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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十六話「届かないその手と力」

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目指せ普通の人

「となると・・・あと五、六人はいないと厳しいかな・・・わかった、こっちでちょっと話をしてみるよ。じゃあちょっと依頼書を書いてくれるかな?書き方はわかる?」


「今まで何度も見てきたんで大丈夫です。内容書いて報酬欄書いて・・・依頼主どうしよう・・・?俺が書いたら来る人も来ないような・・・」


「依頼主の部分は空欄でかまわないよ。僕が代理で出すってことにすれば問題はないから。当日来た人たちはびっくりするかもしれないけどね」


「いやなサプライズですね。失神する人とかいなきゃいいけど」


「君の悪いうわさはだいぶ広まってるからねぇ・・・まぁ驚いたり逃げようとしたりはするかもしれないけど、そのあたりは僕がなんとなく言っておくから大丈夫だよ。クラリスよりはマシだって」


とうとう小百合と比較されるようになってしまったのかと康太は本気で落ち込みながら依頼書を記載していった。


昔はもっとまっとうな魔術師になれると思っていた。絶対に師匠である小百合と同じようにはならないと思っていた。


なのに今の康太はもう完全に小百合と肩を並べるレベルでの危険人物扱いされてしまっている。


何を間違えてこうなってしまったのだろうと深く後悔しながら依頼書をかき上げ、支部長に提出していた。


「はい支部長、お願いします」


「はい受け取りましたっと・・・うん、これなら問題なさそうだね。もう一度確認するけど、召喚する精霊の属性は火で、中級程度でいいんだね?」


「はい、そのくらいでいいです。上級とかはさすがに持て余すと思うので」


「うん、それともう一つ確認。君と合わない精霊は、他の魔術師たちの中で契約できるものがいれば契約してもいいんだね?」


「はい、それも問題ないです。俺が契約できない精霊は後でどうしようとご自由にって感じです」


「うん、了解したよ。じゃあこれで人を集めておく。ちなみにだけどいつ頃がいい?君たち学生だから放課後とかに支部で場所を確保しておいたほうがいいだろう?」


「そうですね・・・でも社会人の方もいるでしょうから普通に夜でも構いませんよ?」


「ならいっそのこと今度の日曜日にしようか・・・そのほうが多くの人を集めやすいし、何より時間もかけられる」


精霊召喚は時間がかかる。人を多くすることで時間を短縮することも可能だがそれでも数をこなすということもあってどうしても数時間は必要となる。


となればなるべく長く時間使える休日のほうがいい。康太もその意見には同意だった。


「では今度の日曜日でお願いします。今から布告してどれくらい集まりますかね?」


「まぁそれなりに集まるんじゃないかな?圧倒的に優れた素質とは言えないかもしれないけど、それなりに優秀な魔術師に声をかけるつもりだよ。あまり期待されると困っちゃうけどね」


文や土御門の双子、そしてアリスのように突出して優秀な魔術師たちと比べると劣るかもしれないが、それでも優秀な魔術師たちは多くいる。


文たちのランクがAに相当するとすれば、おそらくB-からA-くらいの魔術師が来ると思えばいいだろう。


康太がC-であることを考えると康太よりはずっと優秀な魔術師であることは容易に想像できた。


「ありがとうございます。部屋なんですけど、どこを用意してくれるんですか?」


「いつも君が使ってる場所を用意しようと思ってるよ。ほら、いつも君が尋問に使ってるあそこ」


「あぁ、あの場所ですか・・・なんかあの場所俺の専用部屋になってませんか?」


「あはは、そうだね。あそこは基本君しか使わないなぁ・・・なにせ血とかのにおいが若干染みついちゃってるし」


「・・・なんかまた要らぬ誤解を受けそうですね」


誤解ではないと思うけどねと支部長は笑っていたが、康太からすれば笑いごとではない。確かに何度も尋問をしたし、それなりに血も流させたが、好き好んでやったわけではないのだ。


そこまで人格破綻しているつもりはないし、何よりそんなに染みつくほどに血を流させたつもりもない。

血を流しすぎれば相手は死ぬため、極力死なないように小さな傷を作って拷問、もとい尋問していたのだ。


とはいえ、あの部屋はすでにいわくつき扱いされてしまっている。あの部屋から悲鳴が響いてくるという噂も以前佐々木から聞いているために、あの場所を使っていいものかと康太は少し迷っていた。


「まぁ、君も少しずつ協会の魔術師たちと繋がりを作っておいたほうがいいだろう。要らぬ誤解を受けるのは周りが君のことを知らないからさ。君が関わっている人間は、君がそこまで危険な人間じゃないと知っているだろう?」


「それは・・・まぁそうですけど」


協会内で康太とかかわっている人間は何人かいる。そういった人間は康太が噂になっているほど危険な人間ではないことを知っているため、何の問題もなく会話することができている。


協会の門を管理している魔術師の一人や、武器を作っているテータなどがその最たる例といえるだろう。


支部長の言うように、これを機に少しずつ協会の魔術師たちと普通の関係を築いていくのも悪くないのかもしれないなと、今更ながら考えていた。


本当にもはや今更なのかもしれないが。

















「というわけで、俺の評判についての改善を行いたいと思っています。今度の召喚ではとにかくおとなしくしていようと思うんでそのあたりよろしく」


「・・・随分唐突ね・・・っていうか今更じゃないの?」


「そういうなフミ、周りからの評価が気になるお年ごろなのだ。こういう時は生暖かく見守ってやろうぞ」


「そこ、冗談でも何でもないんだから真面目に聞け」


康太は今度行われる召喚について文やアリスと相談することにしていた。


今後のためにも、康太の魔術協会内での評判を変えておく必要があると考えたためである。


問題なのは康太のイメージがすでにかなり悪くなっているという点である。


かつて一年生魔術師の佐々木に聞いた悪口なのではないかと思われるレベルの噂を、少しずつでも改善していくためにはこういう小さなことを積み重ねていく必要があると考えたのだ。


「一応聞いておくけど、あれだけ酷いうわさ流されてるのよ?八割がた事実だけど、今更どうやって変えていくのよ」


「まずは専属魔術師とか、支部長が選んだ人員から普通に接していけばいいなと思ってる。テータさんとかは普通に接してくれてるから、問題なのは俺が威圧することだけだろ」


「威圧が問題だっていうのはわかってるのね・・・んー・・・評判っていうのはそう簡単に変わるものではないと思うけど・・・まぁやらないよりはマシなのかな?」


今回は康太だけではなく文やアリス、そして土御門の双子も一緒にいることになる。多少普通の学生魔術師らしいところを見せることができれば、危険な人間という印象もぬぐえるのかもわからない。


「アリス的にはどう思う?俺の印象について」


「どうも何も、コータはコータとしか言いようがないの。そもそもにおいて周りの意見などどうでもよいだろうに。そんなことを気にすることがまず間違っておる」


「さすが封印指定さん言うことが違うっすね。でもそれじゃいやなんだよ。ずっと危険人物扱いされるのは精神的にもつらい」


「間違っていないっていうのがまたあれなのよね・・・あんたの場合は完璧に拷問の影響があるんでしょうけど」


「まぁな。あれは必要なことだから仕方ない。あれをやめたら必要な情報が手に入らないかもしれないじゃないか」


「確実な方法とは言えんがな・・・それなら自白剤やら誘導できる魔術を使ったほうがよほど確実だろうに」


「相手の心を折るって意味でも必要なんだよ。もう二度と俺らの敵に回らないようにするには必要な措置だ」


「・・・まぁお前がそう思っているならいいんだがな・・・実際ほとんどの相手の心を折ってきているわけだし・・・」


「その分いろんな噂が尾ひれとともについてきてるわけで・・・良くも悪くも自業自得感は否めないわよね」


康太の今の評判はまさに康太の行いが招いたこと。自業自得とはよく言ったものだとアリスは笑っていたが康太は笑えなかった。


「だからそういうところを払拭したいわけよ。俺はそこまで危険じゃないよって。敵に回さなければ温厚な平和主義者だよって」


「温厚・・・」


「平和主義者ねぇ・・・」


文とアリスは互いに顔を見合わせて康太の発言を鼻で笑っている。


康太が言う平和主義者という言葉ほど信じられないものはないのだ。小百合ほどではないにせよ戦闘を楽しんでいる節があるような康太がこのようなことを言っても何の説得力もない。


「まぁそれはさておき、協会の魔術師とつながりを持っておくっていうのは悪くないと思うわよ?実際これからも協会にはお世話になるわけだしさ」


「そうそう、これを機にちょっといろいろとかかわっていこうと思ってな。幸彦さんともよく行動するようになるし、協会の仕事を手伝うのもありかなって」


「なるほど・・・確かにそうすれば専属魔術師たちとは繋がりを作れるわね・・・何人かとは仲良くなれるかも?」


「仲良くなれるといいなぁ・・・特に同世代の魔術師とは仲良くしたいんだよ・・・もう難しいかもしれないけど」


「差がつきすぎているとね・・・普通の魔術師はまだ修業およびお手伝い期間だもの。実績作りすぎてる私たちはちょっと遠い存在すぎるかもしれないわね」


魔術師にとっての学生時代というのは修業と師匠の手伝い程度しかやることはないはずなのである。


康太と文が活発的に動きすぎているせいでそういう印象は薄いかもしれないが、一年生魔術師たちのように師匠の手伝いでいろいろと協会の中で仕事をして繋がりを作っていくのが本来の在り方だ。


康太と文はその段階を一気にとばして活動しているため、あまり協会とのつながりが深くないのである。

もっとも支部長とはかなり太いパイプでつながっているのだが。


「まぁそういうわけだ。今度の召喚ではかなりおとなしくしてるから、アリスもそのあたりよろしくな」


「ふむ・・・威圧などをしないように心がけよう。それはお前もだぞ?」


「わかってるって。案外普通の人だなって思われるように頑張るよ」


頑張っている時点で普通の人ではないと認めているようなものだと思うのだが、そのあたりは言わぬが花だなと文はため息をついていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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