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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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幸彦の好き嫌い

「へぇ・・・石ねぇ・・・そんなものがあるんだね」


「えぇ、支部長もだいぶ驚いてるみたいですよ。こっちとしてはあんな妙なものがあったことに驚きですけど」


康太は休日に幸彦と近接戦の訓練を行っていた。幸彦の休日に合わせる形で康太は割と頻繁に近接戦闘の訓練を行っている。


今までまともな徒手空拳で一度も幸彦に勝てたことはないのだが、それでも少しはましになっていると思いたかった。


「アリスはなんて言ってたんだい?こういう話題なら彼女が一番強いだろう?」


「アリスはなんか昔の思い出に浸っちゃってましたよ。いやなことを思い出したみたいですね」


「あぁなるほど・・・彼女はいろいろ経験豊富だろうからね・・・良くも悪くも思うところがあるということか」


康太の拳を軽く打ち払いながら逆にその体めがけて自らの拳を打ち込んでいく幸彦。雑談をしながらもその行動に一片の迷いも淀みもない。


体が勝手に動いていると思えるレベルで雑談と高等技術を同時に行っている。康太からすれば恐るべき光景だった。


奏も小百合もそうなのだが、雑談をしながらもこうも簡単に自分の攻撃を対処されると自信がなくなるなと内心ため息をついている康太は、幸彦の拳を受け止めながら体ごと回転させた蹴りを放つ。


幸彦との訓練を重ね、さらに自らが編み出した噴出の魔術との合わせ技の攻撃を多用することで、康太の近接格闘は拳よりも足技を多用するものに変化していた。


もちろん、自らの体を支える足を攻撃に使っている時点でバランスは崩れやすくなり相手に付け入る隙を与えることになる。


だがそこは空中戦に長けた康太である。多少体勢を崩しても自らの体を回転させたりすることで強引に体勢を立て直す技術をすでに習得していた。


空中の不安定な体勢から放たれる蹴りや、地上にいる時に放たれる強力な回し蹴り、そして要所要所に含まれる牽制の意味を含めた拳に幸彦は舌を巻いていた。


一年ちょっとでここまで強くなれるものかと、小百合が施した修業のすさまじさを康太から感じ取っていた幸彦は、康太の蹴りを軽く受け流し、円を描くような軌道でいなすと同時にがら空きになった康太の体めがけて嘗打を繰り出す。


回避することもできずに康太はその打撃を体で受け止めてしまう。空中で打撃を受けたことでその体が後方へとはじかれ、地面に着地する瞬間、急接近してきた幸彦の蹴りによって再び空中に弾き飛ばされる。


腹部に幸彦の全体重を乗せた蹴りが直撃した康太は、呼吸困難に陥ってしまうが、意識を失うことはできなかった。


鈍い痛みが腹に残り、鈍痛が腹から全身の力を奪っていく。足に力が入らなくなり、手がわずかに痺れるが頭だけは冴えていた。


「でもあれだね、それだけ相手がわけわからないことをやろうとしてるっていうのは少し不思議ではあるね・・・そんなものを作って一体何をしようとしているのやら」


話しながらも幸彦の攻撃の手は止まらない。


空中に蹴りだされた康太の体を待っていたかのようにその体めがけて回し蹴りを放つ。康太が蹴り技を使い始めたことに対する対抗心か、それとも見本になろうとしているのか、幸彦の放つ蹴りは当たり所が悪ければ人を殺せるほどの威力を持っていた。


康太は動きが鈍くなった体を強引に動かし、何とか腕や足を盾にする形で幸彦の攻撃を防ぎ続けていた。

何度も地面を転がりながら、それでも幸彦の攻撃を受け止めようとする。


何回転がっても、何回防いでも幸彦の攻撃は止まらない。自分の攻撃は簡単に防がれるのになぜ幸彦の攻撃を防ぐことができないのかと康太は疑問に思っていた。


単純な体重の違い。それもあるだろう。


単純に技術力の違い。もちろんそれもあるだろう。


だがそれだけではなく、幸彦の防御には康太にはないものがあるのだ。


「段階的に何かをやろうとしているのであれば、いくつもやってきた今までの事件すべてに最終目的とでもいうべきものがあるのかもしれないね・・・一つ一つの事柄が目的じゃなくて、その先にあるものをパーツみたいに・・・って聞こえてないかな?」


幸彦は攻撃の手を止めて康太の様子を見る。


立っているのがやっとと思えるほどに康太はグロッキーになっていた。意識は朦朧としており、足は震えている。


最近幸彦は戦闘にかかわることが多くなってきたこともあって訓練でもなかなか容赦がなくなってきている。


少し本気を出すと、康太でもほとんど手を出すこともできないまま完封されてしまうのである。


「んー・・・やっぱりさーちゃんに鍛えられてるだけあって頑丈だね。でもやっぱりさーちゃんの弟子だね、攻撃と防御のバランスが無茶苦茶だ」


幸彦が康太の頭に触れようとした瞬間、康太は動かなくなりかけている体を動かしてその顔めがけて全力で蹴りを放つ。


幸彦は薄く笑みを浮かべながらその蹴りを正面から受け止める。わずかにその体の軸がずれるが、幸彦は自らの腕を使って完璧に康太の蹴りを防御していた。


「いやぁなかなかどうして・・・さすがはさーちゃんの弟子。意識を奪わないと攻撃の機会を逃さないか」


康太を相手にほんの少しとはいえ警戒を緩めたことを幸彦は反省しつつ、その腕を取った状態で康太を投げる。


ほとんど力を入れていないのにもかかわらず康太の体は宙を舞う。


次の瞬間、康太の体めがけて幸彦の拳が深々とめり込む。


康太はその瞬間意識を手放していた。













「・・・ほっとんど攻撃できませんでしたね」


「あはは、でもなかなか攻撃は鋭くなってるよ。蹴り技なんてなかなかのもんさ。さっきも言ったけど攻撃と防御のバランスがおかしいんだよ」


意識を取り戻した康太は自らの体に身体能力強化を施し自己治癒能力を高めながら先ほどの訓練を反芻していた。


康太の攻撃も幸彦に対してちゃんと当たりそうになっているのだ。だが幸彦はその攻撃をとにかく防ぐ。

真正面から防ぐというよりはその力の軌道をそらせて受け流す行動の方が多い。


「師匠はどっちかっていうと防御より回避の方が多いですからね。まともに防御とかしたことないですよ」


「うん、だからこそなんだろうけどね・・・本当に弟子は師匠によく似るよ。康太君は驚くくらい戦い方がさーちゃんとよく似てる」


「そんなにですか?でも師匠とは比べ物にも・・・」


何度も小百合とは訓練をしているが、小百合の戦い方は康太とは違う。康太は小百合の戦い方を見本にはしているが、すでにそれは小百合の物とは大きく異なっている。


だがそれでも幸彦は似ているという。


「んー・・・なんていえばいいかな。昔のさーちゃんによく似てるんだよ。試行錯誤していろいろやってるっていうか、その時の感じがすごく似てる」


「・・・そう・・・ですか」


褒められているのかは微妙なところだが、あの小百合と似ているといわれるのはあまりいい気はしなかった。


だが昔の小百合というものをよく知らないために康太としてはそもそもこれが誉め言葉なのかもわからない。


そんな中、小百合たち三兄弟弟子の特徴を思い出し、少し疑問に思ったことがあった。


「幸彦さんは肉弾戦がすごく得意ですけど、武器の類は使えないんですか?」


「随分唐突だね。どうしてだい?」


「いえ、師匠は武器も徒手空拳もあらかたできますし、奏さんも結構徒手空拳得意で、なおかつ武器のスペシャリストですし、そう考えると幸彦さんも武器使えても不思議じゃないんじゃないかと」


小百合も奏も武器も素手での格闘も何でもできるタイプだ。師匠である智代にそのように仕込まれたのだろう。ならば幸彦も同じなのではないかと考えたのである。


「一応僕も武器の類は使えるけどね・・・あんまり好きじゃないんだよ」


「好きじゃない・・・ですか」


「うん、姉さんやさーちゃんはいろいろと感覚でわかるっていうんだけどさ、どうにも僕はよくわからなくてね・・・直接殴ったり蹴ったりすればいろいろわかるけど・・・手ごたえがどうも妙な感じなんだよ」


「へぇ・・・じゃあちょっと・・・俺の剣使ってみますか?」


康太はそういって双剣笹船の片方を幸彦に渡す。


幸彦は剣を受け取って少し渋い顔をしていたが、手に取って軽く振ってみると康太にはすぐに理解できた。


太刀筋とでもいえばいいのだろうか、剣を振ったその先にわずかに糸のようなものが見えた気がした。


小百合が使う斬撃にも見えるものだ。斬撃の筋。それがほんの一瞬見えてしまった。


高い技量を持っていないとあのようにはならない。


「うわぁ・・・なんか振っただけでめっちゃすごいのがわかりますね」


「えぇ・・・なんでそんなのわかるのさ・・・全然大したことないよ?」


「間近にすごい実力の人が複数いますからね。さすがにわかりますよ」


「・・・姉さんとさーちゃんは確かにすごいからね・・・あの二人と比べられると僕としては立つ瀬がないんだけど」


幸彦は謙遜しているが、彼が持つ技術だって決して劣っているとは思えなかった。先ほどから試すように何度か剣を振るっているが、そのすべてが鋭く重い。


小百合や奏とはまた違う剣筋ではあるが、それが高い技量を持っている人間の動きであることを康太は即座に理解できた。


「それにさ、いくら技術があったって好きじゃなかったらあんまり意味ないんだよ」


「・・・技術の高さと好き嫌いって関係ありますか?」


「ある。習得するときもそうだけど実戦の時も好みっていうのは割と大事だよ?なんていうか・・・ノリが違う」


「ノリですか」


「そう、これは精神論になるんだけどね、自分の好きな武器で自分の好きな戦い方をするのと、自分の嫌いな武器で嫌いな戦い方をするのとでは技量が一緒でも得られる結果は全く違うんだよ」


「・・・そういうものですか?」


「そういうものなんだよ・・・なんていえばわかりやすいかな・・・んー・・・説明が難しい・・・!攻撃が決まった時のスカッと感?それが違う」


「スカッと感・・・ですか」


幸彦の説明は抽象的でよくわからないが、康太には何となく思い当たる点があった。


攻撃が当たるとき、槍での攻撃が当たるとやってやったという充実感のようなものがあるのだ。


特にこれといって相手に与えるダメージが違うということもないのだが、それが続くと確かに調子が良くなるような気がする。


本当に気がするだけなのかもしれないが。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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