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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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アリスインジャパン(明治)

「いやいや、大したことではない。少々墨やインクを使って町中を汚しただけの話だ。ただそれを魔術でやったせいでなかなか後始末が面倒だったらしいの」


「汚したって・・・なんでまたそんなことを・・・絵柄が気に食わなかったって具体的には?っていうかそもそもなんの絵柄だよ」


当時の、明治時代のことはよく知らないが当時売られていたようなものだと絵柄といっても大したものはないはずだと康太は考えていた。


大規模な印刷技術などのない時代であればおそらく人の手によって作り出されたものである可能性が高いのだが、当時の世情に疎い康太は花札か何かの絵柄のことかと、あまり良く知らない花札の絵柄を頭の中で思い浮かべていた。


「春画だ、そういったものを売るのは良いのだが、さすがに私にも許容できないものがある」


「春画って・・・確かあれだ、墨で書かれた、えっと、エロ本!」


「まぁ間違っていないが、大きな声で言うものではないぞ。ともかくそれが気に食わなくての、少々お茶目をしてしまったわけだ」


「偏見かもしれないけどさ、そういうのって普通男が見るものだろ?そもそもなんでアリスが見てたんだよ。そんなものへの興味完全にないと思ってたわ」


康太の個人的な考えではあるのだが一般的に十八禁などの書籍を読むのは男子という印象が強かった。


康太自身が男というのもあって、女性がそういった書籍を読むことに対してイメージがわかなかったのである


とはいえ康太だって文という彼女がいるのだ。絶対にそういうものを見ないということではないことくらい知っている。


世の女性とてそういったことに興味があるし見てみたいというのが人情というものだろう。


とはいえ当時のアリスがそのようなことにご執心だったとは思えなかった。百年以上前でも彼女はすでに数百年生き続けていたのだから、思春期のような思考をしているとも考えにくい。


「阿呆。私だって女だぞ?そういったことに対して関心がないわけではない。私が怒ったのは単純な理由だ。その春画のモデルが私だったのだよ」


「モデル。昔からそういうのあったのか」


「描かれたものすべてが空想なわけではない。実際に女の裸を見て描くものの方が多かっただろうよ。特に私の場合はこの美貌だ。描きたくなるのもわかる」


「・・・・・・・・・まぁ、人の趣味はそれぞれだよな」


「おい、今の長い沈黙はどういうことだ?」


「いやいや大したことじゃない、日本人は昔から日本人だったんだなって思っただけだよ。ちょっとだけ安心した」


今のアリスでも小学生程度にしか見えないのに、百年以上前の時代のアリスがどのような姿をしていたのか想像できない。


そんなアリスに対して欲情を催した人間がいたのだ。そしてその人物は日本人だったことだろう。


いつの時代も日本人は変わらないのだなと康太は少しだけ感心してしまっていた。


同じ日本人として複雑ではあるが、これはこれで面白い考え方ではある。


「何やらひどく失礼な物言いな気がするが・・・まぁいい・・・とにかくモデルになった本人からすればそういったものは美しく描かれたいものだろう?それがあまりにもひどいものだったのでな・・・ちょっと暴れただけの話よ」


「せっかく描いてくれたってのに台無しにしたと・・・というかなんでそんなの引き受けたんだ?モデルなんてやるような性格には見えないけど」


「ふむ・・・単純に熱望されてな。当時の世相もそうだが私に積極的にかかわろうとする者は稀でな、その中でもそ奴は類を見ないほど積極的でな」


「あぁ・・・そっか、明治の時代っていうとまだぎりぎり剣とかで戦ってた時代か?漫画でそんなの読んだことあるような・・・そうか、その時代だとアリスみたいな外国人は珍しいか」


「うむ、少なくとも私以外で日本人ではない人間はあまり見なかったな・・・まぁ私自身があまり表に出なかったというのもあるが」


「へぇ・・・昔から引きこもり気質だったんだな」


「失礼なことを言いよってからに。これでも看板娘としてよく働いていたのだぞ?その見返りとして住まわせてもらっていたのだからな」


「へぇ・・・働いてたのか・・・アリスが・・・?」


「信じられんものを見たような目をするな。とはいっても相手も魔術師だった。私の事情を知ったうえでの働きだったよ・・・お前やサユリのように図々しい奴でな、何度迷惑をかけられたかわからん」


おそらくタイプとしては康太よりも小百合寄りの人間だったのだろう。商売をやっているというところが特に似ているように思える。


具体的に何を売っていたのかなどは不明だが、アリスが身を寄せるくらいだ。おそらくトラブルには事欠かなかっただろう。


「当時の日本って魔術協会の勢力的にはどうだったんだ?あんまりキリスト教系の教えが広まったって感じはしなかったと思ったけど・・・まぁそれは今でもそうか?」


「ふむ、当時の日本でも魔術協会の人間は何人かいた。だがそれは今に比べるとかなり少数だったな。そういうこともあって私は日本にいたのだ」


「ん?魔術協会から逃げてたってことか?」


「うむ、一時期鬱陶しくなっていた時期があってな・・・そういうこともあって日本にやってきたのだ。昔から日本の宗教観は特殊だったからな」


世界のほとんどの人種が特定の神や唯一神を信仰するのに対し、日本の人間は特定の神様のみを信仰するということをあまりしない。


適材適所とでもいうべきだろうか、それぞれの得意分野の神を状況に応じて信仰する、あるいはありとあらゆる場所にいる神に対して感謝の意をささげるという独特の信仰を持ってきた。


もちろん地方によっては特定の土着信仰がある。だがそれも少数、数多の国で行われているそれらの宗教にはかなわないのだ。


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