ばれ、彼女自身も高い戦闘能力を持っているブライトビーの手綱役。


「さぁ、ここを抜けましょう。あっちはあいつらに任せておけば大丈夫です。何かめぼしい情報はありましたか?」


「え?あ、あぁ。今のところ大規模魔術を発動しようとした形跡はない。だが何者かが頻繁に訪れた形跡は見つかった」


「今後使おうとしていた可能性はありますね・・・了解しました。その事実を支部長に伝えてください。ここは私たちが」


隙間を縫うようにしてこちらに向かってきた攻撃を、ライリーベルは鞭を使って叩き落す。その姿を見て調査部隊は自分たちが足手まといにしかならないことを理解し、早々にこの場から離れようと行動を開始した。


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