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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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理屈が通じるか否か

「いやはや、策を弄し、私の力を悪用したものは大勢いた。親しきものを使って力を借りようとしてきた者も大勢いた。だがこうして真正面から指示を出してきた者はなかなかいなかったな」


「不思議かな?それとも断るかな?」


「・・・いや、面白い。今回はお前の言うことに従っておこう。そんな風になってまで私に指示を出そうとするのだ。何かしらの理由があるのだろう」


アリスは支部長が今どのような状況になっているのかほぼ正確に把握しているため、あえて彼の思惑に乗るようだった。


傲慢な人間に命令をされたことはある。立場を理解せずに横柄な態度をとったものもいた。だが怯えながら、なおかつ震えそうになりながらも正面から指示を出した人間はアリスの経験の中でも数えるほどしかなかった。


支部長はもとよりそこまで指示というものをしない。依頼という形で頼むことはあっても支部長としての立場から命令や指示を出すということ自体を好まない気質なのだろう。


そんな支部長がわざわざアリスを指名する。そのことそのものに意味があるのだと康太たちは理解していた。


「お前がそこまで言うとはな・・・何か思うところでもあったか?」


「・・・ふぅ・・・いや・・・なんかすごくいやな予感がしてね・・・僕としては万全を期しておきたいのさ・・・もっともこれで万全かって言われると違うけど・・・」


「ほう?私がいても万全ではないと?」


「日本支部の万全っていうならもっといろんな人に声をかけないと、アリシア・メリノスの力は頼もしいけれど、君だけが日本支部の強力な魔術師というわけではないんだよ?」


「・・・なるほど、こやつが渋々ながらでも従うのがわかる気がするの。若いながらに肝の据わった奴だ」


アリスは小百合の方を見ながら微笑み、支部長の評価をかなり上方修正していた。


単純に運や魔術師としての実力だけで支部の長になったのではなく、そうなるべくしてなったのだとアリスは理解していた。


小百合も支部長の手腕自体は認めているのだろうが、それを素直に認めたくはないのか舌打ちしてしまっていた。


そして同時に康太と文、そして幸彦の方に視線を向ける。


「・・・こいつがここまで警戒するということは、それだけ何かあるな・・・ビー、ベル、気をつけることだ」


「支部長の勘って当たるんですか?」


「小規模な内容だとそこまで的中率はないが、非常に面倒くさい案件に関してのアンテナは私以上だな。伊達に長年問題児を抱えていないというわけだ」


「本人が言うのかい?いやそれでも、今回はめっちゃ嫌な予感がするよ・・・君が海外で滅茶苦茶やってきたとき以上だ」


「・・・いつのことだかわからんな」


該当する記憶が多すぎるのか、小百合は首をかしげてしまっている。いったい海外でどれほどやらかしてきているのだろうかと康太は不安になってしまう。


本当にこの人の弟子のままでいいのかと疑問さえ浮かぶほどだ。


「大丈夫だよ、クララがやらかしてきたことはたいてい国際問題クラスだから、それ以上のことが起きようとしてるって思えばいいさ」


「国際問題になっている時点でかなりの大問題なんですけど・・・支部長、世界遺産を破壊した時と同じくらいですか?それともそれ以上ですか?」


「・・・んー・・・わかんないよ、あくまで予感だからね?クラリスほど自分の勘に絶対的な自信なんて持てないよ」


小百合は別に自分の勘を信じているわけではない。自分の感じるがままに動いて判断しているだけの話だ。


理屈など関係なく、自分がそうしたいからこそそうしている。それを一種の勘と表現するならばそれはそれで正しいのだろうが、どちらにせよ小百合を理屈で動かすことはできないということでもある。


「さて・・・話を戻そう・・・調査班にはあと何人か加わってもらう。戦闘班には・・・ブライトビーのチーム以外にも何人か参加してもらいたい。可能ならクラリスも行ってもらいたいんだけど・・・?」


支部長がゆっくりと視線を向けるが、小百合はその視線を鼻で笑う。なんで私がそんなことをしなければならないんだという態度だ。


そもそも先ほどすでに断られているのだからあきらめればいいものを、どうやら支部長のいやな予感は小百合を動員するのも仕方がないと思えるほどらしい。


「えっと・・・じゃあエアリスはどうかな?君が来てくれるのも非常にありがたいんだけども」


「日によっては考えよう。だが私も私生活があるからな・・・それともし配属になっても私はベルやビーのチームとは別の場所に配置してほしい」


「一応聞いておくけど、その理由は?」


「単純だ。戦力を一カ所に集めすぎるのは良くない。ベルたちは十分に一個の戦力としては役に立つレベル、私が別の場所につくのは当然だろう?」


「・・・うん、やっぱり君と話しているとすごく落ち着くよ。理屈が通用するってすごくいいことなんだね」


「それは私をバカにしているのか?」


「バカにはしていないよ。ただあきれているだけさ」


支部長の言葉に小百合は殺気を飛ばし周りの魔術師を怯えさせているが、即座に康太と真理が両脇を固めて小百合を落ち着かせていた。


弟子の手慣れた対応に周りの魔術師たちは安堵の息を吐きながらわずかに冷や汗を流していた。


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