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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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まだ負けていない

『最後に、アフリカ支部にあった拠点から見つかったものだ。これが先ほどの手記の信憑性をさらに強めている』


本部はそういってプロジェクターに画像をいくつか映し出していく。


映し出されたのはどこかの写真のようだった。そしてその写真の中には洞窟の中のようなものもあり、そこに方陣術のようなものも存在していた。


方陣術らしきものが見つかった段階で、他の支部の魔術師たち、そして康太たちもあの術式がいったいなんであるのか解析しようと試みていた。


「あぁ・・・あれが例の術式だよ」


「例の・・・コルトさんが作った奴ですか?」


「うん、随分といじられてるけど、基本構造は変わっていないみたいだ」


朝比奈がここに呼ばれた理由。禁術関係のことだとは知っていたが、それを相手が使っているとは康太も思わなかった。


いや、使われているということが判明したからこそこうして呼ばれたのかもわからない。


「あれはどういう術式なんですか?」


「うん、単純に説明すると、あれは魔力の伝達用術式なんだよ」


「魔力を伝達?」


「そう、それもかなり長距離用なんだ。数キロ、数十キロなんて余裕の代物なんだよ」


魔力を伝達するという言葉に聞き覚えがなかった康太は文の方に視線を向ける。以前、方陣術で遠くの術式を発動させる技術に関しては文が言及していた。


それ用の術式を組めばいいという話だったが、距離が遠くなればなるほどにその扱いは難しくなる。


「キロ単位ってなると私は無理ね。少なくとも禁術に指定されるのも納得よ。キロ単位で方陣術を自由自在に発動できるような技術があったら、なんだってやり放題になっちゃうもの。その伝達のレベルがどの程度なのかにもよるけど」


「一応僕が作った術式は、発動のために注ぎ込んだ魔力とは別のところに魔力の注ぎ口を作って、特定の術式に接続できる形のものだったんだ。魔力の変化は極力ないような形でね」


「・・・だとしたら、射程距離が一気に伸びることになりますね・・・数キロ単位にまで」


方陣術は即座に発動できない代わりに、任意のタイミングで発動することができる魔術の発動方式だ。


とはいえ複雑にすればするほどその分術式は複雑になっていくために、特定のタイミングで発動するには技術が必要になる。


さらに言えば大量に魔力を必要とする出力の高い術式の発動も技術を要する。


大量に魔力を注ぎ込むこと自体は問題ないが、大量の魔力を保持した状態で発動させないようにするのが問題なのである。


大量の魔力があればそれだけで力を持つ。大気中に分散しないようにしたり、誤って術式が暴走しないようにするために多くの人手が必要となる。


そもそも大量の魔力を注ぎ込むことそのものが多くの人手を必要とするために、そのあたりに不自由を感じるものはあまりいなかった。


だがこの伝達の術式は今までの方陣術の根底を大きく覆す可能性があるのである。


「ちなみにベル、これが普通に使えたらどうなるんだ?」


「大規模魔術っていうのは当たり前だけどたくさんの魔力が必要になるわ。現地でそれを使えば当然自分たちも巻き込まれる。でもこれを使えば巻き込まれる心配なしに大規模な魔術を使える。事前の準備は必要だけどね」


「・・・でかい爆弾を任意の場所にいつでも使えるようになるってことか。ほぼノーリスクで・・・事情を知らなければほとんどやりたい放題だな」


「そういうこと。この技術の肝は大量の魔力を、別の場所からでも伝達できるってこと。つまり一か所に魔術師が何人も集まらなくても、それぞれが事前準備をして時間を合わせておけば発動できることにある」


「・・・魔術師が何人も集まってれば目立つけど、それがないから発覚もしにくい・・・ってことか・・・これの魔力伝達の時って感知はできるんですか?」


「魔力探知の術式を使えば探知は可能だよ。ただそれも人が動くよりは早いからね・・・しかもただの線だし、感知してもなんだろうって思っちゃうかも」


「こそこそ何かをやりたい連中からすれば喉から手が出るほど欲しい技術ですね・・・すごいものを作ったものです」


「まぁ、協会に禁術指定されちゃったけどね・・・実際危ないことだっていうのは理解してるさ・・・まさかそれを利用されてるとは思ってもみなかったけど」


禁術に指定されてからというもの、朝比奈はこの術式を使うことはしなかった。残っていた痕跡もすべて協会側に確保されていたため、残っているのは協会の禁術書庫に保管されているものだけだったのだ。


やはり禁術のいくつかはすでに抜き取られた後だったのだなと思いながら、康太はスクリーンに映し出されている術式の写真以外にもいくつか気になる点を見つけていた。


それは地図である。


「あの地図・・・なんか印がつけてあるな」


「ん?よく見えたわね・・・確かに何かあるわね・・・」


他の魔術師たちが術式に夢中になっている中、その効力をいち早く知った康太たちはその写真に写されている地図に目を向けていた。


世界地図と、いくつかの国の地図。それぞれの詳細な地形などいくつもに分かれて作り出されており、中でもアフリカに関してはその首都、あるいは栄えている町と山岳地帯、あるいは平野などにいくつか印がつけられているのが目についた。


康太たちがそれに気づいてから数秒して、他の魔術師たちもその地図に気付き始める。そしてそれらがアフリカだけではなく全世界の各地に印がつけられていることを認識していた。


『全員気付いただろう。この術式はおそらくすでに各地にちりばめられてしまっている。我々はすでに一歩も二歩も遅れてしまっているのだ』


すでに相手は爆弾の導火線の準備を始めている、あるいはすでに導火線はセットし終えているかもわからない。


その事実に康太たちは目を細めた。


未だ王手詰みには早いかもしれないが、それでもかなり追い詰められていることは間違いないだろう。


だが見方を変えるならば、まだ詰んでいないと思うべきだ。この地図の情報を頼りにこれらの場所を調査すればまだ状況はひっくりかえせる。


各支部の人間が、日本支部の人間が、そして康太がそう考えている中、本部も同様の考えを抱いているようだった。


『諸君らも思いついた通り、まだ我々は敗北していない。まだ我々は動くことができる。今後この地図を頼りにそれぞれの地点を調査、攻略していくこととなる。皆忙しくなるとは思うが、一つ頼む』


今回本部が各支部を呼び出したのは良い判断だったかもしれない。各支部の緊張感が今まで以上に高まっているのが康太でも理解できた。


かなり状況が切迫しているということ、そしてまだ間に合うということ、大きな手掛かりが生まれたということ。


それぞれの支部の主力メンバーは自分たちの支部の管轄の場所を強く意識していた。そしてそれは日本支部の康太たちも同じことである。


「日本にも一応ありますね・・・場所は・・・微妙な場所ですね・・・町からは少し遠い」


「協会の門ですぐに移動とはいかなそうだね・・・山奥というわけでもなさそうだけど、移動には骨が折れそうだ」


「すぐさま調査部隊を派遣したいな。可能なら同時に攻略。ブライトビー、君のチームにお願いできるかな?」


「俺らだけじゃなくてちゃんと増援もお願いしますよ。周りを固めて絶対に逃がさないようにしないと」


「わかっているよ、可能な限り有能な人材を押さえておくさ。この数日が勝負だと思っていいだろうね」


支部長はそういいながらこの場にいる人間全員に視線を移していく。


この中の誰かが裏切者、あるいは内通者とも限らないのだ。ここで全員に通知したことでその情報が相手に流れないとも限らないのである。


問題は相手がどの程度の実力の持ち主を件の場所に配置しているかというところである。


康太クラスの実力者か、それとも真理レベルか、小百合レベルか、あるいはそれ以上か。


負けるつもりは毛頭ないが、この攻略作戦はかなり重要になってくるのは間違いないだろう。

それ相応の準備をしておかなければ返り討ちに遭いかねない。


「どうせなら師匠も行きませんか?たまには体を動かすのもいいんじゃないですか?」


「私はパスだ。あいにくとこんなことに付き合っている暇もないんでな」


「暇なくせに何言ってるんですか。シノの修業も確かに大事ですけど協会全体の敵なんですよ?」


「それがどうした。私のスケジュールを変えようというのならそれなりの対応を見せてもらおうか」


相変わらず自分勝手な都合で動く人だなと康太たちはあきれてしまう。そしてそんな小百合にはすでに慣れているのか、支部長は小さくため息をつくだけだった。


「第一兄さんが一緒にいるなら問題はないだろう。この人が後れを取るとは思えん。そんなことがあったら私が動かざるを得なくなるだろうが・・・」


そういいながら小百合は幸彦の方に視線を向ける。


確かに小百合の言う通り、幸彦が負ける姿というのは想像できなかった。幸彦のように高いレベルで戦闘を行える魔術師は稀だ。攻撃も防御もそつなくこなす幸彦ならば後れを取るようなことは確かに考えにくい。


「クララに信頼されるっていうのはうれしいなぁ。じゃあ僕も頑張ってみようかな」


「あんまり頑張りすぎると筋を痛めますよ?もう歳なんですから」


「いやいや、僕だってまだまだやれるさ。かわいい弟弟子に心配されることはないよ」


「つい先日、たかが三人相手に手間取ったと聞きましたよ?衰えているんじゃないですか?」


小百合の言葉に幸彦は返す言葉がなかったのか、悔しそうな声を出していた。三人を同時に相手にして手間取る程度のこと気にすることではないように思うのだが、小百合や幸彦からすれば三人程度はものの数にも含まれないらしい。


相変わらず戦闘に関しては辛めの判定だなと康太は小百合の考えにあきれてしまっていた。


「師匠、三人相手だと俺もきついですよ?即行で倒すなら一人か二人ですよ」


「この人は昔十人を同時に相手にして楽勝で全員叩き潰した人だぞ?三人程度で苦戦するなど衰えている証拠だ。実戦から離れてだいぶたちますね?」


「さすが我が弟弟子、よくわかってるね。最近ようやく勘を取り戻してきたところさ。デスクワークや調査とか調整が多かったつけがここにきてるね」


本人は衰えたといっているが、支部長たち一般的な魔術師からすればそれでも幸彦の戦闘能力はかなり高い部類になる。


小百合と比肩できるという段階ですでに高い戦闘能力なのだが、小百合からすればそれでも弱くなったという。


全盛期はいったいどれほどの強さだったのかと康太は幸彦の方を見てあきれてしまっていた。



日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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