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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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星を

「いやはや・・・本部に呼ばれた時点で何となく予感はしていたのだけれど、こんなに大物に出会えるとは思わなかった。初めまして、ジャンジャック・コルトです。お噂はいろいろと伺っております」


朝比奈はアリスに向けて深々と頭を下げる。決して倉敷をないがしろにしたわけではないだろう。康太が紹介したということもあって精霊術師であっても蔑んだりすることはないだろう。


もとより朝比奈はそのような人物ではないことはわかっていた。


もちろん紹介された片方をないがしろにするようなタイプでもない。だが今はあまりにも比較対象が悪すぎた。


ありとあらゆる技術を習得し、その技術をおそらくこの世界で最高のレベルで使うことのできる魔術師。


封印指定、だがそれ以上に朝比奈からすれば優れた魔術師でしかない。そんな優れた魔術師につい挨拶したくなってしまうのも無理のない話だろう。


アリスも丁重に挨拶されて悪い気はしないのか、胸を張った状態で何度か小さくうなずいている。


普段扱いが悪いだけに、このようにちゃんと評価してくれる人物が珍しく、また嬉しいのだろう。


恐れられるのではなく、利用されるのではなく、純粋に尊敬してくれる人というのは案外少ないのかもわからない。


「それにしても、まさか彼女が本当に君たちと行動を共にしているとは・・・噂には聞いていたけれど、実際に目の当たりにすると驚くものだね」


「噂は聞いていたんですか?」


「うん、いろいろな噂が聞こえてくるよ。なかなか派手に動き回っているようだね。たいていが物騒な内容だ」


「あはは・・・師匠に影響されましたかね」


「なるほど、それならうなずける。っと・・・懐かしい顔にあったね。君に会うのは何年ぶりだろうか」


そういって朝比奈は康太の後ろに控えていた幸彦の方に視線を向ける。幸彦も嬉しそうに朝比奈に近づくと大きく手を開いてその手をしっかりと握っていた。


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。少し太りましたか?」


「久しぶりに会う人はみんなそういうんだよ。誰か一人くらい痩せたんじゃないかって言ってほしいんだけどね」


どうやら朝比奈と幸彦は年単位で会っていなかったらしい。以前小百合たちが訪れた時も久しぶりだと言っていたことからそうなのではないかとは思っていたが。


「君たちのお師匠様は元気かい?もう結構な歳だったからちょっと心配だったんだけれども」


「今でも元気にしてますよ。魔術師自体はほとんど引退に近いですが、まだ魔術の冴えは相変わらずです、それどころかどんどん鋭くなっているような感じがしますよ」


「さすが生涯現役というだけはあるね。君たちの師匠らしい。あの人ももう少しのんびり過ごせばいいものを」


「いやいや、今は隠居に近いですよ。時折目つきが鋭くなりますけど」


幸彦たちの師匠、智代の話で盛り上がる中、康太は小百合に小声で話しかけていた。


「そういえばコルトさんは師匠の師匠とお知り合いなんでしたっけ?」


「そうだ、その関係で私も知り合った。あの人は良くも悪くも分け隔てないからな・・・私たち三兄弟を前にしても平然としていた」


奏、幸彦、小百合の三兄弟弟子を前にしても全く平然とし対応できるとなればなかなかの胆力の持ち主と言わざるを得ない。


もとより小百合をちゃん付けするようなタイプなのだ。昔から頭が上がらない存在なのかもわからない。


「ですがわかりませんね、なぜあなたがここに?いくら方陣術の技術が高くともこの場に呼ばれるようなことがあるとは思えませんが・・・」


「ん・・・実はね・・・今回呼び出されたのは僕が作った術式が原因でもあるんだよ・・・重要参考人扱い?」


作った術式。その言葉にその場の全員の表情が変わる。


「もしや、相手が使っていた術式にあなたのものが?」


「ただの術式ならよかったけどね・・・協会には禁術指定されちゃってるから余計立つ瀬がないのさ・・・正直に言えばとばっちりだって思うけど」


朝比奈の技術力は決して低くはない。その低くない技術力を用いて危険な術式の一つや二つ簡単に作り出せてしまうだろう。


その中の一つ、禁術と呼ばれるようなものが今回相手に使用されてしまった。だからこそ朝比奈がこうして呼び出されているのだ。


「その禁術の管理はどこに?」


「確かロシアだったかな?詳しくは知らないけれど、少なくとも日本ではなかったね。ずさんな管理というつもりはないけれど、もう少ししっかりと守ってほしかったものだ」


自分が作った術がきちんと管理されていないというのは本人としてもあまり良い気はしないのだろう。


もっともそれが禁術である以上、秘匿されなければいけないのは理解しているのだろうが、そのためにこうして呼び出されるのは本人からすればあまり良いこととは言えないようだった。


良くも悪くも、彼にとっては負の遺産となりかねない。


康太たちが朝比奈との旧交を温めていると、本部側の説明の準備が整ったのか、康太たちが集められている大ホールのステージ部分に本部の人間が集まっていた。


各支部の魔術師の視線が集まっていく中、本部の人間はプロジェクターを使って大画面を疑似的に作り出していた。


『諸君、今日はよく集まってくれた。忙しい中時間を作ってくれたことにまず礼を言わせてほしい』


魔術によって声があたりに拡大されている中、アリスの翻訳が始まる。康太たちだけにしかその効果が及んでいないのか、それともそれぞれの支部内で翻訳者がすでにいるのか、どちらかはわからないが各国の支部の人間もしっかりとその内容を理解しているようで満足げに小さくうなずいている。


『さて、今日君たちに集まってもらったのはほかでもない。最近協会を騒がせている例のグループに関する情報が入ったからだ。以前実施した囮作戦によって情報源が多くなり、拠点攻略をするまでに至ったが、攻略した拠点の中に、いくつか気になる情報を有しているものがあった』


以前の囮作戦というのはビデオを用いた相手勢力を誘い出した。何人も捕縛が成功したことで、その魔術師たちを情報源にし、いくつもの拠点の位置を割り出した。


そして今回の話の本題とでもいうべき情報、以前日本支部でも見つかった『触れられない石』と、何かの計画書のようなもの。


その話をされるのだとわかっていた康太たちは静かに耳を傾ける姿勢を作っていた。


『今回見つかったのは三つ、一つは日本支部、一つはロシア支部、一つはアフリカ支部で見つかったものだ・・・それぞれ意味があるものもあれば、意味があるのかわからないものもある。ここで一度情報を共有したいと思う』


三つ。その言葉に康太と文の視線が支部長の方に向く。話では日本支部とロシア支部しか特に見つかってはいないはずだったが、ここでアフリカ支部が追加されたらしい。


どうやら支部長も聞かされていなかったのか、首を横に振る。


おそらくは本部の知らせが届いた段階では発見されていなかったのだろう。思わぬ手掛かりというべきだろう。さらに身の引き締まる思いだった。


『まず日本支部から発見された物体だ。これを見てほしい』


そういって本部の魔術師は一つの石を取り出した。それが康太たちも見たあの石であることはすぐに理解できた。


他の支部の魔術師はそれが何なのか一瞬わからなかっただろう。何せ外見上はただの石なのだ。

索敵しても石であること以外は何もわからない。かなり特殊な事例といえる。


『日本支部の拠点の一つで発見された石で、魔術によって何かしらの細工が施されている。これは人が触ることができない・・・正確には意図的に触ることができないというべきだろうか、本部でも確認、検証済みだ』


本部の人間が実際に触ろうとしてもその石を通り抜けてしまう。念動力によってそれらを浮かせ、他の支部の人間の手元に順番に近づけていきその状態を正確に理解させると話を先に進めるようだった。


『この石が何の意味を持つのかは不明だ。だが相手が何の意味もなくこんなものを作り出すとは思えない。何か目的があると考えていいだろう。これを発見した時の詳細な資料はすでに各支部に届けさせた。戻ってから確認してほしい』


康太たちはすでにその資料に目を通してあるが、この石を作り出すための術式らしきものがあったという記述はなかった。


いったいどのような手段を用いたのか、今の康太には想像もできない。


『次にロシア支部から発見された手記だ・・・今回はこれが重要な内容となるからよく聞いてほしい。メモ書きから何かの計算式、そして伝言まで幅広く記されているのだが・・・気になるのはこのページからだ』


本部が取り出した一冊のメモ帳。そしてその重要な部分が拡大されてプロジェクターに投影される。


だがその言語を康太は読むことができなかった。メモ書きだからなのか、それとも単純に書いた人間の字が汚いのか、あるいは康太の知らない言語で書かれているからか、まったく理解することができなかった。


「アリス、あれなんて書いてあるんだ?」


「いくつかあるが・・・おそらく気になるのはあそこだな・・・『この星を、我々のものに』

だいぶ汚い字だが」


アリスから見ても汚い字なのかと少し思いながら康太は再びメモの方に視線を移す。


この星を我々のものに。なるほど支部長が世界征服を匂わせたのも納得の表現である。


あのような内容があればそのような内容を彷彿とさせるのもうなずける話である。


『この一文がただの暗号や合言葉ではないことを証明するかのように、このあとにいくつかの国の首都、そして地方の名称、それらをつなげるような内容が見つかっている。おそらく連中の目的は、この世界の、この星の征服であると予想される』


本部の魔術師の言葉に支部の全員がわずかにざわつく。あらかじめある程度は聞かされていたのだろうが、やはり信じられないというのが正直なところだった。


康太も手記でどのような内容が見つかったのか正確に把握していないためはっきりとは言えないが、あの一文だけでは世界征服を目的としているとは言えないのではないかと思えてしまう。


「どう思う?」


「あれだけじゃなんとも言えないわね・・・ただのメモ書きでしょ?それこそ私がメモをあんなふうに書いたらそれで世界征服だと思われるの?」


「相手の規模にもよるだろうけどな・・・本部もあせっているんじゃないのか?」


康太たちからすれば、本部は結論を急いでいるようにも見える。だがどうやらそれだけではないようだった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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