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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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裏切者か否かを

「それで支部長、具体的にはどうするんですか?」


本部の人間が怪しいからこそ与える情報をある程度制限してどの人物が怪しいのかを割り出すというのは康太にも理解できる。


だがそれをどのように行うのか、支部長なりの考えがあるのだろう。康太からすれば本部の誰が怪しいのか見当もつかないためにどのような方法をとるのか予想できなかった。


「単純な話さ。相手がどの情報に飛びついてくるのかを各支部ごとに出すことにしている。一つの支部で何人もの人間に別の情報を与えていたらさすがに怪しまれるからね。それぞれ担当を決めて、特定の情報を流すのさ」


「前の情報操作の、さらに大規模な感じですか・・・しかも今度は他支部とも連携してやると」


「そういうこと。打ち合わせがだいぶ面倒だけど、それをやらないと本部の敵もわからないからね・・・無論支部にも敵がいないとは限らないんだけど、そこは各支部長の人を見る目を信じるしかないね」


絶対に裏切らないと確信を持って言える人物を情報の伝達者にして、あとは疑わしいと思っている人物にその情報を伝える。


その人物に情報を伝える時、本部全体にその情報を伝えさせる中間伝達に役割を担わせればいい。


本部に情報を伝達する前に敵側に情報を伝えるはず。それぞれが監視につくのか、それとも単純にその情報に対してのリアクションで判断するのか、そのあたりは支部長同士の話し合いで決定されるらしい。


本部を除いた情報流通体制ができつつある中、康太はその話を今ここでされたことの意味を理解していた。


「それを、俺たちの誰かがやるってことですか」


「うん、話が早くて助かるよ。つまりはそういうことさ。ブライトビー、君にその役を担ってもらいたい」


今この場にいる中で最も本部とのかかわりが強いのは、支部長を除けば春奈か康太だろう。もっとも春奈は最近魔術師としての活動が少なくなっているために本部とのつながりが薄くなっている。


となれば康太がその役割を担うのは自然な流れなのかもしれない。


「情報の伝達程度ならほかにも信用できる人はいるんじゃないんですか?専属魔術師の中でも支部長の腹心ともいえる魔術師はいるでしょう?」


「そりゃそうだけどね。色々いるけど、それでも僕は君に任せたいんだよ」


「・・・その心は?」


「君は副本部長と繋がりがあるだろう?いや、つながりというか君が副本部長に少し信頼されているというべきか」


確かに康太は副本部長の依頼を受けたことで多少は副本部長から信頼を得ている。だがそれもほんの少しでしかない。


「って言っても、たぶんそれって封印指定がらみだと思いますよ?俺が必要以上に問題を起こさないかどうかとかそういう類の」


「それでもいいのさ。自然に本部に足を運び、自然に話をできるようなそんな人物が好ましい。君は最近本部に行くことが多くなっているから、君が本部に行くついでに情報を渡すようにしていても不思議はない」


「・・・ん・・・本当に彼でなければいけないのか?話を聞く限り、本部の出入りが多い人間であればだれでもいいように聞こえるが?」


康太と支部長の話に割って入るように春奈が口を挟む。


確かにいくら副本部長とのつながりがあるとはいえ、康太にその役を担わせる理由としては薄いように思える。


もちろん支部長本人の信頼度の問題もあるのだろうが、それでもわざわざ康太が情報を扱う理由にはならない。


「出入りが多い人間は確かに多いんだよ・・・でもそういう人間はたいてい情報の扱い方をすでに知ってるからね、一人じゃなくて何人もの人間に同じ情報を与えて情報の伝達を早くさせてる。普段そんな風にしっかりやってた人が今回に限って一人にしか情報を渡さなかったら・・・なんか怪しくなっちゃうでしょ?」


「なるほど、人手が足りないとかいう理由をつけて情報の素人をよこして餌用の情報を与えると・・・そういうことか」


情報の素人。確かに康太は間違いなく情報の伝達に関しては素人だ。


普段きっちりと情報の伝達などを行っているその道のプロならば、本部の情報伝達を担っている人物のことも知っているだろうし、情報の伝え方も、伝える人物の順番も知っているはずだ。


そんな人間がいきなり一人にしか情報を伝えなければ確かに怪しまれるのは必至、康太が選ばれたのにもきちんとわけがあったのだなと康太は納得する。


自分が未熟故に選ばれていたということが少し複雑な気分ではあるが、康太からすれば別に情報について素人でも問題はないと考えていた。


いずれはその筋でもきちんとした実力をつけたいところだが、今はまだ康太にはそれらを求めるには早すぎる。


「どうかなブライトビー、君に任せたいんだが」


「それなら構いませんけど、一緒にアリスを連れて行ってもいいですか?俺、本部に行くときは必ずアリスを一緒に連れて行っていますので」


「あぁそうか、言葉の問題もあるからね・・・うん、構わないよ・・・といっても本人に了承がとれるのかい?」


「そのあたりはいつものことなので、本部に行かなきゃだからちょっと付き合ってくれとか言えば問題ないと思いますよ」


アリスの扱いについてはそれなりに心得てきた康太である。支部長はそんな康太を見て頼もしそうに笑っていた。


「あんたいいの?そんな気軽に引き受けちゃって・・・まぁアリスの同行はいいとしても、結構重要な役割よ?」


「って言ってもあれだろ?特定の人物に特定の情報を渡すだけだろ?所謂お使いだろ?大丈夫じゃね?」


「・・・否定できないのがつらいところだけど・・・でも、あんたが上手くやるかどうかで本部の中にいるかもしれない内通者を引っ張り出せるかどうかが決まるのよ?そのあたりはよく覚えておきなさい」


言葉にしてしまえば確かに康太の言うようにお使いレベルの内容でしかない。だが文の言うように今後の情報戦という見地ではこの一手は重要な一手だ。


無論康太だけがそれを行うわけではないとはいえ、その重要性は康太も重々承知しているつもりだった。


「わかってるよ。で、支部長、どんな情報を、誰に渡せばいいんですか?」


「うん、日本支部の活動管轄内にある拠点の一つさ。今はまだ例の地図の調査の関係で動けないけど、それが終わったらすぐに襲撃するつもりだからその情報を本部に伝えておく。伝える相手は、副本部長だ」


「・・・おっと・・・まさかの副本部長ですか・・・もっと下の、下っ端連中かと思ったんですけど・・・」


「そういう意味もあって君にお願いしたかったんだよ。君なら副本部長に直接会いに行っても問題なさそうだからね。アリシア・メリノスも一緒に行くとなれば、君たちの名前を出せば副本部長も間違いなく時間を作る」


「・・・なるほど・・・疑いの目は上から下まで・・・ということか」


「本当はそこまで幹部連中に広めるつもりはなかったんだけどね。ちょうどよく伝達できそうな人材がうちにいたから」


封印指定にかかわる人材が日本支部にいたのはまさに不幸中の幸いというべきだろう。面倒ごとしか起こさないような封印指定がここにきて役に立っている。


幸か不幸か、今まで面倒ごとに巻き込まれてきた甲斐はあったのかなと康太は苦笑してしまっていた。


「本部のトップに時間を作らせるだけの人物になっているってことを、喜ぶべきなのかしらね?」


「どうだろうな・・・まぁ確かに俺らの名前を出せば少しの時間くらいは作るだろ。俺はともかくアリスの名前を出せば確実だ」


アリシア・メリノス。本部の中でこの名前の意味を正しく理解していないものは少ない。


そしてブライトビー。この名前は本部の中でもかなり広まっている。この二人の名前を出せば副本部長どころか、ほとんどの幹部の人間は時間を作るだろう。


特に副本部長は依頼で直接康太とかかわったこともある。時間を作るくらいなら余裕でできるだろう。


「でも支部長、仮に副本部長が情報の流出に加担していたとして・・・その時はどうするんですか?」


「・・・一応、支部間での考えは統一されているよ。内通者は排除すべし・・・ってね」


「・・・副本部長の実力は知りませんが、少なくともただものではないと思いますよ?あの人の殺気を受けたことはほとんどないので確かなことは言えませんけど」


「だろうね・・・少なくとも本部のナンバーツーに位置している人物だ。戦えもせずにその椅子に座っているとは思えない・・・クラリスたちと同等か・・・あるいはそれ以上の実力者・・・と考えるのが自然だろうね」


最低でも小百合クラスの人間という言葉に康太は目を細めた。今まで何度か対峙したことはあるが、それほどの気配は感じ取ることはできなかった。


とはいえ康太もまだ未熟。相手が気配を隠そうとしたときにそれらすべてを完璧に感じ取れるわけではない。


普段だらけている小百合が、強烈な威圧感を発しているわけではないように臨戦態勢になっていない人間から相手の強さを察することができるわけではない。


副本部長の実力はさておき、魔術師の組織である以上、その上に立つ人間に求められるものはある程度決まってくる。


「でも支部長、組織の長になるのに必要な条件って、別に強さとかではないですよね?」


「もちろん。戦いだけがすべてじゃない。組織を運営するために必要な知識や判断力、決断力などが求められる。けどさ、面倒ごとを抱えて、面倒な人間をある程度従えるにはそれだけ力がいるんだよ。そういう人間に勝てなくても『こいつを敵に回すと厄介だ』くらいの認識を与えないと相手はいうことを聞いてくれないからね」


「・・・鉛のような金言をありがとうございます。いつも師匠がご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」


「あはは・・・もう慣れたものさ。でもクラリスもだいぶ丸くなったんだよ?昔はもう酷いもので・・・」


昔話に花を咲かせそうになった時点で春奈が一つ咳払いをする。話がそれたねと支部長は苦笑しながら康太の方に向き直る。


「そういうわけだ、副本部長への情報の伝達をお願いしたい。一応情報については書面にまとめて手渡しすればいいだけにしておくから。そのほうが楽だろうからね」


「そうですね・・・あとは俺が何かしら副本部長に用件があれば完璧でしょうか・・・といっても世間話をするような仲でもないからなぁ・・・」


あくまで依頼を出す側と受ける側、本部の人間と支部の人間、もとよりそこまで関わりがあるというわけでもないため、会いに行くための用件と言われても特にこれといって思い当たるところがない。


そのあたりは少し相談しなければならないなと康太は悩んでいた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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