久方ぶりの再会
「・・・なんで私がこんな面倒なものに・・・」
「そういわないでくださいよ師匠。一応大事なことなんですから」
小百合は本部の説明があるその日、康太と真理に引きずられて本部までやってきていた。
本気で本部にくるのを嫌がった小百合を連れてくるのは本当に面倒だった。最終的には小百合を真理と協力して両脇を抱えて強引に連れてきたほどである。
相変わらずこの人は本部が嫌いだなと思いながらも康太はため息をつく。
「まだ本部にくるだけならいい。こいつがいるのがわかっていたから嫌だったんだ」
「それはこちらのセリフだ。お前がいるとわかっていたら来なかった。まったく、普段迷惑をかけている癖にこういう場にだけは来るのだな」
「まぁまぁ師匠、そう目の敵にしないでくださいよ。いつものことじゃないですか」
小百合の視線の先にいた春奈は仮面の下でものすごくいやそうな顔をしているのだろう。
小百合の両脇に康太と真理がいるように、春奈の両脇には文と倉敷がいた。
それぞれ会いたくない人間から極力離れようとしているのだが、その弟子たちが基本的に一緒に行動を共にしているために離れようにも離れられないのである。
「いやぁ、二人がこうしてそろっているのを見るのは久しぶりだね。二人ともいつも喧嘩ばっかりだから珍しいよ」
その場には当然のように幸彦の姿もあった。小百合と春奈の二人にとって兄的な存在である幸彦がいることもあって二人は必要以上に暴れることも騒ぐこともできずにまるで借りてきた猫のようである。
春奈はともかく小百合がここまでおとなしいのは珍しかった。
さすがの破壊の権化も兄弟子には弱いらしい。
「うちの支部だけ妙に物々しく見えてしまうのはあれだね、百パーセント君たちのせいだよね。なんか他の支部が妙に警戒してるんだけど」
「すいません支部長、もうちょっとおとなしくさせるんで勘弁してください。他の支部にはなんかうまいこと言っておいてくれるとありがたいです」
日本支部の中でやってきているメンバーは小百合、春奈、幸彦、康太、文、倉敷、アリス、そして支部の専属魔術師が数人、そしてあたりを見渡すと康太は以前見たことのあるとある人物を見つけることができた。
それはかつて商談したことのあるジャンジャック・コルトこと朝比奈だった。
そしてその人物に一番早く気づいたのは真理だった。
「あれ?コルトさんじゃないですか。どうしてここに?」
「あぁ君たち久しぶりだね。道理で騒がしいと思ったよ。特にこの二人がそろっているのを見るとは・・・何年ぶりかな?」
「・・・お久しぶりです。その後お変わりないようで」
「お久しぶりですコルトさん。奥様はお元気でしょうか?」
小百合と春奈がそれぞれ挨拶をすると朝比奈は穏やかに笑いながら小さくうなずいて二人を見比べる。
「うん、いつも食べるものにうるさくてね・・・油物をあんまり食べられてない日々だよ・・・ところで君たちがここにいるってことは・・・」
「えぇ、今回の件に私たちもかかわっています。こいつのせいで」
そういって小百合は康太の襟をつかんで無理やり前に引きずり出す。康太のせいでこうなったわけではなく、康太がこの事件に巻き込まれただけなのだが、それを小百合に言ったところで無駄だろう。
どんな言い訳をしても結局康太のせいにされるのは目に見えている。ここは反論せずに言いたい放題にさせておくのが得策だなと康太はおとなしくしていた。
「そうかそうか、君の弟子だから何となくそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりトラブルメーカーだったんだね。ちょくちょく協会で君の名前を目にしたよ。あの時渡した方陣術はもう使えるようになったかな?」
「あはは・・・まだまともに発動もできないです・・・なかなか難しくて・・・」
朝比奈は方陣術のスペシャリストだ。この場に呼ばれてもおかしくないだけの人物であるためにこの場にいても驚くことはないが、まさか再会できるとは思っていなかっただけに康太と文は目を丸くしていた。
「おい、この人誰だ?知ってる人か?」
「旧交を温めるのは良いことだがな、そろそろ紹介してはくれんかの?」
この中で朝比奈のことを知らない倉敷とアリスが康太と文の近くで助け舟を求めている。
この件に関わるのであれば今の内に紹介しておいたほうがいいだろうなと康太は二人に朝比奈のことを紹介することにした。
「この人はジャンジャック・コルト。師匠の商談の関係で知り合った人で方陣術がすごくうまい人だ」
「雑な説明はやめなさいよね・・・まぁあってるけど。いくつもの方陣術をアレンジして使いやすくしたり、簡単に改良したり、そういうことを専門に行ってる人よ。方陣術の専門家ね」
康太だけではなく文も大きく評価したことで倉敷とアリスは朝比奈の技術が高いレベルのものであることを認識したのか、大きくうなずきながら朝比奈に近づいていく。
「初めまして、トゥトゥエル・バーツです。こいつらと行動を共にしてる精霊術師です」
「初めまして、アリシア・メリノスだ。こやつらとは同盟を結んでいる。一つよろしく頼むぞ」
倉敷のことはともかく、アリスの名乗りを聞いて朝比奈は一瞬動きを止める。その名前に覚えがあったのだろう、少し悩んでから二人の手を取ってそれぞれ挨拶していた。
その手が若干汗で湿っていたのは彼が肥満体形であることだけが原因ではないだろう。特にアリスの手を握るときに掌が汗まみれになってしまっていたのは仕方のないことなのかもわからない。




