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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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大人(何百歳)のお姉さん

「というわけだ。今度本部に行くんだけど、アリスはなんか副本部長に用件ってあるか?」


「私が本部に用があると思っておるのか?あいにく私は本部に百年単位で顔を出さなかったこともあるのだぞ?」


「それもそうか・・・どうにかしてなんか用件作らなきゃな・・・このままいくと不自然なままになっちゃうし・・・」


康太が副本部長のもとに直接情報を届けるには、何かしら康太が本部に行く用件、具体的には副本部長に会わなければいけない何かがあるのが好ましい。


情報を渡すだけならば副本部長ではなくほかの者に渡せばいいし、そもそも康太がわざわざその役を担う必要もない。


あくまで本部に行くついでに頼まれたという体を取る必要があるのだ。


地味に面倒な用件だなと思いながら康太は頼みの綱であったアリスを恨めしそうに見つめる。


「っていうか、何百年以上も本部に籍を置いてたのにそれほど執着がないのってどうなんだよ?本部にお前の部屋の一つや二つないのか?」


「あればとっくに支部に引っ越しておるわ。あいにくと仮宿で安穏と過ごすほど阿呆ではない。気を許すのは私の本当の拠点についたときだけだ」


「・・・気を許す・・・ねぇ・・・」


康太は寝そべった状態で漫画を読んでいるアリスを見て、今の状態は気を許してはいないのだろうかと内心首をかしげる。


そもそもアリスにとって本当の拠点というのがどこなのかもわからない。そのあたりを知りたいとも思わないが、おそらく本部がそうであるように本当の拠点にも百年単位で帰っていないのではないかと思えてしまう。


「私が通訳として本部についていくこと自体は別に何の問題もない。だがコータよ、その情報とやら、扱いによってはお前の首を絞めることになるやもしれんということはわかっているだろうな?」


「わかってるよ。もしここで俺が情報の受け渡しをミスったら、裏切者の第一候補として挙がることになる。今まで積み重ねた信頼は完膚なきまでに瓦解するな」


「わかっているならばよい。協会内部に不届き者がいるのはいつものことだが・・・これほどまでに大規模な連中は久方ぶりだ」


「アリスでも久しぶりなのか?ていうか不届き者がいるのが当たり前なのかよ」


「そうだ。人間というのは良くも悪くも欲望に正直な生き物、どうあがいたところで魔術という技術がある時点でその矛先が人類か、あるいは世界に向くのは避けられんことだ・・・もう何度もそんな連中を見てきた」


今までアリスの話は何度か聞いたことがあるが、今回のアリスの言葉は妙に重く、同時に深くあきれているように見えた。


ただ呆れているのではない、飽き飽きしているようなそんな様子だ。


「魔術の矛先が自らに向かうのであればそれはそれで魔術の本質だ。力を内に向ければ自らの本質に近づく結果となる。だがそれを外に向ければ、その力は自らに返ってくる。そんなこともわからん阿呆ばかりが、いつだって協会の敵に回る」


「・・・俺はどっちのタイプなんだ?内に向けるのか外に向けるのか」


「・・・コータの場合は、後者に限りなく近い前者だの。その力を自覚し、他者に向けて振るうことはするが、それはあくまで自らの責任の範疇だ・・・お前は私の知る限り、自らの分を超えることはしていない。乗り越えようとはしているが、それはあくまで努力にとどめておる」


そういう努力ができるのが、お前の良いところだと結びながら、アリスは仰向けになりながら本を読み続ける。


紙をめくり、次のページへ、次のページへと進む中。康太とアリスの息遣いと、ページをめくる音だけが部屋の中で康太とアリスの耳に届いていた。


「今回のやつらは、違うのか?」


「・・・私の経験談で言うのなら違うな。自らの分を超え、どうしようもないことをどうにかしようとしている。しかもそれはおそらく間違った方法で、決してうまくいくはずのないことだ。それをうまくいかせようとしているせいで、余計に歪になっている」


「どうしようもないこと・・・か・・・」


「そうだ。どんなにあがいたところでできぬことはある。過ぎた時を元には戻せぬように、負った傷を消せないように、失ったものを取り戻せぬように、どんなに望んでも、どんなに願っても、叶わぬことというものはある」


「アリスが本気で頑張っても?」


「当たり前だ。私を一体何だと思っているのか。私は魔術師で、人間だぞ?」


どんなに長い時を生きてきても、どんなに魔術の技術が高くとも、どんなに人間離れしていても、アリスは人間だ。


それは絶対に超えられない壁、アリスが言うところのどうしようもないこと。


だからこそアリスは人間であることをやめようとしないし、人間であり続けようとする。


それが本人が望んだことなのか、誰かが望んだことなのかはわからないが、今のアリスを見ていると、その生き方が間違っているとは言えなかった。


「覚えておけコータ、お前が今見ているこの世界を変えようとしてはいかん。この世界はあくまで私たちがこうして生きているからこそ成り立っている。だが私たちがいるからこの世界があるのではないのだ。私たちが変わろうとしても、世界を変えることはあってはならん」


「・・・なんかよくわからないんだけど・・・世界があるから俺らがあるのは当たり前じゃないのか?」


「わからないならばよい。その当たり前を、当たり前だと思えるお前は、まともな人間だ。私が保証する」


アリスに保証されてもなと康太は苦笑するが、アリスは漫画で顔を隠しながら康太に聞こえないようにつぶやいていた。


「わたしは・・・そうではなかったからな・・・」


そのつぶやきを聞いたものは、誰もいなかった。


「それで?結局どうするのだ?副本部長のもとに行く理由がないのであれば今回の策はうまく機能しないのではないのか?」


「ん・・・今の話を聞いて思ったんだけどさ、今まで同じような規模での戦闘っていうか面倒ごとがあったんだろ?」


「・・・もうかなり昔の話にはなるがな・・・それがどうした?」


「そういう事件の概要を知ることができないかなって思った。似たようなことかどうかはさておいて、同じような規模での戦いがあったならそれは参考になるかと」


先ほどアリスはこれほどの規模は久しぶりという言葉を使っていた。つまり以前にも同じような規模、あるいはそれ以上の規模の事件が起きていたということである。


そこに康太は注目していた。


「本部ならそういうものを記録している可能性がある・・・と、そういうことか。そのあたりをコネをもっていて話しやすい副本部長に問いただすということか」


「そういうこと。それなら幹部である程度話しやすくて、会いに行くだけの価値はある。情報を受け渡すのをついでにするくらいの用件ではあるだろ?」


「ふむ・・・まぁよいかもしれんが・・・それを知ってどうするつもりだ?私が先に言った事例はあくまで規模が同程度というだけで、内容やらその結末やらはバラバラだったぞ?もっとも私もすべてにかかわっているわけではないから、あくまで私の私見だが」


「一つは本部や支部の対応を知りたい。どういう風に対応してどういう風に処理するのか。規模が大きくなれば当然ある程度の法則が生まれるわけだろ?そのあたりを知っておくと動きやすくなるんじゃないかって」


康太の言うことももっともだ。だがアリスは康太の言葉を聞いて大きくため息をつく。


あきれるというよりは、どこかで同じようなことを聞いたことがあって、こいつも同じことを言うのかという感じである。


「あのなコータ、協会の処理の方法というのは良くも悪くも世の中の変化とともに変わってきたものだ。死体一つ上がるだけで大騒ぎされるような現代では昔とは処理が全く違う。そしてそれは国によっても異なるのだ。銃を持つのが当たり前のアメリカと、銃を手に入れることさえ苦労するような日本では処理が違うのと同じ、場所と時間が異なればそれだけ処理も対応も異なる。大昔と今で常識が異なるのと同じよ」


「まぁそれはそうかもしれないけどさ・・・」


かつては人を殺し、その心臓をささげることを信仰とした部族がいた。その部族たちにとってはそれこそが正義であり、正しいことであり、日常だった。


現代でそのようなことをすればどのような場所であろうと排斥されてしまうだろう。


かつては魔女を探し出し、焼き殺すことが民を守ることだと信じられていた。宗教の布告の一環として、異教徒の排除としてそれらは用いられ黙認されていた。


今そのようなことをすれば間違いなくその宗教は邪教として危険視されることだろう。


「結局のところ常識など流れ移ろうものだ。そんな常識に当てはめて対応しようというのだぞ?百年単位の差があればまったく別世界のものを見るようなものだ」


別世界。多少言い過ぎかもしれないが、文化、技術、言語、それらが今とほとんど異なってしまえば、共通点はこの星の上で行われているということだけだ。


そんな些細な共通点であれば、確かに康太から見れば別世界に等しいだろう。


だがそんな別世界のようなことだからこそ、興味が引かれているようだった。


「・・・それはそれで見てみたいけどな・・・昔の世相とかそういうの面白そうだし、何より昔の魔術師とかってどんなのか気になるし」


「・・・あぁ、やはりコータも男の子よな・・・男はみな同じようなことを言う・・・まぁ止めはせんがの・・・どちらにしろ私が言ったところで止まるようなお前ではあるまい?」


「よくわかってらっしゃる。まぁそういうことで通訳頼むよ。ついでに副本部長に文句が言いたかったら言ってやれ」


「・・・あいにくと思っていることをすぐに口に出すタイプでな。たいていのことはもうすでに言いつくしておる」


「・・・まぁ確かに気を遣うような性格でもないか・・・でも毎回通訳のために連れていくっていうのも申し訳なく思うんだよな・・・引きこもりを連れ出してるみたいで」


康太としては通訳を毎回押し付けるのは申し訳ないと素直な気持ちで言ったのだが、アリスは全く別の単語に反応していた。


「む、誰が引きこもりか。私は結構外出しておるぞ。近くのブックボブにも通い詰めておるし、ネカフェなどにも最近足を運んでおる。ゲーセンでは音ゲーでフルコンをするほど技量を高めたのだぞ?」


「なんかその行動、全部引きこもりでもできそうなものじゃんか・・・なんかもっとないのかよ、普段やってること。部屋でダラダラする以外で」


「あー・・・そうだの・・・たまにミカの学校に不法侵入したりしておるぞ。これでも結構あの娘のことは気にかけておるのだ」


「それはありがたいんだけどさ・・・なんていうのかな・・・不審者って感じだよな?外見からして小学校でも問題はないのかもしれないけど」


「失礼な。私のような立派な大人の女性に向かってなんということを言う」


そういってアリスは寝転がったまま見えている姿を変え、ナイスバディの大人の女というにふさわしい外見を取って見せる。


だが即座にため息をついた康太に頭を叩かれるとその幻は消えてしまった。


「はいはい、何百歳の大人のお姉さん、お願いだから小学校から通報を受けるようなことだけはしないでくれよ?」


「・・・わかっておる。さすがの私もそのようなへまはせん。たまにミカに気付かれそうなことはあるがの」


本気で隠れようとしているアリスを見つけそうになるとはさすがは我が弟弟子と康太は神加を褒めてやりたいところだったが、今神加はいない。今度思い切り誉めてやろうと康太は心に決めていた。


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