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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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やや不幸気味な素顔

「そこで、僕としてはある程度その人物を絞りたいんだよ。うちの魔術師何人かに手伝ってもらってね」


突然入ってきた一人の人物、聞きなれた声に康太は警戒心を抱くことはなかった。


康太が振り返ると気の弱そうな細身の男性がこちらに歩いてきている。


その声から康太はそれが誰なのかすぐに理解していた。


「ひょっとして・・・支部長ですか?」


「やぁ、その声はブライトビーだね。そういえば君たちに素顔を見せるのは初めてだったかな?」


支部長の素顔。確かに見るのは初めてだ。たれ目に穏やかそうな表情、そしてわずかにこけた頬が普段の仕事の多さと彼の疲労状態を物語っている。


「遅かったな、女性との約束の時間に遅れるとはいい度胸だ、彼はきちんと約束の十分前には来るぞ」


「あはは・・・これでも急いで仕事を片づけてきたんだよ?君の呼び出しなんて久しぶりだから頑張ってきたのに・・・にしてもどうしてこんな場所で?」


「盗聴の心配がないからな。支部長室ではだれが見ているか分かったものではない」


どうやら春奈が支部長を呼び出したようだった。困ったような表情をしながら笑う支部長はある意味イメージ通りというべきだろうか。


普段面倒ごとによって日々心労を抱えている人間らしい表情というべきか、こういう表情が非常に似合っていると思ってしまったのは口に出さないほうがいいだろうと康太は口をつぐんでいた。


「さて・・・では本題に入ろうか・・・手に入れた情報はこれで間違いはないんだな?」


「間違いないよ。各支部の支部長や直接行動していた魔術師たちにも確認して仕入れた情報だ。これで確定・・・かなり骨が折れたけどね」


「だがその価値はある・・・これだけの情報が漏出していたというのは問題だ・・・他の支部も気づいているのか?」


「一部の支部の人間は気づいているね・・・ただまだそれぞれ静観を貫いているよ。何せ本部が関わっているとなれば及び腰にもなるさ」


他の支部の支部長たちだって無能ではない。どの情報が洩れていて、どこから情報が流されているのかを知ろうとするものなのだろう。


だが確実にほかの支部の人間も本部への猜疑心を抱いているようだった。ここまでくると今後情報を本部に上げるのではなく、各支部での横のつながりを作っていく必要が出てくるかもしれない。


「というか、無条件に信頼してくれてるけどさ、君達的には僕を疑わないのかい?結構情報を扱ってるし、何より本部や他の支部とのつながりもあるから今のところ情報操作し放題なんだけど」


支部長の言葉にその場の全員が顔を見合わせて小さくため息をつく。その様子に支部長はあれ?と間の抜けた声を出していた。


「お前が内通者をやるだけの度胸がないことくらい何年も前からわかっていることだ。いったい何年の付き合いになっていると思っている・・・第一、そんなことをしたら私たちが敵になるということだぞ?」


私たち。その中に康太や文だけではなく小百合や幸彦、そして奏たちも含まれていることを康太は即座に理解していた。


日本支部の中でも武闘派で知られる魔術師一同を一気に敵に回す。その恐ろしさを知っている支部長がそのような愚を犯すとは思えなかったのである。


「い、いやいや、君たちを知っているからこそ、君たちの弱点とかも知っているかもしれないじゃないか。それを逆手にとってこう・・・うまく立ち回るかも?」


「・・・できるものならやってみろ。私はまだお前に手心を加えてやるかもしれんが・・・あいつにそういうことは期待するな」


「・・・それはもう骨身にしみてるよ・・・未だに若干古傷が痛むんだから・・・顔見知りなんだから手加減してくれてもいいのに」


「あいつはあの場で今までの鬱憤を晴らしたんだろう。次似たようなことがあればおそらく同じように今までの鬱憤を晴らすだろうな」


二人が話していることが小百合のことで、過去小百合と支部長が戦った時のことを言っているのだろうということは理解できた。


支部長は小百合から逃げ延びるほどの実力者だ。普通なら五体のどこかが斬り落とされるのが関の山だが、支部長は五体満足で生き延びている。


それだけの実力者はそういないだろう。少なくとも康太はまだ五体満足で小百合から逃げ切る自信はない。


「・・・裏切った段階で即斬首ですかね?」


「斬首で済めばいいがな・・・あいつの場合、お前に今までそれなりにこき使われていただろう?そういう鬱憤がかなりたまっているだろうから」


「・・・いや、こき使うって・・・しょうがない状況だったんだからそのくらいはあきらめてくれても」


「それをあいつに言って通じるとでも?とにかくそういうわけでお前が私たちを裏切る可能性はない。何か文句はあるか?」


支部長は完全に春奈に言いくるめられてしまっている。基本的に裏切ったら死ぬよりも恐ろしい目に遭うのがわかっているのだから裏切れないだろうと脅しているのと同じなのだが、それにしてもひどい言い草である。


自分の師匠のことなのに康太は『あの人ならそれくらいしそうだな』と普通に考えてしまうあたりなかなかの信頼関係が築けていると思うべきだろうか。


だが、こんなことを言ってはいるが、春奈もそれなりに小百合や支部長のことを信頼しているということがうかがえる。長い付き合いというのは伊達ではないらしい。



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