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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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石を壊す定義

「失礼します・・・って結構集まってるわね」


召喚の方陣術の片づけが終わったのか文と土御門の双子が扉を開いてやってくる。


その場に多くいる魔術師を見て文は少し驚きながらも、しかし全く動揺はせずに堂々と支部長室に入ってくる。


「あぁライリーベル、君も来てくれたのかい」


「ビーが呼ばれたなら私も来ますよ。それで、こんなにたくさんの人が集まってどうしたんですか?」


「ん・・・それがね・・・」


支部長は遅れてやってきた文に対しても先ほど康太としたのと同じような説明をする。文は目の前に置かれている石を念動力で持ち上げたりしながらその話を聞いていたが、難しい顔をするだけでどうすればいいのかは判断しかねているようだった。


「なんとも変な感じですね・・・この場所にあるはずなのに触れることだけができないなんて・・・」


「うん、こんな物体を生み出されてしまっては僕たちとしては広めないようにするしかないんだけど・・・ぶっちゃけだいぶ危ないんだよね・・・奪われたら・・・いや正確には奪い返されたらというべきか・・・どっちにしろ警備を完璧にしないと」


「完璧な警備などない。人が守る以上必ずどこかにほころびが出てくる・・・いっそのこと破壊したほうが良いのではないか?」


アリスの提案に支部長を始め、その場にいた魔術師たちが仮面の下で難しい顔をした後でその視線を康太の方に移していく。


この中で最も破壊に精通しているのは康太だ。この場に小百合がいればその視線は小百合の方に向かったのだろう。


「どうかなブライトビー。破壊するかどうかはさておいて・・・君はこれを破壊することは可能かな?」


「・・・ただの石であれば破壊は難しくありません・・・でもこの状態のものを壊すことができるかって言われると・・・ちょっと微妙です」


康太は片目をつぶって視界を狭めてから物理解析の魔術を発動する。目の前にある石を物理的に解析しようとしたのだが、残念ながら解析結果はただの石としかわからなかった。何の変哲もないただの石。


術式解析を試みても何の術式も見いだせなかった。存在そのものが改変されてしまっているため、物理的にも術式的にも何も変化がない状態で固定されているのだろう。


「肉体が触れないだけっていうなら破壊の方法はいくつかあります。ただ、破壊って言ってもどのレベルでやればいいんですか?」


「どのレベル・・・というと」


「単純に割るならたぶんこの場の全員ができるでしょう。問題なのはこれを破壊するっていう定義です。割ることを言うのか、それともこの石の存在そのものを消滅させることを言うのか・・・この石を破壊するっていうのはどういう意味を持ってるんですか?」


破壊するといえばいろいろと方法があるように、この石を破壊したいとなった時、この石がどのような状態になれば破壊されたとみなされるのか、それこそが問題だった。


支部長は口元に手を当てて悩み始める。そもそもこの石が存在していて問題になっているのは、これが一般人の目についた場合だ。


触れられない謎の石ともなればかなり怪しまれる。魔術の隠匿という観点から存在を容認できないからこそ悩んでいるのだ。


逆に言えば、一般人の目につかないような場所にあればそれで問題はないのである。


「粉々・・・砂レベルになれば問題はないと思うよ。どこかの砂と混ぜてしまえばそれでもうわからない」


「了解です。それなら多分できるでしょう。でも実際にやるわけじゃないですよね?」


「そうだね・・・それは最終手段かな・・・といっても一撃で粉々に粉砕するっていうのはだいぶ難しいだろうから・・・あらかじめ壊しておくのがベストなんだろうけど」


奪われないようにするためにはあらかじめ壊しておくのが良いのだろうが、本部にもっていってこの石の意見を聞きたいために今ここで破壊するというのは憚られる。


「いっそのこと、この周りに何か別のものでコーティングするのはどうでしょう?コンクリとかそういうので」


「物理的に閉じ込めるってことか・・・ん・・・どうなんだろう、この石は人為的に用意したコンクリートの類は通り抜けるのかな?」


道具の類では石に触れることはかなわなかった。だが大量の物体だったらどうだろうか。


未だ試行段階であるためにやれることもやれないこともはっきりしていない。今はこうして考えて何回も実践していくしかないのだと支部長はあれこれと考え始めていた。


「本部にもっていくのなら早めのほうがいいとは思いますよ。支部で抱えてて誰かにもっていかれたらそれこそ目も当てられませんし」


「それもそうだね・・・早い段階で本部に届けるように手配しよう。その時は・・・まぁいろいろと頼むことになるかもしれないね」


その場にいた全員の魔術師に向けた言葉なのだろうが、支部長の視線ははっきりと康太と文に注がれていた。


明らかに護衛を任せる気だなと康太と文はため息をついてしまっていた。


敵が身内に、協会内部にいる限り協会の支部から本部への移動でも確実に安全とは言えないのだ。


ある程度戦闘能力に長けた人間にいてもらったほうがいいのは理解できるだけに断りにくかった。


「あんたたちも手伝ってね。二人がいれば結構助かるわ」


「わかりました」


「任せてください」


土御門の双子も巻き込んで、いつか行う移送のメンバーはほぼ確定しかけていた。


そんな中、アリスだけが視線を伏せて浮かない顔をしていたのを康太だけが気づいていた。


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