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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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支部長の意地

「さて・・・それではこれから日本支部の方針を決めようか」


康太たちは本部から戻ってきてすぐに支部長室に集まっていた。


すでに支部長室には本部から送られてきた資料が届いている。それに目を通しながら同時に支部長は今後の方針を頭の中で構築し続けていた。


「現段階で急を要する内容としては、日本支部の管轄内・・・日本の中部にある・・・地図上のこの印とこの線の部分の調査だね。こちらに関してはすぐにでも調査隊を編成して行動を開始してもらいたい」


先ほど本部でも見た地図を支部長の机に大きく広げ、その場所を指し示す。


もっとも元々が世界規模の地図を使っていたために、日本の部分を拡大するとかなり大雑把になってしまう。


線は太いペンのようなもので引かれており、印はその場所に軽く丸を付けた程度のものでしかないのだ。

拡大した地図を見ても、かなり広い範囲を捜索しなければいけなくなる。


人海戦術を使うにしてもこの広さをすべて調査するというのはかなり難儀しそうだった。


「これだけの範囲・・・線の部分も印の部分もかなり広くなりますね」


「日本の国土の少なさが災いしたね・・・でも他の国も同じようなものだよ・・・見てよ中国やロシアなんて。線はまだいいとして印の部分がかなり大雑把だ。こんな範囲を調べるなんて気が遠くなる」


描かれた部分だけを見ても軽く北海道よりも広い。


これだけの場所を調べなければいけないとなると支部長の言う通り気が遠くなる。


その分魔術師の人口が多いとはいえ、これだけの広さを捜索するのは何か月、何年とかかる仕事になる可能性が高い。


さすがに放置しておくわけにもいかないためにすでに動いているだろうが、良い結果が得られるとは思えないような条件なだけに同情を禁じえなかった。


「まぁそう考えるとこっちはましか・・・それでも広いのは間違いないんだけど」


「狭い国土が災いしたけど、逆に幸いでもあったね。どのあたりにあるっていうのはわかってるんだから」


それでもかなり広い範囲が指定されているものの、中国やロシアよりは何倍もましである。人の手で書かれた地図の印がここまで憎く感じたことはない。次からは世界征服を企む時はぜひパソコンなどで地図を書いてほしいとその場のほとんどの魔術師が願っていた。


「さて・・・それでは選抜隊を決めたいんだけど・・・調査班と戦闘班の二つに分けることにするけれど、構わないかな?」


支部長の言葉に異論があるものはこの場にはいなかった。これだけ広範囲を捜索するとなると調査するチームと、拠点が発見された時にそれを急襲するチームの二つが必要になってくる。


一つのチームにそれぞれを得意とする人間を入れてもいいが、どちらに対しても足手まといを作る必要性が感じられない。


それならばいっそ二つに分けたほうがましであると判断したのだろう。


特に調査中は戦闘班が、戦闘中は調査班が時間を持て余すことになってしまう。わざわざ貴重な時間を割いてまでそのような無駄な時間を過ごす必要はないと考えているのだろう。


「でも支部長、さすがに調査班に護衛が一人もいないというのはちょっと危険ではないでしょうか?万が一情報を得られても、敵に捕縛、あるいは打倒されてしまっては元も子もないかと・・・」


「うん、確かにその通りだね。何人か選抜して護衛役に徹してもらおうか・・・守備や逃走が得意な魔術師が好ましいね」


あくまで護衛ということであれば、危険を冒して相手を倒す必要性はない。あくまで調査班の身を守ればいいのだから、倒すのではなく生き延びて逃げることを優先できる人間が好ましいのである。


「では私は調査班の護衛に立候補します」


その場で真っ先に手を挙げたのは康太の兄弟子である真理だった。真理が挙手したことに康太は驚いて目を丸くしてしまっている。


無理もないかもしれない、真理はてっきり護衛ではなく戦闘班に回ると思っていたからである。


「姉さん、いいんですか?」


「えぇ、私はある程度索敵もこなせます。調査系の方に知り合いも多いのでうまく立ち回れるかと。何よりビーがいれば戦闘班の方々とのつなぎも可能です。ある程度治療も行えますから、護衛には向いているかと」


頑張って守りますよと真理は胸を張っている。誰も真理の言葉を否定することはなかった。真理の実力を知っている者も多くいるこの場であれば異論をはさむものなどいないだろう。


それに何より真理の言い分も的を射ているのだ。否定できるだけの材料も見当たらない。


調査に加わるものとしても真理が一緒にいると心強いからか、無言でうなずくものがほとんどだった。


「あとはそうだね・・・可能ならアマネにも護衛に参加してほしいかな・・・この場にはいないけれど・・・僕の方からお願いしておくよ」


この場にはいないアマネ、防御能力に秀でた彼ならば護衛役としては適任だろう。攻撃と回復に秀でた真理と、防御に秀でたアマネ。この二人がいればたいていのことは乗り越えられるのではないかと思えてしまうから不思議である。


「それと可能ならばアリシア・メリノスにも調査班に加わってもらいたいのだけれど、可能かな?」


アリスの索敵能力を知ってのことか、支部長は恐る恐るアリスの方を見る。アリスとしてはこのような状況に通訳以外の活躍を期待されるとは思わなかったのだろう。


支部長がアリスを指名したことにほとんどのものが驚き、アリスの返答を待っていた。


「私が頼まれて動くようなタイプだとでも思ったか?」


「思わないね。あなたのようなタイプは今まで何年も付き合わされてきたんだ。でもそれでも頼みたい。早期解決を目的とするならあなたの力はぜひお借りしたい」


アリス個人ではなくアリスの力が借りたいと明言した支部長に、アリスは仮面の下で笑みを作っていた。


封印指定の力を思う存分振るってほしいとさえ取れるような発言に、アリスがどのように応えるのか、康太は興味があった。


同時に意図的に地雷を踏みぬこうとした支部長の意図を少し図りかねている。


わざわざあのような言い方をしなくとも、やりようによってはアリスの力を借りることはできたはずなのだ。


なのにそれをしない。直接的なやり方に打って出ている。アリス自身も支部長の思惑を図りかねているところがあるのだろう。即座に否定するようなことはしないようだったが、それでも康太はアリスがわずかに不機嫌であると感じ取っていた。


「私の力を借りたいと・・・随分と面白い言い方をしたものだ。過去そんな物言いをした輩は数える程度しかいないが、たいていろくでもない目に遭っているぞ?」


「ろくでもない目になら今もなおあっているよ。あいにくとうちの支部は面倒ごとと厄介ごとのオンパレードでね、この程度では怯んでいられないのさ」


日本支部に所属してまだ日の浅いアリスでも、支部長が並々ならぬ経験を積んでいるということはよく知っている。


それは魔術師としての経験というよりは人の上に立つものとしての経験だ。もちろん魔術師としての経験も十分以上に積んでいるのだろうが、それと同じかそれ以上に人の上に立つものが積むべき経験を長く積んでいる。


「それに、いちいち回りくどいやり取りをするのは君は好まないと思ってね・・・いつまでもブライトビーにお願いさせてしまうのも、支部長として情けない。一度腹を割って話すべきだと思ったのさ」


「・・・あえて死地に飛び込むか、その意気やよし。だがこやつはそんな気を回してはいないと思うぞ?あくまで自分が必要だから私に頼んでいるだけのことだ」


「だからこそさ。彼は実直な人間だ。それは長所でもあるが短所でもある。僕はそういう風にはなれないからね・・・ここは経験に基づいて話させてもらうよ」


支部長はアリスに圧力を高められても全く引く気はないようだった。さすがは小百合と真っ向からやりあえるだけのことはある。


実際は背中にものすごい量の汗のシミを作り出しているのだが、それは会話しているアリスの側からは見えていない。


もっともアリスは支部長がアリスにおびえながらも、恐れながらも強がってこうして話しているということを見抜いていたが。


「アリシア・メリノス、今回の件ははっきり言って協会そのものを超える、魔術という存在全体の話になりかねない。相手がどんな『爆弾』を使おうとしているのかは知らないが、少しでも出遅れれば手遅れになりかねない。魔術の存在が全世界に露呈する可能性だってある」


「そうだな、これほどの規模で、これほどの術式を使った行動は私も数える程度しか見たことがない」


逆に言えば数えるほどはあったのかとその場にいる魔術師は驚くが、今はそのことは置いておくべきだろう。


支部長の言うようにこの件で失敗すれば間違いなく未曽有の大災害になるかもしれない。


それだけならばよい、自然災害として被害が出ればまだいいほうだ。問題なのは今まで隠してきた魔術の存在が露呈することである。


「魔術の露呈は、協会が最も忌避している行為だ。君もそれは百の承知のはず」


「それで、力を貸してほしいと」


「・・・君が調査班に加わってくれれば、おそらく素早く次の一手が打てるようになる。そうなれば相手に少し近づける」


支部長の言葉にアリスは口元に手を当てて考え始める。支部長の言っていることは真っ当だ。何も間違ったことは言っていない。


だが真っ当な言葉をアリスがまともに受けることはないと康太はわかっていた。もしアリスがこんな説得に耳を貸すようならば、アリスはもっと多くの人間に利用されていただろう。


そんなことは彼女自身が許すはずがない。そして何より支部長がこのような説得でアリスが動くと思っているとは考えにくい。


「それで、私が力を貸すと思っているのかの?封印指定のこの私が?」


「・・・いいや、言っただろう?君みたいな面倒な輩とずっとかかわってきたと。君にはこういういい方の方が好ましいかな?」


支部長は息を吸って、わずかに震えそうになっている声を自ら律しようとする。


慣れ親しんだ小百合とは違う圧力。年季もその重さも違うのだ。康太だって身震いしてしまうかもしれない。


だが支部長はぶれない。それが支部を任されている長としての姿であるとその場の全員に見せつけるようにまっすぐとアリスを見る。


「アリシア・メリノス、今回の作戦、君には調査部隊に入ってもらう。構わないね?」


有無を言わせない。力を借りたいなどと下手に出るようなことはなく、堂々とアリスの都合を無視して言ってのけた。


その場にいた魔術師の何人かはなんてことを言っているのだと驚愕し、支部長とアリスを見比べている。

そんな中アリスは小さく笑っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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