支部長感激
「というわけで精霊召喚をしたいんですけど、支部長の方から何人かに声をかけていただけませんか?依頼として正式に出したいので」
「またずいぶんと唐突だね・・・いや、そろそろ君もまともな精霊を入れてもいいのかな?そういう時期といえば時期か・・・」
康太はさっそく支部に向かい、支部長と話をしていた。もはやこの流れも何度繰り返したことか、支部長もずいぶんなれているような反応をしていた。
康太が魔術師として生活を始めて一年半、無属性魔術を始めとして一般的な属性魔術も多く覚えてきている。
精霊の力を借りるにはちょうどいいタイミングであり、時期的にもそう矛盾したものではないことを理解しているのか、支部長はそこまで驚いた様子はなかった。
とはいえいきなり人を用意してくれと言われてもそう簡単に行くはずがないのは康太も理解しているため、そこまで無理を言うつもりはなかった。
「ちなみに召喚する精霊は?何の精霊だい?」
「火属性の精霊をお願いしたいなと。現象系・・・えっと・・・中級くらいの精霊が呼べればいいかなと思います。俺に合う精霊を探すのが目的なので、もしあぶれたらほかの魔術師に契約権を与えてもよいかと。もちろん報酬は別にお支払いしますが」
「ふむふむ・・・案外オーソドックスな内容だね。うん、それなら比較的人は集まりやすいかな」
「集まりにくい条件とかあるんですか?」
「あるよ。精霊を召喚するだけしてほかの魔術師には契約権限を与えないとか、上級のみを召喚するとか難易度が無駄に高いくせにリターンが少ないような条件だと人は集まりにくいね。それに比べればこれはいい条件だよ。難易度もそこそこ、かつ合わなければその精霊をもらえるかもしれない。しかも報酬も別途で出る。誰かの入れ知恵かい?」
「えぇ、師匠がこうしたらいいんじゃないかって」
康太の言葉に支部長は仮面越しでもわかるほどに目を丸くして驚いていた。まさか小百合からこのような建設的かつ平和的な案が出てくるとは思わなかったのだろう。
あまりの驚きに手元にあったペンなどをいくつか落としてしまっていた。
「・・・クラリスが・・・あのクラリスがそんなことを・・・?」
「えぇ、俺も驚きましたが、あんな感じですけど師匠は結構まともなことを考える時がごくまれにあるので、まぁおかしなことでもないかなと」
「そうか・・・そうか・・・!クラリスがなぁ・・・!あのクラリスが・・・!」
支部長は目頭が熱くなっているのか、仮面を少しずらして涙があふれそうになるのを必死にこらえているようだった。
いつの間にか小百合がただ傍若無人なだけではなく成長し始めているのだなという事実に驚き、なおかつ感動しているようだった。
そこまで驚くことだろうかと少しだけ大げさのようにも思えたが、今まで辛酸をなめさせられ続けた支部長からすればここまで驚くことなのだろう。
「大丈夫ですか支部長、日を改めましょうか?」
「いや、大丈夫・・・ごめん、ごめんね・・・あのクラリスが暴力的な手段じゃなくてまっとうな方法を教えてるんだって思って・・・ちょっと・・・ごめん、ちょっと待っててくれるかな?」
てっきり支部長は小百合がこの話をしたのなら『適当な魔術師をボコボコにして無理矢理いうことを聞かせればいいだろう』とか『あのバカのところに行って専属の魔術師を強引に引き抜いてくればいいだろう。逆らう奴はボコれ』とかいうと思っていたのだ。
実際そのくらいは言いそうなのだが、その予想は良い意味で裏切られた。
動揺したのか、それとも感動したのか、支部長は康太から顔を背けて顔をぬぐい鼻をかんでいる。
ここまで動揺させるというのは、かつての小百合がどれだけひどい人格だったのかがうかがえる。
それを考えると今は少しはましになったというべきなのだろうか。
「ごめんごめん・・・ダメだね、歳をとってくると涙もろくなっていけない・・・」
「支部長はそこまで高齢ってわけでもないでしょう?師匠と同年代くらいな感じがしますよ?」
「まぁ実際その通りなんだけどさ・・・ダメなんだよ。昔に比べると格段に泣きやすくなってる・・・っとと、話がそれたね・・・依頼に関しては問題ないよ。何人か空いている人間を用意できると思う。依頼書だけしっかり作成してくれればいいかな・・・あとは・・・そうだね、君の名前を伏せるかどうかだけど・・・」
「あぁ、やっぱり俺の名前は出さないほうがいいですか」
康太の名前は協会の支部内ではそれなりに有名なほうだ。主に悪い意味で。
そんな人間の依頼を受けようとする奇特な人間がどれほどいるかと聞かれると正直微妙なところである。
「もちろん僕の方である程度声はかけるけどね・・・でも普通の魔術師たちは参加してくれないかもしれないなぁ・・・何せ、クラリスほどではないにせよ君も結構いろいろやってるからね」
小百合の弟子というだけで忌避されていた康太だが、最近は康太自身の悪評のせいもあっていろんな意味で忌避されている。
そんな中康太が依頼を出せばどうなるか想像に難くない。
「ちなみに今何人くらい集まっているんだい?」
「ベル、土御門の双子、あとアリスの四人ですね」
「素質的にはかなり恵まれたメンバーだね・・・それだと召喚時間一時間ちょっとなんじゃないかな?」
「たぶんそのくらいですね。一時間以内に収めたいところです。可能なら三十分前後が理想ですね」
集中の持続的な意味でも発動時間は短いに越したことはない。康太としては三十分に一回くらいのペースで召喚を行いたいところだった。




