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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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包囲殲滅戦開始

康太たちが集められたのはそれから三日後のことだった。


支部長室にはすでに調査が可能な魔術師と戦闘が可能な魔術師がそろえられている。


調査班はいつでも現地の調査が可能な状態になっているようだった。広範囲の索敵ということもあって準備も万端、それについていく護衛役の戦闘要員の魔術師も準備は万端のようだった。


事前に行われたアリスの索敵によって、大雑把すぎた地図から捜索地点はかなり狭まっている。


それでも広範囲であるとはいえ、より条件が良くなったと思うべきだろうとほとんどのものが感じていた。


「それでは集まってくれたことにまず礼を言う。全員のスケジュールを合わせるのはかなり骨が折れたけど・・・今日、件の資料にあった場所に調査に向かってもらう。場合によってはそのまま攻略作戦に移行するため、各自の情報伝達を密にとってもらいたい。この作戦が今後の魔術協会を左右するものであると自負したうえで、この作戦に参加してもらいたい!」


支部長の言葉に魔術師全員が気を引き締める。この作戦がどうなるかで今回敵対している魔術師たちとの戦いの結果が変わるといってもいい。


これはいわばその先駆けだ。


「現時点で他の支部も動き出している。我々も足並みをそろえることになる。他の支部からの増援や情報は得られないものと思ってほしい」


どうやらほかの支部との足並みをそろえるためにここまで人員を集めるのに時間がかかっていたようである。


相手に漏れていればそこまで、相手に情報が届いていなければ一網打尽のチャンスにもなるということである。


これは大きなチャンスである。


今回は調査の場所が人里から離れているということもあって昼間からの行動が可能だ。無論目立つような行動はとれないが、行動時間が長くなったと思えば悪いことではないだろう。


「調査班は各自地図と担当場所を確認し、問題がなければすぐに動いてもらいたい。戦闘班は各地点に移動、囲うような形で配置につき万が一の際はそのまま攻略戦に移行してもらうことになる。可能な限り戦闘は避けてもらいたいが、致し方ない場合は殲滅も視野に入れておいてくれ」


戦闘は避けるが殲滅も視野に。つまり戦うのではなく一方的に攻撃しろということでもある。


こちらが被害を受けるようなことがあればその分相手が得をするのだ。先に情報を掴んでこちらが一気に攻め込めば態勢が整う前に攻略できる可能性は十分にある。


康太たちのチームはもちろん戦闘班に割り振られている。春奈も同様に戦闘班に割り振られているが康太たちとは別の配置になっているようだった。


そして調査班の護衛役としてアマネの姿が見える。防御役としては適任だろう。攻撃はできないかもしれないが彼の防御ならば調査班を守りきることができると確信していた。


「なお、これだけの範囲だ。長時間の調査になる可能性もある。それぞれ体調管理だけはしっかりとお願いする。夏ってこともあって暑いから水分補給も忘れないように。あと山間部だから登山客もいる可能性があるから各員隠匿作業も忘れないようにしてほしい、大変だと思うが、よろしく頼む」


支部長の指示に全魔術師が小さくうなずく。戦闘要員は待機時間が長くなる可能性があるため、待っている間に集中を切らさないようにうまく緊張状態を維持しておく必要がある。


康太と幸彦はそのことをよく理解していた。緊張感の作り方、そして待ち時間における待機の仕方もよく心得ている。


倉敷は待ち時間に何をするべきか少し考えているようだったがそんな二人を見て康太は軽く倉敷の背を叩く。


「とりあえずはのんびり待ってよう。調査班の結果によっては俺らの出番はなくなるんだ。気張ってたって疲れるだけだぞ」


「そりゃわかってるけどよ・・・いつ戦いに行くかもわからないんだろ?」


「あんたと違ってそこまで戦いに慣れてるわけじゃないのよ?か弱い乙女なんだから」


「いや、お前はこいつと同類だろ。堂々としてるじゃんか」


文も康太ほどではないが戦闘経験は豊富だ。独特の緊張感とでもいうのか、戦う前の感覚を維持することはできるようで平然としている。


倉敷はこういった大規模な戦闘の経験が少ないためどうしても緊張してしまっているようである。

このままでは十全の実力を発揮するのは難しいかもわからない。


「まぁいつも通りだよ。俺が突っ込んでお前らがフォロー、バズさんには背中を支えてもらう。何も変わらないって」


「そういわれると楽かもしれないけどさ・・・他にも人がいるだろ?戦闘職の人間・・・特に今日はエアリスさんもいるじゃんか」


自分が世話になっている魔術師がすぐ近くにいるからか、倉敷はいいところを見せようといつも以上のやる気があるらしい。


そのやる気が空回りしないかどうかだけが心配ではあるが、倉敷ならば途中で慣れてくるだろう。

今回は倉敷の実力も十分に発揮してもらわなければいけなくなるかもわからない。


「そういえばアリスは?もうお役御免なの?」


「あぁ、範囲をここまで狭めてくれただけで十分だってさ。あとは俺らの仕事だ」


広範囲にわたり索敵をする必要がなくなり、ある程度の範囲に狭まったのはアリスが事前に調べておいてくれたからだ。


その場所にいた不審な魔術師の存在やその痕跡を頼りに書き替えられた地図を見ながら、康太はアリスが行った索敵の精度を信頼するとともに今日の状況を確認しようとしていた。


「天気予報はどうなってたっけ?」


「一応曇りね。雨は降らないみたいだけど、天候的には変えやすいいい感じなんじゃない?」


「連絡をくれればいつでも雨は降らせるぞ?範囲は狭いかもしれないけどな。他の魔術師たちと連携できれば周辺の山一帯を雨にすることもできると思う」


「さすが人数集まるとやることが違うな。前の百七十二号の時もそうだったけど、人数集るとやることの規模が違う」


数の利を前面に押し出した戦いになるが、こうした後方支援ができるのも魔術協会の強みだ。


今回行く場所は山間部、移動そのものが多くなるため調査にも時間がかかるだろう。


康太たちの出番が来るのはもう少し先になりそうだった。


調査班が現地に向かい、調査を始めた段階で康太たちも現場に移動していた。


最も近い協会の門のある教会に足を運び、地図によって目的の区域の地形を把握しようと地図とにらめっこしていく。


特に康太たち戦闘班は戦いを少しでも有利にするために戦いやすい地形を探すことに躍起になっていた。


あらかじめ上空写真で周辺の地形を把握していたが、やはり辺り一帯が山ばかりで基本的に平地がない。


道路をいくつか見つけることもできるのだが、鬱蒼とした木々がそれらを見つけにくくしてしまっている。


気になる建物らしきものもあるのだが、地図上には表示されていないのが気になるところである。


「人目がないのがまずありがたいところだね。派手に暴れても大丈夫そうだ。今回は運転もしなくていいから気楽でいいや」


「バズさんの場合本気で暴れると地形が変わりますからそのあたりは気をつけてくださいね?さすがにいきなり山が一つ増えてたとかいきなり谷ができてたとかは人目に付きますよ」


「大丈夫だって、そのあたりは注意するさ。それにばれないように暴れればいいんだよ。大きな被害を出すつもりはないさ。支部長も気にしてたしね」


どうやら康太が考えていた不安を支部長も抱いていたようだった。


普通に考えれば山間部での戦闘で一番気をつけるべきは火の取り扱いなのだろうが、倉敷はほかの魔術師たちもいるために山火事になる可能性はほとんどないに等しいと考えているのだろう。


それよりも問題は強力な魔術によって地形が変わるほどの被害をまき散らした時だ。


小百合ほど無茶苦茶ではないとはいえ幸彦も戦闘に特化した魔術師だ。しかも小百合の兄弟子ということもあって間違いなく攻撃力は高い。


幸彦があまり自己主張の激しい性格ではないために支部長もその本質を知らないが、その危険性に関しては何となく把握しているのだろう。


そのあたりはさすがの嗅覚と言わざるを得ない。


「何事もないのが一番だけど・・・ビーの勘としてはどう?なんか強い人が来そうな感じあるわけ?」


「んー・・・強いかどうかはちょっとわからないけど、なんか来るって感じはする。このままじゃ終わらないなって感じ?ざわざわする感じ?」


「・・・そう、それじゃ警戒はしておくわね」


根拠など何一つない康太の勘。文にとってその勘はすでにいくつかの判断材料の一つになっている。


小百合によって鍛えられた康太の勘は、小百合のそれには劣るものの、未来予知にも近い独特な的中率を誇る。


無論あくまで勘であるために明確な状態は把握できないが、危険であるか否か、これから戦闘が起きるか否か、これからどうなるのか、そういった大まかな状況判断をするには非常に有効なものなのである。


「こういう時に未来予知があれば楽だったんじゃないのか?あの双子は連れてこなかったのか?」


「さすがに敵陣のど真ん中に突っ込むかもしれないような調査にあの二人を連れてくるわけにはいかないでしょ・・・確かに連れてきてたら楽になったかもしれないけど」


土御門の双子がこの場にいれば未来の情報をある程度把握することができただろう。


だが当然ながらこの場にやってきて随時情報を伝達するとなればかなり危険を伴うことになる。


出向に来ている二人をそこまで危険な目に遭わせるわけにはいかないというのが支部長の主張だ。


今回の話で言えば支部長としてもかなり迷ったようだったが、さすがに四法都連盟との関係性を考慮するとあの二人を出すのは了承できなかったのである。


「まぁいいじゃんか。その分足で探す作戦になってるわけだしさ。人数がたくさんいるってことで未来の情報は相殺だろ」


「そういうもんかね・・・未来の情報はでかいぜ?何もしなくても相手の情報がわかるんだからさ」


「遠くの未来だとその分ぶれるらしいけどね。私は未来予知使えないからそのあたり良く知らないけど」


「何のリスクもなしに見てるってわけでもないだろうしな。その分魔力消費は激しいし、処理も多くなるから、あれは才能がある奴専用の特注の魔術だろ。俺は教えられても使えない自信がある」


康太はこのように言っているが、五感に属した魔術であれば康太は高い適性を有している。そのため訓練とその扱い方、その種類によっては康太でも十分に扱える可能性はある。


もちろん消費魔力量が多いのはどうしようもないが。


「まぁまぁ、今いない戦力の事をどうこう言ったところで仕方がないさ。こういうのはその場の勢いと相手との競い合いが大事だよ」


こっちは人数で優っているからそれを有効活用しないとねと幸彦は堂々と周囲を見渡していく。


すぐ近くに誰かがいるというわけではないが、少し離れた場所にはすでに配置についている戦闘チームの魔術師たちがいる。


自分たちだけが戦うのではないという状況は康太たちにとって心強かった。


今まで何かあればたいてい康太たちが駆り出されていたが、今回はフォローしてくれる味方が大勢いるのだ。


こういう戦いは貴重かもしれないと康太は周囲の魔術師に意識を向けていた。


「そういえば今まであんたって普通の魔術師の人たちと一緒に戦ったことってほとんどないんじゃない?この間の中国の時も結局クラリスさんにつきっきりだったし」


「・・・そういえばそうかもしれないな・・・俺の周りに普通の魔術師って基本いないからな・・・」


「なんかすごく自然に普通の魔術師じゃない宣言したなライリーベル。お前はそれでいいのか?」


文が自分自身のことを普通の魔術師としてカウントしているかどうかはさておいて、康太が今まで一般的な魔術師と一緒に戦ったことがないのは事実だ。


一般的な魔術師を相手に戦ったことはあっても、味方として一緒に戦ったことは康太の記憶にはなかった。


「そもそもさ、協会の戦闘要員として集められた人たちってどれくらいの強さなんだ?俺より強いのか?それとも弱いのか?」


「・・・どうなんだろ・・・バズさん、そのあたりどうなんでしょうか?バズさんはよく一緒に行動してますからご存知ですよね?」


「・・・難しいね・・・魔術師として総合的に見るのならビーよりは上だと思うけど・・・単純な戦闘能力だとビーの方が上だと思うよ?ただまぁ何人か集まっての連携を考えれば、向こうの方がいくらでも上にはなれるかもね」


協会の魔術師の強みは味方との協力にある。後方支援を含め、前衛と中衛などをはっきり分けることによって生まれる完全な役割分担。


ちょうど康太と文のような連携を大人数で行うのが魔術協会の魔術師たちがよくやる協力戦である。


単騎の戦闘能力よりも複数いる時の総合的な戦闘能力で優ればよいのだから。もちろん小百合や康太などといった突出した戦闘能力を持った魔術師による攻略も行える。


どのような角度からでも攻めることができるだけの人材を協会は有している。それこそが組織の強みであるのだ。


「負けてられないな。戦果をガンガン上げようぜ」


「そもそも戦わないことが好ましいんだけど・・・やっぱそれは無理?」


「無理だな。ピリピリしてきた・・・」


康太が戦闘の感覚を肌で感じ始めていた。そして同じくして幸彦もそれを感じ取り始める。少し遅れて文もわずかにこの場に緊張感が満ちていくのを感じ取っていた。


「・・・相手も必死ってことかしらね・・・ここまではっきり敵意が伝わってくるわ」


「・・・俺鈍いのかな、ほとんどわからないわ」


そういいながらも倉敷は何かを感じ取っているのだろう、先ほどからそわそわと落ち着きがなくなっている。


康太たちほどではないとはいえ数多く実戦をこなしてきたのだ。独特の感性を有していても不思議はない。


「情報がこっちに来るのも時間の問題かもな。そろそろ準備だけはしておくか」


康太はそういって纏っていたウィルを鎧の姿に変え、槍を組み立てると完全な戦闘態勢へと移行する。

明らかに魔術師の姿ではないが、その姿を見て文は小さくうなずく。


「うん、やっぱり何かを纏うっていうのはいいかもしれないわね。防御的にも」


「お、ベルも装備を作るか?鎧とかそんな感じか?」


「動きにくくなるからそういうのはいやね。私は自分で用意するわ」


そういって文は地面に電撃を放つ。電撃が地面に吸い込まれていき、数秒すると地面から黒い粒が大量に湧き上がってくる。


電磁力によって地中の砂鉄を操っているのだと気付くのに時間はかからなかった。かつて文は何度か似たように砂鉄を操っていた。


康太がウィルによって半液体状の鎧を身に着けているのに対し、文は砂鉄によって作り出された衣服をまとっているようだった。


「うわぁ、よくそんなに精密に操れるね・・・真似できそうにないなぁ・・・」


「慣れると簡単ですよ。ちょっとしたコツを覚えればできます。これはこういう風にしたほうがかわいいかしらね」


「お似合いですよベルさんや。俺が鎧でベルは和服って感じだな」


文は自らの纏う砂鉄の形を変化させていき、魔術師の外套と合わせて和服のように形を変えていた。


西洋風の赤黒い鎧を纏い、槍を構えた魔術師。


黒い着物を着こみ、わずかに帯電する魔術師。


少なくともこの姿を見てこの二人がただの魔術師であると思うものは少ないだろう。康太は明らかに魔術師の姿ではなく、文がしているこの姿は簡単そうに見えるが高等技術をいくつも織り交ぜたものだ。


しかも両者ともに攻防一体。タイプこそ違えど、この状態の二人は高い攻撃力と防御力を誇るのは間違いない。


「ほら、トゥトゥもなんか変身しろよ。水の羽衣とか纏っていいんだぞ?」


「纏ってどうするんだよ。濡れるだろうが」


「いいじゃない。どうせ雨降らせたら濡れるんだから。こういう風に形から入ると動きが変わるってこともあるわよ?」


「・・・いや、あんまり変化しないと思うんだけど・・・」


「まぁまぁ」


「さぁさぁ」


康太と文にせかされて倉敷は仕方なく水を操って自分の体を覆うように羽衣のようなものを作り出す。衣服が濡れていく中、幸彦はそんな三人を青春だなぁと思いながら眺めていた。


「・・・来たかな?」


康太と幸彦がその気配を感じ取った次の瞬間、周囲の魔術師たち全員にめがけて伝令が響く。


『調査班の一部が攻撃を受けた。戦闘班各員、行動開始。敵対勢力と思われる魔術師は散らばっている。繰り返す、相手は散らばっている。各員最も近い敵対魔術師を攻撃せよ』


「来たな・・・とりあえず上に行って状況判断だ」


「了解、とりあえずとばすわよ!」


そういって文が風の魔術を使おうとすると同時に、康太はウィルの形をパラシュートのように変化させると、文、倉敷、そして幸彦の体にローブ状に変化させたウィルを巻き付ける。


次の瞬間、文の風の魔術によって康太たち全員は上空に巻き上げられていく。


あまり高くまで上がると雲によって視界が遮られるうえに一般人に見られる可能性も高くなるため高度はほどほどにしながら、康太たちはそれぞれ状況を判断しようと周囲を確認していく。


「上にいると状況がよくわかるね・・・約二カ所で戦いが始まってるか・・・いや、反撃はしていないのかな?」


「とにかく二方向から攻撃が上がってるのは間違いないですね。ベル、地図で言うとどのあたりだ?」


「線が書いてあった場所ね・・・マーキングがあった場所に違いはないけど、円があった場所ではないわ・・・近づけたくないのかはわからないけど、とりあえず倒すでしょ?」


「そうだな、全部倒せば問題ない」


康太は自分たちからは離れたところにいる春奈に意識を向ける。康太たちが見える位置にいる敵の対処をしていることは春奈も承知しているだろう。


春奈ならば相手の拠点と思われる場所を直接急襲しに行っても不思議はない。今は目の前の敵を排除することを優先するべきだと康太は考えていた。


「トゥトゥ、一気に近づくからいったん離すぞ。空中移動の準備はいいか?」


「おう、いつでも。でもルィバズさんはどうするんですか?」


康太や文はさておき、幸彦が空中での移動手段を持っているか知らない倉敷はウィルに支えられている幸彦の方に視線を向けながら空中に水の塊を作り出し、ボードに乗って空中機動を開始する。


「大丈夫、僕も空を飛ぶくらいならできるよ。あんまり速く移動されると追いつけないかもしれないけど・・・」


「そういうことだ。俺らは先に飛んでいって露払いするぞ!」


「了解。バズさんはゆっくり来てくださいね!」


「おいお前ら待てって!」


「ちょ!また僕の仕事なくなるじゃないか!」


康太が噴出の魔術を、文が磁力の魔術を、倉敷はそれを追うように水を操って一気に加速していく。幸彦はそんな三人を見ながら慌てて加速するも、康太たちの加速には追い付けていなかった。


康太たちはまっすぐに戦いが起こっている場所へと向かう。いくつかの射撃系魔術が放たれている場所に向かって一直線に進むと、調査班らしき魔術師たちが防御用の障壁魔術を展開しながらその場から撤退しようとしているのが見えた。


そしてその視線の先には攻撃を続けている魔術師の姿が見える。木の影にいるために数が確認しにくいが、攻撃の発生地点が離れていることから複数いるのは間違いなさそうだった。


「俺とトゥトゥが相手をかき回して時間を作るぞ!倒せるようなら一気に倒す!」


「オッケー、巻き込まれんなよ!?」


「了解、私は援護しながら調査班の人たちを逃がすわ!長期戦になるでしょうからあんまり危なっかしいことはしないでよ?」


わかってるよと叫んでから康太は一気に加速する。それに続いて倉敷も加速し敵対している魔術師めがけて飛んでいった。文はわずかに軌道をそらし、調査班の魔術師たちの前に躍り出るような形で障壁を展開しながら反撃の電撃を放っていく。


山ということもあって障害物となる木々が多すぎる。文はそれを正確に把握し、威力は低いが操りやすい電撃の弾丸をいくつも放っていた。


発光する電撃の弾丸は相手にもしっかり視認され対応されるが、意識を文の方に向けさせるには十分すぎた。


「応援!?助かった!」


「援護します!ここから離脱してください!」


「で、でも君だけじゃ危ない!私たちも協力」


するぞと魔術師が言おうとした瞬間、敵の魔術師めがけて康太と倉敷が一気に攻撃を仕掛けていた。


木々の向こう側から轟音が鳴り響き、木々が薙ぎ倒される音、そして何かが砕けていく音など、先ほどまでの攻撃音とはまったく別種のそれが文たちの耳に届いていた。


そしてその衝撃によって飛んできた破片か、それとも敵の攻撃か、どちらかはわからないが鋭く尖った石の破片が文たちのもとに降り注ぐ。


だが文は自らが持つ鞭に砂鉄を纏わせた状態でその石をすべて叩き落としていく。


「こっちは私たちだけで大丈夫です!早く撤退してください!」


足手まといを守りながら戦っていられる余裕がいつまであるかもわからないため、文は口調を強くしながら叫ぶ。


調査系の魔術師たちも自分たちがいたら本気で戦えないということを理解したのか、その場から足早に去ろうとする。


文は相手との射線を常に意識しながら康太たちが戦いやすいように援護し続けていた。


康太と倉敷が魔術師たちに先制攻撃を仕掛け、まず一人の魔術師を戦闘不能に陥らせていた。


倉敷の津波攻撃によって一人の魔術師が波にのまれ、木にたたきつけられた。そして身動きが取れなくなった魔術師めがけて康太とウィルの合わせ技、巨大な拳を叩きつける攻撃によって木々をなぎ倒しながら完全に戦闘不能にされてしまっていた。


「回り込む!正面任せた!」


そう叫びながら木々を縫うように波に乗る倉敷の動きを見て、相手の魔術師たちは倉敷に攻撃を当てるのは困難だと判断したのか、その場にとどまっている康太の方に意識を向けていた。


「任された!ぶっ潰すぞオラァァァ!」


威嚇と意識を自分に向けるという意味も込めて、康太は叫びながら槍を構え正面から突っ込む。


勢い良く近づいてきた康太に対して複数の方向から射撃系の魔術が襲い掛かるが、康太はそれらを軽々と回避し一気に相手との距離を詰めていた。


なんとか距離を取ろうと攻撃の密度を高め、康太を押し戻しながら後退しようとするも、その足元に急に大量の水が流れ込み、魔術師たちの動きを阻害していた。


倉敷の援護であることを確認した康太は、空中に再現の魔術で疑似的に足場を作りながら噴出の魔術と併用して一気に距離を詰めていく。


地上にいれば康太の接近から逃れられないと判断したのか、魔術師の一人が勢いよく空中に飛び出してその場から離れようとする。


「おっと、上から失礼!」


次の瞬間、遅れてやってきた幸彦が宙に浮いてきた魔術師めがけて落下しながらドロップキックを叩きつける。


上空からの不意打ちに気づけなかった魔術師は頭から水に落下し、倉敷によって肺の中に水を強引に入れられ意識を手放していた。


「まったくひどいなぁ、置いてけぼりにするなんて」


「いいタイミングじゃないですか。これでこの近くにいる魔術師は・・・あと三人!」


自分に向けられる敵意の視線と索敵の魔術で周囲を確認しながら康太は周辺にいる魔術師に意識を向ける。


幸彦の登場に魔術師たちは驚きながらも攻勢に転じようとするが、そこに回り込んできた倉敷が背後から大量の水を流し込んで魔術師たちを押し流していく。


待ってましたと言わんばかりに康太と幸彦が攻撃しようとした瞬間、魔術師も反撃しようと試みているようだったが、次の瞬間近くの木に上空から強力な電撃が降り注ぐ。木から水へと伝った電撃は魔術師の動きを一瞬止めることに成功していた。


木から地面へ伝わり、広範囲に広まる水に伝導したこともあって威力はかなり減衰したようだったが、一瞬動きを止めてしまえば康太と幸彦にとっては十分すぎた。


康太の槍の斬撃と打撃によって一人が、幸彦の拳によって一人が倒され、残る魔術師は一人となっていた。


だがその一人も電撃を受け、なおかつ水の中にいるということもあって身動きが取れず、そのまま倉敷の水にとらわれて窒息していた。


その場にいた魔術師一団を早々に倒した康太たちは周囲の確認をする。


「怪我はないかい?山での戦いだと足場が不安定でいけないね」


「まったくです。おいトゥトゥ、水浸しになっちゃっただろ。足場が悪くなるわ」


「空飛べる奴が何言ってんだよ、相手の動きが阻害できたんだからいいだろうが」


「それにこっちも攻撃が当てやすくなるわ。今の行動は十分ありよ」


近接系攻撃を得意とする康太と幸彦と、射撃系攻撃を得意とする文と倉敷、それぞれ意見が違うために何が良いのかは判断しかねるが、先ほどのレベルの魔術師ならばこの四人の相手にはならなかった。


攻撃力もそうだが連携のタイミングも絶妙すぎる。ほとんど打ち合わせなしで互いの攻撃に合わせて行動しているのだ。


相手がどの程度の練度を持っているのかはわからないが、これだけのチームワークに対抗するのは難しい。


「それより次いくわよ。さっきから伝令が飛びまくってる。随分この辺りにたくさん控えてたみたいね」


「みたいだな・・・それぞれの位置から場所がパッとわかればいいんだけど・・・そううまくはいかないか」


「地道に一カ所ずつ回っていくしかないね。この辺りの包囲も今のところ崩されてはいないようだけど・・・」


「こんだけ散開してるっておかしくないか?普通一点突破で逃げてきそうなもんだけど」


「逃げるつもりがないってことじゃない?各個撃破しようとしてるか・・・あるいはこの攻撃自体が陽動か」


「どっちにしても潰していくしかないだろ。そのうち連中の残弾も尽きる、そうなりゃあとは調べ放題だ」


康太の言葉に全員がうなずき、一気に上空へと飛び上がる。


自分たちがいる場所の近くで戦闘を行っている、あるいは一方的に攻撃されている魔術師を見つける必要がある。


範囲が広いためにすべてを回ることはできないかもしれないが、それでも自分たちの近くを虱潰しに回っていくしかない。


「周りは随分ゆっくり動いているね・・・包囲網は維持しながら徐々に迫っていく感じか」


「こっちからすれば好都合です。こっちはせかせか動いて遊撃できます!ビー!あっちに行くわよ!」


「了解!」


康太の掛け声とともに全員が加速し敵のもとへと向かって行く。魔力の消耗を押さえながら戦うというのは難しいが、状況を好転させるにはこの方法しか思い浮かばなかった。


誤字報告を20件分受けたので五回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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