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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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召喚談義

日曜日、康太たちはさっそく召喚を行うために支部の一室に集まっていた。康太がよく使う部屋であり、文も通いなれた場所であるために迷うことはなかったのだが、この場所を本当に使うのかという点で少し迷っていた。


「・・・支部長の言ってたことが分かったわ・・・確かにちょっと血のにおいがする」


「ん・・・こんなに強かったかなぁ・・・?ちゃんと使ったあとは部屋中掃除してるんだけど・・・」


支部長が言っていたように、康太が普段使っているこの部屋にはわずかながらに、だが確実に血の匂いがこびりついていた。


血のにおいとはっきりと認識できるレベルで残っているその匂いに、その場に集まっていた土御門の二人も仮面の下でわずかに顔をしかめていた。


「隅や溝などに残った血脂などが時間を置くことでにおいを発しているのだろう・・・しっかり掃除をしていればこうはならんかったはずだが・・・掃除が甘いの」


「ったく・・・今度ちゃんと掃除しなきゃ・・・とその前にさっさと準備しなきゃね」


「うむ、取り掛かるとしよう。火属性中級精霊召喚だの・・・ベル、術式はどちらが組み上げる?」


「んー・・・私が組んでもいいけど、あんたが組んだ術式も見てみたいわね。参考までにやってみてくれない?」


「構わんが、高いぞ?私に術式を組ませるとは」


「今度ケーキでもおごるわよ。ホールでいい?それともいくつも種類があったほうがいかしら?」


「随分と安い報酬だ・・・全く割に合わんな」


そういいながらもアリスは乗り気のようだった。文ならば自分で術式を組むことだって容易にできる。


あえてアリスに頼んだのは本当にただの好奇心だ。自分以外の魔術師ならばどのような術式を組むのか、そして何百年と生きたアリスならばどのような術式を組むのか、気にならないと言えばうそになる。


アリスが床に手をつくと、高速で光の線が描かれていく。複雑な幾何学模様を描いていく魔力の線。

召喚の方陣術が完成するのに十秒もかからなかった。


「こんなものかの。オーソドックスなものに仕上げてみたが」


「相変わらず化け物みたいな早さね・・・こんな複雑なの・・・私だったら三十分はかかるわよ?」


「それでも三十分でできるあたり先輩さすがですね・・・俺らだと半日かかりそうです」


「俺の場合そもそもできなさそうだけどな・・・」


方陣術の実力というのは方陣術を練習した数、そしてセンスによるところが大きい。狭い面積にどれだけの術式の情報を組み込めるか、そのあたりはパズルのようだと文は以前言っていた。


いかに優れた魔術師でも、センスがなければよい方陣術は作り出せない。仮に情報過多の方陣術を作り出しても、発動しにくいものとなってしまっては意味がない。


発動しやすく、なおかつ機能性も兼ね備えなければならない。努力だけでは決してたどり着けない発想と技量の世界がそこにはある。


「ねぇ、この部分だけどさ、こことここをつないだほうが簡単にならない?」


「おぉ、さすがベル、そこに気付くとは・・・だがその分だけ魔力の操作が難しくなるうえに追加で書き足す部分が増える。一般的な発動術式ならばこのようなものだろう」


「でも逆にこっちを迂回させればそのあたりを省略できるじゃない?そっちの方が楽な気がするのよね」


「迂回するのも手だが・・・これは私の好みの問題だな。省略するのはいいんだが、私は迂回というのがあまり好きではない。簡素にまとまっているほうが好きでな」


「あー・・・確かに好みの問題ってあるわよね・・・私だったらこの辺りをもうちょっと長くして・・・あとはこことつなげてここに書き足して・・・」


「待て待て、術式の改良は後にしてくれよ・・・っていうか聞いててわけわからん」


康太の言葉に土御門の双子も何度もうなずく。文とアリスが同レベルの方陣術の話をできるというのがまず驚きなのだが、わからない話を延々とされるというのも困る。


今回はあくまで精霊の召喚が目的なのだ。方陣術の談義はまた別のところで行ってほしいものである。


「なかなか興味深い議論ができると思ったのだがな・・・こういう話ができる輩が私の周りにはおらんでな・・・」


「そうでしょうね。クラリスさんは方陣術とかほとんど使わないでしょうし、真理さんも使ってるところ見たことないし、ビーはそもそもあんなだし」


「失礼な。ちょっとは使えるようになってきたんだぞ?」


「芸術的な達筆のような線を書くようではまだまだだ。もう少し細く細かく小さく精密にできんのか」


「無茶言わないでくれよ・・・口で文字を書いてるみたいな感じなんだぞ?まだまだ練習不足だ」


康太からすればこれほどの複雑な術式を組もうとしたらさらに広大な場所が必要になるだろう。


アリスが作った術式は直径二メートル程度にまとまっているが、おそらく康太がこれを描こうと思ったら東京ドームが数個分程度の面積を必要とするだろう。


大々的に書き上げて召喚されるのがただの精霊では明らかに労力に見合っていない。というかそもそも書き上げたところで術式として正しく発動するかもわかったものではなかった。


方陣術をこれだけの実力で使えるようになるにはまだまだ鍛錬が足りないなと康太はため息をつく。


そんなことをしていると康太たちのいる部屋がノックされる。


文の返事により入ってきたのは五人の魔術師だった。身長や体格に差異はあれど全員が共通して協会専属の魔術師であることを示す外套や装備を身に着けていた。


「支部長の紹介で来たんだが・・・召喚の手伝いというのはここで合っているかな?」


「えぇ、合ってるわ。今日はよろしく。支部長から詳細を聞いているとは思うけど、一応確認として聞かせてもらえるかしら?」


「あぁ。今回は火属性中級の精霊の召喚。報酬に加え、依頼主に合わない精霊であれば私たちの誰かがそれをもらい受ける、ないし契約しても構わないという条件・・・で合っているだろうか?」


「問題はなさそうね。これが今回使う術式よ、それぞれ確認して魔力の微調整をお願いするわ」


文が代表して既に部屋の中に構築された術式を見せると、やってきた五人の魔術師はそれを興味深そうに眺めていた。


アリスが作った術式であるとは気づかなかったようだが、この術式がかなり高レベルの術者が構築したということはわかるのだろうか、細部を確認しながら感嘆の声を漏らしている者もいた。


「よし、調整まで少し時間をくれ・・・ちなみに今回の依頼主は・・・その・・・」


「・・・そこにいるブライトビーよ。話は何となく聞いてるでしょ?」


支部長が話を通している時点でこの五人の魔術師は今回の依頼主が康太であるということくらいは聞いているのだろう。


そのことを教えてもなお依頼を受ける程度にはある種の覚悟を決めてきたというべきだろうか。


「そうか、初めましてブライトビー。今回は君の依頼を受けさせてもらうよ」


「よろしくお願いします。俺の精霊が見つかればいいんですけどね」


康太がそういって穏やかに挨拶したことで、その場にわずかに残っていた緊張感が緩和されていく。


噂よりずっと温和な人物なのだなと拍子抜けしているようだった。


敵対していなければ康太はそこまで牙をむくことはない。相手が敵対心を抱いていなければ康太はただの高校生と同様の反応を示すだろう。


魔術師としての姿や意識が如実に表れているというべきなのだろう。オンオフが激しいという意味では少々特殊かもわからなかった。


「それで、一つ相談があるのだけれど・・・その、ここに部外者を入れても構わないだろうか?」


「部外者・・・あまり感心しませんが・・・その理由は?」


「今回の報酬、あぶれた火属性の精霊の契約権を、私の弟子に与えたくてね・・・実は外に連れてきているんだ」


「私も同様だ。無論、依頼主の君がだめというならばあきらめるが」


その言葉に康太は扉の外に意識を向けると、そこには確かにあと二人魔術師がいるようだった。


康太は一瞬文の方に視線を向けるが、文はあんたの好きにしなさいとでもいうかのように目を閉じて肩をすかして見せた。


「構いません。ただしその代わり、あなたたちには精霊との契約権を失いますが、それでもかまいませんか?」


「構わない。もとより火属性の精霊は私にはもう必要ないからね」


「右に同じく。では失礼して」


そういって扉を開けると、扉の向こう側から会釈しながら二人の魔術師が入ってきた。


年齢的には康太たちよりも若干下、中学生といったところだろうか、体格的にもその場にいる康太たちへの警戒具合から言っても現場慣れしているとは思えなかった。


「失礼ですが、お弟子さんはまだ学生ですか?」


「あぁ、今年中学に上がったばかりでね・・・まぁ君たちに比べれば未熟ものだよ・・・デブリス・クラリスは弟子の指導に関しては有能なのかもわからないな」


「確かに、うちの弟子とほとんど歳の差はないというのにこれだけの差が出ているんだ。その能力は評価したほうがいいかもしれないね」


「それは早計というものですよ。うちの師匠は無茶苦茶やってるだけです。俺らがその尻拭いをさせられてるから面倒に慣れちゃうってだけですよ。評価なんてもってのほかです」


弟子が師匠を悪く言うというのは珍しいのか、その場にやってきていた五人の魔術師は目を丸くしていた。


そして追加でやってきた魔術師、片方は中学に上がったばかりでもう片方は今は中学三年生であるのだとか。


確かに年齢的には数年の誤差だが、経験という意味ではかなりの差ができている。


その証拠に二人の弟子の魔術師は康太の方に視線を向けようとしていない。完全におびえられているなと康太は少しだけショックを受けていた。


何もしていないのにここまで怖がられるというのは少し、いやかなり残念である。


「ビー、さっさと始めんか?時間をかけていてはせっかく人数を集めても召喚できる数も限られてきてしまうぞ?」


「あぁそうだな・・・それじゃあ皆さん、お願いできますか?最初は各員魔力の調整に努めながら発動をお願いします」


康太の言葉に、その場にいたほとんどの魔術師が配置につく。方陣術に手をついてそれぞれ術式を解析しながら適切な魔力を注ぎ込もうと集中し始めていた。


部屋の隅には康太と、召喚を手伝ってくれる魔術師の弟子二人が残されることになる。


一回の召喚にどれくらいかかるのかわからないため、康太はとりあえずタイマーをセットし一回にどれくらいの時間がかかるのか計測しようとしていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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